エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第54幕 壬生

比古清十郎の下へと戻り、苦心の末飛天御剣流奥義、天翔龍閃を会得した剣心。

山を下りて麓の駐在所から馬車で警察署の前まで来ると斎藤が剣心と信女を出迎えた。

 

「よう、平日の午後に馬車で来訪とはまるでどこぞの御大尽の様だな。で、どうだ?人斬りに戻る決心はちゃんとついたか?」

 

「さあ、どうでござるかな」

 

「まあいい。急ぎの話がある。さっさと上がってこい。五月蝿い奴も、今は飯を喰いに出ていて丁度いい」

 

斎藤は剣心の変化に気づきつつも今は志々雄の京都破壊計画の阻止の為、時間がないので、剣心と信女に中へ入る様に促す。

 

((五月蝿い奴?))

 

斎藤の言う五月蝿い奴が一体誰の事を指しているのか気になりつつも剣心と信女は警察署の中へと入った。

 

「「京都大火!?」」

 

警察署の資料室には斎藤、剣心、信女の3人の姿があり、剣心と信女はそこで張と捕縛した志々雄一派の工作員から聞いた志々雄の計画を聞いて驚きこそしたものの剣心と信女は何処かに引っ掛かりを覚えた。

 

「京都大火は今夜11時59分決行予定…これはまず間違いない」

 

「妙でござるな」

 

「そうね‥‥」

 

「お前達もそう思うか」

 

「確かに京都は日本にとっては歴史のある名所だけど‥‥それに、志々雄一派がいくら強いとしても数においてはこっち(警察)の方が圧倒的に勝っている‥‥」

 

「そうだ、故に奴らの戦法は必然的に奇襲と暗殺に重点が置かれている。だが、そんな奴等がこんなにも簡単に情報が漏れてしまっては奇襲も暗殺も成功するはずもない。奴らにとって情報の漏洩は何よりも憂慮すべき死活問題の筈だ‥‥」

 

「そうね」

 

「確かに‥‥」

 

「だから俺はこの地下牢にいる張にも志々雄からの刺客が差し向けられるものと考え、ずっと此処で網を張っていた。だが その気配は一向になかった‥‥」

 

「まるで『張から好きなだけ情報を得て下さい』と、言わんばかりね‥‥となると、京都大火はあくまでも囮‥‥本命は別にある‥‥ってことかしら?」

 

敵に捕まった張に対してあの志々雄が何もしなかった事に違和感を覚える信女。

これまでの志々雄のやり方を考えるのであれば、張に暗殺者が送り込まれても不思議ではない。

にも関わらず、志々雄は張を生かしたままだ。

どう考えても志々雄らしくない。

 

「信女の言う通り、どうやらこの京都大火の裏には十本刀の一員にすら全く秘密にされている何かもう1つ、別の狙いがあるようでござるな‥‥」

 

地図を広げた斎藤の隣で顎に手を当てて考え込む仕草で地図を覗き込む信女は先程から考えていた事を話し出す。

 

「ねぇ、斎藤」

 

「ん?」

 

「京都大火は池田屋事件の時に殺された維新志士達の計画をマネしているのよね?」

 

「ああ、国盗りも復讐も同時に楽しむ志々雄の事だ、必ず別の狙いにも、何かそういう遊びがあるはずだ」

 

「遊び‥‥池田屋事件‥幕末‥維新志士‥国盗り‥‥っ!?狙いは幕末の天下分け目の戊辰戦争・鳥羽伏見の戦いの時よ」

 

「鳥羽伏見の戦い?」

 

「ええ、あの鳥羽伏見の戦いの時に慶喜は、味方を欺き大阪湾から船で江戸へ逃げ帰り その行動が幕府軍の士気を削ぎ、逆に官軍の士気を上げる大きな要因になった筈よ‥‥思い出しただけでもイライラする‥‥」

 

鳥羽伏見の戦いの事を思い出したのか信女は若干顔を歪める。

あの戦いで井上、そしてその時の戦傷で山崎が死んだのだ。

信女にとって慶喜の行動は許せるものではなかった。

 

