けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。

第30話になります。
今回も後半のほうで魔法要素が存在します。
そして、今回は非常に長いです。
気づいたら2話分書いてしまい、しかも分割しても不自然になってしまうためそのままの状態で投稿します。
ある意味読みごたえはあるかなと思います。


第30話 クリスマス会とプレゼントと

「家の戸締りよし、プレゼントもよし。忘れ物は無し!」

 

クリスマス会当日。

僕は、忘れ物がないかどうかを念入りに確認していた。

 

(集合時間までまだ30分もある。完璧だ)

 

僕は一通り問題がないことを確認してから家を出ると、ドアに鍵をかける。

そして僕はクリスマス会の会場である唯の家へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浩介!」

 

唯の家にたどり着いた僕によく知る人物の声が掛けられた。

 

「ん? 律たちか。ちょうどいいタイミングだな」

「本当ね」

 

僕とほぼ同時に着いた律たちにそう言うとムギは笑顔で相槌を打った。

 

「それじゃ、チャイムなら――「えい♪」――あぁー!?」

 

チャイムを鳴らそうとする律よりも早くにチャイムを鳴らしたのは、ムギだった。

家の中から”はーい”という声が返ってきた。

 

「チャイムを押すのが夢だったの」

「そ、そうなのか」

 

ムギのとてもささやかな夢に、律は苦笑を浮かべるしかなかった。

それから少しして玄関のドアが開けられた。

 

「「「「お邪魔します」」」」

 

僕たちは声をそろえて言うと、律が口元に手を当てる。

それは声を遠くに聞こえるようにするための仕草だった。

 

「唯ー、来たぞ~」

「おー、皆上がって上がって~」

 

律の呼びかけに少し遅れてにかいから現れた唯の首元には飾り付けのようなものがマフラーののように巻かれていた。

 

「な、何をやってるんだ?」

「飾り付けをしていたら止まらなくなっちゃって」

 

僕の疑問に、唯は照れくさそうに頭を掻きながら答えた。

思わず『小学生か、お前は』と突っ込みそうになるのを必死にこらえた。

 

「あ、コートをもらいます」

「ありがとう」

 

そんな僕たちに、声を掛ける妹の憂は本当にしっかりとした子だ。

 

(しっかり者の妹と天然の姉……ものすごいデコボコ姉妹だね)

 

ものすごく失礼なことを心の中でつぶやきながらも家の中に上がった。

憂に先導されるようにして上の階に上がると、リビングのテーブルの上にものすごく豪勢な料理の数々が用意されていた。

一部を言うと、クリスマスケーキはもちろんのこと北京ダックやサンドイッチなどだが、到底10代の少女が作れるような代物ではない。

 

「うわ、すごい料理」

 

それは律たちも同じだったようで、豪勢な料理の数々に感想を漏らしていた。

 

「これ全部憂ちゃんが作ったの?」

「失礼な。私だってちゃんと作ってるよ!」

「何を?」

 

ムギの問いかけに抗議の声を上げる唯の言葉に、僕はすかさずに疑問を投げかける。

まあ、どうせ唯のことだからどうせお皿の盛り付けぐらいだと高を括っていた。

 

「このケーキ」

「すげえ!」

「本当だ。すごいじゃない、唯」

 

掲げて見せたクリスマスケーキに、僕と律は思わず称賛の声を上げる。

人は見かけには寄らない物だ。

これからは、見かけだけで判断するのはよそう。

 

「の上にイチゴを載せました!」

「「さっきの”すごい”を返せっ!」」

 

そう心の中で決めかけた時に唯が続けて言った言葉に、僕と律は思わず同時にツッコんでしまった。

ある意味期待を裏切らない唯だった。

 

「で、でもお姉ちゃんは本当にいろいろと手伝いをしてくれたんです!」

 

そんな中、慌てた様子で声を上げたのは憂だった。

 

「掃除を手伝ってくれようとしたり、飾りつけをしようとしてくれたり」

 

(全部未遂だし)

 

