エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

8 / 58
更新です。皆さんの知ってるものと少し違うように書かせてもらいました。そこはご了承ください。


第7幕 総司

 

 

 

 

 

 

土方は『江戸に戻ったら喧嘩の仕切り直しだ』と言ったが、これまでの長州征伐の失敗と鳥羽伏見の戦いでの敗北、慶喜が行った裏切りにも近い行為‥それらの為か、旧幕府軍の士気は決して高いモノとは言えず、それどころか、幕府側だった筈の藩からは、新政府側に寝返る藩もあり、また海上戦力においても信女達が大阪から江戸へ撤退するのに使用した富士山丸を始めとし、朝陽丸、翔鶴丸、観光丸の計4隻の軍艦は、明治政府へと上納された為、新政府軍は労せずに4隻の軍艦を無傷のまま、手に入れることが出来た。

富士山丸は後に、他艦と協力して幕府軍の軍艦、咸臨丸を駿河湾にて拿捕した。

拿捕された咸臨丸は乗組員に大勢の犠牲者を出し、その後、新政府軍の輸送船となった。

 

江戸に戻った土方は、鳥羽伏見の戦いから、幾つかの教訓を得て、これからの戦いはもう剣だけではなく、ライフル(銃)の時代である事とその必要性を感じると共に、服装も着物では、機動力が大きく削がれ、これからの戦闘や行軍には不向きであり、反対に洋装の方は機動力が十分に確保できる事から、自らも着物から洋装へと鞍替えし、隊士達にも洋装の軍服を支給した。

 

「ん?コレ、どうやって着るんだ?」

 

「こうか?」

 

「いや、こうだろう?」

 

隊士達が慣れぬ洋装の軍服に苦戦している中、信女は‥‥

 

(洋装‥‥随分と久しぶりに袖を通すけど、やっぱりこっちの方がしっくりくるわね)

 

前の世界でも着物より洋装の方を着こなしていた信女は久しぶりに袖をとした洋装に懐かしさを感じていた。

 

(でも、この洋装‥真選組の幹部服に似ている様なのだけれど、気のせいかしら?)

 

偶然にも信女の洋装はかつて、自分の世界に存在していた真選組の幹部達の隊服に似ていた。

 

1868年3月、新撰組はその名を甲陽鎮撫隊と変え、甲府城を防衛拠点としようとした。

しかし、東山道を進み信州にあった土佐藩士・板垣退助、薩摩藩士・伊地知正治が率いる新政府軍は、板垣が率いる迅衝隊が甲州へ向かい、甲陽鎮撫隊より先に甲府城に到着し城を接収した。

甲陽鎮撫隊は甲府盆地へ兵を進めたが、土方隊に居た信女、斎藤の剣椀をもってしても甲府城を奪取できず、新政府軍と戦った旧幕府軍は完敗し、江戸へと撤退した。

 

沖田は鳥羽伏見の戦いの前から体調が優れず、鳥羽伏見の戦いには参加できなかったが、この甲州勝沼の戦いには何とか参加する事が出来た。

沖田が所属していた部隊を指揮していた近藤は行軍中に大名旅行のように振舞いをし、更には天候の悪化なども重なり時間を無駄に消費し、その結果、沖田は病が進行し、敵と刃を交える事無く途中で江戸に戻る事になった。

沖田は久しぶりに近藤の為に戦えると出陣前は気合を入れていたが、結局一戦も交える事無く、江戸に引きかえす事になり、悔しがっていた。

だが、彼の不幸はこれだけではなく、彼を診察した医師からは絶望的な診断結果を受けた。

 

「それ‥‥本当なんですか‥‥?」

 

沖田は震える声で、自らを診察した幕府の医師、松本良順に尋ねる。

 

「‥‥残念だが、本当だ。君の病は労咳(肺結核)だ」

 

「そ、そんな‥‥」

 

当時、結核は治療薬も無く、不治の病とされていた。

 

