けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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大変ご無沙汰しております。
4か月ぶりの投稿です。
次回で修学旅行編は終了となります。

今回も魔法要素がございますので、苦手な方はご注意ください。


それでは、本篇をお楽しみください


第124話 逃走

「ちょっと駅への行き方を聞いてくるよ」

「悪いけど、お願い。高月君」

 

申し訳なさそうな真鍋さんの視線を受けながら、僕は律と唯を連れてその場を離れる。

そして向かうのは人気がない場所だ。

完全にない場所というのは住宅街なので皆無だが、人目に付きにくいところであれば数えきれないほどある。

それが、住宅街の死角といわれる場所なのだが、今はそれはどうでもいいだろう。

そんな場所までたどり着くと、困惑したような表情を浮かべた律が口を開く。

 

「こんな場所に連れてきて、いったいどうし――――はっ!?」

 

突然目を見開かせたかと思うと、シナを作り始める。

 

「……何やってんだ?」

 

そんな律の奇行に、僕は数歩ほど後ずさりをしながら問いただす。

 

「いや、私たちをまとめていただいちゃう……みたいな?」

「ぶ―――」

 

頬を赤らめて、あからさまに照れてますという表情を浮かべる律の言葉に、僕は思わず吹き出してしまった。

 

「ななななな―――」

 

否定したいのにうまく言葉が出てこない。

それほどに今の僕は混乱していたのだ。

 

「あはは、冗談冗談。浩介がそんな奴じゃないって知ってるんだから、慌てなくてもいいのに」

「だって……なぁ?」

 

どうやらからかわれたようで、心の中でほっと胸をなでおろしつつ律に相槌を打ちながら、この場にいるもう一人のほうに視線を向ける。

 

(うぉ!?)

 

思わず驚きの声を上げそうになるのを必死にこらえた自分をほめたくなった。

別に唯はにらみつけているとかではない。

にらみつけるでもなく、悲しげな表情を浮かべるでもなく、ただただ笑顔だったのだ。

だが、その表情からは黒いオーラのようなものが思いっきり放たれていた。

 

「えっと、唯さんや」

「大丈夫だよー。浩君がそんな人じゃないって知ってるからー」

 

何とも間の抜けた声をあげるが、節々に怒りのようなものを感じられる。

 

「ごほん」

 

今後、唯を怒らせるのは(主に、誠的な意味で)危険なので本当にやめようと心の中で誓いつつ、話を切り替えるため咳ばらいを一つする。

 

「二人を呼んだのはほかでもない。この状況を切り抜ける策を行うためだ」

「策っていうことは……もしかして?」

 

どうやら律には何のことなのかがうまく通じたようで、僕は無言で頷く。

 

「魔法の力を使って駅のほうに強制的にたどり着けるようにする。」

「でもどうやってするんだ? 確か、魔法って人に見られちゃいけないんだろ」

 

心配そうに律が言ってくるが、まさにそのとおりだ。

魔界は、その存在を魔法が使えない者に知られることを固く禁じている。

だが、やりようは十分にある。

 

「そこで、ちょっとした演出を施すことにしたんだ」

「演出?」

「ああ。それは――――」

 

唯の相槌に頷いて、僕はその内容を二人に告げた。

 

「―――以上が、僕の考えた筋書きだ」

「確かに、それだったらいけそう」

 

この後の流れを一通り説明し終えると、律は何度もうなづいていた。

僕の策は、所謂パニック映画風の物だ。

要するに、この場にいる全員をパニック状態にさせたうえで、転送魔法を行使するという筋書きだ。

 

「それだと、どうして私たちを呼んだの?」

「この策を実行すると、本当の意味でパニックを起こして何をするのかがわからないという不確定要素を持った人物が一名いるから、彼女へのフォローをお願いしようと思って」

「「あー」」

 

唯の疑問に答えると、二人はその人物が誰であるのかを理解したようだ。

 

「一応聞くけど、それってケガとかしたりしないよな?」

「当然。転んだりしたら知らないけど」

 

