エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第29幕 修羅場

 

 

 

 

 

 

 

明治5年9月、新橋~横浜間の29kmの距離に日本初の鉄道が開通した。

世界中から船が集まる国際港、横浜から日本の首都、東京は一時間ちょっとの時間で結ばれた。

イギリスから輸入された蒸気機関車は8両の車両を引っ張り、時速40キロの速さで新橋~横浜間を走った。

日本の鉄道産業は文明開化の象徴の一つでもあった。

利用客は主に外国との商業取引をする商人達だった。

当時は機関車が出す火で火事になると信じられていた為、線路は海岸沿いに作られた。

晴れた日には車窓から下総の山々や富士山を見る事が出来た。

 

 

神風隊事件、そして伊豆での真古流事件を終えた信女は久しぶりの休みの日を手に入れることが出来、この日は藤田家の居間で、ぐてぇ~っとしていた。

それは普段、剣を振っている信女からは信じられない姿であった。

しかし、別の見方をすると、それほどまで信女は疲れていた。

そんな中、時尾が、

 

「ねぇ、信女さん」

 

「ん?なに?時尾」

 

藤田家に居候してから既に3年半の時が経過しており、時尾も信女の本当の名を知る人物となっていた。

 

「今日、陸蒸気で横浜まで行きませんか?」

 

時尾は信女が折角の休みなので、蒸気機関車で横浜まで遠出をしないかと誘って来た。

 

「行かない‥‥めんどい‥‥」

 

信女は時尾の誘いに即答で断った。

 

「えぇ~何でですか?」

 

時尾は不満そうに頬を膨らませる。

 

「私は疲れているの。休みの日は体を休めるモノよ」

 

そう言って信女はゴロっと寝返りを打つ。

そもそも信女は伊豆へと向かう際、新橋から横浜まで陸蒸気に乗って行き、そこから伊豆へと向かう船で伊豆に行ったのだ。

つい最近乗ったばかりの陸蒸気に何故また乗らねばならぬのか?

しかも折角の休みの日に‥‥

 

「でも、横浜には外国から珍しいモノが沢山入っているって近所の奥さんが言っていましたよ。先日、家族で陸蒸気に乗って横浜見物に行ってきたみたいなんで」

 

「その奥さんの自慢話を聞いて自分も行きたくなった‥と‥‥」

 

「あ、あははは‥‥」

 

信女は時尾が何故、横浜に行こうと言って来たのかを突く。

時尾の態度から見て、どうやら図星の様だ。

 

(珍しいモノって言ってもこの世界のレベルの物は前の世界に比べたら、殆どが旧式か当たり前の代物なのよね‥‥)

 

天人が来た地球の文化とこの世界の日本の文化では、あまりにも比較にならない。

この明治の世の珍しいモノは大抵、信女の世界ではごく当たり前の代物で中には子供の小遣いで買える様な代物がこの世界では物凄い大金で販売されていたり、コンビニで売っている様な代物が何ヶ月待ちなんて物もある。

そんな世界で生まれ、10代半ばまで過ごして来た信女にとっては、たいして興味がわかなかった。

 

「えぇ~そんなこと言わずに行きましょうよ。何でもショコラートって言う西洋菓子が甘くてとても美味しいらしいですよ」

 

(ショコラート?ああ、チョコレートの事ね‥‥あんなのコンビニや駄菓子屋で売っている代物なのに‥‥)

 

と、コンビニや駄菓子屋レベルで売っているお菓子にそこまで興味がわかない信女。

しかし、此処である方程式が信女の頭の中で出来た。

西洋菓子がある=チョコレートがある=もしかしたら、ドーナツがある。

そんな方程式だった。

この世界に跳ばされてもう二度と見る事も食べる事もないかもしれないと思っていたドーナツが横浜にあるかもしれない。

ドーナツが食べられる。

その思いが彼女を突き動かした。

 

「前言撤回、行きましょう。横浜に」

 

スッと起き上がり、時尾に横浜へ行こうと言う信女。

 

「えっ?どうしたんですか?急に‥‥?」

 

ほんのさっきまで『行かない』の一点張りだった信女が急に行こうと言いだし、ちょっと困惑する時尾。

 

「ドーナツが私を待っている」

 

「え?」

 

