けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

117 / 130
大変お待たせしました。

第115話になります。
今回で、この章は完結し、新たなる話に進んでいきます。

終盤のほうでちょっとだけ砂糖成分がありますので、ご注意ください。


第115話 原点回帰

部活も終わり、梓とともに帰路についている僕と唯に梓の三人は、歩道を歩いていた。

 

「うぅ、こんなに持ってきたのに~」

「諦めて持って帰ってください」

 

あのあと色々と策を披露した唯だったが、そのかいむなしく空振りに終わったため道具一式を持ち帰ることとなった。

ちらっと見る限り、フロアスタンドやラケットなどが見えるが、一体何に使うつもりだったのだろうか?

 

「ねえあずにゃん、浩君」

「何ですか? 唯先輩」

「なんだ?」

 

そんな時、唯に僕たちは声をかけられた。

 

「律ちゃんがだめだったら私がドラムをやるよ」

「はい?」

 

唯の口から出た突拍子のない言葉に、僕は思わず顔をしかめてしまった。

 

「律ちゃんは、きっと何かに悩んでいるんだと思うんだよ。ほら、えっと……ストライクじゃなくて」

「もしかして、スランプって言いたいのか?」

 

顎に手を当てながら口づさむ唯に、僕はまさかと思いながら、あてはまる単語を口にした。

 

「そうそれ!」

「全然違っていましたね」

 

唯が口ずさんでいた言葉と言おうとしていた言葉がまったく似ていなかったことに、梓は苦笑しながら相槌を打った。

 

「きっといつもと違うことをやれば解決できると思うんだ。だから、私があずにゃんと浩君の後ろでドラムをやるね!」

「「……ダメです(だ)」」

 

唯の言葉に少しだけ考えをめぐらしてみた結果、僕と梓が出した結論は却下だった。

 

「うっ。二人がシンクロした!?」

「馬鹿なことを言うな。というか、唯にはドラムは無理だし」

 

ため息をつきながら、僕は唯のアイデアを一蹴した。

 

「ドラムは音楽においてすべての根幹部分……ドラムが狂えば、ギターやベースの音自体が歪んでしまうほど重要なポストなんだ。余興としてならともかく、本気であるならば僕はあまりお勧めはできない」

「うぅ、浩君いつになく厳しい」

 

僕の直球の言葉に、唯は少しばかりショックを受けた様子で相槌を打つ。

 

「演劇とかには主役や脇役はあるだろうけど、音楽にはそんなものはない。みんなが主役、皆がメイン。だから、僕は音楽が好きなんだよ。全員が主役になれる音楽が」

 

祖国では、力あるものが主役の座を得るという風潮が強い。

どこの世界でもそうなのかもしれないが、祖国だけはそれが特に顕著なのだ。

そんなところでも、音楽だけは別だった。

奏者、聞き手すべてが主役としてなりうる存在。

それが好きで僕はこの世界に飛び込んだのかもしれない。

 

(まあ、ただの後付の理由かもしれないけれど)

 

「なんだか、浩君ってすごいね」

「はい。浩介先輩の音楽にかける思いが聞けて良かったです」

 

そんなことを思っていると、感心したような唯の言葉と、久々の尊敬のまなざしで見つめながら声がかけられたので、僕はどうも居心地が悪く感じてしまった。

 

「律がああなったのは、彼女自身の立ち位置を失ってしまったから。一種のアイデンティティークライシスとでも言える」

「あ、アイデン?」

 

自分というものを見失う心理的な状態であるそれは、今の律にぴったりの状態なのかもしれない。

 

「これを解決するには、律自身がドラムとは何か、自分がどうしてドラムを始めたのか、その原点に戻る必要がある。その時こそ、ドラマーとして律はさらなる高みに上ることになるんだから」

「御免なせえ、私には何が何やらさっぱり理解できないっす!」

 

一通り話し終えた僕に、唯はどこの物まねなのか、くぐもった声でそう告げた。

後では梓が苦笑しているが、大体同じ状態であることだけは分かった。

 

「つまり、解決方法は少しだけ様子を見ようっていうことだ」

「なるへそ!」

 

要点を細かく噛み砕くと、ようやく唯は納得したようで左掌に右手で作った拳を置きながら相槌を打った。

 

