けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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今回で、本章は終わります。
最後はあっけないですが、次話あたりでその理由に触れていたりします。
間違っても、夢オチではありません。

それでは、どうぞ


第53話 家探しとお風呂パニック

「部屋には戻ったけど、やることも特にはないんだよね」

 

仕事もここに帰る前に大方片づけてしまったので、本当にのんびりすることしかやることがない。

 

「ん?」

 

どうしたものかと考えをめぐらせていると、ドアがノックされた。

 

「私たちはこういうものだ!」

「今から浩君の部屋を捜索する!」

「は?」

 

いきなり意味の分からないことをまくし立てた律たちは僕の部屋に入ってきた。

 

「何、これ?」

「ご、ごめん。なんか律がいきなり浩介の部屋を家探しするって言いだして」

 

理解に苦しんでいる僕に、澪が手を合わせながら謝ってきた。

 

「律~、黙示の棚には手を触れるなよ~? それ、触ると爆発するから」

「うわぁ!?」

 

僕の忠告から少し遅れて律の驚いた声が聞こえてきた。

 

「律先輩!?」

「律!」

「のわ?!」

 

その声に反応した、澪たちが僕を押しのけるようにして部屋に入っていく。

 

「ここ、僕の部屋なんだけどな」

 

首をかしげながらぼやいた僕は、部屋に戻る。

 

「そのケースがどうしたんだ?」

「で、出たんだ!」

「もしかして、遺体が?!」

「ひぃぃぃ!!」

 

ムギの言葉に、澪が耳をふさいでしゃがみこんだ。

 

(というよりそれって)

 

律が手にするケースに心当たりがあった僕は、なんとなく理解できたような気がした。

 

「お、お金」

「へ?」

「あの、浩介さん。どうしてこんなところにお金を入れているんですか?」

「どう見ても不用心ですよね?」

 

憂の疑問に、梓も頷く。

確かに、その通りだ。

それでもここに置いておかなければいけないわけがある。

 

「金庫にもどこにもお金の置き場がなくなったから、ここに置いてるだけ」

「置き場がないって、どんだけあるんだよ」

 

律に訊かれた僕は、考えてみた。

 

「僕の個人資産でたぶん京は越えてたと思う」

「京?」

「それって億、兆の次の桁?」

 

ムギの問いかけに、僕は頷いて答えた。

 

「寄付をしたり、色々なサービスを使ったりしているんだけど、給料の方でもらうのが多いからなかなか減ってくれなくて。人にあげるわけにもいかないし。本当にどうしたものか」

「浩介、お前むちゃくちゃだ」

 

頭を抱えている僕に、律からそんなツッコミが入った。

見ると、みんなも固まっていたり苦笑していたりと、反応は様々だった。

 

(本当に、これをすべてなくせる日は来るのかな?)

 

そんなみんなをよそに、僕は心の中でそうつぶやくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだかんだあって迎えた夕食の時間。

全員は集合時間の10分ほど前にダイニングに来ていた。

 

「さて、夕食の前に、自己紹介をするかね」

 

目の前には肉じゃがやハンバーグなどのごく普通の一般家庭で出される料理の数々が並べられている中、上座に腰掛けている父さんが口を開いた。

あまりにも自然な形でいたためか、みんなは誰なのかを尋ねることができていなかったようで、ちらちらと父さんの方に視線を向けていた。

 

「私の名は、高月 宗次朗。こいつの父親だ。いつも愚息が世話になっているようで」

「そ、そんな。私は平沢唯です」

「ひ、平沢憂です」

「た、田井中律です」

「秋山、澪です」

「な、中野梓でしゅ!」

 

全員、父さんの何かを感じ取っているのか緊張の色を隠せない様子で自己紹介をしていた。

梓の場合は……もはや言うまい。

 

「初めまして、浩介君のお父様。琴吹紬と言います」

「ほぉ。その肝の据わった様子は素晴らしい」

 

唯一普通に対応が出来ているムギに、父さんは称賛の声を掛けた。

 

「父さん。話はほどほどに。ご飯が冷める」

「っと、そうだった。それじゃ、いただきます」

『いただきます』

 

僕の言葉に、思い出したように声を上げると、手を合わせて食事を始める合図の言葉を口にした。

それを受けて僕たちも同じように口にすると料理に手を付ける。

 

「おいしいですね。この肉じゃが」

「だろ? 愚息ではあるが、料理の腕は素晴らしいな」

「調子のいいことを」

 

父さんの言葉に、僕は反論しながら、肉じゃがを口にする。

 

「え? この料理、浩介先輩が作ったんですか!?」

「そうだとも。浩介は昔から料理の腕が良くてな」

「ただ単に、父さんたちの腕が悪すぎるだけ」

 

驚きをあらわにする梓に自慢げに話す父さんに、僕はツッコミを入れた。

どうやら我が家で料理の才能があるのは、僕だけのようだった。

母さんの場合は、食べられることは食べられるが、まずくもおいしくもない普通の味の料理しか作れなかった。

 

「すっごくおいしいよ、浩君」

「それは、どうも」

 

唯の感想に、僕は適当に返しながらご飯を口にする。

 

「ほぅ……どうかね唯君。性格はこうだが、料理もできてしっかり者の愚息を婿に欲しくないかね?」

「ふぇ?! そ、それは…………」

 

父さんの問いかけに、唯は頬を赤くしながらうつむいた。

さすがの唯でも、この手の質問では恥ずかしいようだ。

 

「それじゃ……ぎゃご」

「それ以上やると殴りますよ。父さん」

 

