けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。
大変お待たせしました。

ひとまず、ギター関連の話はこれで終わり、新たな章へと話は移っていきます。
基本、この賞と同じことになるとは思いますが、お付き合いいただければ幸いです。



第112話 後輩

「ウソ!? 本当に60万円だったの」

「とても貴重なものだったらしくてっ」

 

あっさりと律の口の中から取り出された買取り証明書を、指でつまみながら確認した山中先生の言葉に、土下座をしていたムギが相槌をうった。

 

「ごめんなせえ! おら、あまりの金額に気が動転してしまって」

「心が汚いんですね」

「昔からこうなんだ」

 

同じく土下座をしながら謝罪の言葉を口にする律に、これまた土下座をしている梓と澪が声を上げた。

先ほどまで食えコールをしていた者の言動とは思えない身の変わりようだった。

 

「他人事のように言っているけど、二人も同罪だからな」

 

唯一その場に立っている僕は、苦笑しながら二人にツッコんだ。

 

「ちゃんと素直に言えば、全部部費にしてあげたんだけどなー。律ちゃんの言った1万円を部費として計上するから、その棚を部費で買ったことにしなさい」

「えぇ~。それは絶対に嘘だ!」

 

山中先生の言葉に頭を上げて抗議の声を上げる律の姿は、実に童話の顛末に酷似していた。

 

「というより、山中先生。それがわかっていたから僕が連絡していたことを黙っていたんですね?」

「さあ、何のことかしら?」

 

ウインクをしながら答える山中先生の言葉が、僕の予想が正しいことを物語っていた。

 

「まったく、律が悪いんだぞ。変に隠そうとするから」

「そうですよ! 私はちゃんと正直に話すべきだって言いました」

「お前らに言う資格はないっ!」

 

仲間からも裏切られた律の心の叫びに、僕は同情を隠せなかった。

 

まあ、自業自得だけど。

 

「さわちゃん!」

 

そんな中、一人勇敢にも挙手をする人物がいた。

まあ、唯しかいないが。

 

「そのお金で……そのお金で私の頬を叩いてください!」

 

唯の願い事はささやかなものだった。

そして山中先生に60枚のお札で叩かれるとものすごくうれしそうな表情をうかべる。

それこそ本当に幸せそうだと思うほどの。

 

(唯みたいな人がたくさんいたら無用な争いはなくなると思う)

 

ふと、そんなことを考える僕もまたあれなのかもしれない。

 

「はい」

「あの、この10万円は何ですか?」

 

山中先生に差し出された10万円という大金を前に、僕は山中先生の真意がわかりかねていた。

 

「あなたの分よ。ちゃんと電話で正直に言ったんだから」

「なんと!? 10万を自分の物にするべく、手を回していたのか!」

 

山中先生の言葉に、後ろから驚きに満ちた声が聞こえてきた。

 

「汚いぞ!」

「そうです! 最低です! 卑怯です!」

 

お金の前では友情など無に等しいとはよくいうが、これは少しばかりひどすぎた。

まさかここまで非難されるとは思ってもいなかったのだ。

 

「いえ、結構です。連帯責任というか……彼女たちの馬鹿げた行動を止められなかった自分にも責任があるのね」

「さすが浩介! よっ男前!」

 

律よ、さっきと言っていることが真逆だぞ。

 

「しょうがないわね。それじゃ、この中から好きなものを一つ買ってあげる」

「本当ですか!?」

 

何とも言えない表情をうかべながら口にした山中先生の言葉に、澪が目を見開かせた。

 

「みんなで話し合って決めなさい」

 

これは山中先生なりの譲歩なのかもしれない。

 

「一つといわず、一気に五つほど――「図々しいっ」――あたっ」

 

そんな律と澪は置いといて、僕たちは好きなものを一つだけではあるが購入することができるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても一つとなると、やっぱりアンプが無難か」

「エフェクターのほうがいいような気がします」

「見事にばらばらだな」

 

一つに絞ろうとするが、やはり難しいようで意見がまとまることはなかった。

僕としては、どちらも捨てがたい。

アンプならば使い道もあるし、エフェクターならば音への色付けができる。

 

「でも、皆で使えるものじゃないと」

「あ、それだったら私にいい案があるよ!」

「それは何? 唯ちゃん」

 

澪の言葉に反応した唯の提案に、ムギが興味津々で尋ねた。

 

「ケロをもう一体増やすのはどうでしょう! そうすれば、新入部員も集まるはず!」

 

(絶対にありえない)

 

僕たちは唯の迷案を切り捨てて、そのまま力説する唯を置いて歩き出した。

 

「あぁ~! みんなひどい!」

 

”ひどいのはお前の案だ”と心の中でツッコんでいると部活中なのだろうか、新入部員を指導する声が聞こえてきた。

 

