けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。

今回よりオリジナルの話に入ります。
第1弾である本章は、原作の1期11話のようなシリアスな感じになっています。
話数は3~6話程度です。

ちなみに、本章では意外な人物が活躍したりします。


2年生編 『すべての終わりとはじまり』
第42話 兆し


僕の前には長椅子に座っている唯と梓と澪の三人、そしてその後ろに立つ律とムギ。

 

「それじゃ……行くよ」

 

僕のその言葉に、唯と律にムギは興味津々に僕がこれからしようとすることを見守る。

そして澪と梓は緊張の面持ちで僕を見ていた。

そんな視線を受けながら、僕は肩に掛けてあるギターの弦を弾いた。

それが演奏を始める合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すべての切っ掛けは、ある日の放課後のこと。

 

「あ、私はリンゴタルト~」

「それじゃ、モンブラン!」

「なっ!? それは私が狙っていたのに!!」

「へっへ~ん、こういうのは早い者勝ちなのだよ。澪ちゅわ~ん」

「「…………」」

 

目の前で繰り広げれる醜い争いに、僕と対面の席に座る梓は言葉を失っていた。

 

「あれ、あずにゃんと浩君は食べないの?」

「い、いえ。それじゃ、バナナ味を」

「僕はチーズ味を」

 

お菓子程度で争う二人の姿に呆れていたとも言えず、僕たちは各自好きなケーキを取っていく。

今日のお菓子は、多種多様なケーキだった。

 

(まあ、チーズケーキを誰かが取ったら、僕もあんな風になるんだろうな)

 

僕にはチーズケーキ一つを巡って戦争をする自信があった。

それほど食べ物とは恐ろしい魔物なのだ。

梓の一件からしばらく経った。

二つの机を生徒会から許可をもらって、部室に運んだのはつい最近のこと。

 

『梓はどこに座る?』

『えっと、それじゃ……』

 

新たに二つほど机が増えたことで、梓にどこの席がいいかを尋ねる。

そして梓が選んだのは物置部屋側の壁とは反対の席……僕の対面の席だった。

ちなみに、山中先生の席は僕が座っていた物置部屋側の机の横の部分だった。

そんなこんなで、今日も今日とて雑談に花を咲かせる唯たち。

 

「どうしたの浩君?」

「いや、よくそんなに話す内容があるなと思って」

 

何も言わない僕を不審に思ったのか、首をかしげながら尋ねてくる唯に、僕は苦笑しながら答えた。

先ほどから、話声が尽きることが全くない。

いくら五人の人がいる(とはいえ、話をしているのは主に四人だが)からと言って、ここまで続くのはある意味すごいことだった。

 

「だって、毎日楽しいんだもん♪」

 

満面の笑みで応える唯。

 

「そうそう、ネタはいろいろあるだぜ。例えば澪の面白恥ずかしい過去とか」

「なっ!? それだけは絶対にダメっ!!」

 

律の言葉に必死に阻止しようと声を上げる澪。

 

「え~、私澪ちゃんのこと聞きたいなー」

「私も」

 

律の言葉に興味を持った唯とムギの二人が律の援護射撃に入る。

 

「だ、ダメと言ったらダメっ!!」

「あー、はいはい。冗談だから」

 

今にも掴み掛らんとする勢いの澪を止めるように両手を上げて宥めた。

 

「ちぇ~」

「聞いてみたかったのに」

 

そんな律に、不服そうな顔で頬を膨らませる唯と残念そうに言葉を漏らすムギ。

 

「だったら、浩介の恥ずかしい過去でも聞けばいいんじゃね?」

「あ、そうだね~♪」

 

そんな二人にかけられた、小悪魔のような笑みを浮かべた律の言葉に期限を治した唯が僕の方に向き直った。

 

「ということで、話してよ浩君」

「うん分かった。あれはそうだな今から……って誰が言うかっ!」

 

危ない、危うく本当に話すところだった。

 

