エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
剣心と話し合い、信女は維新志士への誘いを断り、自らは幕府の‥新撰組に残ると宣言した。
敵と味方に分かれた剣心と信女であったが、信女が非番の日には、彼女は本来の性別に戻り、女性本来の恰好で、新撰組隊士、今井異三郎ではなく、今井信女として、剣心と付き合った。
しかし、剣心ばかりに付き合っていた訳ではなく、沖田も当然、信女に本来の恰好で付き合ってほしいと言われ、沖田とも付き合った。
剣心も沖田も信女にはお熱の様子であったが、肝心の信女はどうにも鈍感で2人の好意には気づいていなかったし、剣心も沖田もどちらかというと奥手でアプローチには分かりづらかった。
そんな中、時代の流れは一気に加速して行った‥‥
1866年3月7日、いがみ合っていた筈の長州と薩摩が同盟を結んだ。
これが世にいう薩長同盟である。
この同盟により討幕派の勢いは一気に勢いづいた。
偶然ではあるが、幕府は薩長同盟が締結された翌日に第二次長州征伐を発令した。
7月18日に幕府軍と長州軍は開戦するが、事前に薩摩との連携後軍備を整え、西洋兵学の訓練を施された長州軍は幕府軍を圧倒。
各地で幕府軍の敗報が相次ぐなか、1866年8月29日 第14代将軍、徳川家茂が大阪にて病死、徳川宗家を相続した第15代将軍、徳川慶喜は和睦を模索し、広島で幕府側の使者、勝海舟と長州側の使者、広沢真臣・井上馨らの間で停戦協定が結ばれ、第二次長州征伐は終焉を迎えた。
そして、1867年11月9日 徳川慶喜は政権返上を明治天皇に奏上した。
これが世に言う大政奉還であり、この大政奉還により260年以上続いた江戸幕府による政権は形式上終了した。
1868年1月3日に、王政復古の大号令が発せられ、慶喜の将軍職辞職を勅許、幕府・摂政・関白などが廃止され、天皇親政を基本とし、総裁・議定・参与などからなる新政府樹立が発表された。
しかし、薩長は武力による徹底的な討幕を図り、西郷隆盛らは浪士を集めて江戸に騒擾を起こし、旧幕府側を挑発した。
あくまで、話し合いによる討幕を進めていた坂本龍馬の暗殺が大きく影響していた。
一説には、武力による討幕を目指していた薩長が目障りとなった坂本を暗殺したのではないかとさえ後の歴史家はそう指摘した。
薩摩の狼藉に対して、江戸市中の治安を担当した庄内藩や勘定奉行小栗忠順らはこれに激昂し、薩摩藩邸を焼き討ちした。
江戸での薩摩藩邸焼き討ちの報が慶喜の居る大坂城へと伝わると、城内の旧幕兵も興奮し、「討薩表」を掲げ、京への進軍を開始した。
そして、1868年1月27日 鳥羽街道・伏見街道において薩長軍と旧幕府軍との間で戦闘が開始された。
鳥羽伏見の戦い‥戊辰戦争の始まりであった。
数に勝る筈の旧幕府軍であったが、この時、薩長軍が使用した新型のライフル、大砲の前に旧型ライフルや刀、槍を主力兵器としていた旧幕府は敗退を続け、大将である慶喜は全軍を鼓舞した直後、軍艦で密かに大阪城を脱出し、江戸へと脱走した。
慶喜のその行動が旧幕府の士気を大きく削いだ。
「これが俺達の最後の戦いになるかもしれないな‥‥抜刀斎‥‥」
「ああ、そうだな‥‥」
この鳥羽伏見の戦場で斎藤と剣心は、鉢合い両者ともこれが最後の戦いとなる事を予感し、剣を交えた。
しかし、戦場で敵味方、大勢の将兵が交わる中、一対一での戦いなどできる筈もなく、当然両者の間には邪魔が入り、結局この戦場でも斎藤と剣心との決着はつかず、両者が再び再会するのはこの先、10年後となる事をこの時、2人は知る由もなかった。
信女もこの戦場を新撰組の仲間達と共に駆け巡ったが、薩長軍の新型ライフルの前に次々と仲間は斃れていく、
そんな中、
「今井君、危ない!!」
「っ!?」
敵兵を切っている中、狙撃手の1人が信女に狙いを定め、引き金を引いた。
すると、1人の新撰組隊士が信女を庇った。
「ぐはっ!!」
信女を庇った事により、その真撰組隊士は敵の銃弾をその身に受けた。
「くっ」
信女はその狙撃手を仲間の仇だと言わんばかりに切り伏せ、自らを庇った新撰組隊士の下へと駆けつける。
「井上.....しっかり.....井上!!」
信女を庇ったのは新撰組六番組組長、井上源三郎だった。
倒れた井上を信女は抱き起す。
「ぐっ‥‥ごぼっ‥‥」
井上は口から大量の血を吐く。
「うっ‥‥今井君‥‥わしはもう‥‥これまでだ‥‥は、はやく‥‥皆を連れて‥‥逃げろ」
「だめ、あなたを置いては‥‥」
「は、はやく‥‥行け‥‥」
「いたぞ!!」
「こっちだ!!」
敵兵がぞろぞろと信女と井上の下に集まって来る。
「此処は‥‥わしが食い止める‥‥だから、早く‥行け‥‥」
井上は死に体に鞭を打ち、刀を杖代わりに起き上がり、敵兵が来る方向を睨む。
「行け!!早く!!」
「くっ‥‥ごめん‥‥井上‥‥」
信女は歯をグッと噛みしめ、この場から離脱した。
(この戦、長引くだろう‥‥今井君や土方君達若者は生き延びてもらわねば‥‥)
