エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第35幕 一

 

 

 

斎藤が神谷道場に置き土産を残したその日、剣心はそれが誰の仕業なのか既に検討がついていた。

しかし、何故10年も経った今になってと言う思いがあった。

それから数日後、斎藤の姿はとある蕎麦屋にあった。

 

「どうぞごゆっくり~」

 

店員は斎藤が注文したかけ蕎麦を出す。

 

「はいどうも」

 

パチンと割り箸を割って、

 

「それじゃあ、頂くとしますか」

 

そう言ってかけ蕎麦を食べ始める斎藤。

そこへ、

 

「フウン。かけ蕎麦一杯たぁ、随分しみったれた昼飯じゃねェか…なあ、斎藤サンよぉ」

 

斎藤の前に座ったのは、あの時、渋海との密会の中で屛風の裏に潜んでいた男、赤末有人だった。

 

「好きなんですよ、かけ蕎麦。それに、今は藤田です。赤末サン…でしたよね。私に何か用ですか?」

 

斎藤はかけ蕎麦を食べる手は止めず、赤末もそのまま喋る。

 

「用は無ねぇ。が、テメェが気に喰わねぇ。」

 

赤末の話によると、本来剣心の暗殺は赤末が受けるハズの仕事だったのだが、元新撰組と言う肩書でその役目は斎藤に譲られ、斎藤に横取りされたことが気に入らず、わざわざ脅しまでかけてきた。

 

「わかりました。では、この仕事、共同作業と言うのはどうでしょう?」

 

最初は斎藤の手助けなど、御免だと言う赤末だったが、斎藤が先を話す。

 

斎藤は神谷道場に、いくつかの証拠─抜刀斎が"斎藤一の存在"に気付くような─を残してきた。そこへ斎藤からの手紙が舞い込めば‥‥と言うモノだった。

 

「つまり、テメェが誘い役で‥‥」

 

「仕留役は赤末さん。暗殺代金は山分けでどうです?」

 

しかし、斎藤の提案にまだ納得のいかない赤末。宿敵である筈の剣心の暗殺をこうも易々と譲るのがどうも疑問らしい。

 

「渋海氏の手前、宿敵と言いましたが、本当は今更どうでもいいんです。言ったでしょう?私の望みは折角生き延びた余生を面白おかしく過ごす事だって‥‥危険をともなう大金よりも、確実に入る小金を狙う‥藤田五郎はそう言う男なんですよ」

 

斎藤が剣心暗殺の仕留め役を譲った訳を話してようやく納得して店を出ていく赤末。

 

「井の中の蛙の一番争いなんざ、俺の眼中には無いんだよ」

 

「でも、良かったの?あんな奴に譲っちゃって」

 

「ん?」

 

其処に別の席に座っていた信女がやってきた。

 

「構わん、どうせ噛ませ犬にもならない奴だ。何も出来やしない」

 

「確かに、今の緋村でもあんなオラウータンに負けるとは思えないけど‥‥」

 

「なんだ?」

 

「もし、あのオラウータン相手に苦戦する様なら‥‥今回の任務に緋村を下ろした方が‥‥」

 

「ふん、その時は、俺に殺されるだけだ」

 

「‥‥」

 

「不満か?」

 

「‥‥ちょっと‥流石に同門の仲が知り合いの手によって殺されるのは‥‥」

 

「死ぬ、死なないは抜刀斎の運次第だ」

 

「‥‥」

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

そこへ店員がやって来て信女に注文を聞く。

 

「あっ、天ぷら蕎麦下さい」

 

「かしこまりました」

 

「おい、上司の俺がかけ蕎麦で部下のお前が天ぷらか?」

 

「いいじゃない?好きなんでしょう?かけ蕎麦」

 

「まったく、食えない女だ」

 

やがて、信女が注文した天ぷら蕎麦が来ると、信女は、

 

「とぉ~おがらしぃ~」

 

天ぷら蕎麦に一味をかける。

すると、

 

ドサッ

 

一味の蓋が外れて中身の唐辛子の大半が信女の天ぷら蕎麦に落ちた。

 

「‥‥」

 

真っ赤になった天ぷら蕎麦を見て無言状態の信女。

 

「ふっ‥クククク…‥」

 

その反面、斎藤は笑っている。

 

「か、辛い‥‥舌がヒリヒリする‥‥」

 

震える箸で信女は真っ赤になった天ぷら蕎麦をむせながら食べ、目は涙目になっていた。

 

その日、剣心宛に一通の手紙が神谷道場に投げ込まれた。

手紙の内容は郊外の草原にて待つとの事で、手紙の最後には『一』と書かれていた。

剣心はこの手紙の送り主が誰なのか直ぐに分かった。

そこへ、

 

「おーい、剣心!!薫が豆腐買って来てくれとさ!!」

 

弥彦が薫からの伝え事を剣心に言うが、

 

「すまんが、弥彦。拙者はちと、用が出来たでござる。遅くなるかもしれないから戸締りだけはしっかりと頼むでござる」

 

そう言い残し、出掛けて行った。

 