「唯!」

「ふぇ? どうしたの浩君」

「えっと………」

 

大きな声で呼んでしまったため、驚いた表情をうかべながら用件を聞いてくる唯に、僕はそれを口にすること躊躇ってしまった。

言おうと思っているがそれを口にすることができなかった。

 

(なんだか変な気持ちだ)

 

心と体の異なった反応に、僕は苦笑しそうになるが、それをこらえた。

 

「唯の案だけど、一概にだめだとは言えない。前に言った通り自分のパートの存在意味を考えるきっかけになるので言えば、無駄じゃないと思う」

「えへへ、ありがとう。浩君」

 

とっさに口から出たごまかしの言葉に、唯は顔を緩ませながらお礼を言うと嬉しそうに前に進んでいく。

 

「浩介先輩は甘やかしすぎです。また明日何か持ってきたらどうするんですか」

「はいはい、以後気を付けますよ」

 

梓の溜息と呆れたような視線を交えて投げかけてくる言葉に、両手を上げながら答えると僕は唯に取り残されないように唯のほうへと掛けていく。

 

(ま、いつか言えばいいか)

 

まだ時間はあるのだから。

そんなこんなで僕たちは帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の日の朝の教室でのこと。

 

「律ちゃんたち遅いね」

「澪ちゃんもね」

 

僕と唯、ムギの三人はいまだに訪れる気配のない二人の席へと視線を向けながら話していた。

HRまで残すところあと1分。

遅刻が確定しているといっても過言ではない状態だった。

もっとも、昇降口にいるのであれば滑り込みセーフだが。

 

「律はともかく、あの澪が遅刻とは」

「何かあったのかしら?」

 

僕の言葉にツッコまない当たり、律=遅刻してもおかしくはないという図式が成り立っているのかもしれない

 

(なんだか、律が不憫に思えてきた)

 

自分で言ったくせに抱いてしまった感情に、僕は何とも言えない気持ちになってしまった。

 

「まったく、遅刻するなんて弛んでるどすな」

「その言葉、全部唯に返すよ」

 

憂に起こされなければいつまでも寝ている勢いの唯の言葉に、僕は苦笑しながら二人の名誉のために言い返した。

 

「ほぇ?」

 

そんな唯の間の抜けた声と同時に鳴り響いたチャイムによって、僕たちは自分の席へと座っていく。

それから数十秒後、

 

「おはよう、皆」

 

といつものように教室に入ってきた担任の山中先生だったが

 

『……』

 

僕は山中先生の姿に、思わず目を瞬かせてしまった。

尤もそれはクラスのみんなも同じ様子だったが。

目には真黒なサングラス、口元にはマスクという装備をしたその姿は非常に不気味なものであった。

はっきり言うと、不審者と間違えられて騒動が起こらないのが不思議なほどの不気味さだった。

 

「それでは、HRを始めます」

 

そんなクラス中の沈黙の中、山中先生は連絡事項を話し始めた。

 

「あと二週間で修学旅行です。そこで、皆には自由行動の班分けをしてもらいます。人数は今配ったプリントに書かれているとおりです」

 

山名先生が言い切るのと同時に、僕のほうにプリントが渡ってきた。

そこには『修学旅行の班分け』という題目で下のほうに文章が続いていた。

 

「メンバーが決まったらプリントに名前を書いてそれを私に提出してください。期限は今週中なので、明日までです」

 

(班分けか……そういえば、男子はどうするんだろう)

 

まだ続く山中先生の話をよそに、僕はふと湧きあがった疑問を解決するべくプリントのほうに視線を向けて、文面をよく読むことにした。

 

「あ、律ちゃんに澪ちゃん! 来なかったから休みなのかと思ったよ」

 

そんな中、大きな声を上げて二人の名前を呼ぶ唯に、僕は反射的に廊下側に視線を向けると、そこにはしゃがみこんで山中先生に隠れている律たちの姿があった。

 

「何をやってるんだ? 二人とも」

 

きっと僕の表情はあきれ果てたような感じになっているのだろう。

何せ、本当に呆れているのだから。

 

(どうあがいてもばれないはずがないのに)

 

一番前という席の位置を見てもそれは明らかだった。

 

「す、すみません~。遅れました~……うわ!?」

 