フォローしようとしているが、さらに墓穴を掘っているような気がする。

 

(というより、飾りつけをしようとしてこのありさまか)

 

僕はふと視線を周囲の壁に取り付けられている飾りに向ける。

未完成なのか、途中で垂れ下がっているのがとても悲しげに見えた。

 

「それから……えっと――」

「分かったから、もういいよ憂ちゃん」

「見ているこっちが惨めになってくるから」

 

必至にフォローの言葉を探す憂を、僕と律が止めた。

 

「それじゃ、和ちゃんは遅れてくるらしいから、先に皆で乾杯しよう!」

 

先ほどまで話題になっていた唯はと言えば、飲み物が入った瓶とグラスを持ちながら提案した。

 

(……何となく、お似合い姉妹のような気がしてきた)

 

それを見ていた僕は先ほど地面がしていた感想を変えるのであった。

こうして、各員にグラスが渡され飲み物も注がれた。

つまりは、乾杯の準備が整ったということになる。

 

「それじゃあ」

『乾杯!』

 

律の掛け声に合わせて、僕たちはグラスを合わせて乾杯をした。

 

「いや~、今年もあっという間に終わっちゃうねー」

 

グラスに注がれた飲み物を一口飲んだ律がしみじみとした様子で口を開く。

 

「嫌ね~、年よりくさいわよ」

 

そんな律に、やれやれと言わんばかりの表情で相槌を打つのはいつの間にか僕の隣に座っていた山中先生だった。

 

「って、さわちゃん!?」

「これおいしいわ。おかわり、もらえる?」

 

驚きの声を上げる皆をよそに、山中先生はいつの間に手を付けていたのか小皿を前に差し出していた。

 

(いるのは分かってたけど、いったいどうすれば僕に気配を悟られずに隣に座れるんだ?)

 

「まさか、壁をよじ登って家に侵入してきたんですか!?」

「ちょっと、私をなんだと思ってるのよ?」

 

律の想像に山中先生が心外だと言わんばかりに疑問の声を上げる。

律の想像を聞いていて僕が感じたのは

 

「婚期を逃した蜘蛛女泥棒?」

「あん? 今なんて言ったのかしら?」

「び、美人のクノイチ!」

 

ぼそっと呟いたはずが山中先生の耳に聞こえていたようで、凄まじいさっきを纏った目で睨まれたため、慌てて言い直した。

 

「なら、いいわ」

「毒舌も、度を越えると身を滅ぼすんだな」

 

言い直したことが功を奏したのか、睨みつけるのをやめた山中先生を見て、ほっと胸をなでおろしていると澪のつぶやきが聞こえた。

非常に的を得ているために、僕はどう反応したらいいのかがわからなかった。

 

「大体、顧問である私を誘わないなんてどういうつもり?」

「えっと……」

 

第二の僕になってたまるかと言わんばかりに視線を泳がせて言葉を濁らせる律。

彼女の代わりに答えるような人はいないだろう。

下手すればとんでもない雷が落ちることになるのだから。

 

「先生は彼氏と予定があると思ったので誘いませんでした」

 

そんな中、それをした平沢唯と言う名の勇者が現れた。

……とは言っても、ただの天然だとは思うが。

それはともかく、やはりと言うべきか大きな雷が落ちることになった。

 

「そんなことを言うのはこの口か~!」

 

涙目になりながら唯の頬を引っ張っている山中先生の姿を見て、天然の恐ろしさを理解することにした。

 

「罰として唯ちゃんはこれを着なさい!」

「どうしてそんな服を持ってきてるんですか、アナタは?」

 

”じゃーん!”という効果音でも付きそうな勢いで掲げられたサンタ服(もちろんコスプレだが)に、思わず疑問を投げかけてしまった。

 

ちなみに、返ってきたのは意味ありげな笑みだった。

それはともかく、サンタ服を受け取った唯は着替えるためにすたすたとリビングを後にした。

それから数分後に、唯は戻ってきた。

 

「じゃーん!」

 

サンタのコスプレ姿で。

しかも恥ずかしがる様子もなかった。

 

