けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。
まさかの二日連続の投稿となります。
少しだけオリジナルの展開を終盤のほうに入れてみました。

そしてあと2話ほどでこの章は終了となります。
それでは、どうぞ


第105話 勧誘!

あの後、何とか事態の収拾がつき、いつものティータイムを満喫していた。

 

「はぁ~。やっぱり部室が落ち着きますなー」

「そうだよなー。春休みも部室に来たくて仕方なかったぐらいだし」

 

のんびりとしている律たちには切迫した感じなどは一切感じられなかった。

ある意味すごいことではあるが、この状況でそれはあまりほめられたものではない。

 

「ダメだよ律ちゃん。ちゃんとしないとあずにゃんが一人になっちゃうんだよ!」

「そう言う割にはのんきなポーズだよな」

 

そんな律に注意をするのまでは良かったが、ポーズは完全にのんびりモードの唯に思わずツッコんでしまった。

 

「でも、そうだよな。新学期なんだし、やることは一つ」

「新入生の勧誘ですね!」

 

律の言葉に期待を込めて目を輝かせながら相槌を打つ梓。

 

「ムギのケーキを食べる!」

「って、何でですか!!」

 

律が続けた言葉に、梓は全力でツッコんだ。

最近、梓もなんだかんだ言って遠慮というものがなくなってきたような気がする。

……気のせいだとは思うが。

 

「嘘、嘘。冗談だって」

「律先輩が言うと冗談には聞こえません!」

 

頬を膨らませながら笑みを浮かべながら謝る律に、言い返した。

 

「でも、冗談抜きでちゃんとやらないとまずいと思うけど」

「そうだよな……」

 

僕の言葉に、神妙な面持ちで澪が頷いた。

 

「あ、だけどこのままいけば来年は確実に梓は部長になれるぞ」

 

何故だか、僕の頭の中では”部長”のたすきをかけてわきに手を当てて大きな声で笑っている梓の姿が浮かんできた。

 

「…………はっ!? い、今はそんなことはどうでもいいんですっ!!」

 

それは梓も同じだったようで、頬を赤くしながら声を荒げた。

 

(今、絶対に考えてたよな)

 

「そ、そんなことより、新入生の勧誘に行きましょう!」

 

(そして、思いっきり話題を変えて誤魔化した)

 

梓もすっかり律たちに染まったような気がする。

 

「あ、そうだった。私、ビラを作ったんだよね」

「えぇっ!?」

 

唯の口から出た言葉に、思わず口に出してしまった。

目覚まし時計を見間違えるような唯が、そのような粋なことを思いつくはずがなかったからだ。

 

「うちの憂の勧めでしてね」

 

(やっぱりかい)

 

まあ、予想はできていたことだが。

そして唯が僕たちに前に出したのはどう解釈すればいいのか分からない物だった。

 

(この前面の人物って、梓か?)

 

頭には猫耳があるので、おそらくはそうだと思う。

だとすると、かなりとんでもないことになるのだが。

 

「それじゃ、僕は印刷してくる」

 

僕はその考えを振り払うように唯作成のチラシを手にすると、そう口にして席を立った。

 

「おう、任せたぞ! 浩介三等陸佐!」

「それを言うなら、”三等陸士”だ。というか階級を呼ぶなっ!」

 

微妙に階級で呼ばれるのが嫌いになってしまった自分に、思わず苦笑が漏れそうになるのを必死にこらえた。

そんなこんなで、僕は唯お手製のチラシを印刷するべく職員室へと繰り出すのであった。

 

 

 

 

 

「おう、また印刷か」

「はい。大丈夫ですか?」

 

職員室に足を踏み入れ、印刷機の方に向かおうとすると、小松先生が声を掛けてきた。

 

「そっちは大丈夫だが、古典の方は大丈夫なんだろうな?」

「あはは……またお世話になりそうです」

 

小松先生の問いかけに、僕は頭を掻きながら苦笑して返した。

 

「気をつけろよ。三年で、内申点に響くんだからな」

「………分かりました」

 

そう言いながら自然な動作で手渡された一枚の用紙には、数名の人物の名前が書かれていた。

小松先生の話から察するに、要注意人物のようだ。

この学校に不良が入ることはできないと思うのだが、内村の例がある。

そう言った下種は、表では聖人ぶっているが、本質は人以下の化物だ。

小松先生には、そう言った人物を特定しておくようにお願いをしておいた。

彼らの動向に細心の注意を払い、問題があるようであれば対処ができるようにするためだ。

僕は小松先生に一礼すると印刷機の前に歩み寄り、唯お手製のチラシを印刷するのであった。

 

 

 

 

 

「戻ったぞ……って、何をやってるんだ!!」

「ほえ?」

 

印刷を終え部室に戻った僕が見たのは面妖な着ぐるみに身を纏っている唯たちの姿だった。

 

「新入生を勧誘できるようにこんな着ぐるみを着てみることにしたんだよ~♪」

「………全くお前らは」

 