教室がクラスメイトの笑い声に包まれる中、観念したのか律は後頭部に手を当てながらごまかすように笑いながら謝ろうとした律は、山中先生の姿を見て顔をひきつらせた。

 

(やっぱりそうなるよね)

 

心の中でそうつぶやきながら、僕は山中先生に言われるがままに席に着く二人の姿を見るのであった。

 

 

 

 

 

「さわちゃん先生!」

「どうしたんですか? なんだか怖いよ」

 

HRも終わり、休み時間になったこともあり、僕たちは廊下に出ていった山中先生のもとに駆け寄った。

理由はもちろん、サングラスにマスクという重装備の理由を聞くためだ。

 

「きれいにしようと思ってやったらこんなふうになっちゃって」

「「「……」」」

 

そう言いながらマスクとサングラスを取り外した山中先生の顔は、文字には表せないほどの凄まじいものだった。

 

「うぅ……」

 

悲しげに呻き声を上げる山中先生にかけることができたのは言葉は

 

「「「やりすぎ(です)」」」

 

たったそれだけだった。

はかなくも、僕の忠告した通りのことが起こってしまったことに、僕は何とも言えない気持ちを抱くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり私はドラムだな!」

 

数日間にも及ぶ輝けシリーズは、部室に集合してすぐに放たれたその一言で幕を閉じることとなった。

 

「そうだと思った。ザ・フーのDVDを見たって言ってたし」

「ざ・ふー?」

 

笑みを浮かべながら口にした単語に、唯が首を傾げた。

 

「キース・ムーンって言って、律が憧れているドラマーだよ」

「私聞いたことがあります。変人とか壊し屋とか言われている人ですよね」

 

やはり音楽には人一倍詳しい梓のことだけあって、すぐに二つ名を口にして見せた。

キース・ムーンとは、1900年代に一世を風靡したドラマーだ。

自宅の窓やホテルの窓などから家具などを投げ飛ばしたり、爆竹を仕掛けて自宅を廃墟にするなどの行為が、そう呼ばれている所以だったりもする。

逸話では、ライブごとにドラムを破壊しているというものもあるが、本当かどうかは定かではない。

 

「なるほど……律には爆破願望があったんだな。あまり気は進まないけれど、律の家を木っ端みじんに爆発――「しなくていいからっ! それに、そこまで憧れてるわけじゃないし!」――そう?」

 

どうやって律の願いを叶えようかと考えている僕に、律からの鋭いツッコみが入った。

とはいえ、普通に考えれば爆破願望はあるわけがないのは明らかなわけだが。

 

「やっぱり私はここでみんなの背中を見て、皆の音を聞きながらドラムを叩くのが好きなんだ」

「そうだよね。後ろを振り返ると、そこには律ちゃんがいて、スティックを鳴らしたりすると、”頑張るぞー!”って思うもんね」

 

やはり、感じ方は人それぞれなのだろう。

僕はそこまで考えもしなかったのだから。

 

(皆の音……か)

 

「それに、バラバラになっている音が一つになる一体感もいいしね」

「そうだね」

 

放課後ティータイムの演奏が素晴らしい理由の一つは、もしかしたらこの一体感なのかもしれない。

全員が全員を信頼し合えるからこそ、いい演奏ができているのかもしれない。

 

(律に教えるつもりが、僕が教えられていたとは……)

 

最初は律に自分の楽器の存在意義について教えるつもりが、逆に僕は音楽というものを教えられることとなってしまった。

だが、それもいいのかもしれない。

わからないところを教え合うというのが。

 

「あっ。そういえば、この間律ちゃんが私のキーボードをしゃべらせてくれたおかげで新曲ができたの♪」

「あ、あれで……」

 

思い出したように両手を胸の前に合わせながら切り出したムギの説明に、僕はその時のことを思い起こしてみた。

………

 

(さっぱりわからない)

熟考した結果、出たのがそれだった。

 

「ねえ、弾いてみて、弾いてみて!」

「ええ」

 

語尾を弾ませながら急かす唯に相づちを打ったムギは、自分の楽器でもあるキーボードの前に移動する。

そして僕たちはベンチのほうに移動して聴く体制に入った。

 

「すぅ……」

 

静かに深呼吸をしたムギは静かに指を鍵盤の上で走らせた。

そして奏でられるメロディーは、とても透き通っていて夕日が射し込んでいる部室の雰囲気にとても合っていた。

 