まだあるか分からないドーナツに思いを寄せる信女。

こうして、信女と時尾は陸蒸気(蒸気機関車)に乗って横浜まで遠出する事になった。

 

時尾は余所行きの着物を着たが、信女は観柳の時、四乃森から貰った(?)洋装を身に纏い、腰には愛刀をぶら下げている格好だった。

 

「折角の余所行きなんですから、信女さんも御洒落をすればいいのに‥‥」

 

「横浜は外国人であふれている‥‥中には人攫いをする外国人もいるかもしれない。そんな人たちがいる中、着物じゃ、動きにくい‥藤田が居ないとき、時尾の身に何かあったら、彼に顔向けできない」

 

ちょっとオーバーかもしれないが、警官をやっている信女にとって一般市民である時尾を守る義務がある。

日本刀も警官である信女は政府から帯刀許可を得ているので、廃刀令違反にならないので、こうして堂々と帯刀していても警官から職質をされたり追いかけ回されることもない。

こうしてやって来た新橋駅。

そこには沢山の人がごった返していた。

 

「なんかすごい人だかりですね」

 

「そうね、見物人にしては数が多すぎるわ」

 

蒸気機関車が日本の地を走ってから既に5年以上たっており、とてつもなく珍しい代物ではない筈。

それにもかかわらず、平日である今日の新橋駅は、人でごった返していた。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

時尾が気になり、近くにいた人に尋ねる。

 

「なんでも、イギリスの大商人が車両を一両貸切っているみたいなんですよ」

 

「へぇ~」

 

その人は何故、人だかりが出来ているのかを時尾に教えた。

 

「そんな事よりも早く行きましょう」

 

「そうね」

 

信女が時尾の手を取り、駅構内へと入って行く。

ホームでは沢山の見物人の他、なぜか警官の姿もあり、運送会社の男達が沢山の木箱を最後尾の車両に運んでいた。

その最後尾の車両も他の車両と異なり、特注仕様となっていた。

 

「なんでも小判を積んでいるらしいぜ」

 

見物人の中からそんな声が聞こえてきた。

 

「あっ」

 

「おっと」

 

そんな中、木箱を運んでいた男達が手を滑らせて木箱を落してしまった。

すると、中からチャリンと音がした。

その音から中には金属質のモノが入っていることが窺えた事から、あながち見物人が言った小判が入っていると言うのも嘘ではない様だ。

 

「おい、気をつけろ」

 

「す、すまねぇ」

 

特別車両への荷物の積み込みが終わり、一般乗客の搭乗が始まった。

時尾は、初めて乗った陸蒸気に興奮していたが、信女は陸蒸気よりも横浜で自分を待っているドーナツに思いを寄せていた。

 

時尾と信女が陸蒸気に乗っている頃、警察署の受付に1人の人物が訪れていた。

 

 

 

 

~side警察署~

 

「すまぬが‥‥」

 

「はい?」

 

「この警察署に女の警官が居ると思うのでござるが‥‥」

 

警察署を訪れたのは剣心だった。

 

「女の警官?ああ、佐々木警部試補ですね」

 

「おろ?佐々木?」

 

剣心は今井と言う名前ではない事に疑問を持った。

 

(信女の姓は今井だった筈‥‥もしかして、何処かに嫁入りをしてしまったのか?それとも名を変えたのか‥‥ともかく会ってみないとわからぬでござるな‥‥)

 

「ええ、うちの警察署にいる女の警官は佐々木警部試補だけですよ」

 

「‥‥その佐々木警部試補は今どこに?」

 

「えっと‥‥ああ、今日は非番ですね」

 

受付の警官は出勤簿を見て佐々木警部試補こと、信女が今日は非番である事を剣心に教える。

 

「どこに住んでいるでござるか?」

 

「なんでそんな事を聞くの?アンタ、佐々木警部試補とはどんな関係なの?」

 

受付の警官がジロッと剣心を睨む。

 

「あっ、いや、その佐々木警部試補とは知り合いで‥‥」

 

「知り合いなのに、住んでいる所を知らないの?」

 

「だから‥‥」

 

「怪しいな‥‥ちょっと話を聞こうか?」

 

「お、おろ!?」

 