「ぶーぶー」

「だったら自分の恥ずかしい過去でも話せばいいじゃないか」

 

再び頬を膨らませて膨れる唯に、僕はため息交じりにそう告げた。

 

「そうだね! それじゃあね………あ、そうだ。あれは―――「って、本当に話すな!」―――もう、浩君はわがままさんだね~」

 

適当に言ったことを真に受けて本当に話そうとする唯を止めた僕は、わがままなこと言う認識をされた。

……何だか無性に腹が立つのはどうしてだろう。

 

「それじゃあ、あずにゃんの恥ずかしい過去でも―――」

「絶対に嫌ですっ!」

 

即答で拒否をする梓も、すっかり軽音部に慣れてきたようだった。

 

「梓にとっての恥ずかしい過去って、ねこ耳を付けた時のような気がするのは僕の気のせいか?」

「だったら、今つければいいんだよ!」

 

そう言う言う唯の手にはどこから取り出したのか、ねこ耳があった。

 

「それは絶対に嫌です! 後、浩介先輩も蒸し返さないでください!」

「これは失礼」

 

梓から怒られた僕は、軽く謝った。

今日も軽音部は通常運航だった。

 

――――チク

 

「……?」

 

楽しげに談笑する唯たちを見ていた僕は、ふと胸の痛みを感じた。

それは体の問題ではないような気がした。

言うなれば、心の方だ。

 

「どうしたの、浩君?」

「いや、なんでもないよ」

 

再び唯から聞かれた僕は、そう答える。さっきのはただの気のせいだと結論付けて。

それはもしかしたら、兆しだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後の昼休み、僕と慶介は机をくっつけて向かい合うようにして昼食をとっていた。

ちなみに、これがいつもの昼休みの光景でもあった。

特に用がない限り、慶介と食べることが多いような気がする。

非常に不本意だが。

 

「今日はお弁当か~」

「文句でもあるのか?」

 

お弁当を広げて黙々と食べている僕は、慶介の言葉に睨みつけながら問いかける。

 

「いや、文句なんてないって。ただ、お恵みがほしいだけだから」

 

(完全にたかってるじゃないか)

 

何の惜しげもなく言える慶介の精神に、呆れを隠せなかった。

 

「別にいいぞ。今から頬るから、口でキャッチしろ」

「お、大道芸だなっ! 良いぜ、受けて立ってやる!」

 

僕の無茶な指示に、慶介はテンション高めに応じた。

 

「これを成功させれば女の子にもてるぞ~!」

「…………」

 

欲望ダダ漏れの慶介をしり目に、僕はから揚げを一つ箸でつかむ。

 

「ほれっ」

「よし来たぁ!!」

 

放り投げられた唐揚げは飛んでいく。

……対角線上に

 

「って、無茶だぁっ!!!」

 

対角線上に飛んでいく唐揚げを口でキャッチするには、斜めに飛んでいかなければいけないが、普通の人にその芸当は不可能。

他の手段としては、机の合間を縫って行くしかない。

とはいえ、全力で走りながら唐揚げの落下点を予測しなければいけないので、とてつもない難易度になるが。

さて、全速力で教室内を走る慶介。

 

「ずべしっ!?」

 

だが、何かに引っかかったのか盛大にこけた。

 

(ま、無理だとは思ってたけどね)

 

僕は心の中でつぶやきながらお弁当箱のふたを手にする。

そして椅子の上に立ち上がった僕は、そのまま対角線上にとんだ。

空中で一回転をしながら現在落下中の唐揚げを蓋の中に入れた僕は、そのまま何もない場所に着地した。

 

『おぉ~』

 

僕の芸当によってか、それとも慶介の惨めな行いによってかは知らないが注目を集めていたようでクラス中から拍手が送られた。

 

「すっご~い。サーカスみたいだったわ」

「うんうん。思わず見惚れちゃったよ~」

「ど、どうも」

 

次々と浴びせられる歓声に、僕は恥ずかしさのあまり視線を逸らした。

 