「とってもいい曲だべ!」

 

その曲を聴いていた唯が手をたたきながら感想を口にした。

 

「これ、ムギが弾き語りしてみたらどう? かなりいいと思うよ。皆もそう思うでしょ?」

 

そして、同じく曲を聴いていた僕は思ったことをそのままムギに提案した。

 

「うん! すごくいいと思う」

「私もです」

 

僕が確認するように皆に声をかけると唯たちも頷きながら僕の提案に賛同してくれた。

 

「ありがとうね」

「それじゃ、澪。歌詞よろしくな」

 

ムギのお礼の言葉に、律は歌詞を書くように澪に声をかけたところで

 

「あのねっ」

 

ムギがそれを遮るように声を上げた。

僕たちはもう一度ムギのほうに視線を向ける。

 

「曲のタイトルはもう考えてあるの」

「どんなどんな?」

 

ムギの言葉に、唯は興味津々とばかりに身を乗り出しながら先を促していた。

 

「とりあえず、唯は落ち着く」

「ぶーぶー」

 

ベンチから落ちたら危ないので、僕は唯をちゃんと座らせるが不満げな視線を向けられてしまった。

 

「『honey sweet tea time』っていう曲名なの」

「結局お茶か」

「でも、なんだかピッタリな曲調だし、いいと思うよ」

 

曲名と先ほど弾いてもらった曲調は見事なまでに雰囲気が一致していた。

まさに曲の雰囲気にピッタリな題名だった。

 

「よし、澪が歌詞を作ってる間は、私たちは――――」

 

ベンチから立ち上がりながら告げられた律の言葉を僕はもしかしたら練習などをするのかと思いながら聞いていた。

 

 

 

 

 

「お、このラスク蜂蜜を塗るとおいしいねっ」

「ほんとだ。まさにベストコンビってやつだなっ!」

 

本日のお茶菓子であるラスクに蜂蜜を塗っていた唯の感想に、律は頷きながら称賛していた。

 

「……」

「まあ、こうなるとは思っていましたけどね」

 

おいしそうにラスクをほおばる唯たちに、言葉を失っていると、苦笑しながらつぶやく梓の言葉にどことなく罪悪感を感じてしまうのはなぜだろうか?

 

「おい唯、ほっぺに蜂蜜がついてるぞー」

「あずにゃん、拭いて~」

 

まるで何かを期待するように知らせる律に、唯は体を乗り出して梓に拭いてもらうようにお願いをし始めた。

 

「嫌ですっ」

「むむー。それじゃ、浩君が拭いて」

「それじゃあって……」

 

梓の拒絶の返答に、頬を膨らませた唯だったが、それもつかの間、こちらのほうに顔を向けてきた唯が拭くように言ってきた。

 

(ここで恥ずかしいことでもすれば、トラウマになって練習を始めるかも)

 

僕はふとあくどい思惑を考えてしまった。

 

「え? 浩君」

 

自分の肩に突然置かれた僕の手に、唯は目を丸くする。

そんな唯をしり目に、僕はゆっくりと顔を唯の頬に近づけていき、そして

 

「ペロ」

 

舐めた。

 

「ひゃう!?」

「おやおや~」

「にゃ!?」

 

僕の突然の奇行に唯は悲鳴にも似た声を上げ、律は興味深げ(からかうような)な視線を向け、梓は顔を真っ赤にした。

 

「も、もう……皆の前で恥ずかしいよぉ」

 

頬を赤くしながらかわいらしく怒ったように言ってくる唯の表情に、胸に強い衝撃が走った。

 

(あれ、これってもしかしなくてもミイラ取りがミイラになったかな)

 

そして今になって僕は自分のとった行動が間違えていることに気付くのであった。

 

「ご、ごめん」

 

僕は慌てて唯に謝ると、誤魔化すようにラスクを頬張った。

結局、僕はしばらく律からはにやにやとした視線を向けられ、梓にはあからさまに視線を避けられるようになってしまった。

幸いだったのは、次の日にはそれがなくなっていたことと、山中先生がその場にいなかったことぐらいだろうか。




Twitterにて、進捗状況をツイートしておりますので、進捗状況が知りたい方はそちらをご覧ください。
また、フォローなどをしていただけると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。