「官軍の勝因を志々雄が皮肉を込めて自分の勝因にしようとしていたら、目標は京都じゃなくて東京よ。今の政府の中枢は京都ではなく、東京だもの‥政府を転覆させるなら、京都は二の次の筈よ‥‥」

 

「成程、京都大火はあくまで作戦の第一段階!船による海上からの東京砲撃が奴の真の狙いでござるか」

 

「考えたな、京都大火は人目と人員を引きつけるためのいわば布石‥‥ならば志々雄一派と警官隊の全面衝突があった方が派手でいい。だからわざとこちら側へ情報を洩らす真似をした訳か‥‥あやうく出しぬかれるところだったぜ」

 

志々雄は京都に居るので東京は大丈夫‥‥政府の連中は恐らくそんな事を考えている可能性がある。

しかし、そんな時に志々雄が海上から東京を砲撃したら東京は‥‥政府の機能はどうなるだろうか?

恐らく東京中が大パニックに陥るだろう。

 

「海上に出たらこっちの手は打てなくなるわ」

 

「それだけは絶対避けねば!時間がない!急ぐでござる!」

 

新月村の件から、例え東京の明治政府に志々雄の東京湾からの東京砲撃を知らせても恐らく政府は海軍に出動命令を出さないだろう。

むしろ、志々雄を乗せた彼の船を海上で撃沈すれば志々雄を海の藻屑に出来るかもしれないのに、それをやらないし、やれない。

そう考えると、志々雄の言う通り、明治政府は弱々しい政府なのかもしれない。

だからこそ、志々雄を海へ出す訳にはいかない。

剣心は急いで大阪湾へ行こうと資料室を出た時、

 

「で、俺はまた置いてけぼりってか?」

 

ゴッと鈍い音を立てて、左之助は剣心を殴り付けた。

殴られた剣心は驚きと呆然とした顔で左之助を見た。

 

「今度はそうはいかせねぇぜ」

 

「さ、左之、どうして警察(ここ)に!?」

 

「『どうして京都(ここ)に?』って、お前の力になってやるために決まってんだろが!」

 

左之助の打撃で眩暈を覚えた剣心は体勢を崩したが、そこを左之助が片腕1本で剣心の身体を支えた。

 

左之助の力強い言葉に、剣心は下を向いたまま笑った。

 

「そうか‥‥」

 

「『足手纏い』になるの間違いだろうが」

 

「あんだと!」

 

「2人とも悪ふざけは後にして、今は大阪に急ぎましょう」

 

「そうだな、時間がねぇんだったな!積もる話は走りながらだ!」

 

「大阪まで走れるか ボケ。馬車だ 馬車」

 

「あ"ー!!どうしてテメェはそう揚げ足取りばっか――!!」

 

此処の警官に馬車の手配を任せ、馬車が来るまで部屋で待っていた時、剣心は信女に近付いた。

 

「ん?どうしたの?緋村」

 

「信女、すまぬが紙と筆を貸して貰えぬか?手紙を書きたい」

 

「手紙?誰に出すの?」

 

「葵屋の皆に‥‥彼らはこの京都を幕末の頃から見守り続けてきた‥‥その力が今度の京都大火の阻止に役立つでござる」

 

「成程」

 

剣心は信女から紙と筆を借りると早速今回の志々雄の計画、京都大火について警戒する様に手紙を書いた。

ただ剣心が手紙を書いている時、

 

「緋村‥‥」

 

信女が剣心に声をかける。

 

「おろ?なんでござるか?」

 

「‥貴方、字が下手ね」

 

「はうっ!!」

 

「これ、葵屋の皆は読めるかしら?緋村の字が下手で何が書いてあるかわかりませんでした。そのせいで京都は火の海になりました‥では、済まされないのよ」

 

「‥‥」

 

信女に自分の字を指摘されてショボーンと落ち込む剣心。

そこで、信女が代筆し、名前の部分は剣心本人が自分の名前を書いた。

 

「それじゃあ、この手紙を葵屋に届ける様に手配しておくから」

 

「あ、ああ‥頼むでござる」

 

信女と剣心のやり取りを見ていた左之助は、

 

