エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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久々の更新です。


第37幕 金

 

斎藤が剣心と神谷道場で死闘を演じてから数日後、

藤田家の台所では‥‥

 

「~♪」

 

信女が何かを作っていた。

 

「信女さん、何をしているのでしょう?」

 

「さあな、アイツが変わっているのは昔からだ」

 

信女が何をしているのか時尾と斎藤はわからず、時尾は首を傾げ、斎藤はわれ関さずの姿勢だった。

 

「~♪」

 

その間も信女は何かを作っていた。

信女が一体何を作っているのか?

それはドーナツだった。

信女は東京じゅうの市場を駆け回り、ドーナツに必要な材料を買って来てドーナツを作っていたのだ。

作り方は先日、横浜に行った時にパン屋からこっそり聞いており、ドーナツを作るのには問題なかった。

前の世界では信女はドーナツ作りどころか、家事などは一切出来なかったが、この世界に跳ばされ、比古に拾われてから、山の中で自給自足の生活となった時、否が応でも家事の技術を身に着けなければ、その日の食事にも満足にあり付けなかったのだ。

剣心が薫よりも家事ができるのはこういった経緯があった。

新撰組時代も食事は当番制だったので、家事は出来なければならなかった。

信女が今、家事ができるようになったのはこうした過去の経緯が存在した為なのである。

 

「そう言えば先日、信女さんと横浜に行ったんですよ」

 

「ほぉ~」

 

「その時、イギリス人の人が骨董屋の店主に強盗紛いの事をしたんですよ」

 

「まぁ、今の日本は治外法権で外国人を裁けないから、外国の連中はやりたい放題だろう?それでどうした?信女の奴が切り殺したのか?」

 

「いえ、信女さん、流暢な英語でそのイギリス人の人に立ち向かったんですよ」

 

時尾は台所にいる信女を見る。

 

「へぇ~、アイツが英語をねぇ~」

 

斎藤も時尾につられて信女に視線を向ける。

 

(アイツは新撰組時代から妙な奴だと思っていたが、まさか英語を話せるとはな‥‥)

 

斎藤は信女の隠された才能に感心していた。

 

「出来た~」

 

信女は自身が作ったドーナツを眺める。

横浜に行った時はオールドファッションとプレーンしかなかったが、今回はプレーンの上に粉砂糖を降り掛けたモノや横浜に行った際、時尾が購入したチョコレート少し分けてもらい、それを湯煎で溶かして、溶かしたチョコレートを塗ったチョコレートドーナツや餡子を塗ったドーナツを作った。

出来上がったドーナツを紙袋に入れ、警官の制服を身に纏い、腰には日本刀を帯び、懐には封筒と一枚の紙を入れて、信女は神谷道場へと向かった。

 

神谷道場では、薫たちが剣心の様子をチラチラと見ていた。

大久保が剣心に再び京都へと向かい、そこで志々雄を暗殺してくれと頼んでから、剣心は悩む様子もなく、普段通りの生活をしている。

もしかしたら、剣心の心の中では答えが出ており、その答えが大久保の要求通り、京都へと向かい、そこで志々雄を暗殺するのではないかと思っていた。

もし、剣心が志々雄を殺せば、剣心はもう流浪にの‥‥不殺さずの緋村剣心は死んでしまう。

そうなれば、剣心は二度と、自分達の下に帰っては来ないのではないかと思った。

そう言った不安が神谷道場のみんなの中にはあった。

剣心はみんなのそんな不安を余所に洗濯をしていた。

そんな中、

 

「ごめん下さい」

 

澄んだ声が神谷家の玄関に響いた。

誰かが神谷道場を訪れたのだ。

 

「おろ?」

 

剣心が洗濯していた手を止めて、来客者を出迎えようとした。

 

「あっ、私が出るわ」

 

薫が剣心の代わりに来客を出迎えるために門へと向かう。

 

「はーい、どちら‥様‥‥?」

 

薫の目の前には警官の制服を纏った女性‥‥

以前、道場にて剣心と斎藤の死闘を止めたあの女性が立っていた。

 