「もう‥‥治らないんですか‥‥?」

 

「‥‥それは、わからん‥しかし、その体ではもう、戦に出ることは無理だ」

 

「‥‥」

 

沖田は肺結核に侵されたどころか、戦に出ることも出来ないと言われてしまった。

これまで、近藤の‥‥新撰組の為に剣を振るってきた沖田にとって、もう剣が振れなくなるかもしれないと言う事実は余りにも残酷な現実であった。

その後、沖田は松本の好意により、千駄ヶ谷のとある植木屋に匿われ、そこで療養生活を余儀なくされた。

 

(何故、自分がこの大事な時に労咳だなんて‥‥)

 

沖田は布団の中で自分の運命を呪った。

そんな中、

 

「総司‥‥」

 

「‥信女さん?」

 

沖田の見舞いに信女がやって来た。

信女は沖田との付き合いの中で、彼の事を名前で呼ぶ仲になっていた。

 

「変わった格好ですね、ソレ」

 

「土方の命令よ、おかげで胸元が苦しくて仕方がないわ」

 

沖田は信女の洋装姿を見て、苦笑し、信女は胸元に手をやる。

着物と違い、きっちりとした洋装では、サラシをきつく巻かなければ、信女の胸を完全に隠すことが出来ない。

信女はちょっと苦しそうな仕草でそう言った。

 

「そう言えば、先生方や家の人は?見かけないみたいだけど?」

 

家の中を見回しても沖田の医療担当の松本の姿もこの植木屋の家の人間も見当たらない。

 

「先生は往診で、家の人は遠方でお仕事みたいです」

 

「そう‥‥」

 

沖田の話では今、この家に居るのは沖田だけだと言う。

 

「近藤さんや土方さん、皆は元気ですか?」

 

「ええ、元気...だから、貴方も早く戻って来なさい。皆、貴方の帰りを待っているわ」

 

「そのつもりですよ、あまり寝てばかりいると、人の斬り方を忘れちゃいますから」

 

弱々しくも笑みを浮かべる沖田。

身体は弱っていてもまだ、彼には剣客としての闘気が残っている。

それは沖田の目を見れば分かった。

しばし、談笑した後、沖田は布団から起き上がる。

 

「平気なの?起きて?」

 

「今日は気分がいいですから‥‥」

 

そう言って、羽織を羽織って、中庭へと出る。

信女も沖田の後ろを歩く。

 

「こうして、晴れの日に中庭に出ると、あの時の事をよく思い出します」

 

「あの時?」

 

「ほら、京に居た頃、屯所界隈の子供達とよく遊んだじゃないですか」

 

「ああ‥‥」

 

信女も沖田の言葉で、京に居た頃、沖田と共に近所の子供達と遊んでいた頃を思い出した。

沖田は男の子達と鬼ごっこをしたり、チャンバラごっこをして遊び、信女は女の子達と人形遊びやお手玉をして遊んだ。

沖田と信女が京に居た頃の思い出に浸っていると‥‥

 

「っ!?」

 

(殺気!?)

 

信女は突如、沖田に向けられた殺気を感じ、刀を抜き、沖田の前に立つ。

すると、沖田に向かって手裏剣が投げつけられ、信女はそれを刀で叩き落とす。

手裏剣での投擲が失敗したせいか、刀で確実に切り殺す為に下手人達がぞろぞろと姿を現した。

 

(忍び装束‥忍びの者ね‥‥未だにこんな旧時代の遺物が残っていたなんてね‥‥)

 

現れたのは忍び装束の集団、忍者達で、沖田を狙ったと言う事は連中が、薩長に属する忍びである事は明白であった。

 

「総司、コイツ等は私が引き付けるから、貴方は裏口から逃げて‥‥」

 

信女は、今は病気で満足に戦える体ではない、沖田に此処から逃げろと言う。

しかも今の沖田は丸腰の状態で、状況は最悪だ。

しかし、沖田は、

 