「あの女、随分と物事をばっさりと正直に言うな」

 

と、信女の態度にちょっと引いていた。

 

「それが、信女でござるよ」

 

しかし、剣心は慣れた様子で答える。

 

「俺には分かんねぇな‥‥剣心、あの女の何処に惚れたんだ?」

 

「信女は何だかんだで、優しい女性でござるよ」

 

(アイツのどこが優しいのか俺には分からん‥‥)

 

剣心とは違い、信女との付き合いが長い訳ではない左之助には信女の優しさは分からなかった。

そして、葵屋へと宛てた手紙を手配した後、信女が剣心の所へと戻ると、

 

「信女、やはりお主も大阪に‥‥」

 

「当たり前でしょう」

 

剣心が信女に大阪へと行き、志々雄の船出の阻止に参加するのかを問うと、信女は即答する。

しかし、

 

「いや、今井‥お前は京都に残れ」

 

「はぁ?」

 

斎藤が信女に大阪へは行かずに京都の残れと言う。

信女の方は自分だけ大阪ではなく京都に居残りと言う事で不満そうな顔をしている。

 

「ちょっと斎藤!!こっち(京都)には志々雄がいない事は分かり切っているでしょう!?それなのに何故、私は京都に居残りなのよ!?」

 

斎藤に食って掛かる信女。

そんな彼女を尻目に剣心は信女が京都に残る事にやや安堵していた。

確かに信女の言う通り、志々雄の性格から京都のアジトに居残り、部下全てに京都大火と東京砲撃を任せるとは思えない。

彼の性格上、志々雄は自ら先頭に立って陣頭指揮をとるタイプの男だ。

それに明治政府転覆を実際にこの手で行える機会がある東京砲撃に参加しない訳がない。

故に京都に志々雄が居る可能性は限りなく0に近い。

それに志々雄の傍には恐らく宗次郎もいる筈。

志々雄が京都に居ないのであれば恐らく宗次郎もいないだろう。

大阪でもしかしたら、志々雄との全面対決となるかもしれない。

その時は勿論宗次郎も戦うだろう。

宗次郎の相手は自分がしたかった。

それなのに斎藤は自分に京都に残れと言う。

当然、信女としては納得できるものではなかった。

 

「斎藤、理由を聞かせて頂戴!!」

 

信女は斎藤に何故自分は京都に居残りなのかその理由を尋ねる。

 

「まぁ、お前の言う通り、志々雄が京都に居残る可能性は低い。だが、絶対にありえないとは言い切れないだろう」

 

「そ、それは‥‥」

 

確かに齋藤の言う通り、志々雄が京都に居残る可能性は限りなく0に近いと言うだけで、絶対に居ないとは言い切れない。

何しろ京都大火をこうして敵である自分達にわざと漏らす様な奴である。

此方の裏の裏をかき、志々雄が京都に居残る可能性も完全には捨てきれない。

 

「そう言う訳だ。こっち(大阪)へは、俺と抜刀斎に任せてお前は此処(京都)でお前の務めを果たせ」

 

「‥‥」

 

「ちょっと待て、斎藤!!テメェ、俺を忘れているじゃねぇか!!」

 

すっかり斎藤からアウト・オブ・眼中をくらった左之助は思わず声をあげる。

 

「なんだ?お前も大阪に来るつもりか?」

 

「当たり前だ!!俺はこの拳で剣心の力になって決めたんだからな!!」

 

「左之‥‥」

 

「ふん、勝手にしろ」

 

斎藤は信女に対して京都に残る様に言ったが、左之助に関しては好きにさせた。

やがて、手配した馬車が警察署の前に到着する。

 

「おっしゃあ!!待っていろ!!志々雄真実!!」

 

左之助は気合を入れて馬車が停まっている警察署の前へと行く。

剣心は苦笑し、斎藤はほぼ無関心で資料室を出る。

信女も剣心達の見送りとして剣心達の後ろを歩いている。

左之助は何故か馬車の中ではなく屋根の上に上る。

斎藤が馬車に乗り込み、最後の剣心は乗ろうとした時、

 

「緋村‥‥」

 

信女は剣心に声をかける。

 

