エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第34幕 汚点

 

 

 

偽赤報隊強盗事件が解決したそのすぐ後、内務省庁舎門前にて爆破事件が起こった。

犯人が使用したのは先の強盗事件同様、炸裂弾であったが、被害は門前で爆発が起こっただけで、警備に当たっていた警官及び内務省庁舎には被害が全くなく、また犯人の手掛かりが一切無く、後にこの事件は迷宮入りとなった。

そんな中、ようやく西南戦争の事後処理を終えた斎藤が東京へ帰ってきた。

斎藤は警察署に戻ると真っ先に信女の居る資料室へと向かった。

 

「あら?おかえり」

 

「おう」

 

2人は互いに短い挨拶を躱した後、斎藤は自分に用意されたデスクに座る。

そこへ、信女がお茶の入った湯呑と共にある報告書を斎藤に手渡す。

 

「なんだ?」

 

「伊豆での真古流に関する報告書」

 

「真古流?ああ、あのド素人集団か‥で、なんでその報告書を俺に見せる?」

 

「この事件に緋村が関係したから‥‥」

 

「ほぉ~」

 

斎藤は最初興味無さそうだったが、この真古流の事件に剣心が関係したと言う事で興味を抱いた。

そして、報告書を読んでいき、その中で信女が記した雷十太との戦闘記録を読み、ピクッと反応する。

 

「おい、信女」

 

「なに?」

 

「此処に書かれている事は事実か?」

 

「事実よ。残念だけど‥‥」

 

「そうか‥‥」

 

斎藤はまるで苦虫を噛み潰したような顔をすると、煙草を取り出してそれを吹かす。

 

(あのヤロウ、確実に弱くなっていやがる‥‥)

 

「信女」

 

「ん?」

 

「ここ最近、抜刀斎と接触しているのか?」

 

「ええ」

 

「そうか‥‥だが、暫く接触は控えろ‥ちょっと厄介な任務が入った」

 

「任務?」

 

「ああ‥‥川路からの直々の命令だ‥‥抜刀斎の力量を見極めろ‥とさ‥‥それも早急にな‥‥」

 

「緋村の‥‥力量を?‥‥でも、なんで今更?」

 

「どうも、幕末、維新志士共がしでかした過去の汚点が関係しているらしい」

 

「‥‥過去の汚点‥ねぇ‥‥」

 

「兎も角、抜刀斎の力量を測る役目は俺がやる」

 

「えぇー、ズルイ」

 

「お前では抜刀斎の力を引き出すことは不可能だ。それはお前自身がよく知っている筈ではないのか?」

 

「‥‥」

 

確かに斎藤の言う通り、観柳邸で戦った時、信女は力加減を調整して剣心の相手を務めたが、剣心は信女を本気で倒そうとはしなかった。

故に今回の川路からの命令‥『抜刀斎の力量を測れ』は、信女では実行不可能であった。

剣心と本気でやり合えると思った中、いきなり出鼻を挫かれた。

 

「それと‥‥」

 

「ん?」

 

「此奴を全部、読んでおけ」

 

ドサッ

 

信女の目の前のテーブルに無造作に投げられた書類。

それもかなりの量だ。

 

「なに?これ?」

 

「今回の任務に関する資料だ」

 

「資料?」

 

信女が怪訝な顔でその資料をみると真っ先に出てきたある人物の名前を見て、ピクッと反応する。

 

「志々雄‥真実‥‥」

 

「懐かしい名だろう?」

 

「そうね‥‥」

 

志々雄真実の名は元新撰組の信女や斎藤も知っていた。

影の人斬りだった志々雄の正体を掴む為、そして彼を討ち取る為、幕府側も様々な対策を講じたが、いずれも失敗に終わった。

新撰組の方も監察を使い、その正体を追ったが、辿り着けたのは志々雄真実と言う名前までだった。

 

「死んだと風の噂で聞いたけど、生きていたんだ‥‥」

 