「結局、うまい思いをするのはお前か」

 

盛大にこけた慶介から恨めしそうな声を掛けられた。

 

 

 

 

 

「それにしても、浩介の親って料理上手だよな」

「いきなりなんだ?」

 

先ほど放り投げた唐揚げを頬張りながら慶介はそんなことを言ってきた。

 

「この唐揚げとてもうまいぜ!」

「残念だが、それは僕の自作だ」

 

称賛の声を上げる慶介に、僕は本当のことを告げる。

 

「は? なんで自分で作ってるんだよ?」

「そんなの、家に親がいないからに決まってるだろ」

 

信じられないとばかりに訊いてくる慶介に、呆れながらウインナーを口にする。

 

「あ……悪い」

「勘違いするな。親はちゃんといるぞ。別居してるけど」

 

そんな僕の言葉に勘違いしたのか、罰が悪そうに謝る慶介に、口の中の食べ物を飲み込んでから口にした。

 

「は? どうして別居なんかしてるんだよ」

「ちょっとしたことで家出をしたから」

「家出って……それじゃ、生活費とかはどうしてるんだよ?」

 

僕の口にした理由(当然嘘だが)に信じられないと言わんばかりに下世話なことを聞いてくる慶介。

 

「親から仕送りでもらってる。数か月に一回の間隔で実家に帰ることを条件にだけど」

 

僕は嘘の説明をしながら海苔ごはんを口に入れる。

実際はすべて僕のポケットマネーで生活している。

 

「へぇ~、いろいろ大変なんだな」

「それはお互い様だ」

 

慶介も明るくするために、演技をしていたりするのだから。

まあ、本心が4割というのがかなり気にはなるが。

 

「だな」

 

そして僕たちは黙々と昼食を食べていく。

この時はあの時に感じた胸の痛みはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、浩介先輩」

「ん? どうかしたか、あずにゃん?」

 

放課後、部室でいつものように話に花を咲かせていると、梓が突然何かを思い出した様子で話しかけてきた。

 

「前から聞こうと思ってることがあるんですけど。その、間違っていたらごめんなさい」

「な、何かな梓? 改まって」

 

梓の様子から、僕は呼び方を元に戻して先を促した。

気づけば、他の皆も話をやめて梓の答えを待っていた。

 

「その、浩介先輩って……」

 

そこまで言うと、言いづらそうに視線をさまよわせたが、すぐに僕の方を見つめてきた。

 

「DKさん………ですか?」

「……っ」

 

梓の言葉に、表情を変えないように気分を落ち着かせる。

 

「で、DKって……」

「H&Pのメインボーカル兼リードギターの人です」

 

澪が目を見開かせて声を漏らすと、分からないと思ったのか梓が説明をした。

 

「藪から棒に、何を言ってるんだ梓?」

「すみません。この間DKさんとお話しする機会があったんです」

「な、何ぃーッ!?」

 

梓の言葉に一番の衝撃を受けていたのは澪だった。

それはもう椅子を吹き飛ばすような勢いで立ち上がるほどに。

 

「ど、どうしたんですか澪先輩?」

「あー、澪はDKのファンみたいでな」

 

突然の澪の変化に、驚きを隠せない梓の問いかけに律は苦笑しながら答えた。

 

「う、うらやましい。私だって一回も話したことがないのに」

 

(しょっちゅう話していることを知ったら、どうなるんだろう)

 

ぶつぶつとつぶやく澪に、僕は心の中でつぶやいた。

どうやら僕にはまだ余裕があるようだ。

 

「は、話を戻しますね。その時に、DKさんが言ってたんです。『さすがは親の影響で小4からギターをやっているだけある』と」

「別に普通だと思うけど? ねえ、律ちゃん隊員」

 

梓の言葉を聞いていた唯がいつになくまじめな様子で律に同意を求める。

そんな律も頷いて答えた。

 

「でも、私が親の影響で小4からギターをやっていることは、軽音部の皆さんにしか言ってないんです」

「それって、手紙で書いたとかじゃないのか?」

 

考え込んでいた澪が梓に問いかける。

 

(手紙に書いてあったっけ?)