「おろ?」

 

「‥‥その‥‥気をつけなさい。幾ら奥義を会得で来たからと言って、志々雄や宗次郎はそう簡単に勝てる相手ではないわよ‥‥」

 

「‥‥」

 

大阪と京都‥志々雄が居る可能としては、やはり大阪の方が確率は大きい。

志々雄を止める為、やはり戦闘は避けられないだろう。

志々雄‥そして宗次郎の実力は未だに計り知れない。

戦うとしたら苦戦は必至の筈‥‥。

比古に言われて今まで心の隅に留めていた剣心に対する想い‥‥

その想いがここ最近、剣心と行動を共にする事によって、それが次第に強く表に出始めている。

それに大切な人や仲間と分かれ、そのままその人と会えなくなる‥‥信女の心境はあの箱館戦争における終戦間際に土方から多摩への伝令を任された時と同じ感覚を思わせる。

あの時、自分は沖田達の想いと共に多摩で土方の帰りを待とうと決めて多摩へと向かった。

でも、土方が信女の下に帰って来ることは永遠になかった‥‥

あんな想いはもう二度と味わいたくない。

正直に言えば自分も大阪に行きたかった。

でも、自分は剣心や左之助と異なり、組織の人間だ。

組織とは基本縦社会。

それは、警察に入る以前に見廻組、新撰組で経験してきている。

遊撃が許されるのは命令を受けた場合か戦場ぐらいで、今はまだ戦闘が開始されていない。

故に自分は上司である斎藤の命令を聞かなければならなかった。

自分の身を案じている信女に対して剣心は、

 

「ありがとう‥信女‥‥お主も気をつけるでござるよ」

 

ギュッと信女を抱きしめ、優しく呟く。

突然の剣心からの抱擁に驚く信女。

普段の信女ならば、躱すか、剣心に対して鉄拳制裁をする所であるが、やはり、函館戦争時の土方との最後の別れの時の事を思うと、それは出来ず、ゆっくりと信女の手が動き‥‥

 

「貴方もね‥‥絶対に生きて戻って来なさい‥‥緋村‥‥」

 

ギュッと剣心を抱き返した。

この信女の行動に剣心も驚きはしたが、こうして自分を抱き返してくれた信女を受け入れ、

 

「ああ、約束する‥‥必ず信女の下に帰って来るでござるよ」

 

長い様で短い抱擁を終えた剣心は馬車へと乗り込む。

馬上から剣心と信女の行動を見ていた左之助はあんぐりと口を開けて驚き、斎藤は見て見ぬふりをした。

時間も無いと言う事で剣心が馬車に乗り込むと同時に馬車は大阪を目指して走っていった。

信女は馬車が見えなくなるまでその場に立ち、馬車を見送った。

それから信女は近県から集められた援軍の警官5000人と共に今夜の京都大火阻止のための作戦に参加する事になった。

斎藤不在と言う事で、次席指揮官として警官らに京都大火の概要を説明し、志々雄一派との戦闘が避けられない事からかつて新撰組が行った集団戦法を取り入れる事を強く説明した。

いくら腕に自信があっても決して1人で挑まない事‥それを徹底した。

また、伝令の綿密や負傷者の救護‥救護場所の確認など、事前に準備は万端にした。

警備の方も斎藤が事前に指示をしており、その日は朝から警官が京都の市街地を巡察しており、何も知らない京都の市民達は、

 

「なんかあったんやろうか?」

 

「今日はエラいお巡りさんの数が多いでんな」

 

と首を傾げたり、いつもよりも数が多い警官達を不思議がっていた。

ただ、志々雄の京都大火計画は既に始まっているらしく、今朝不審な男に職質をかけるとその場から逃走し、警官がその男の身柄を捉えるとその男は志々雄一派の工作員である事が判明した。