「貴女、あの時の‥‥」

 

信女の姿を見て、警戒するかのように顔を顰める薫。

 

「どうも」

 

「‥‥あの、何の御用でしょうか?」

 

(やれやれ、斎藤も随分嫌われたものね‥‥)

 

やはり、斎藤と行動を共にしていたと言う事で、警戒されている信女。

 

「先日、ウチの上司が此方の道場にご迷惑をかけたみたいで‥‥」

 

「‥‥」

 

「それで、政府からは道場の修繕費と緋村剣心氏、相良左之助氏への治療費を支払うと言う事で、本日その費用をお持ちいたしました」

 

信女は制服の懐から政府から支払われた修繕費と剣心と左之助の治療費が入った封筒を取り出す。

 

「結構です!!お引き取りください!!」

 

薫は政府からの施しを速攻で蹴った。

 

「ですが、受け取ってくれなければ、私が困る。横領されたと思われるので、この受領書に署名をしてもらえないと帰れない」

 

「政府からの施しなんかいりません!!帰って下さい!!」

 

薫が政府を嫌うのも無理もない。

明治政府は過去の自分達の汚点を剣心に押し付けようとしているのだから。

そんな政府からの施しなんて真っ平御免だった。

薫は一方的に興奮しているが、信女は至って冷静だった。

 

「どうした?薫。門前で騒いだりして、近所迷惑だろう」

 

「何かあったでござるか?薫殿」

 

薫の大声を聞いて弥彦と剣心が門前にやって来た。

剣心は門前に居る信女を見て、声をかける。

 

「信女」

 

剣心は信女の姿を見てふわりと微笑む。

 

「どうも~緋村」

 

信女は普段通りの口調で剣心に声をかける。

 

「それで、どうしたでござるか?薫殿。大声をあげたりして‥‥」

 

剣心は興奮している様子の薫に何があったのかを尋ねる。

信女は思った事をズバズバと口にする為、気性が激しい人や短気な性格の人を怒らせやすい所がある。

薫はどちらかと言うと気性が激しいタイプの人間なので、信女が何かを言って薫を怒らせたのではないかと思い、どんな経緯があったのかを聞くことにしたのだ。

 

「それが‥‥」

 

薫が剣心に今回、信女が来た目的を伝える。

 

「なんだよ、そんな事で喚いていたのか?」

 

弥彦が呆れる感じで薫に言う。

 

「そんな事って何よ!?」

 

弥彦の態度にムッと来たのか、薫が今度は弥彦に噛みつく。

 

「剣心をまた人斬りに戻そうとしている政府からの施しなのよ!!弥彦は何とも思わないの!?」

 

「でもよぉ~剣心や左之助の治療費を払った上に道場の修繕費までくれるんだろう?良いじゃねぇか。タダで道場が直る訳なんだからよぉ」

 

「コレだからアンタはまだまだお子様なのよ」

 

「なに!?」

 

薫のお子様発言にちょっとムッとした表情になる弥彦。

 

「いい、コレは修繕費とか言って政府の連中が、剣心に断る事が出来ないようにする汚い策の一つなのよ!!『あの時、金を渡して受け取ったのだから、京都に行け!!行かぬと言うのであれば、あの時の金をそっくり返してもらおうか?』って感じの!!」

 

「マジかよ!?」

 

「そうに決まっているじゃない!!剣心に過去の尻拭いをさせようとしている連中からのお金なのよ!!」

 

薫の説明に弥彦は薫の言っている事を信じた様子。

 

「だったら、そんな金受け取れるか!!」

 

薫の話を真に受け、弥彦も信女の事を睨む。

 

しかし、

 

「いや、それはないだろう」

 

剣心だけは反対意見を述べた。

 

「「剣心?」」

 

「大久保さんはあの時、ちゃんと『返事を待つ』と言っていた。それに大久保さんがその様な事を言うのであれば、斎藤かお主が斬っているだろう?」

 