 

僕は心の中で思い起こしてみるが、そのような文面に心当たりはなかった。

 

「探してみたんですけど、全く書いてませんでした」

「それは確かに、おかしいわね」

 

顎に手を当てて思案顔のムギが呟いた。

 

(というより、よくとっておいたよね)

 

梓の場合は数年前からファンレターが来ている。

その数は優に100を超えているはずだ。

それを取っておく彼女の執念がすごかった。

 

(それにしても、かなりまずいことになった)

 

あの時は手紙に書いておいたということに解釈するだろうとたかを括っていてさほど気にも留めていなかったが、まさかここにきて裏目に出るとは。

 

「それに、浩介先輩の演奏の方法がDKさんと同じなんです」

 

そして、演奏面からも指摘が入った。

 

「浩介先輩。先輩がDKさん、なんですか?」

「それは……」

 

もはや万事休す。

何を言っても誤魔化せないと悟った僕は、覚悟を決めた。

 

「実はな、梓」

 

そんな中、助け舟を出したのは意外にも律だった。

 

「浩介ってDKの知り合いらしくてな、よくギターを教えてもらっているんだってさ」

「そ、そうなんですか?」

 

律が言ったのは前に僕が説明した内容と同じものだった。

 

「そうだよ」

 

梓に僕は、渋々頷く演技をしながら答えた。

 

「ごめんね、つい練習の合間の雑談で梓のことを話しちゃったから、言いだしづらくて」

「そうだったんですか」

 

取ってつけたような理由に、梓はすんなりと納得してくれた。

 

「本当に申し訳なかった」

「そ、そんな謝るほどのことでもないです。まあ、ちょっとうらやましかったりしますけど」

 

席を立って謝る僕に、慌てながら話す梓だったが、最後の方のは絶対に本音だと思う。

 

「というより、律知ってたんなら言ってよ」

「あはは、ごめんごめん。追い詰められていく浩介の表情が面白くてつい♪」

 

僕の非難の声に、律は笑いながら相槌を打った。

 

「まったく、律はしょうがないんだから」

「そう言ってる澪も知ってたよな?」

「うっ!?」

 

ため息交じり呆れた様子で言った澪に律はにやりとほくそ笑みながら指摘した。

 

(どっちもどっちだ)

 

僕は心の中でそうつぶやいた。

 

「でも、DKさんにギターのコーチをしてもらえるなんて羨ましいです」

「だったら、浩介にでも頼んでもらうようにお願いしたらどうだ?」

「そうだね! ついでに私も教えてもらっちゃおう~」

 

梓の言葉に、律と唯が相槌を打つ。

 

――――――チク

 

(……まただ)

 

二人の会話を聞いていると、再びあの痛みが走った。

 

「あれ、どうかしたの?」

「ちょっとお手洗いに」

 

席を立った僕にムギが尋ねてきたので、僕はあたりさわりのない理由を告げて部室を後にした。

 

「……オープラ」

 

部室を出た突き当りのドアに手をかけ、周囲に誰もいないのを確認してから魔法で鍵を開けた。

そこは屋上に続くドアだった。

外に出た瞬間に、心地よい風が僕を包み込んだ。

僕はゆっくりと前に足を進める。

 

(慶介とのやり取りと、軽音部でのやり取りの時の違いって……なんだ?)

 

屋上から望める景色にも目を止めずに、僕は心の中で問いかける。

そして思い出してみた。

慶介の時にあって、軽音部の時にはない物を。

 

「……………あぁ、そうか」

 

考えてみれば簡単に見つかった。

慶介の時にあって軽音部の時にはない物。

軽音部の時にあって、慶介の時にはない物の正体。

 

「僕って……」

 

それはきっと

 

「孤独だったんだ」

 

一種の疎外感のようなものなのかもしれない。

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