「ああ、それが明治政府の過去の汚点だ」

 

「じゃあ、今度の任務って‥‥」

 

「志々雄真実の完全なる抹殺だ」

 

「でも、なんでその件で緋村の力量を?」

 

「使える手駒は1人でも多くあった方が良いだろうと言う政府の意向だ」

 

「自分達がしでかした過去の汚点を緋村や私達に押し付けるなんて随分と勝手ね。過去の汚点と言うよりも過去の尻ぬぐいじゃない」

 

「そう言うな。お前にとってそれなりに楽しめる事かもしれないぞ」

 

「‥‥」

 

維新志士達が過去に行った過ちを幕府側だった自分達が何故拭わなければならないのかとやや不満そうな様子の信女。

 

「それと、黒笠事件の犯人、鵜堂刃衛‥コイツの飼い主がやっと判明した」

 

「やっぱり、飼い主が居たんだ‥‥それって政治家か官僚?」

 

「よく分かったな」

 

「つい最近、それと似た事件を追ったから」

 

信女の脳裏にはあの神風隊事件が過ぎった。

 

「兎も角、俺はその飼い主の組織に潜入する。何でもその組織でも抜刀斎の暗殺依頼があるらしい。志々雄がその飼い主に依頼をしたのかもしれないが、抜刀斎の力量を測るのにコレを利用しない手はない」

 

「黒笠事件の最後の仕上げね。緋村においしい所だけもっていかせない‥‥そんな所かしら?」

 

「まあな‥‥それより、お前は抜刀斎の奴に暫しの別れを入っておけ」

 

斎藤にそう言われ、後日信女は剣心との密会において、

 

「緋村‥‥」

 

「ん?なんでござるか?」

 

「その‥‥暫く、緋村とは会えそうにないの‥‥」

 

「えっ?」

 

信女から暫く会えないと言われ、驚く剣心。

 

「厄介な仕事が入って、休めそうにないの‥‥でも、すぐにまた会えるわ」

 

「お主の『すぐに会える』はちょっと間が開くし、あった時には驚く事ばかりなのでござるが‥‥」

 

「‥そうね。でも、決して会えなくなるわけじゃないから」

 

「また‥会えるでござるな?」

 

「ええ‥また‥‥会えるわ」

 

「分かったでござるよ。また会える日を楽しみに待っているでござる」

 

(ごめん‥‥緋村‥‥もしかしたら、貴方を厄介な事に巻き込んでしまうかもしれない‥‥でも、その時は、私が貴方の助けになるつもりだから)

 

自分に微笑んでくる剣心に信女はすまないと言う気持ちと共にもし、剣心が志々雄の件に関わった時、自分は剣心のサポートをすると決めた。

 

この時の信女と剣心のやり取りを斎藤は密かに物影から窺っていた。

そして、

 

「覗きとは良い趣味ね、斎藤」

 

剣心と別れた後、信女は潜んでいた斎藤に声をかける。

 

「オマエを心配してやった上司心だ」

 

と、悪びれる様子はなかった。

 

「それより、例の暗殺組織の元締めに近々会う事になった‥‥お前はどうする?」

 

「影から覗かせてもらうわ」

 

信女もお返しとばかりにそう言って、斎藤と鵜堂刃衛の元締めである暗殺組織の親玉との密会を除かせてもらう事にした。

 

それから数日後、斎藤は背中に仕込み杖を隠し持ち、新撰組の密偵がよく使用した笠印の薬箱を背負って、剣心が居候している神谷道場へと向かった。

しかし、肝心の剣心は居なかったらしく、それからすぐに帰ってきた。

 

「緋村は‥‥いなかった様ね」

 

斎藤がほぼ無傷で帰ってきた事から斎藤は剣心と接触していないと判断した信女。

もしも、剣心と接触していたら、無傷では済まないだろう。

 

「ああ、不在だった。だが、俺の仕業であるように幾つかの置き土産を残して来た」

 

「血の匂いがするけど、誰かを殺したの?」

 

「いや、警察が民間人を殺すのは不味いだろう?」

 

(でも、血の匂いがするって事は、相手は流血したのよね?‥‥傷害にならないかしら?)