唯の答えに、僕は思わずため息をついてしまった。

とりあえず、印刷しておいた100枚のチラシをベンチの方に置いておく。

 

「いいか? 今年の勧誘は部としての存続をかけた物なんだぞ?」

 

そして僕は、唯たちに注意をする。

 

「それなのに、そんな面妖な着ぐるみを着て勧誘したら来るものも来ないだろ」

 

右手の人差し指を立てながら唯たちの横をすり抜けて、奥の方に移動する。

 

「というよりなぜその発想になるのかが僕には理解できない。とにかく、とっととその着ぐるみを脱いでちゃんとした格好で――――」

 

そこまで口にした僕は、唯たちの方へと振り向くがそこにあった光景は

 

「って、誰もいないっ!!」

 

もぬけの殻となった部室だった。

どうやら僕が注意をしているすきに勝手に行ったようだ。

しかもご丁寧に僕の分のチラシを残して。

 

「……………行くか」

 

もはや怒りを通り越してあきれてしまった僕は、ため息交じりにチラシを手にすると勧誘に繰り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軽音部です。もし興味があったら3階の音楽準備室まで来てね」

 

僕が声を掛けたのは、三人組の女子生徒だった。

 

「ねえ、軽音部ってあの軽音部?」

「あの変な服を着ていた……」

「ちょっと、あれは……」

 

軽音部の名前を聞いたとたん、三人は何やらこそこそと話し始めた。

彼女たちにしてみれば小声で話しているのだろうが、僕の耳にはしっかりと聞こえていた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

そう言いながらチラシを受け取った女子生徒はそそくさと退散していった。

 

(なるほど、唯たちのあれは悪い意味で影響力がありそうだ)

 

もはや笑えない状況ではあるが。

 

「おい、そこの凡人」

「……………」

 

そんな僕に高圧的な態度で声を掛ける男子生徒がいた。

外見は平凡な男だが、リボンの色は緑色……新入生であることを物語っていた。

 

「あんた、上級生に対してため口とはいい度胸だな?」

「はんっ。貴様のような凡人に敬語を使うなんて、この俺のプライドが許せないんだよ」

 

どうやら、とんでもないタイプの新入生のようだ。

いい加減こんな屑の相手をするのは嫌なのだが、売られた喧嘩は買うのが僕の流儀だ。

 

「そう。だったら、そのプライドごと消してくれるわっ!!」

「がっ!!!」

 

一瞬で距離を詰めた僕は相手の身体に拳を突き刺した。

とはいえ、体は貫通していないが。

だが、相手の精神を思いっきり破壊してやった。

後はあたりさわりのない記憶と心をインプットするだけ。

それらの行為はものの数秒で終わる。

 

「それにしても、こいつは一体誰なんだ?」

 

僕はそうつぶやきながら、男子生徒のポケットから生徒手帳を取り出した。

 

「って、完全に要注意人物じゃん」

 

少し前に小松先生から渡された、注意するべき人物の名前と同一だった。

 

「本当に対応することになるとは……」

 

何とも言えない気分になった僕は、生徒手帳を元の場所に戻すと、誰かに見つからないうちにそそくさとその場を立ち去り、ビラ配りを続けたのだが……

 

「やっぱりだめか」

 

ビラ配りを続けていたが、相手の反応は芳しくはなかった。

 

「やっぱり、あの着ぐるみか?」

 

軽音部の名前を告げた際に、表情が一瞬変わっていくのを何度も見たのと、『あの軽音部?』という言葉が僕の予想が正しいことを裏付けていた。

 

「………はぁ」

 

思わず口からため息が漏れてしまうのも、ある意味しょうがないことなのかもしれない。

 

「いったん部室に戻るか」

 

唯たちの成果も気になるため、僕はいったんビラ配りを中断すると部室に向かった。

 

 

 

 

 

「あ、戻ってきた」

 

部室に戻ると唯たち全員の姿があった。

 

「そっちは?」

「全然ダメだった。浩介は?」

「こっちもだ」

 

やはりと言うべきかなんというべきか、お互い結果は芳しくなかった。

 

「どうしたものか……」

「このままだと来年は、あずにゃん一人になっちゃうよ」

「その前に廃部になると思うけど」

 

腕を組む律に唯が心配そうな表情を浮かべて続いた。

 

「うわぁ!? 梓! どこに行くんだ!!」

「な、何!?」

 

一体どのような光景が、澪の脳内で繰り広げられていたのかはわからないが、突然大きな声を上げて駆け出していく澪に視線を向けつつすぐに彼女から視線を逸らした。

放っておけばすぐに直ることを全員は知っているのだ。

色々な意味で一,二年もいれば、お互いの性格もわかるということなのかもしれない。

 

「でも、本当にどうすればいいのかしら……」

「ここが部長としての手腕の見せ所だ」

 