「どの部活も新入部員への教育が本格的に始まっているな」

「そうですね」

 

両腕を頭の後ろで組いながらの律の言葉に、梓が相槌を打つ。

だが、その声には若干力がこもっていないような感じがした。

気になって梓のほうを見ると寂しげな表情で、練習をしている部員たちのほうを見つめている梓の姿があった。

 

(やっぱりなんだかんだ言ったって、新入部員は欲しかったんだな)

 

もしかしたら、僕たちに必要なのは、機材でもなんでもなく人材なのかもしれない。

それぞまざまざと思い知らされるのであった。

 

 

 

 

 

「新入生を入部させるのはどうすればいいんだろうか」

 

翌日の昼休み、同じことを思っていたのか律が疑問を投げかけた。

 

(もう万策は尽きてるんだよな)

 

演奏、ビラ配り。

部活動としてできることは、ほとんどやっている。

その成果が現在のありさまなのだ。

 

「こうなったら…………誰か、私を音楽室まで」

「それはもうやった」

「というより、悪徳商法まがいの勧誘は止めろ」

 

少し前に律がやった、行き倒れ作戦という名の悪徳商法まがいの勧誘を再びしようとする律を止めた。

というより、あれで部員が集まると思った律の発想がすごい。

 

「それじゃ、どうするんだよ!」

「それだったら私にいい考えがあります!」

 

アイデアが浮かばない中、再び挙手をしたのは、唯だった。

 

「今度は本当に大丈夫なんだろうな? ケロを増やすとか言うなよ?」

「大丈夫! 今度はすっごく自信があるから」

 

僕の念を入れる言葉に、唯は自信満々といった様子で相槌を打った。

 

「それは何だ?」

「それはねー」

 

そして、唯の口から名案を告げられるのであった。

 

 

 

 

 

「これはいったい、何ですか?」

「新入部員のトンちゃんだよ!」

 

翌日の放課後、部室にやってきた”新入部員”を梓に紹介することとなった。

律と澪は机のそばにしゃがみ込み、ムギと唯は新入部員を強調するように掌で指し示し、僕は新入部員のそばで立っていた。

 

「梓ちゃんの後輩よ!」

「へぇ……」

 

ムギの言葉に返ってきた反応はそれだけだった。

別に涙涙の感動物語を期待していたわけではない、

だが、予想に反して、リアクションがなさすぎるのだ。

 

「唯、本当にそれが梓が欲しがっていたやつなんだろうな?」

 

窓際に置かれた水槽で優雅に泳ぐ亀(トンちゃん)を指さしながら尋ねた。

 

「本当だよ! だってあずにゃんこの亀を欲しそうに見ていたよ!」

「いえ、私はただ変な亀だなって思っただけです。それに物欲しげにみていたのは唯先輩のほうですけど」

 

その瞬間、部室内に嫌な沈黙が走った。

全員の視線が水槽の前で固まる唯へと向けられる。

 

「やっちまったな」

「しかも絶対にしてはいけない方向に」

 

梓のためにというお題目のもと購入した亀が、梓が所望していたものではなかったというのはある意味最悪の結果でもあった。

当然だが、やり直しはない。

 

「あぁ……」

「でもどうしてですか?」

 

床に崩れ落ちる唯をしり目に、何とも言えない表情で疑問の声を上げる梓に、観念したのか澪が本当のことを告げた。

その理由を聞いた梓は一つ息を吐き出すと鞄を机に置いて水槽の前へと歩み寄る。

 

「こんな早とちりで飼われたら迷惑だよね」

 

水槽のガラスを指で軽くつつきながら亀に呼びかけるようにつぶやくと、優雅に泳いでいた亀は首を上下に動かした。

それはまるで梓の言葉に頷くかのように。

 

「頷いた!?」

「か、かわいい!」

 

そのしぐさに驚きをあらわにする僕たちと、別の方向で目を輝かせる唯。

なんだかいろいろと趣旨が本来の物とは異なっているような気がするのは、僕の考えすぎだろうか?