念を押すように真剣な表情で聞いてくる律に答えると、僕は無言で目の前にホロウィンドウを表示させる。

そしていくつか操作をしたのちに、ウィンドウを閉じる。

 

「さあ、行くか」

 

僕は二人にそう告げると、帰りを待っている真鍋さんたちの元に戻るのであった。

こうして、僕の作戦は幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、お待たせ」

「道のほう分かった?」

 

やや小走りで何食わぬ顔で戻ってきた僕たちに、真鍋さんからの疑問が投げかけられる。

 

「ああ。しっかりと教えてもらったよ」

 

僕は自信たっぷりに答える。

 

「それじゃ、案内頼めるかしら?」

「任せてよ」

 

真鍋さんから案内役を頼まれた僕は、律と唯に目配せをする。

それに二人が小さくこちらに頷くことで答えたので、こちらも同じように頷き返す。

 

「それじゃついてきて」

 

そして僕が先導する形で、歩き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の先導の元、無言で人気の少ない住宅街を歩き続ける。

 

「本当にこの道で正しいの?」

「大丈夫。ちゃんと確認したし、道も間違えてないから」

 

さすがに不安を覚えたのか、心配そうに聞いてくる真鍋さんに、僕は自信をもって答える。

 

(少し早いか)

 

この時僕は、仕掛けを発動させるタイミングを見計らっていたのだ。

転送魔法の入り口である”ゲート”はすでに生成しており、こちらのタイミングでいつでも開くことができる状態だ。

ただ、ゲートまで距離がありすぎれば運動が不得手の物にはリスクが発生してしまう。

誰もケガをしないようにするには、運動が苦手な人でもちゃんとたどり着ける距離で仕掛けを動かせる必要があるのだ。

 

「この道を右に」

 

そんなタイミングを見計らいながら歩いていた僕は、突き当りのT字路を右に曲がる。

 

(残りの曲がり角はあと5か所。そろそろやるか)

 

距離的にもそろそろいい感じになってきた。

そう判断した僕は仕掛けを動かした。

まずは結界魔法の展開だ。

これによって結界内には僕たち以外には誰もいなくなり、不特定多数の人に魔法が見られる危険生がなくなる。

発動の準備はとっくに済ませていたので、あとは指を軽く鳴らすだけだ。

指を鳴らしたところで、不審に思うようなひとは誰もいないため、ばれる心配は一切ない。

指を鳴らした瞬間に、僕を起点として結界魔法が発動していく。

結界内は少しではあるが空気が変わているが、それを感じ取れるのは魔力を有する者か、勘の鋭い人くらいなものだろう。

 

(そういう意味では、梓は興味深い)

 

前にちょっとしたトラブルで彼女たちが母国に来ることになった際、梓が真っ先に違和感のようなものを感じたらしい。

 

(もしかしたら魔法の素質でもあるんじゃないのか?)

 

ふと、そんなどうでもいいことを考えてしまう僕は、いつか確かめようと結論付けて頭の片隅に追いやることにした。

 

(さて、次の仕掛けを動かすか)

 

結界魔法が正常に動作しているのを確認した僕は、作戦を第二段階に移行させる。

それは、右手で軽くルーンを描くだけで十分だった。

僕は隣で歩いている唯に目くばせで合図を送る。

 

「ね、ねえ。何か聞こえない?」

 

僕の合図を受けて、唯が疑問の声(ものすごく棒読みだけど)を上げる。

 

「別に、何も聞こえないぞー」

 

そして唯の言葉を受けて律が答える(こちらも非常に棒読みだけど)

そんな時、バイクのふかし音が聞こえ始める。

 

「この音って、バイク?」

「でも、見当たらないぞ」

 

さすがに大きな音が聞こえれば、真鍋さん達も周囲を見渡し始める。

だが、バイクの姿などどこにも見当たらない。

僕たちはいつの間にかその場に立ち止まって、身を寄せ合っていた。

全員(数名を除く)の表情にあるのは、得体のしれない恐怖心だった。

その次の瞬間だった。

けたたましいスキール音とともに、複数台のバイクが僕たちが歩いていた場所から躍り出てきたのだ。

 