京都は狭い路地や入り組んだ狭い道、そして木造の建物が多い町で火が広がればあっという間に京都は火の海となる。

まして深夜、人々が寝静まっている中、彼方此方で放火されれば犠牲者の数はかなりのモノになる。

斎藤は人気のない場所で不審な動きをしている者を見つければその者の身柄を拘束する様に伝えてあり、そう言った場所を重点的に捜査・警戒する様にも伝えていた。

そして、葵屋にも信女が代筆した剣心からの手紙が届いた。

尚、手紙が届く少し前、操はお増に回転式機関銃が闇相場で幾らなのかを尋ね、呆れさせる場面があった。

そんな中、剣心からの手紙が届き、手紙の中を見た最初の第一声が、

 

「これ、本当に剣心からの手紙?」

 

薫が手紙事態を不審に思った。

手紙の中の文字は綺麗な女文字だったので、薫が不審がるのも無理はなかった。

 

「だよな‥剣心の奴、字がこんなに綺麗な筈がねぇし‥‥」

 

剣心の字の下手さは薫と弥彦からも折り紙つきだった様だ。

 

「でも、緋村の名前の所、手紙の字と違って随分と汚いわよ」

 

操が手紙の内容の文字と最後の剣心の名前の字が異なる事に気づく。

 

「ホント、剣心の名前の字は間違いなく剣心の字だわ」

 

「それって、誰かに代筆してもらったんじゃ‥‥」

 

そこでお増が手紙の字が綺麗な事に推測を立てる。

お増の推測はまさに当たっていた。

それはともかく、剣心からの手紙が一体どんな手紙なのかを皆が読むと、その内容に一同は驚愕した。

 

「本気かよ‥‥」

 

「今日はやけに警官が多いと思ったんだけど‥‥」

 

「京都‥大火‥‥」

 

「無茶苦茶だわ‥‥」

 

「連中の無茶苦茶は今に始まったことじゃねぇさ」

 

「どうする?操ちゃん」

 

操は当然、京都大火阻止の為に早速行動に出た。

まず京都大火を知らせるために京都中に伝書鳩を飛ばした。

志々雄の京都大火の計画も実行時間も既に此方は掴んでいる。

時間がなくとも今の内に京都大火阻止の為の準備をしたのだった。

そして日は落ち、夜の闇が辺りを包み込む。

時刻は深夜11時59分‥京都大火の作戦が決行される時刻となった。

京都市街地を見渡せるとある小高い山では十本刀達が火の手を待っていた。

 

「時間だ‥‥遅い、火の手はまだか!?」

 

コウモリの様な小柄な男‥刈羽蝙也が懐中時計と夜の京都市街地を見ながら未だに火の手が出ない事に苛立っている。

 

「せっかちね、そう簡単には燃え移らないわよ」

 

大きな鎌を持ち着物姿の人物‥本条鎌足が諌める。

そこへ、

 

「伝令!!市内中に警官が配置され、各隊も作戦実行に移れません!!」

 

「あらあら、困った役立たずちゃん達ねぇ」

 

伝令の報告を聞いて呆れる鎌足。

 

「ふん、仕方がない。此処は作戦を変更して、お前達が火付けしやすいよう我々が発破をかけてやろう」

 

目の部分に『心眼』と書かれた両目を覆う眼帯をして、背中に亀の甲羅を背負った男、魚沼宇水がそう言うと、下諏訪にて左之助に二重の極みを教えた悠久山安慈が、

 

「宇水殿、我々十本刀の任務はあくまで要人の抹殺‥警官や民間人を殺すのは我々のするところではない」

 

と、無益な殺生はするなと言うが、

 

「どうせ火が回れば同じ事‥まっ、強制はせんよ」

 

そう言って山を下りる。

 

「あっ、あたしも行く」

 

鎌足は宇水と共に行くと言い彼について行く。

 

「それじゃあ、ワシと不二は遠慮させてもらうかのう」

 

胡散臭い仙人の様な老人‥才槌と相方とされる不二は行かないと言う。

そして、

 

「んとねぇ‥んとねぇ‥おれはねぇ‥‥」

 

巨漢の男‥夷腕坊が行くか行かないか迷っていると、

 

「バカは来るな。バカ‥邪魔だ」

 

「あ、あでぇ?」

 

蝙也から来るなと言われてしまった。

 

「‥‥」

 

残った安慈はそんな彼らを冷めた目で見送った。

 

 