「ダメね、恥じらいが足りないわ」

「ガーンっ」

 

山中先生の容赦ないコメントに、唯は涙目になりながら床に座り込んだ。

そんな彼女の頭をやさしくなでているのは、妹の憂だった。

 

「やっぱりここは……」

「ひっ!?」

 

山中先生の矛先が向けられた澪は、怯えた様子で立ち上がった。

それとほぼ同時に山中先生も立ち上がる。

 

「ほら、逃げろ~!」

「いや~!!!!」

 

そして始まった追いかけっこ。

僕は巻き添えに合わないように隅の方に移動しておく。

やがて、追いかけっこの舞台はリビングから移動したようで階下の方に向かっていった。

下の方から聞こえる二人の声は真鍋さんが遅れてやってくるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、お嫁にいけない……」

 

ソファーに顔をうずめている澪の背中には哀愁が漂っていた。

 

(ご愁傷様)

 

僕はそんな彼女に、心の中で手を合わせるのであった。

 

「気を取り直して、プレゼント交換をするぞー!」

「おー!」

 

凄まじい切り替えの早さでプレゼント交換をすることとなった。

 

「あ、でも山中先生はプレゼントを持ってきてるんですか?」

「それなら大丈夫よ。ちゃんと用意しているから」

 

真鍋さんの疑問に応えるようにして出されたのは青い包み紙に水色のリボンでラッピングされたプレゼントだった。

 

「本当は彼氏にあげるはずだったの」

『………』

 

山中先生の言葉に、どんよりと重い空気が漂う。

 

「それじゃ、始めるわよっ!」

 

何かを振り払うように大きな声で叫んだ山中先生は勢いよくテーブルに手を置いた。

その拍子にビン同士がぶつかり合いガラス特有の音が鳴り響いた。

そして無言でプレゼントを出すように告げる山中先生に従うように、それぞれが用意していたプレゼントをテーブルに置いていく。

 

「歌が終わったらそれで終了よ」

 

そう言って今度は適当にプレゼント配り始めながら、歌を歌い始めた。

 

(プレゼント交換ってこんなに惨めなものなのか?)

 

やけになって歌う山中先生の姿に、思わず僕は心の中で疑問を抱いてしまった。

それはともかく、プレゼントは順調に各人に回されていく。

いつ終わるのかわからない歌声をBGMに回していく。

 

「サンキュー!」

 

それは山中先生のその言葉で終了となった。

僕が持っていたのは山中先生が彼氏に渡すはずだったという代物だった。

 

「あ、これ私が買ったやつ」

「それじゃ、交換ね」

 

律の持っていたプレゼントの箱と山中先生が手にしていたはことを交換する。

その時に、澪が何かを言いかけていたのが気になった。

 

「さて、一体何かしら? とてもいいものが入っていそうな感じ」

 

包装紙を取り除きながら期待を胸に箱を開けた。

すると中から凄まじい勢いで何かが飛び出し、それが山中先生の顔面に直撃した。

それは、澪が語っていた”びっくり箱”だった。

 

(いつでも逃げられるように避難しよう)

 

先ほどからうつむいている山中先生だが、それがいつ怒りの噴火につながるかわからない。

現に肩が震え始めているし。

どうやら、それは他の皆も同じだったようで、全員が山中先生から距離を取っていた。

 

「あは、あはは……」

 

かと思ったら今度は笑始めた。

それがとても不気味さを増させる。

 

「今日は最高のクリスマスだわ~!」

 

どうやら怒りを通り越しておかしくなってしまったようだ。

 

「うわっ!? 山中先生が壊れた?!」

 

こうして、僕と律たちの皆で、錯乱状態の山中先生をなだめることになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、ようやく正気を取り戻した山中先生に胸をなでおろしつつ、プレゼント交換の続きをすることとなった。