剣心は警察署に行くと言う事で逆刃刀は置いてきたのだが、その風体と言動から不審者扱いされてしまい、浦村署長が来るまで取調室で事情を聴かれた。

警察署から戻った剣心に薫が話しかけてきた。

薫は由太郎の件が無事に終わった後、剣心にどうしても聞きたい事があったのだ。

 

「ねぇ、剣心」

 

「何でござるか?薫殿」

 

「その‥‥あの人とは、どんな関係なの?」

 

「おろ?あの人?」

 

「雷十太の時、一緒に居たあの女の人よ。警官の制服を着た‥‥」

 

「もしかして、信女のことでござるか?」

 

「ええ、そうよ。その信女さんと剣心ってどんな関係なの?」

 

「あっ、俺もソレ気になる。雷十太を倒した後、剣心、信女って人と2人っきりだったもんな」

 

そこへ、弥彦も乱入し、余計なことを言ってしまう。

 

「2人っきり!?どういう事よ!!剣心!!」

 

弥彦の言葉を聞き、剣心に詰め寄る薫。

 

(弥彦、余計なことを‥‥)

 

「だ、だから、弥彦や左之にも言ったように、信女は拙者と同じ、剣の同門で‥‥」

 

「本当にそれだけなの?」

 

薫はジト目となり剣心をのぞき込む。

 

「そ、それだけでござるよ~」

 

珍しく物凄く焦っている剣心。

剣心だって今ここで信女の事が好きだなんて言ったら、血の雨が降り、弥彦からからかわれる事は容易に読むことが出来たので、必死に自分の恋心を隠した。

 

「まっ、薫が気になるのもわかるぜ、何せ.....恋のライバルだからな」

 

ニヤニヤと楽しそうな表情で弥彦は薫を見る。

まさに人の不幸は蜜の味‥‥。

 

「なっ!?何言っているの!?この子は!!私は...その同門だとしても...あぁもう!!同門で、もしも色恋の関係なら不純だって言っているの!!」

 

此処で黙っていた左之助が、

 

「不純ってオメェ、あまり身分の知らねぇ男を家に泊めてる方がよっぽどーー」

 

此処で左之助は身の危険を感じた。これ以上言うとどこかに放り出されかねない。

折角タダ飯を食わしてくれるこの場所をみすみす逃す訳にはいかなかった。

それ故に彼は黙った。

 

「剣心!!」

 

「はいでござる!!」

 

剣心は何故か慌てて正座をした。

 

「剣を一緒に学ぶ仲間にそんな感情を抱くなんて万死に値する!!」

 

自分のことを棚に上げてよく言えたものだが薫の顔はこれ以上なく赤くそして目の錯覚か目がうずまきになり混乱している。

 

「これでもくらって少しは反省しろ!!」

 

と木刀を思いっきり振り回して剣心を襲う。

 

「おろ~!!」

 

とりあえず剣心は逃げた。

薫が正気に戻るまで今何か下手な事を言ったら包丁を持ってきかねないし、それ以前に今の薫は何を言っても耳に入ら無さそうであった。

 

「待て~!!剣心~!!」

 

剣心と薫の鬼ごっこは薫が腹を空かせ、正気に戻るまで続いた。

 

剣心と薫が東京の町を鬼ごっこしている中、信女と時尾を乗せた陸蒸気は横浜を目指して走り出す。

 

 

 

~side蒸気船~

 

「おぉ、流石陸蒸気、早いわね」

 

時尾は車窓から外の風景を見ながらとう言うが、

 

(いや、かなりの鈍足よ‥‥)

 

信女にとっては、陸蒸気は鈍足な部類に入る。

彼女の生まれた世界には電気の力で走る電車があり、時速100キロ以上の速さで走る。

それに比べ、陸蒸気は時速40キロ‥‥速度差は歴然である。

それでも当時の乗り物では最速の交通手段であった。

 

新橋を出て横浜を目指す陸蒸気。

そんな中、車両を見回った車掌が車掌室へと行くと、そこには車掌の制服を着た別の車掌が居た。

この車両の車掌は自分一人の筈。

 

「なっ!?‥うぐっ‥‥」

 

もう1人の車掌は車掌室に入って来た車掌の口を手で塞ぎ、車掌室へと引きずり込み、意識を刈り取った。

そして偽物の車掌は本物の車掌を縄で縛り、車掌室を出ると機関車の方へと向かった。

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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