剣心が信女に尋ねる。

 

「そうね、概ね間違ってはいないわ」

 

「だから、受け取っても大丈夫でござるよ。薫殿」

 

「でも‥‥」

 

剣心に言われてもなんか納得のできない薫。

すると、

 

「そうよね、折角のお金なんだし。貰えるのなら、やっぱり貰おうかしら?」

 

あれだけ受け取らないと言っていた薫が突然お金を受け取る意向を示した。

 

「なんでぇやっぱり、薫も何だかんだ言っても欲しかったんじゃねぇか」

 

弥彦がジト目で薫を見る。

 

「えっ?ちょっと、今のは‥‥」

 

薫が慌てた様子で何かを言うおうとしたら、

 

「当たり前じゃない。世の中はお金が全てよ。緋村、貴方も家事だけじゃなくて、日雇いの仕事でいいから少しは働いて家にお金を入れなさいよね」

 

「薫、お前そんな風に思っていたのか?それでよく活人剣なんて言っていられるな」

 

普段の薫らしからぬ発言に弥彦は完全に薫に軽蔑の視線を送っている。

 

「だ、だから今のは、私じゃあ‥‥」

 

言ってもいない筈の言葉に薫はオロオロと狼狽えている。

 

「悪ふざけは其処までにしておくでござるよ、信女」

 

剣心が信女に先程の薫らしからぬ発言は信女がしたのだと指摘する。

 

「あっ、バレた?」

 

「薫殿はその様な俗っぽいことは口走らんし、何よりも薫殿は拙者の事を『緋村』ではなく、『剣心』と呼ぶでござるよ」

 

「そう言えば、そうだったわね。うっかりしていたわ」

 

「えっ?今の薫の声、ソイツが出していたのか!?」

 

剣心と信女のやりとりを見て、先程の薫の声を信女が出したのかと尋ねる弥彦。

 

「そうでござるよ。信女は声帯模写が出来るでござる。そのせいで、昔、拙者がどれだけ師匠にド突かれた事か‥‥」

 

剣心が昔の事を思い出して少し落ち込んだ。

 

「まぁ、元気を出して、緋村。昔のことよりも今が大事よ」

 

「張本人のお主がそれを言うでござるか?」

 

「‥‥」

 

「そもそもお主はよく拙者の食べ物もとっておったでござる。」

 

「そんな事もあったけ?」

 

「師匠が何の気まぐれか、1度菓子を買ってきた時もそうでござった。」

 

「あれは貴方が『明日は槍でも降るんじゃないのか?』何て警戒していたから、仕方なく私が全部食べてあげたの。」

 

「‥その割には喜んで横から奪っておった気がするが?」

 

「...はぁ~緋村しつこい、貴方は姑?普段やっている事があれだから中身もそうなったの?」

 

「話を逸らすでない。」

 

剣心と和気藹々と話している信女を見て、薫は複雑そうな顔をする。

 

(この人は私の知らない剣心を知っている‥‥)

 

自分の知らない剣心を知っている信女にちょっと嫉妬心を抱いた薫だった。

 

「はい、これお土産」

 

信女は剣心に紙袋を手渡す。

 

「おろ?何でござるか?」

 

剣心は紙袋の中身を見て首を傾げる。

 

「ドーナツよ。知らないの?」

 

「西洋の菓子の事はさっぱりでござる。」

 

「時代遅れね。一応、沢山作って来たから、あの人達のもある筈よ。」

 

「.....信女、お主はそれだけの為にここに来たのか?他の用があるでござろう」

 

「ええ‥緋村は今回の件、どう思っているかについて聞いておこうと思って」

 

剣心は信女の質問に体をピクっと動かす。

薫も弥彦もそれを聞いて体を強張らせる。

 

「薫殿」

 

「えっ?なに?剣心」

 

剣心から声をかけられて、ハッと我にかえる薫。

 

「すまぬが、信女と少々話しがしたいのでござるが‥‥」

 

「えっ、えぇ‥‥いいわよ」

 

「かたじけない」

 