「‥‥あっ、ってことは、俺が豆腐買いに行くのか?おい、俺だって暇な訳じゃないぞ!!」

 

弥彦は剣心に大声で愚痴るがその時には既に剣心の姿はなかった。

剣心が手紙の呼び出しに応じて出かけた後、斎藤も行動を開始した。

 

「それじゃあ、行って来る」

 

「‥‥行ってらっしゃい」

 

斎藤は神谷道場へと出かけ、信女もある人物達の案内と護衛の為、内務省へと向かった。

内務省に向かう中、信女は斎藤と行ったやり取りを思い出した。

 

「とりあえず、赤末に言った通り、俺は抜刀斎を呼び出す。そして、その間、俺自身は奴の居候先の神谷道場に行く」

 

「私は?」

 

「お前は内務省に行け」

 

「内務省に?何故?」

 

「今回の依頼人である川路達が今日、内務省にいる。お前は川路達と合流した後、神谷道場に来い」

 

「『達』って事は依頼人は川路以外にもいるって事ね。でも、川路達と一緒に行く意味ってあるの?」

 

「今回の任務は志々雄が絡んでいる。奴の情報網は蜘蛛の巣の様に綿密で広い。奴が密かに自分の討伐を抜刀斎にさせると知っているとしたら、見せしめに川路達を襲うかもしれん。そうなれば、政府も警察も大混乱になる。その隙を志々雄達は必ず突いてくる。今の日本にとって川路達を失う訳にはいかんのだ。わかるな?」

 

「‥‥分かった。ただ、斎藤」

 

「なんだ?」

 

「緋村の力量を図る時、冷静さを欠いてはダメよ。私が新撰組に入る時の入隊試験の時、貴方、私を殺そうとしたでしょう?あの時の様に冷静さを忘れては絶対にダメよ、いいわね。今回の任務は『抜刀斎の力量を図れ』と言うモノなんだから」

 

「了解した‥‥とだけ、言っておこう」

 

(‥‥なんか、不安ね)

 

斎藤の言動に一抹の不安を抱きつつ、信女も行動を開始した。

 

そして、斎藤が神谷道場の門前に来ると、

 

「そう言や手紙みたいなのを読んでいたぜ」

 

「手紙?」

 

「分かった女だ!!ありゃ恋文だな。あの信女って女の人からだな、きっと!!道理で行先が言えない訳だ!!へへへ、『遅くなるかも』だとよ~」

 

神谷道場の住人達が、自分が送った呼出状について話していた。

弥彦の言葉に薫は思わず、先程、弥彦が買ってきた豆腐の入った桶を落す。

桶は何とか弥彦がキャッチすることが出来、中身の豆腐は無事だった。

放心した薫に対して弥彦が、左之助が大変な時に剣心が女に現を抜かすことがある訳ないだろうと言って薫を正気に戻した。

薫と弥彦のやり取りを門前で聞いていた斎藤は、

 

(どうかな?抜刀斎も人の子だ。好いた女の為ならば、あの鳥頭の事を放っておくぐらいはするかもしれんぞ)

 

左之助は死んではいないので、それならば、剣心は信女との密会を優先するかもしれないと思う斎藤であった。

 

「ごめん下さい」

 

斎藤は愛想が良いお巡りさんを演じた。

 

「こちらの道場に、緋村抜刀斎さんがいらっしゃると聞いたのですが‥‥」

 

斎藤の発した『抜刀斎』と言う言葉に薫と弥彦は明らかに動揺する。

 

「あっ、私、この度、この街の配属となった藤田と言います。緋村さんの事は、署長から聞きました」

 

浦村署長の名が出てホッと胸を撫で下ろす薫と弥彦。

 

「なんだ、署長さんの部下の人か‥‥」

 

「剣心なら…あいにく留守にしていますけど。何か…」

 

「ええ、それなんですけど…実は未確認ながら、緋村さんを狙っている輩がいるとの情報が警察の方に入りまして…」

 

「「えっ?」」

 

「失礼ですが、何か心当たりがないか事情を聴きたいので、少し待たせてもらってもかまいませんか?」

 

「あ…はい。帰りは遅くなるかもしれませんが、それで良ければ…」

 

(剣心‥‥)

 

剣心を配する薫の背後で斎藤はニヤリとした。

 

一方、斎藤と分かれた信女は内務省庁舎へとやって来た。

門前では先日の爆破事件の影響の為か、警備の警官の人数が事件前よりも多い。

信女は身分証明書を警備の警官に提示して、内務省庁舎の中へと入る。

庁舎のロビーでは、川路が居た。

 

「どうも、川路総監」

 

相手は警察の長である警視総監にも関わらず、信女はフレンドリーな挨拶をする。

 

「佐々木警部試補、斎藤はどうした?」

 

「緋村抜刀斎の力量を図る任務についています。現在神谷道場にて、緋村剣心の帰宅を待っています」

 

「そうか‥‥間に合えばよいのだが‥‥」

 

川路も信女同様、斎藤と剣心がぶつかった時、果たして斎藤が任務の事を覚えているかどうか不安な様だ。

 

「あの‥‥」

 

「なんだ?」

 

「今回の任務‥あれは、川路総監が出した命令ではないのですか?」

 

信女は斎藤の言葉から、川路の他に依頼人が居ると察しはついていたのだが、それが川路の他に関わっているのが誰なのかを知らない。

そこで、川路に川路以外の誰が関わっているのかを聞いてみた。

 

「いや、私ではない‥‥命令を出したのは、私よりも上の方だ」

 

(川路よりも地位が上と言う事は、山県かしら?)