深夜の京都市街地にはピィー、ピィーと警官の警笛の音が鳴り響く。

 

「警察の威信にかけて奴等の暴挙を食い止めろ!!」

 

「抜刀隊前へ!!」

 

5000人の警官相手に志々雄の兵達は本来の作戦行動がとれず、その数を見て逃げだそうとする者もいた。

しかし、逃亡を図ろうとした兵は、

 

「逃げたい人は逃げても良いわよ。た・だ・し、この死神の大鎌をくぐり抜けられたらね」

 

鎌足の大鎌の餌食となった。

そして、蝙也が空から警官を切りつけ、

 

「駒が死を恐れてどうする?特にお前達の様な『歩』風情が‥『歩』にあるのは全身のみ‥‥行け!!」

 

十本刀のメンバーから督戦を促され、志々雄の兵隊たちは警官隊へと突っ込んでいく。

 

「い、行け!!」

 

「怯むな!!全力死守!!」

 

警官隊も志々雄の兵隊達を迎え撃つ。

京都に残った信女も志々雄の兵隊を薙ぎ払いつつ志々雄を探す。

だが、志々雄の姿も宗次郎の姿も見つからない。

やはり、本命は大阪の様だった。

しかし、今からではとても大阪へは間に合わない。

ならば、自分は斎藤の言う通り、此処で自分に与えられた任務‥京都大火を阻止するだけだ。

幸いこの辺には試し切りする素材(志々雄の兵隊)が大勢いる。

決戦前の肩慣らしには丁度いい。

それにこうして京都で剣を振るっていると新撰組時代を思い出す。

 

(総司‥土方‥‥皆‥‥皆が守った町は必ず守ってみせるから!!)

 

信女は自分の隣にはまるで沖田や土方が居るかのように感じた。

 

 

 

 

京都の各所で警官隊と志々雄の兵隊が衝突しているが、志々雄の兵隊全てが警官隊と衝突しているわけではない。

十本刀メンバーの乱入により、隙が出来ると数人の兵隊が町へと入り油を撒いて其処に火をつけようとする本来の作戦‥京都大火を行う実行部隊も居た。

 

「この辺でいいだろう。本隊が警官隊と衝突している今が好機だ」

 

「おう」

 

撒かれた油の上に松明の火をつけようとした時、

 

「何やっとるんじゃ?」

 

突然家の障子窓が開き、住人が火をつけようとした志々雄の兵隊を睨みつける。

そして、

 

「皆の衆!!火付けじゃぞ!!」

 

大声を上げる。

すると、

 

「どこだ!?」

 

「お前達か!?コラァ!!」

 

周辺の家から続々と住人達が集まって来る。

 

「ちょ、ちょっと待て!?」

 

「なんで深夜にこんな大勢起きているんだ!?」

 

火をつけようとした志々雄の兵隊は深夜にも関わらず起きている大勢の住人の謎が分からないまま、住人達にボコボコにされた。

深夜に起きている住人達は皆、葵屋から飛ばされた伝書鳩の手紙から今日の深夜に放火をする輩がいると事前に情報を得ていた為、こうして起きていたのだ。

屋根の上から操達、京都御庭番衆はそれを見て、この辺は問題ないと判断すると、黒尉、白尉、お増、お近の4人にそれぞれの所定に散ってもらい、防火と住民の警護を命じた。

残った操も薫と弥彦をつれて次の現場へ行こうとした。

その時、操は背後に人の気配を感じた。

 

「どうも火の手が上がらないと思ったら、こんな小娘さんがねぇ‥‥」

 

操の背後には宇水が立っており、操に槍を振り下ろそうとしていた。

 

「操!!」

 

「操ちゃん!!」

 

操が気づいた時には、既に遅く宇水の槍は操に迫っていた。

しかし‥‥

 

ガキーン!!