ムギが受け取ったのは澪の買った”マラカス”、律が受け取ったのは真鍋さんが買った”焼き海苔”、真鍋さんはムギが買った”お菓子の詰め合わせ”といった感じだった。

さすがに真鍋さんのプレゼントには唯ですら『お歳暮じゃないんだから』というツッコミが入った。

ある意味、真鍋さんも天然だった。

 

「僕のは………」

 

包装紙をできるだけ丁寧に開けて中身を見た僕は、言葉を失った。

 

「何何?」

「ほれ」

 

僕の様子に興味を持ったのか、唯がプレゼントの中身を聞いてきたので、僕はそれを出した。

 

「はうわぁ……ッ!?」

 

その代物に、一番の反応を示したのが澪だった。

思いっきり後ろに下がったその表情は怯えが入っていた。

 

「はいはい、それが私のね」

「もしかして、これを彼氏の人にあげるつもりだったんですか!?」

 

投げやりに答える山中先生に、唯が本日二度目の爆弾を投下した。

 

「うぅ……そうよ! 悪かったわね!!」

 

やけになりながら応えた山中先生は再び泣き始めてしまった。

 

(天然が怖い)

 

「あ、それは最初に青色のリボンをほどいてから黄色のリボンをほどくようにしてね。じゃないとどんな手段でも開かなくなるから」

「わ、わかった」

「一体どんなプレゼントなんだよ?」

 

律からジト目でツッコミが入る中、澪は緊張の面持ちで言われた通りの手順でリボンをほどいていく。

そして包装紙を丁寧にはがしていき、箱の蓋に手をかけた。

 

「………」

 

僕は耳に手を当ててこれから起こるであろうことに備えた。

 

「うわぁ!?」

「な、何?!」

 

箱を開けた瞬間に鳴り響く破裂音に全員が驚く。

 

(これはちょっと音を高くしすぎた)

 

強烈な音だったため、耳をふさいでいた僕ですら驚いてしまった。

 

「一体、これはなんなんだよ?」

「律のびっくり箱からヒントを得て作った手作りびっくり箱。最初に開けた瞬間にクラッカーのような破裂音が鳴り響く仕掛けだったんだけど、ちょっと失敗――「ちょっとじゃない!」――はい、すみません。調子に乗りました」

 

僕のプレゼントの説明をしていると、一番の被害者である澪からきつい一撃をお見舞いされた。

 

「まあ、冗談はともかく、本当のプレゼントはちゃんと用意してあるから。箱の中の底の端の部分に穴が開いてるでしょ?」

「確かに、開いてるけど」

 

咳払いをしながら、説明をすると箱を覗き込んだ澪が相槌を打った。

 

「そこに指をひっかけるようにして開けてみて」

「………」

 

僕の指示に、澪は無言で僕を見ている。

その眼は疑いのまなざしだった。

 

「いや、別にこれ以上驚かせる要素はないから」

 

信頼を失うのにかかる時間は築くのよりも遥かに短いことを身に染みて知ることとなった。

 

「それじゃ……」

 

恐る恐ると言った様子で箱の底に手をかけた澪は、そこの画用紙を取り除く。

 

「これは……」

「お守りのようなものだよ。身に着けておけば、ご利益があるかもしれないよ」

 

澪が取り出した小さめの巾着袋に、僕はそう説明した。

巾着袋内に入っている魔石には防御系統の術を施してある。

後は、澪の身に危険なことが起こった際に守ってくれるという代物だ。

とはいえ、一度きりの使いきりタイプなのが欠点だが。

そして、このお守りは最初に手にした人物(僕は開発者なので除く)にしかその効力を発揮しない。

とはいえ、このお守りの欠点は、巾着袋が触れている物すら対象にしてしまうことだ。

つまり、プレゼント用の箱に触れただけで反応してしまうということになる。

それを防ぐために、簡易結界を箱を覆うように展開させることで対処した。

要は、直接触れないようにすればいいだけの話なのだ。

そして、それの解除に当てたのがリボン。

澪にリボンを開ける順番を指示したのもそれゆえだ。

ちなみに、箱を開けた時に鳴り響いた破裂音は、クラッカー音を何度も聞いて覚えた僕が仕掛けた魔法で、箱を開けるのと同時に鳴り響く仕掛けになっている。

音量の設定を大きく間違えてはいたが。

閑話休題

 