井上の視線の先にはライフルを構えた敵兵の姿が見えた。
「新撰組六番隊組長、井上源三郎、参る!!うぉぉぉぉぉ!!」
井上が刀を構え敵兵に突っ込んで行く‥‥
それからすぐに信女の背後からいくつもの銃声が木霊した‥‥。
鳥羽伏見の戦いにおいて、薩長軍の陣には官軍を意味する錦の御旗が翻り、幕府軍が賊軍となり、幕府派であった藩からは次々と裏切り者さえも出る始末であった。
この鳥羽伏見の戦いの敗北で西日本における旧幕府勢力は完全に瓦解した。
鳥羽伏見の戦いが終わり、薩長軍は勢いづいて討幕を目指し、江戸を目指し進撃する中、剣心は、維新志士側から離脱し、1人流浪の旅へと出ることにした。
その旅へと出ようとする剣心に、
「志士を抜けるんだってな?緋村。まだ鳥羽伏見の初戦にかっただけで、維新・回天はこれからだって時に‥‥おまけに刀を持たずに何処へ何しに行きやがる?」
「赤空殿‥‥」
緋村に声をかけたのは京都にて、刀匠業を営んでいる新井赤空で、剣心が人斬り抜刀斎時代に使用していた刀を打った刀匠でもあった。
「俺はこれから人を斬る事無く、新時代に生きる人達を護れる道を探すつもりです」
(それに信女の事も‥‥)
剣心は戦場の混乱に乗じて信女と共に戦場から離脱するつもりであったが、広大な戦場で人一人を見つけるには無理があり、剣心は信女を見つけることが出来なかった。
今井異三郎が討ち取られたと言う報告は受けておらず、剣心は、信女が必ず生きていると信じていた。
「ふん、そんな道があるなら、ぜひ俺にもお教え願いたいもんだ‥‥何人も何人も殺しておいて、今更逃げるんじゃねぇ!!剣に生き、剣にくたばる、それ以外にテメェの道はねぇ筈だぜ」
そう言って赤空は持っていた一振りの刀を剣心に放る。
「餞別だ。出来損ないだが、今のお前には十分すぎる一振りだ。とりあえず、ソレを腰に差して剣客をやってみろ!!自分の言っている事がどれだけ甘い事か身に染みてわかるってもんだ。ソイツが折れた時、それでもまだ甘い戯言を言い続けられるなら、もう一度、俺を尋ねて京都に来な‥‥」
そう言い残し、赤空は去って行った。
剣心が赤空から餞別だと言われた刀を鞘から抜いてみると、その刀は妙な刀で、刃と峰が逆向きに打たれた刀であった。
これが剣心と逆刃刀との出会いであったが、赤空とは今生の別れとなった。
新撰組と旧幕府軍の敗残兵達は命からがら、鳥羽伏見の戦場から軍艦で江戸へと向かった。
その船上の中、とある船室にて、信女は1人の男の介抱をしていた。
男の名は、山崎烝。
新撰組諸士調役兼監察と言う役職で、信女にとっては斎藤とは別のもう1人の上司に当たる人物であった。
山崎も鳥羽伏見の戦いにて重傷を負いながらもなんとか仲間の手によって救出されたのだ。
「山崎...しっかりしてよ‥‥」
寝台の上で苦しそうに呼吸する山崎を信女は必死に励ます。
「このまま、戦が続けばこの先まだまだ、怪我人が出るわ。医療担当の貴方には早く元気になってもらわないと」
山崎は監察方の他、新撰組隊内の医療担当も司っていた。
「‥‥いつまでも‥‥横になって‥‥楽をしている‥訳には‥‥いかない‥か‥‥」
山崎は息を切らしながらもやんわりと微笑む。
しかし、それは無理にでも笑みを浮かべている様だった。
「そうよ‥江戸に着いたら忙しくなるんだから、だから今のうちにしっかりと傷を癒してね」
信女は山崎に背を向けて薬と水の準備をする。
山崎はそんな信女の姿を見つめていたが、次第に瞼が重くなり、眠くなってきた。
そして、彼は瞼を閉じた‥‥。
「さっ、ちゃんと薬をのんで‥‥っ!?」
パリン‥‥
信女が山崎の方へ振り返り、彼を見た時、信女の手から水が入った湯飲み茶碗と薬の包みが床に落ち、湯呑み茶碗は音を立てて割れた。
「‥やま‥‥ざき‥‥‥‥?」
信女はゆっくりとした足取りで恐る恐る山崎に近づく。
「山崎?山崎!!‥‥くっ‥‥」
そして、必死に山崎の手を取り、彼に声をかけるが、山崎が再び目を開けることはなかった。
信女は近藤、土方らに山崎が死んだことを伝えた。
船上で死亡したと言う事で、山崎の遺体は布で丁寧に包まれ、新撰組の仲間達が見守る中、水葬された。
「‥‥斎藤」
「なんだ?」
「井上も山崎も‥決して犬死になんかじゃないよ...ね?」
目の前で大勢の仲間が死んだことで、信女は少しセンチメンタルになっていた。
「当たり前だ‥新撰組は徳川の殿様の為に戦って来た訳では無い‥幕府の上連中がいくらやる気がなくとも、それは俺達には関係ない」
「‥‥」
「俺達が戦うのは俺達の正義の為だ‥‥悪・即・斬‥それが俺達新撰組の正義の筈だぞ、今井」
「斎藤の言う通りだ」
「土方」
「江戸にはまだ戦力が残されている。幕府の軍艦だって無傷だ。江戸に戻ったら、喧嘩の仕切り直しだ」
「‥‥わかった」
大勢の仲間を失おうとも新撰組の士気はまだ衰えてはいなかったが、新撰組、そして徳川幕府の崩壊はもうすぐそこまで来ていた。
・・・・続く
ではまた次回。