首をかしげているムギをしり目に、僕は律を焚きつけた。

 

「そうだよな。部員が増えれば部費も増えるしな」

 

(何だか邪な言葉が聞こえたような気がしたけど)

 

「ブヒッブヒッ」

「唯、それは一人のレディーとしてどうなんだよ?」

 

そしてダジャレのつもりか、自分の鼻を持ち上げて豚の鳴きまねをする唯に、僕は苦言を呈した。

 

「よっしゃ! 部員獲得大作戦、開始だぜ!」

「ブヒィッ!!」

「だから、一人のレディーとしてそれはどうなんだよ? って、行っちゃった」

 

僕の苦言に答えることもなく、律たちは部室を飛び出していった。

 

「梓―! そっちに行ってはダメだぁっ!!」

「………」

 

そんな混沌と化した部室の中で、僕は静かに息を吐き出す。

ちなみに律の言う大作戦とは、”行き倒れ作戦”という名前だった。

どういうことかというと、新入生の前でわざと倒れ、部室である音楽準備室まで連れてきてもらい、そこで入部届に記名させるというある意味詐欺行為にも等しいやり方だった。

尤も、これは

 

「間に合ってます~!!」

 

という、二名の被害者の言葉と逃走で失敗に終わった。

 

(どうしてそれで行けると思ったのか、その理屈が知りたい)

 

まあ、独特な理由過ぎて僕には理解ができないかもしれないが。

 

「僕、チラシを配ってくる」

「だったら、これを――「着ません!」――ちぇ」

 

未だに余っているチラシを手に部室を出ようとすると、唯が指し示してきたのは何かの動物の着ぐるみだった。

当然着ることもなく、僕はむくれている唯の相手を律たちに押し付け(任せ)る形で、部室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり無理か」

「あれ? 浩介先輩」

 

チラシ配りをするものの、なかなかいい感触が出ない中、ふと言葉を漏らしていると誰かが僕に声を掛けてきた。

 

「ん? なんだ憂か。何をしてるんだ? いつもならとっくに帰っている時間だろ?」

「はい。ちょっとお姉ちゃんたちのことが気になったので」

 

憂のできた妹は未だに健在のようだった。

 

「軽音部の方はどうですか?」

「はっきり言って最悪だ。このままだと来年は梓が一人になる可能性が高い」

 

勧誘活動を続けて感じていた感触の悪さに、僕はそう判断していた。

 

「そうなんですか」

「憂こそ、部活をやる気はないのか? 今からでも十分……というより確実にどこの部でもやっていけそうだと思うけど」

 

僕のはっきり過ぎる返答に、表情を曇らせる憂の姿に、僕は違う話題を振った。

誰かに見られでもしたらとんでもないことになる。

例えば

 

『よくも、憂を泣かしたなぁ~。一生呪ってやるぅ~』

 

不気味な格好をした姉に不吉なことを言われながら追いかけられるとか。

しかも彼女の場合は、それを本当にやりそうだから恐ろしい。

 

「でも、私はお姉ちゃんにご飯を作ったりしなければいけないので、部活をする時間がないんです」

「………だったら、こういうのはどうだ?」

 

まるで子供を抱えた専業主婦のような返答に絶句しながらも、僕はある一つの策を掲示することにした。

 

「来年、もし部員が梓一人になっていたら軽音楽部に入部する。唯の進路次第だけど、憂にも十分な時間が出ると思う」

「…………」

 

僕の掲示した案に、憂は目を瞬かせて僕を見ていた。

 

「言っておくけど、部の存続っていう理由じゃない。梓のためだ。一月も一人で活動させるというのは、先輩としては避けたい。入部に抵抗があるのであれば入部せずに梓と一緒に、活動をするという方法もある。もちろん無理強いはしない。だけど、もし梓が一人にするのが心配だったら、あいつをそばで支えてやってほしいんだ」

「……………浩介先輩」

 

長い沈黙ののち、憂は静かに口を開いた。

 

「チラシ、受け取ってもいいですか?」

「……もちろんだ。恩に着るよ」

 

その返答は僕にとっては快諾のようにも聞こえた。

 

「あ、このことは梓には絶対に内緒にしておいて。変に気を使わせるのも嫌だから」

「分かりました」

 

チラシを渡しながら、僕は他言無用と憂にお願いした。

憂の場合はおいそれと人に話したりしないから大丈夫だろう。

 

「それじゃ、私ご飯の支度があるので戻りますね。勧誘頑張ってください」

「どうも。気を付けて」

 

憂の激励を受けながら、僕は彼女を見送った。

 

(やれやれ……気を使われちゃったかな?)

 

なんとなく、憂の性質を利用したような気もしなくはないが、まあいいだろう。

利用できるものは何でも利用する。

そうしなければ何も進まないのだから。

 

「さて、もう一人にも声を掛けるか」

 

憂いと梓とくればセットになっているもう一人の人物にもとに、僕は足を進めるのであった。

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