「手作り感満載だな~」

「手作りだけど、効果は期待しても損はないから」

 

怪しげなものでも見るような目で感想を漏らす律に反論するように、僕は口を開いた。

 

「ありがとう、浩介」

「どういたしまして」

 

澪のお礼に、僕は軽く頭を下げるようなしぐさで答えた。

 

「後開けていないのは、唯ちゃんと憂ちゃんだけね」

 

プレゼントを開けていない二人に、山中先生は『早く開けるように』と促した。

もう残り二人なので、それぞれ誰が送ったかはわかってはいるが、中身が気になる。

 

「手袋だ」

「マフラーだ」

 

箱を開けた唯と憂が中身を口にした。

見てみると、唯が手袋で、憂がマフラーだった。

 

「「私が手袋(マフラー)を失くして寒がっていたから?」」

「二人以外に当たっていたらどうする気だったんだ?」

 

運が良いでは片づけられない強運に、僕たちは苦笑した。

 

「ありがとうお姉ちゃん。これで冬も寒くないよ」

 

笑いあう姉妹に、僕たちの心も温かくなっていくような気がした

 

(仲よきことは良きかなよきかな)

 

いつか口にしたフレーズを、僕はもう一度心の中で口にした。

そんなこんなで、冬真っ只中で寒い日に開かれたクリスマス会は、心温まる気持ちで幕を閉じる―――

 

「いよぉしー、プレゼント交換も終わったし、一人ずつ一発芸でもするか!」

 

ことはなかった。

 

「せっかくのいい話系の流れが」

 

まったくだった。

 

「何だったら澪が最初にやるか?」

「ひぇぇ!?」

 

(もう完全に悪酔いしたオヤジのノリだな)

 

律と澪のやり取りを見ていた僕は、心の中でそう呟いた。

 

(とはいえ困った)

 

まさか一発芸を披露しなければいけないとは。

僕には芸を披露するようなスキルなどない。

 

(一つだけ、できそうなことはあるけど)

 

それをするには準備が必要だ。

もしトップバッターにでもなったら万事休すだ。

 

「それじゃ唯、いってみよう!」

「えぇ、私? うぅ~ん」

 

どうやらトップバッターは唯のようだ。

肝心の唯は何を披露するかを悩んでいるようだが。

 

「あの! 私がやります!」

 

そんな唯に救いの手を差し伸べるように立候補したのは、憂だった。

 

「それじゃ、どうぞ!」

 

律に促らされるように、憂は立ち上がるとどこからともなくトナカイとサンタの人形を取り出して、それを手に装着した。

 

『メリークリスマス。みんな、楽しんでますか?』

 

そして話し始めた。

だが、肝心の憂は口を一切動かしていない。

そのような芸当ができるとすれば、魔法で言う所の”念話”ぐらいだ。

だが、当然ではあるが憂はそのようなものを行使していない。

つまりこれは腹話術というものだろう。

 

(魔法が使えない人でも、このような芸当ができる。本当に人間ってすごい)

 

僕は感動のあまりに、拍手を送った。

それはみんなも同じだったようで、拍手を送る。

送られた憂は照れた様子で頭に手を置くと、再び両手を前に突き出すポーズに直した。

そして再び腹話術が始まる。

 

(よし、憂の頑張りに見合うぐらいのモノは見せないとね)

 

僕は憂の腹話術を見ながら、首にかけてある真珠の形をしたネックレスを怪しまれないようにつかむ。

 

(魔力回路限定解放。魔法術式の高速登録開始)

 