 

「大丈夫。ちゃんと私が世話をするからね」

「いやいや、私だってちゃんとするよ!?」

 

梓の言葉に、横で立っていた唯が反応した。

 

「無理でしょ」

「そうだね。数日坊主になりそう」

 

三日坊主ならぬ数日坊主とはいったいどういう意味だと自問自答してみる。

だが、妙に的を得ているようにも思えた。

 

「えぇ~!? 二人ともひどいよー」

「うわ!? 唯! 抱き付くな! というかくっつかせるな!」

 

抗議の意味を込めてなのか、唯は僕と梓に抱き付いてきた。

そうなると、自然に梓との距離は縮まるわけで、体どうしが密着している状態だ。

密着とはいっても、ただ肩が触れ合っているというものだが。

 

「なっ!? 浩君の浮気者~!」

「自分でやったんだろうが!!」

 

自分で抱き寄せておいて自分で騒ぎ出す唯に、僕は必死にもがきながら反論した。

 

「にゃ!? どこを触ってるんですか!!」

「触ってない! それは唯の手だ!!」

 

部室内は一気に混沌と化していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぁにぃ!? ついに浩介がハーレム手国を建国しただ――――ザマス!?」

「誰が、いつ、そんなことを口にしたっ」

 

翌日の休み時間、次の授業の支度をしているときに慶介が話しかけてきたので、この間の部室の整頓から始まる騒動について話をしていた。

 

「だけどよ、触ったんだろ? 梓ちゃんの胸」

『触ってない。あれは唯の手だ」

 

この間梓にも聞かれた内容に、僕はげんなりしながら答えた。

あれは結局、唯が自分でそう言い出したことで解決した。

だが、なんとなくむなしさを感じたのは、僕の気のせいだろうか?

 

「でもよ、なんで俺にも話してくれなかったんだ?」

「何をだ?」

 

次の授業で使う教科書を取り出しながら、慶介の問いかけに答えた。

 

「ギターのだよ。10万だなんてすごい大金じゃないか!」

「まあ、大金だというのはあってるけど、どうしてそれをわざわざお前に言わなければいけないんだ?」

 

母親ならばまだしも(もっとも母親に本当に言うのかどうかも微妙なところだが)一友人にホイホイと大金が手に入ったことを言うのはただのバカというものだ。

 

「言ってくれれば色々とたかって一生、左団扇――――ガンマ!?」

 

とんでもないことを口にする慶介の頭に拳を振り下ろした。

 

「貴様のねじまがった性根、一遍まっすぐになるまで叩き直してやろうか?」

「も、もうすでに叩かれてます」

 

地面に突っ伏している慶介の言葉を僕は無視した。

 

「それで、その新入部員さんは調子どうなんだ?」

「さあ? ただ泳いでるだけだが、まあ、マスコットにはなってるな」

 

すさまじい回復力で立ち上がった慶介の問いかけに、僕は腕を組みながら答えた。

新入部員という形で軽音部にやってきたトンちゃんは、部での人気者と化していた。

まあ、問題は山積みなわけだが、それは大丈夫だろう。

何せ、朝練の際に梓が亀の飼い方なる本を持ってきていたのだから。

 

「おっと、もう時間か。それじゃあな」

「ああ」

 

席替えがあり、僕の席は唯のななめ右上の席になっていた。

ちなみに隣は

 

「本当にあなたたちは仲がいいわね」

 

と口にしている真鍋さんだったりする。

 

「御冗談を。あいつが勝手に来るだけ。そもそも、ここになった時点であいつは早々来ないだろうと思ってたんだが……少々当てが外れたか」

 

慶介は真鍋さんに苦手意識を抱いている節があったので、僕は休み時間は少しだけのんびりできると踏んでいたのだが、現実はこの通りだ。

まあ、襲来する頻度が去年より少し減少したのを見れば、かなりいい傾向であるとは思うが。

 

「私はあなたのボディーガードではないわよ」

「それはぜひ、あのバカに言ってやってほしい」

 

苦笑しながら返ってきた言葉に、僕はそう相づちを打った。

 

 

 

 

 

それは席替えで真鍋さんの隣になった時のことだ。

 

「裏切り者」

「何だ突然」

 

げっそりとした表情をうかべて恨み言を言いに来た慶介に、僕は冷ややかな目で見ながら応じた。

 

「俺が苦手な生徒会長をボディーガードにするとは……友達の俺を裏切ったな!」

「別に裏切ってないし……というかこれはくじ引きで決まったんだから」

 

肩をすくませながら、僕は次の授業の準備を始めた。

 

「俺の隣の席の子は何も言わないで怖いんだよ!」

「いいじゃないか。その方が静かになるし」

 

慶介の嘆きを切り捨てて、僕はすべての準備を整えた。

 

「ぢぐじょう~。覚えてろよ!!」

 

最後は悪役のような捨て台詞を残して去って行った。

 

 

 

 

 

「え? なになに? 和ちゃんがボディーガードになったの!?」

「どこをどうとればそういう話に受け取るんだ?」

「それよりも早く次の授業の準備をしないと授業が始まるわよ」

 

寝ぼけ眼の唯に、諭すように言葉をかける真鍋さんの姿は母親のような感じがした。

そんなこんなで、またいつもの一日が過ぎていくのであった。

 

「ドラム嫌だ!!」

 

とある人物がそんなことを叫ぶ時までは。

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