剣心は信女を神谷家の中にある自分の部屋へと招く。

神谷家の中にある剣心の部屋にて剣心と信女は互いに向き合って座っている。

両者の真ん中には先程、信女が作って持って来たドーナツとお茶が入った湯呑み茶碗が静かに湯気を立てている。

 

「それで、緋村‥貴方はどうするつもり?京都へ行くの?」

 

「まだ保留でござる。」

 

ズズっと茶を飲む剣心。

だが、それとは裏腹に信女は、

 

「そんな流悠長な事は言ってらんないわよ」

 

「それはどう言う意味でござるか?」

 

「志々雄の計画は多くの人の命が奪われる。まぁ、維新志士達の自業自得何だけど、川路達の言う事も最もよ‥今、日本で内乱が起これば、それに付け込んで諸外国は日本の内政に介入し、そのまま日本を植民地にするつもりよ」

 

と信女も湯呑み茶碗に手を伸ばし、茶を飲む。

 

「諸外国の力を借りれば、志々雄を倒す事はできるかもしれない。でも、その後に待つのは志々雄ではなく、外国人による植民地政策‥この国の飼い主が志々雄か外国人になるかの違いよ‥‥だからこそ、政府は内密に事を進めようとしている。まぁ、私は政府の連中は好きか嫌いかと聞かれたら、嫌いな部類に入るけど、志々雄や外国人よりは幾分マシね」

 

「確かに、大陸の清国を見れば、列強諸国がこの国も狙う事は容易に考えられる」

 

「‥‥緋村、志々雄の件‥もし迷っているなら、断りなさい」

 

「‥‥」

 

「迷っている人やしょうがなく依頼を受けたなんて、嫌々気分で受けられても足手纏いだし、迷惑だから」

 

「‥‥」

 

信女の辛辣な言葉が剣心に突き刺さるが、剣心はこれは信女なりに自分の事を心配してくれている厚意だと分かっていた。

 

「緋村が来なくても、私や斎藤が頑張ればいいだけの話だし‥‥貴方には今の貴方の生活がある‥‥過去に維新志士達が行った尻拭いを警官でも軍人でもない貴方がやる事はないわ」

 

「‥‥」

 

その頃、剣心と信女が話している部屋の外では‥‥

 

「剣心の奴何話しているんだ?」

 

「ちょ、弥彦、押さないで」

 

「嬢ちゃん、うるせぇぞ、あいつらに気づかれちまうだろうが」

 

「お前の方がよっぽどうるせぇよ、左之助」

 

と、少し開けた障子戸を3人で覗き込む薫、弥彦、左之助。

3人は剣心と信女に気づかれていないと思っているが、剣心も信女もとうに気づいていた。

害はなさそうなので、放置しているだけだ。

 

「てか、あんたいつこっちに来たの?」

 

薫がいつの間にか神谷家に来ていた左之助に聞く。

 

「べらぼう、昼時になれば来るに決まってんだろう、それで何やら面白そうな事してんだ、首突っ込まずにいられるかい」

 

「昼にここ来るあんたの考えがわからないわよ。いつもいつもタダ飯食らいに来て‥‥」

 

呆れた表情と呆れた声で薫が言う。

 

場面は部屋の中に戻る。

 

「‥‥はぁ~、外が騒がしいから今日の所は帰るわね」

 

と信女が立ち上がり、帰る支度をする。

 

「そうでござるか、もうそろそろ昼時だから、食べてゆけばいいでござろう」

 

「う~ん‥今回は遠慮しとく」

 

「そうか、ではまた」

 

「えぇ」

 

と信女は受領書に署名を貰い帰っていった。

 

「さて昼の用意をするか」

 

剣心も昼ごはんの用意に入った。

そして、この日の昼食後、信女が作って来たドーナツは神谷家の皆には好評で、最後の1つを巡って薫、弥彦、左之助の間で壮絶な争奪戦が行われた事を信女は知らない。

また剣心もこのドーナツが信女の手作りだとは知らなかった。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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