魔力というエネルギーを通すパイプである魔力回路を一部のみではあるが解放させる。

いつもはこの回路は封印されている。

この世界ではそういうものの類は必要ないからだ。

とはいえ、魔力がないと生命に関わるため、ほんの一部のみの開放をしているが。

そして、魔法を素早く発動させられるようにする力も使う。

魔力の消費量が4倍になってしまうが、せっかくのパーティなのだ。

少しぐらい奮発しても罰は当たらないだろう。

まあ、一部からは大目玉を食らいそうだが。

その後も、唯のエアギターや律のエアドラムや、ムギのマンボウの真似などが披露されていくなか、僕は一発芸で披露するための準備を進めていく。

ちなみに、澪の出し物はコスプレだった。

 

「~~~~ッ!」

 

とは言っても、階段の陰から姿を現した時間はわずか数秒程度だったが、それでも澪にしてみればとてもがんばった方だ。

そのため、みんなから拍手が送られた。

 

「それじゃ、浩介行ってみようか!」

 

澪が着替え終えて戻ってきたのを見計らって、律が指名してきた。

 

(準備は大丈夫。後は僕の演技力)

 

もうすでにこれから行う一芸の準備は完了している。

後は僕の技術だ。

 

「それじゃ、僕は簡単な手品をいくつか披露するね」

「おーっ!」

 

手品と言う単語だけで、期待の込められたまなざしが僕に注がれる。

 

「律、そのプレゼントの箱借りていい?」

「いいぞ」

「さて。ここにあるのは種も仕掛けもない普通の箱」

 

律からプレゼント用の箱を借りた僕はその中身をみんなに見えるように見せながらお決まりの文句を口にする。

 

「これから、この箱からトランプを出して見せましょう」

「定番中の定番だね」

 

唯からコメントが入るが、特に反応せずに進めていく。

 

(媒体は、この棒でいいか)

 

魔法を使う際に効率を上げる媒体が必要になるため、僕は先ほどテーブルに置いてあった棒状のモノを拝借することにした。

 

「これにハンカチを覆って、三つ数字を数えると中からトランプが現れます」

 

そう言いながら箱にハンカチをかぶせる。

そしてハンカチに軽く触れるように棒を当てる。

 

「ワン、トゥ……」

 

(ディメディア)

 

最後のカウントを言うよりも早く、心の中で魔法の呪文を紡ぐ。

 

「スリー!」

 

カウントをしきった僕は、ハンカチを取り除くと箱の中に手を入れる。

 

(よし、ちゃんとある)

 

転送魔法によって取り寄せたトランプがちゃんと現れていることを確認した僕は、中からそれを取り出した。

 

『おーっ!』

 

トランプが現れたのを見た唯たちは一様に拍手を送る。

 

「さて、それじゃこのトランプを使って、もう一つの手品をお見せしましょう」

 

僕の芸はまだまだ終わらない。

こと魔法に関しては譲歩しないのが僕の流儀だ。

 

「トランプには通常、こういった何も書かれていない無地の物がある。これは、トランプを一枚失くした時に代用する物なんだけど、今回はそれを八枚使おうと思う」

「何でそんなにあるんだよ?」

 

律から尤もなツッコミが入った。

実は無地のカードを八枚ほど入れてあるタイプと普通のトランプだけのものをたくさん置いてあるからだ。

ちなみに、普通のトランプはリビングにまとめて入れてあり、この特殊なトランプは自室に置いてある。

そうでないと、トランプを転送させるときに大量のトランプのセットが現れる羽目になる。

大まかな(○○の家の○○の部屋など)場所とモノしか指定できない転送魔法の特徴が故だ。

それはともかくとして、無地のカードを取り出した僕はそれを律と澪、憂と唯に一枚ずつ配っていく。

 

(リマインド)

 

その際にカードを介して再びある魔法をかけていく。

 

「今配った人はボールペンか何かで好きなマークと数字、それと名前を書いてもらいたい。僕は四人が何を書くのかをもう四枚に書いていくから」

「分かった」

「分かりました」

「任せて」

「わ、わかった」

 

憂に続いて唯と律と澪が返事を返すのを確認して、僕はさらに言葉を続ける。

 

「山中先生は僕が四人の書いている内容を盗み見ていないかの監視をお願いしてもいいですか」

「分かったわ」

 