 

信女は陸軍卿である山県が今回の命令を下したのかと思った。

 

「それで、まだ神谷道場へは向かはないのですか?」

 

「うむ、その方が来るまでは此処で待機だ‥どうやら会議が長引いているらしい」

 

(志々雄真実が絡んでいると言うのにのんきに会議とは‥‥優先順位間違っているんじゃない?)

 

信女は真の依頼人に呆れた。

やがて、会議が終わったのか、ロビーにはぞろぞろと政治家や官僚、高級軍人らの姿が見え始めた。

そして、

 

「待たせてすまなかったね、川路君」

 

今回の依頼人が姿を見せた。

 

(っ!?この人が依頼人だったんだ‥‥てっきり山県だと思っていたわ)

 

信女は真の依頼人を見て、自分の予想と違っていたことに意外性を感じた。

 

「それで、状況は?」

 

「はっ、斎藤一が緋村抜刀斎の居候先に入ったと知らせがありました。彼女はその伝令役を行った佐々木総司警部試補です」

 

「どうも~」

 

「ふむ、では、急いでその神谷道場とやらに向かうとしよう。緋村にも今回の件を説明しなければならぬからな」

 

「ハッ」

 

信女は川路と共に今回の依頼人と共に神谷道場へと向かった。

 

 

その神谷道場では、剣心が赤末を倒して、神谷道場に戻って来た。

彼は門前で自分を待っていた薫から、剣心は命を狙われていると言う話を聞きながら道場に入る。

 

ガラ

 

「こちらが警視庁警部補の藤田五郎さんよ」

 

「っ!?」

 

道場に座る藤田五郎こと、斎藤一の姿を見た瞬間、剣心の動きがとまり、目つきは鋭くなる。

斎藤は剣心に背を向けたまま話しかける。

 

「その様子じゃ、赤末如きに相当、手こずったみたいだな‥‥お前も随分…弱くなったものだな。最後に戦ったのは鳥羽伏見の戦場だから、10年ぶりか」

 

「剣心、藤田さんを知っているの?」

 

「そうか、信女同様、お前も名を変えていたのか」

 

「10年…言葉にすればわずか二文字だが、生きてみれば随分長い年月だったな…」

 

「…ああ…人が腐るには、充分な長さのようだ…」

 

「剣心?」

 

剣心と斎藤のやりとりに困惑する薫。

その間も剣心は幕末時代の斎藤がどんな武士だったかを語るが、今の斎藤は自分にかませ犬(赤末)を寄こした事から、剣心は斎藤も武士としては堕落したと指摘する。

しかし、

 

「赤末がかませ犬?あんな小物、かませ犬にならない事ぐらい百も承知だ。人斬り抜刀斎の強さは俺達新撰組が誰よりも知っている。だが、今のお前は赤末如きに手こずった…"不殺の流浪人"が、お前を確実に弱くした」

 

そして、斎藤は剣心が東京で今まで関わって来た事件の事について語る。

刃衛の時も観柳の時も剣心は相手に人質を取られた事

格下の雷十太にかすり傷を追った事を指摘する。

 

「お前がどう思おうと構わんが…今の拙者は自分の目に映る人を守れる"流浪人"としての強さがあればそれでいい。人を殺める"人斬り"としての強さなど、もう必要ござらん…」

 

剣心の反論に安堵の表情を浮かべる薫と弥彦。

しかし、斎藤の顔には、侮蔑の色が映る。

 

「流浪人としての強さ…ねぇ。だとしたら今のお前は、"流浪人"すら失格だよ」

 

斎藤は警官の制服の第二ボタンまでをパチンとはずし、手を腰に伸ばす。

 

「お前が俺の策にはまって赤末に苦戦している間、俺はずっとココにいた。そして警官だということで、ここの住人は全く警戒しなかった」

 

斎藤の指摘に薫と弥彦はビクッと反応する。

 

「つまり‥‥殺ろうと思えば…いつでも殺れたという訳だ…」

 

そこには狼の様な目をした斎藤がすでに抜刀していた。

剣心はもはや斎藤との戦いは避けられないと踏み、斎藤と対峙する。

日が沈むと同時に2人の戦いは始まった。

先手は斎藤が牙突を剣心に放つ。

剣心は飛び上がり、斎藤に龍槌閃を放とうとするが、

 

「それで避けたつもりか!?抜刀斎!!」

 

斎藤は対空の牙突参式にて剣心の腹部を突き刺した。

 

「剣心!!」

 

道場に薫の絶叫が木霊した。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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