 

宇水の槍が操を貫くことはなかった。

 

「油断し過ぎよ、操‥忍者が背後を取られてどうするの!?」

 

「の、信女様‥‥」

 

宇水の槍を信女が刀で受け止めていた。

 

「ほぉ‥この私の槍を受け止めるとは‥女にしてはなかなかやるではないか」

 

「心眼の眼帯‥アンタが盲剣の宇水ね‥‥?」

 

「私の事を知っているとは‥‥そうか張の奴、ベラベラと警察に喋りおって、やはりこの作戦の前に殺しておくべきだったな」

 

「‥‥操、この辺の人達と一緒に下がっていなさい‥邪魔よ」

 

「は、はい‥‥」

 

信女に邪魔と言われ、操は弥彦と薫を連れてこの場から遠ざかった。

弥彦としては一剣客見習いとして剣心と同じく飛天御剣流の剣士である信女の実力を見たかったが、宇水の禍々しい剣気を見て此処は悔しいがその場から去った。

 

「‥‥」

 

(真新しい血の匂い‥コイツ、此処に来る前に人を斬っているわね‥‥)

 

「‥‥」

 

信女は宇水と少し距離を取り、刀を構え、宇水も槍を構える。

 

「むっ?‥ほぉ~お前も宗次郎同様、感情がイカレている人間の様だな?」

 

宇水は信女を見てニヤッと笑みを浮かべながら彼女は宗次郎同様、常人とは異なる感情の持ち主だと見抜く。

 

「‥‥」

 

「フフフ、驚いている様だな?感情を表に出さなくとも、私には分かるぞ。この私の心眼の前に隠し事は出来ぬぞ。それはお前や宗次郎の様に感情が壊れた人間も例外ではない」

 

心眼と書かれた眼帯が無ければきっと宇水はドヤ顔をしていただろうが、相手が悪かった。

 

「なに、いい年したおっさんが、中二っぽい事を平然と言っているの?心眼?アンタ、バカじゃないの?例え、貴方が本当に心眼を会得していても目が見えていると思って相手をすれば貴方程度の奴、どうって事は無いわ」

 

信女は宇水の心眼を前に全然恐れている様子はなく、逆に呆れていた。

 

「あまり私の事を怒らせない方がいいぞ、女‥‥まぁ、お前は此処で私に殺されるのだからな、最後の遺言として水に流してやろう‥‥ここ最近、男ばかりで女は久しく斬っていないからな、精々私を楽しませ、その身体に流れる血を浴びせてくれ」

 

「貴方‥やっぱりただの変態よ」

 

ガキーン!

 

刹那の間に起る火花の花火‥信女の剣を亀甲の盾で受け止める宇水。

 

「硬い‥‥」

 

「その程度かい?」

 

挑発気味に笑みを浮かべながら言う宇水に信女はその挑発に乗るように距離をとる。

そしてあの構えを、幕末幾千の志士を貫き、仲間に迫る脅威を突き壊してきた壬生の狼の牙、牙突の構えを眼前の敵に向ける。

 

「貴方のその凝り固まった盾ごと貫いてあげるわ」

 

「フン、ならばその血に飢えた狼の牙でも貫けないものがあるという事を教えてやろう」

 

亀の甲に隠れる宇水を標的にピンポイントをおく信女。

 

「牙突‥一式!!」

 

地を蹴り、真銀の閃光が刹那の光が暗黒の空間を駆け抜ける。牙の刺突は闇を切り裂き空間を真っ二つの切れ目を入れる。

 

「っ!?」

 

闇夜に浮かぶ笑みが亀の甲から除き見える。

 

「宝剣宝玉百花繚乱!」

 

突如影のように伸びる槍や鉄球、まさに蛇が噛み付いてきた。信女は不覚にも2箇所噛まれてしまい思わず膝をつきかけた。

 

「ほう、あれだけの連撃でその程度の傷だけで済ますとはやはりやるな。」

 

「‥‥貴方の心眼も子供騙しね」

 

「その子供騙しにしては効いたみたいだな。」

 

ニヤリと浮かべる宇水の勝ち誇った笑みに血を吐き捨てる信女。血を拭いまた牙突の構えを見せる信女。

 

「また牙突か?お前にはほかの剣もあるのだろう。例えば飛天...」

 

「貴方を倒すのはこの剣、悪・即・斬の元に遂行する」

 

「ほう、下らない」

 

「勝手にほざきなさい‥この負け犬が‥‥」

 

