けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~ 作:TRcrant
第125話になります。
何とか無事に旅館にたどり着き、食事の時間に間に合った僕たちは、お風呂を済ませて寝る準備を始めていた。
ちなみにお風呂に入っている間、女湯のほうでは交替で引率の先生が監視としていたらしい。
室内の浴室を使っていたたらしく、先日あった覗き事件のことすら知っていない律たちが、どうしてなのだろうと不思議がっていた。
その様子を見て、僕は啓介の(ないかもだけど)名誉のために黙っておこうと、心の中で決めた瞬間だった。
「それじゃ、あれは全部高月君の仕業だったの?」
「そうだぜっ」
その最中に律が先ほどの逃走劇の真実を話してしまったのだ。
まあ、別に彼女たちには言うなとは言っていなかったので、別に構わないのだが。
あまり話が広まりすぎると、それはそれで面倒にもなりかねないので、出来れば控えてほしいのだが、そもそもそれならやるなという話でもあるわけで。
「それだったら、私たちにも言ってほしかった」
「だって、全員に話したら真鍋さんたちをごまかすことができなくなるでしょ。あくまでも自然な感じにす
るのがメインなんだから」
あの場では魔法のことを知らない真鍋さんたち一行を、いかにこちらの思い通りに動かすかが一番大事なカギだった。
真鍋さんは冷静に物事を判断するタイプだ。
そういうタイプの人を思い通りに動かすには、恐怖によるパニック状態に陥らせればいい。
しかも、そのパニックが集団で起こっている状況で、あればなお効果は増す。
集団心理的なものかとも思うが、それは定かではない。
「でも、あのくらいだったらあんなことをしなくても大丈夫だったと思うよ」
「まあ、念には念をってやつだよ」
確かにムギの言うことも一理あるが、魔法のことを知られないようにするため、これでもかという処置を施さないといけないのだ。
だが、結果的に言うと、これだけの対策を施しても父さんに、怒られるのは確定なわけだが。
というか、すでに怒りの連絡と思わしきメッセージが届いていたりする。
(出来れば聞きたくない)
でも聞かないなら聞かないで強制的に聞かされそうなので、結局は聞くしかないわけだが。
閑話休題。
(そういえば、昨日は佐伯さんが助けを求めに来たっけ)
あのアホは何をしでかすかわからない。
大方、今日も懲りずに何かしでかしてるに違いない。
「高月君!! 助けてぇ!」
「うぉ!?」
「今度は何をやってるんだ? 変な宗教にでも目覚めたか?」
今夜はノックもなしにまるでけり破る勢いで開けられたドアの音に、律たちが体をびくつかせる中、涙目の佐伯さんの姿に何が起こっているのかを大方理解できた。
「あー、わかった。すぐに処理しよう」
「もう、作業だよな。それ」
軽く腕まくりをしながら、佐伯さんの部屋に向かう僕の耳に聞こえてきた声はあえて無視することにした。
「なんだ、今夜は静かじゃないか」
佐伯さんの部屋の前まで来ても、啓介のはしゃぐ声は一切ない。
だが、班のメンバー全員がおびえたような表情で避難してるのは、中でただ事ではない何かが起こっている証拠でもある。
「皆、一応安全のために少し離れてて」
とりあえず、女子に被害が出てはまずいので全員を離させることにした。
そして、全員が離れたのを確認した僕は、部屋のドアを開ける。
「グフ……ぐふふふ」
そこにいたのは、僕たちに背を向けて正座をしている啓介の姿だった。
どうやら何かを見ているようで、気味の悪い笑い声をあげていた。
(確かにこれは怖いわ)
女子たちがおびえるのも無理はない。
(にしても、いったい何を見れば、あんなふうになるんだ?)
僕は気配を消して、啓介の背後に忍び寄ると、肩越しに覗き見た。
(何々、『絶対成功するル○○ダイブの方法』?!)
○パ○ダイブとは、世界的に有名な某怪盗が仲間みたいな関係の女性に向かって、一瞬で下着のみになってダイブをするというものだ。
最近夜にこのアニメが放送されていたのでよく覚えていた。
最後は女性の返り討ちにあってノックアウトされるが。
(啓介、こんなの見て何をする気だ?)
その疑問の答えが一瞬分かりかけた自分に嫌悪感を抱いていると、啓介は勢い良く立ち上がると
「よぉし、これで俺は漢になるッ!!」
(やる気だ。本当にダイブする気だ)
というより、この展開で行くと僕のほうにダイブしてきそうだ。
「三花ちゃ~~~―――んごぉっ!!?」
とりあえず、僕に飛び掛かれても困るので、男性の一番の急所を宙返りの要領で蹴り上げることで回避した。
だが、運のいいのか悪いのか悪いのか、けり上げた反動で啓介の体はそのまま後ろのほうに飛んでいき、床に置かれたデジカメ(お小遣いを使い果たしてまで買った啓介の自慢の一品らしい)に、自分急所の部分の下敷きになる位置で重力に従って落下し始める。
「ッ!?~~~~~~!!!」
声にならない断末魔を上げながら苦しんでいた。
(うん。あれは痛い)
同じ男としてどれほどの痛みなのかはわかるが、原因が原因なだけに同情はできない。
とりあえず、昨日と同じように縛り付け女子たちの邪魔にならない場所に放っておく。
「処置のほうは終わったから、安心して」
「あ、ありがとうっ! 高月君は命の恩人だよっ!」
佐伯さんの本気にも近い感謝の言葉を聞きながら、僕は自分の部屋へと戻るのであった。
この度は、数年間も更新が止まってしまい、大変失礼しました。
様々な事情が重なって、更新が滞っておりましたが、この度無事に最新話を投稿できるようになりました。
更新が止まっている間も感想や評価をしていただいた方、また本作をお読みいただいたすべての読者の方には、感謝してもしきれません。
今回の投稿より、投稿頻度を月に一度という形にさせていただきたいと思います。
登校日については明言はできませんが、今後は頻度を徐々に増やしていけたらなと思います。
それに伴いまして、一話当たりの文章量を2000字から3000字程を目安に執筆いたします。
このような形に花入ますが、本作を今後ともよろしくお願いいたします。
最後に、今年最後のあいさつで終わりたいと思います。
良いお年をお過ごしください。