「走ってっ!」

 

僕のその一言をきっかけに、全員が一斉にバイクとは反対の方向に走り出す。

ここまでは僕の予想通りだ。

パニックをうまく誘発することに成功した僕は、心の中でガッツポーズをしながら最後尾を走る。

一番心配していた澪は、律に手を引かれる格好ではあるがしっかりと走っていた。

 

「バイクを振り切るっ。そこを左に曲がって!」

 

全員に聞こえるように声を張り上げた。

すると、先頭を走っていた真鍋さんは、何の疑いもなくT字路を左に折れたのだ。

一人でも左に曲がると、あとはそれに従うように全員が左に曲がっていく。

同じように左右に曲がらせていく。

バイクの姿はとっくに見えない。

僕たちを追い回しているのは、バイクの吹かす音のみだ。

だが、全員はバイクが迫ってきていると思い、走って逃げ続ける。

 

「その道を右に!」

 

そしていよいよ最後の曲がり道だ。

僕が調べたところ、その先は行き止まりだ。

だからこそ、ここを選んだのだ。

 

(今だっ!)

 

僕はタイミングを見計らって右手で再度ルーンを描く。

次の瞬間、空間が大きく変化した。

場所は先ほどまで走っていた左右にやや高めの塀がある細道だが、そこは転送魔法によって生み出された亜空間に過ぎない。

それすらも、魔法の使えない全員に走る由もなく、そのまま僕たちは左右にやや高めの塀がある細道を、走り続ける。

徐々にバイクの音が遠ざかっていく中、走り続けること数十秒。

 

「もう……大丈夫……みたい」

 

開けた場所に出られた僕たちは、その場に立ち止まると大きく息を切らせながら全員を安心させるように告げた。

その言葉に今まで走っていたみんなは僕と同じように立ち止まると膝に手を当てて息を整えだす。

全員が全員、恐怖から解放されて安心した様子だった。

 

「……あれ?」

 

最初に異変に気付いたのは、息を整えてようやくいつもの冷静さを取り戻した真鍋さんだった。

 

「ここは……旅館の近くの駅」

 

そこは、僕たちが宿泊している旅館の最寄りの駅前だった。

僕たちが出てきたのはビルとビルの間の細い路地のような道だ。

先ほどまで走ってきた住宅街を彷彿とさせる道とは大きくその景色は異なっている。

そんな光景に、全員がキツネにつままれたような表情を浮かべる中、

 

「まあ、たどり着けたんだからいいんじゃないかな」

 

と僕が声を上げれば、真鍋さんたちも若干腑に落ちない様子ではあったもののが”そうね”と頷いた。

そしてそれに倣うように全員もうなづく。

 

「それよりも、早く旅館に戻ったほうがいいんじゃ……夕食の時間もあるし」

 

最後に律がそう締めくくったことで、僕たちは今度は歩いてその場を後にする。

時間的にも歩きでも十分に間に合う程に余裕があるので、迷いさえしなけば夕食までには確実に旅館にたどり着くことができるはずだ。

こうして、僕たちの波乱の自由行動は終了となった。

 




そろそろ用語集的なものを作りたいなと思う、今日この頃です。

19/10/8 追記

まずは、本作の更新が滞っている現状に対して、読者の皆様にお詫びを申し上げます。
約二年もの間、私生活などの環境の変化があった影響で、執筆時間が取れないという状況が続いた関係で後進のほうが滞っている状況となっておりました。

現在、一話当たりの文字数を2~3千字ほどまでに少なくするなどして早めの投稿ができるように最善を尽くしております。

遅くとも今年中には最新話を投稿できるよう執筆をしていきたいと思いますので、大変申し訳ありませんが、今しばらくお時間のほうをいただきたいと思います、
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