信女は牙突を繰り出し、宇水もそんな信女を迎え撃つかのように亀甲の盾と槍を構え信女へと迫る。

しかし、

 

「っ!?」

 

信女は突如、第三者の気配を察し、宇水への進撃を止めて、後方へと飛ぶ。

その直後、2人の間に拳が飛び、宇水の槍はその拳により粉々に砕かれた。

信女も後方へ飛ばなければ愛刀が宇水の槍の様に砕かれていたかもしれない。

 

「何の真似だ?安慈」

 

信女と宇水の間に割って入ったのは安慈だった。

彼は両腕でそれぞれ二重の極みを繰り出して来たのだ。

 

「部隊の殆どが敗走を始めている。これ以上の交戦は無意味だ」

 

「そんな事ではない。何故私の楽しみの邪魔をしたと問うている。返答次第では貴様とて命はないぞ」

 

「お忘れか?生殺与奪‥それが私が十本刀の一員になった条件だ。無益な殺生は私が好むところではない‥‥」

 

「フン」

 

宇水と安慈は互いに睨み合ったが、

 

「女、命拾いしたな」

 

信女に対して宇水は捨て台詞を吐くが、

 

「何、勝手に撤収するつもりでいるの?私が貴方達を此処から逃がすとでも思っているの?十本刀の二刀をここで叩き折ることを私はできる。」

 

信女は宇水と安慈をこの場から逃がすつもりはなかった。

 

「言うのは簡単だがあまり図に乗るなよ、女。いくら新撰組だろうと、あの時代を生き抜いた者であろうとそれはこちらも同じなのだぞ。」

 

信女の言葉にカチンときた宇水は声を荒げる。

 

「それはこちらも同じ事、盲目のお爺さんにお坊さんが加勢する程度なんて、の〇太君にし〇かちゃんが助けに来た程度にしかならない。」

 

自分の元いた世界でなら通じる例えだが此処じゃ全く通じない例えをする信女に一瞬反応が遅れる安慈と宇水。

信女の読めない表情と相まって何やら何も言いにくい空気となりここの時間は一瞬止まる。

 

「...何が言いたいのかよくわからないが...幾らその剣に自信があろうと過信して...「過信じゃない。」」

 

遮る信女の声より先に安慈は感じた。ゆっくりと滾っている憤怒を、感情がいかれていると言った宇水...間違いなく感情は壊れている信女。

 

だが壊れているだけじゃ飛天御剣流の真髄には辿り着けない。

今の信女は前の信女ではない、壊れた感情を修復し秘める事により感情を表に出さないが1度ドアを壊せば凍てつく冷気のような憤怒が自分の間合いにいる全ての人間の生命を凍ら失くし砕き斬るであろう。

 

「余所者が勝手に入ってきて面白い挨拶してくれたのよ。私もお返ししてあげようとしているだけ。どこの町だろうと私は任務の為に斬るけどこの町だけは別よ。」

 

信女の絶対零度の殺気に当てられ安慈は思わず冷や汗をかいた。

これはダメだ。怒らせすぎるととんでもない事になる。そう本能が脳に信号を与え今の信女に刺激を与えないように思考を巡らせる。

 

「...それはすまなかった。今回は私達の負けだ。」

 

「この戦、貴方達の情報が漏えいしていた時点で負けていた。」

 

「いいや、こっちじゃない。...そう言えばわかるだろう。」

 

その言葉に微かに反応する信女、ピタリと足を止め言葉の意味を探る為に安慈を睨む。

 

「では、次に会う時は本気で勝負いたそう。こちらも負けられないものがあるのでな。」

 

安慈の方も信女がこの場での戦いは無意味だと察した。

そう告げてその場から去って行く宇水と安慈の2人。

2人が去り、

 

「‥‥総司‥‥土方‥‥貴方達が守った町は‥‥志々雄の手から守れたわよ」

 

信女は屋根の上から火の手が上がらない夜の京都の町を見て一言呟いた。

十本刀2人には逃げられてしまったが、京都大火は防ぐことが出来た。

夜空に浮かぶ星はまるで信女を祝福するかのように輝いていた。

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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