「そうはいきませんよ‥新撰組一番隊組長が敵前逃亡だなんて、目も当てられない」

 

「今の貴方は剣を持っていない。それでは足でまとい、それに...戦える体じゃない。」

 

「刀が無ければ、敵から奪えばいいだけですよ」

 

そう言って沖田は信女が叩き落とした手裏剣を拾う。

忍者たちは刀を抜き、信女と沖田に迫って来る。

 

「くっ」

 

後方の奴等は飛び上がり、手裏剣を投げてくる。

信女は最低限の動きで手裏剣を落としていき、接近戦を挑んできた忍者を斬り、連中の1人が持っていた刀を沖田に放る。

 

「総司!!」

 

信女から放られた刀を受け取り、信女の背後から斬りかかって来た忍者に手裏剣を投げ、沖田も忍者へと斬りかかる。

しかし、激しい動きをしたためか、沖田は膝をつき、咳き込む。

その隙を忍者達は見逃さず、沖田に斬りかかるが、信女と言う厚い壁が忍者達の刃を遮る。

忍者達も沖田よりも先にこの厄介な壁を始末しようと、複数の人数で斬りかかって来た。

 

(病気の総司1人に一体に何人使うつもりなのよ!?)

 

いくら沖田が新撰組最強と言われた剣客でも今は病気の為、満足に戦える体ではない。

にも関わらず、薩長は異常ともいえる刺客を沖田に差し向けてきた。

 

(コイツ等も、後がないってこと?)

 

新時代になれば、忍びの生きていける場所は無くなるのかもしれない。

故に彼らは沖田の暗殺を成功させて、自分達の居場所を新政府に求めたのかもしれない。

彼らにも彼らなりの理由があるのかもしれないが、だからと言って自分がコイツ等に殺されてやる義理もないし、まして、沖田の首を差し出すつもりも毛頭ない。

 

2人の忍者の斬撃を刀で受け止めていると、背後から別の忍者が信女に斬りかかる。

そこを沖田は無理をして立ち上がり、その忍者を斬る。

 

(マズイ、やっぱり総司は戦える体じゃない‥‥早く、コイツ等を片付けるか、此処から逃げないと‥‥)

 

信女は沖田を心配するあまり、剣に焦りが生まれた。

焦りは隙を生む事になり、暗殺のプロ集団である忍び連中はその隙を見逃さず、信女に斬りかかる、

 

(しまった!!)

 

「信女さん!!」

 

其処を再び、沖田が剣で受け止めるが、忍者達は更に追撃をかけ、別の忍者が沖田を左右から突き刺した。

 

「ぐっ‥‥」

 

体を突かれて沖田は苦悶に満ちた顔をする。

 

「総司!!」

 

「うわぁぁぁ!!」

 

突き刺された沖田は最後の力を振り絞り、自らを突き刺した忍者達を斬る。

 

「貴様らぁぁぁ!!」

 

庭に信女の絶叫が響いた。

そこから信女は阿修羅の如く忍者を切って行った。

沖田はもうこれで死ぬだろうと判断した忍者達は撤退しようとしたが、信女はそんな忍者達を逃す事無く、遠くの忍者は、斃れている彼らの仲間から奪った手裏剣やクナイを投げ、息の根を止めるか、動きを封じた後に殺した。

そして、今ここで信女を始末しなければ、ならないと判断した忍者も信女が返り討ちにして、此処に侵入した忍者達を1人残らず殲滅した。

庭には忍者達の死体と彼らの血だまりが出来ていた。

賊が全員殲滅させられたのと同時に、

 

「こ、これはっ!?」

 

往診を終えて、沖田の診察に来た松本が庭の惨状を見て思わず声をあげる。

 

「先生!!総司を!!総司を助けて!!」

 