そして山中先生にも協力をしてもらい、僕は背を向けた。

横には山中先生の監視の目がある。

そんな時、僕の頭の中に声が響いてきた。

 

『何のマークを掻こうかな……どうせだから三角とか楕円形を書こうっと』

『うーん。やっぱり星だよね』

 

(……)

 

唯と律の声に、僕はため息をつきたくなるのをこらえて口を開いた。

 

「あ、そうだ。好きなマークとは言ったがあくまでもトランプにあるマークでスペードやハートとかだから、間違っても星とか楕円形とか三角とかは書くなよ? 特に律と唯!」

「な、なぜにピンポイント!?」

 

僕は再び目を閉じて神経を集中する。

 

『そうだ。ハートのAでいいかな』

 

(なるほど、澪はハートのAか)

 

頭の中に響いてきた澪の声に、僕はさらさらと澪の名前とハートのAを書き込んでいく。

今使っているのは、遠距離型の読心術だ。

これは、相手が心の中で思っていることが直接僕の方に声をとして届けられる仕組みになっている。

とはいえ、遠距離にもなるとそれをし続けるのは難しい。

そこで、トランプを媒体として使っているのだ。

もはやペテン師のような気もしなくはないが、僕は頭の中に聞こえる声に意識を集中させて書き込んでいく。

 

「終わったぞ」

 

澪から声が掛けられたのを確認して、僕は再び彼女たちの方に振り向いた。

 

「それじゃ、今度はこのトランプを同じ組み合わせになるようにおいていこうと思う。もし名前とマークに数字が違っていたら手品は失敗ということになる」

 

そう言いながら、今度は目の方に意識を集中させる。

すると、トランプの裏側……つまり唯たちが書いていた面が見えるようになった。

これがいわゆる透視魔法だ。

中身を見ただけで知ることができる魔法だが、使い方を誤れば犯罪クラスになるため出力を極限にまで抑えている。

よって、どれほど集中させようが服が透けるようなことはありえない。

それはともかく、僕は透視魔法でトランプの裏側に書かれていることを読み取りながらそれに合うように自分が持っているトランプを配置していく。

 

「それじゃ、ムギ。唯たちが置いたのと僕が置いたのを同時に開いて行ってくれる?」

「分かりました」

 

指名されたムギは心躍ると言った面持ちでテーブルの方に来ると、トランプを表にしていく。

端の方からハートのAと書いた澪、ダイヤのJと書いた唯、スペードの3と書いた律、クローバーの5と書いた憂という配置だった。

そして僕のも全く同じ配置だった。

 

「す、すげえ!?」

「全部一緒です?!」

「浩君、超能力者だ!」

 

カードの内容がすべて一致していたことに驚きを現す律たちに、僕はどこか嬉しく感じていた。

魔法使いであれば当然の芸当なのに、これほどうれしく感じるというのはどうしてなのだろうか?

 

「とは言っても、このカード本来の使い方じゃないよね? だから、全部消しちゃおう」

「へ? 消すってどういう――」

 

全てのトランプを裏返しに集めて束にすると、媒体とした棒状のものをカードの上に充てる。

 

(イレイズ)

 

そしてまたスリーカウントと共に充てたり離したりを繰り返し、最後のカウントの前に再び呪文を紡いだ。

 

「はい、これで元通り」

「…………」

 

全て白紙に戻ったトランプを目の当たりにした律たちは何も言うことはなかったが、代わりに拍手の音が響いた。

こうして、僕が用意した即興の手品は(何とか)無事に幕を閉じるのであった。

その後、山中先生がお腹に張り手で紅葉を作ったりする一発芸を見せてくれた。

とはいえ、ほとんどが引いていたが、当の本人は楽しそうだったのでいいのかもしれない。

そしてそのあとはムギが持ってきたボードゲームで遊び、解散になったのは日が暮れた時間帯だった。

この日、僕は今までにないほど充実した一日を過ごすことができた。

こうして、突如持ち上がったクリスマス会は無事に幕を閉じることができたのであった。

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