 

信女は斎藤の言う置き土産に首を傾げた。

 

一方の剣心は、信女と暫く会えなくなった中、新撰組だった信女と再会し、密会を重ねた為か、幕末の京都‥‥新撰組と対峙した時のことを思い出した。

その為か、一日ぼんやりと過ごしてしまっていた。

それは出掛けた先でも同じで、

 

「剣心?」

 

「‥‥」

 

「剣心ったら!!」

 

「あっ、ああ‥薫殿」

 

「『ああ』じゃないわよ。どうしたの?」

 

「‥‥」

 

また薫に心配かけてしまったと思い、剣心は今朝見た夢の事を薫に話した。

 

「新撰組?新撰組っていうと維新志士達の宿敵で有名なあの新撰組?」

 

「ああ 拙者も幾度となく剣を交えた事がある。一番の宿敵でござるよ」

 

 

朱に誠一文字の旗を掲げ、

浅葱色のだんだら模様の羽織を纏い、

卓越した剣腕と死をも恐れない闘志で京都中を震撼させた

"壬生狼"の異名を持つ男達

近代兵器の前に倒れはしたが、日本史上にして最強最後の剣客集団だろう

そんな剣客集団の中の紅一点であった信女も彼らに引けを取らない剣腕で維新志士達の強敵の1人だった‥‥

剣心が新撰組時代の信女の事を思っていると、

 

 

「でも新撰組って一人に対して数人で斬りかかる 集団剣法を 最も得意としたっていうじゃない。なんかそれってなんか卑怯だわ」

 

薫の言い分に苦笑いしながらも剣心は新撰組の実情を語る。

 

「京都の治安維持が彼らの任務でござったから、いざ尋常に勝負という訳にはいかぬでござるよ。それに強いと言っても各隊士に個人差もあったでござるし」

 

「へぇ」

 

「けど幹部級‥‥特に十番まであった実働部隊のうちでも一、二、三番隊の組長、そして三番隊の組長補佐は文句なしに強かった‥‥一と二、そして三番隊の組長と組長補佐とは幾度か一対一で闘ったが 結局 決着はつかずじまいでござった。その幹部達も今ではほとんど死んだと聞く‥‥ただ、敵ではあったが、私怨はなかった。立場は違えど互いに己の剣に命と信念を懸けて闘った事に変わりはない。もしかしたら今 政府の要職にいる維新志士〈なかま〉達より親しみを感じているかもしれぬでござる」

 

「ふぅん…」

 

実際にその場面を見ていない薫には想像しづらいのだろう。

彼女はよく分からないといいたげに相槌を打った。

その後、恵と偶然再会し、剣心は両手に花状態で神谷道場へと戻った。

しかし、剣心の目に映ったのはいつもの神谷道場ではなく、道場に穴が開いた状態で、唖然とする恵と薫を尻目に血の匂いを嗅ぎつけた剣心は道場へと飛び込む。

すると其処には‥‥

 

「左之!!」

 

右肩から出血をした左之助が倒れていた。

 

 

夜になり、斎藤はある料亭で暗殺組織の元締めとされる政府の官僚と会った。

信女はその様子を天井から聞き耳を立てていた。

 

「まずは一杯やろう藤田君。いや、この場はあえて斎藤君と呼んだ方がいいのかな?」

 

ニッと嫌な笑みを浮かべたスーツ姿の男は、斎藤に徳利を差し出した。

男の背後には屏風があり、その陰からはもう1人、人の気配を感じる。

 

「お好きな方でどうぞ。それと、酒は遠慮させて下さい」

 

しかし、斎藤はその誘いを丁寧な口調で断った。

 