血塗れの沖田を抱き上げながら、信女は松本に悲願する。

松本と信女は沖田を家の中にあげ、急ぎ治療するが、既に手遅れなのは目に見えて分かっていた。

それでも、信女は諦めきれずに沖田を励まし続ける。

 

「の、信女‥‥さん‥‥」

 

「なに?」

 

沖田が信女に声をかけてきて、信女の襟元を掴んだと思ったら、グッと自らの顔に寄せて、

 

「「んっ」」

 

信女の唇を自らの唇に重ねた。

 

「‥そ、総司?」

 

「西洋では‥‥ふぁーすときっす‥‥っていうらしいです‥好きな女の人にやる行為‥らしいですよ‥‥僕のふぁーすときっす‥信女さんにあげました」

 

「‥‥バカ‥‥私だって‥そうだったのよ」

 

信女自身も前の世界を含めて、今までキスなんてした事が無かった。

 

「それじゃあ‥‥僕は‥‥緋村さんに‥‥勝った‥わけですね‥‥」

 

信女は何故此処で剣心の名が出てくるかわからなかったが、今は兎も角、沖田には死んでほしくなかった為、剣心の事よりも目の前の沖田に集中していた。

しかし、沖田は満足そうに微笑むとゆっくりと瞼を閉じる。

 

「信女さん‥‥もっと‥‥もっと‥‥早く‥貴女と会いた‥‥かっ‥‥た‥‥‥」

 

「総司?‥総司!!目を開けて!!開けなさい!!総司!!」

 

信女がいくら沖田に声をかけても体を揺すっても沖田は二度と目を開ける事はなかった。

 

「総司?総司?‥‥いやぁぁぁぁぁー!!」

 

信女にとって沖田は友達以上恋人未満の人物だったのかもしれないが、それでも死んで悲しまないと言う筈もなく、信女は沖田の体に縋りつき、涙を流し、声を上げて泣いた。

松本も信女の様子を見て、目からは一筋の涙が流れた。

 

どれだけ泣いたか分からないが、死んだ沖田をいつまでもこのままにしておくわけにはいかないので、血で汚れた体を清め、綺麗な着物に着替えさせ、顔も返り血と沖田自身の血も落した。

沖田の顔はとても死んでいる様には見えず、ただ眠っているようにしか見えなかった。

信女はこれでまでの人生で大きな後悔をこれで三度した。

一度目はあの人の家族を守れなかった事、

二度目はこの世界に来た事により、あの人の約束を‥‥あの人を斬ると言う約束を果たせなかった事、

そして、三度目は沖田の気持ちに気づいてやれなかった事、

もう、旧幕府軍と新政府軍の戦いがどうなろうと知った事ではない。

このまま沖田と共に居たいと言う気持ちもあったが、それはきっと沖田は望まないだろう。

 

(総司‥ごめんなさい‥‥でも、私が総司の分まで戦うから‥‥だから、ゆっくりと眠って‥‥)

 

「んっ‥‥」

 

信女は静かに眠る沖田の唇に自らの唇を重ね、永遠の別れをした。

 

 

「先生‥総司の死は、隠せるだけ、隠し通してください」

 

信女は松本に沖田の死をなるべく秘匿してくれと言った。

 

「ん?何故かね?」

 

「総司の存在は新撰組の中でも大きい‥此処でもし、総司の死が知られたら、新撰組の士気は大きく下がる‥‥総司もきっと悲しむ‥‥だから、お願い...お願いします」

 

「‥‥分かった‥隠し通せるだけ、隠そう‥だが、この先ずっと隠すことは出来ぬぞ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

信女は松本に深々と頭を下げ、礼を言った。

 

(さよなら‥総司‥‥)

 

信女は一度振り返り、沖田に最後の別れをして、屯所へと戻った。

屯所へと戻る際、彼女は一度も振り返る事は無かった‥‥‥。

 

 

 

・・・・続く




沖田を応援してくれた方誠に申し訳ございません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。