「ほほう。君が下戸とは以外だね」

 

「いえ。そういうわけでもないんですけどね‥‥」

 

斎藤は微笑んだまま言葉を続ける。

 

「"クセ"でしてね。酒が入ると無性に人が斬りたくなるタチなんで…明治になってからは控えているんですよ」

 

「ふっ‥‥」

 

斎藤の言葉を聞いて男の顔が一瞬引き攣った。

 

「フフフ‥‥これは頼もしい限りだな」

 

薄い笑い声を上げた。斎藤は目を伏せる。

 

「どうも…」

 

「それで、早速本題に入るが…実は緋村抜刀斎は今‥‥」

 

「神谷道場とやらいう所に居るのでしょう。昼間行ってきました。まぁ、抜刀斎は留守でしたけどね。」

 

「おお、流石は元・新撰組三番隊組長。君が我々の仲間に加わってくれると聞いた時は、正直驚いたが。いや、やはり安心して"仕事"を任せられる男の様だ」

 

「驚いたと言えば、私の方もです。黒笠事件の黒幕で、鵜堂刃衛の元締めが…まさか元老院議官秘書、維新志士出身の、渋海サンだったとは‥‥」

 

斎藤は膳に添えられた湯呑をとり、中の茶を啜る。

 

「明治政府も、内部でいろいろとあるわけだよ」

 

「維新の敗者である私には、関係のない事です。私はせっかく生き延びた余生を、面白可笑しく暮らせればそれで十分。殺しは私の得意技ですから、暗殺稼業は願ってもない副業‥‥その上、最初の仕事が宿敵の抹殺とくればもう‥‥」

 

斎藤の目が鋭く光った。

 

「しかし、流浪人となった奴をわざわざ暗殺してくれなんて…一体誰なんでしょうね、この仕事の依頼人は?」

 

斎藤はどさくさに紛れて剣心の抹殺依頼をした依頼人について渋海に尋ねる。

 

「オイッ出過ぎた口をきくな」

 

すると、今まで屏風の裏に隠れていた人物がドスのある声で怒鳴った。

 

「君は報酬と引き換えに黙って人を斬るだけでいいんだよ。余計な詮索をせん方が君の為だ」

 

「これは、失敬、今後気を付けましょう」

 

斎藤は渋海に頭を下げる。

 

「いや、わかればいいんだよ」

 

「ケッ、新撰組が聞いてあきれるぜ」

 

屛風の裏の人物のこの発言に天井で聞いていた信女は思わず、切り殺したい衝動を必死に抑えた。

今此処で気配を出せば、斎藤の行為を無駄にする。

その思いで信女はとどまった。

 

「さ、仕事の話はここまでにして、存分に楽しもうじゃないか」

 

「いえ、お気持ちは嬉しいのですが、そろそろ本職の方に戻らないと怪しまれますので…」

 

斎藤は立ち上がり、制帽を被り、白手袋をはめて、警官の上着を羽織り、

 

「では、本官はこれで失礼します」

 

と、料亭を出た。

そして、町中にて、斎藤は別ルートで料亭を出た信女と合流した。

 

「よく我慢で来たわね、あんなことを言われて」

 

斎藤と合流した信女は合流早々、斎藤に先程の料亭での一件を尋ねた。

 

「これも仕事だ」

 

斎藤も腹の内で、連中の事を斬り捨てたかった。

しかし、今はその時期ではない。

 

(自分じゃ何も出来ない男のくせに上からの目線で物を言う。権力的に見れば確かに斎藤や自分より奴の方が上。でも、その権力はどうせ維新で勝ち馬の尻に乗って手に入れたお零れじゃない‥‥そんな奴らが、近藤や土方、総司が築き上げた新撰組を侮辱するなんて許さない‥‥)

 

手に握る愛刀にギュッと力がはいる信女だった。

桜舞い散る夜の道を斎藤と信女は並んで帰った。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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