とりあえず、元凶である父さんの頭にタライを落としながら忠告した。

 

「もう落としとるではないか」

「……」

 

父さんの講義を無視して、僕は再び料理に口をつける。

 

「冗談はともかくだ。愚息のことを、よろしく頼むよ」

『はい!』

 

父さんの真剣なまなざしの言葉に、全員が声をそろえて頷いた。

その時の父さんの目は、一人の父親の目にも見えた。

こうして、夕食の時間は過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お風呂の支度できたよ」

「お、悪いどうすのう」

「ありがとうございます、浩介先輩」

 

夕食も終わり、リビングでくつろいでいる唯たちに、お風呂の支度ができた胸を知らせると、律は演技じみた話し方でお礼を言い、梓はいつものようにお礼の言葉を言ってきた。

 

「ここを出て左側に進んだ突き当りにあるドアの左側に、大浴場があるから皆で入ってくるといいよ」

「もう驚かないぞー」

 

僕の言葉に、律は半目で僕を見ながらそう言ってきた。

 

「覗くなよ?」

「去年の合宿の時に僕は覗いてないでしょうが。ゆっくり入ってこい」

 

澪の言葉に、ため息をつきながら追い払うようにお風呂に入るように促した。

 

「やれやれ」

 

僕はため息をつきながら唯たちが今まで見ていたテレビを見る。

それは最近魔界で流行っている漫才だった。

僕はテレビを消すとリビングを後にした。

僕には食器洗いという仕事が残っているのだ。

 

「今日は8人分か。腕が鳴るな」

 

腕まくりをしながら気合を入れた僕は、食器を洗うべくキッチンへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

「もうみんな寝たかな」

 

午後10時。

全員が寝静まったのを確認した僕は、リビングから立ち上がった。

手にしているのはお風呂道具。

僕が向かう場所は当然あの大浴場だ。

 

「はぁ~、一回入ってみたかったんだよね。この大浴場」

 

大浴場は、文字通り数人が同時に入れる場所だ。

広さにして60畳分はある。

普通の温泉のような広さはある。

その分清掃が大変で、僕一人の為にここを使うのも躊躇われるため、いつもは普通の家庭サイズの浴室を使っている。

だが、今日は唯たちが入ったので、その清掃という名目で、僕も大浴場を満喫しようと考えていたのだ。

体を洗ってから浴槽に浸かる。

 

「はぁ~、やっぱり広いと違うね~」

 

浸かっているお湯や入浴剤は同じだが、気分はまるで温泉気分だ。

 

「そうですなぁ~。このお湯の流れる音とか風流ですのぉ」

 

そんな僕に、帰ってくる声があった。

 

「お、分かるじゃないか唯」

「まぁね~、浩君も羨ましいですなー」

「そっちだって入ろうと思えば入れるのに、何を言ってるんだよ唯……………」

「………え?」

 

この時、ようやく違和感に気づいた。

今この家にいるのは僕を除いて全員女子だ。

ならば、この声はいったい何なのか?

僕の幻聴か?

それは否。

こんなはっきりとした幻聴はない。

僕は油の切れたロボットのような動きで声のした方に視線を向ける。

 

「「……ぁ」」

 

そこには僕の横で浴槽に入っている唯の姿があった。

湯気で顔しか見えなかったのが幸いだった。

お湯に濡れないようにするためか髪を後ろの方に括っていたため、一瞬憂と間違えそうになったが声の感じが完全に唯の物だったので、間違わずに済んだ。

 

「ぬおおおおおおお!!!?」

「はにょわ~~~!?」

 

驚きのあまりに奇声を発して遠ざかる僕に、連れるようにして悲鳴を上げる唯。

 

「なんでお前がここにいる!」

「え? そ、それはせっかくの温泉だから、もう一回入っておきたいと思って……」

 

僕の問いかけに、声が小さくなっていきながらも応える。

どうやら、完全に間が悪かったようだ。

 

「ごめん、すぐに出る」

「あ、待ってよ浩君!」

 

急いで出ようとする僕を引き留めたのは、唯だった。

 

「せっかくだから一緒にお話ししない?」

「…………………分かった」

 

唯の提案に、僕はしばらく考えたのちに、頷いた。

もう一度浴槽に戻ると、唯に背を向けた。

 

「「………」」

 

はっきり言うと、とても居心地が悪い。

聞こえてくるのはお湯の流れる音。

そして時々唯が動く時に発する水音くらいだった。

心臓が痛いほど力強く脈づく。

 

「ねえ浩君」

「何?」

 

そんな中、かけられた唯の言葉に、僕は用件を聞く。

 

「どうして、浩君は高校に通っているの?」

「……」

 

またそれかと思った。

昼間にも聞かれた問いかけだった。

 

「確かに、僕の学力なら、高校に通う意味なんてない」

「そうだよね。無勉強で満点近い点数とか出すもんね」

 

唯の言葉に、その時のことを思い出した。

あの時はちょっとやりすぎたと思っていた。

どのような点数がいいのか、そのポイントをうまく導いていなかったがために、あのような高得点になったのだ。

 

「あの時にも言ったはずだけど、僕には”通うこと自体に意味がある”。それが本当の答え」

「それって、どーいう意味?」

「……この世界は”力”がすべての一面がある。それが原因で嫉妬の炎に飲み込まれたクラスメイトから、殺されかけた。ただそれだけのことさ」

 

唯には軽口を叩いているが、あの時の出来事は僕にとってはトラウマ以外の何物でもない。

あの時のことは、今でも鮮明に思い出す。

朝、いつものように教室に入る僕。

化け物と言ってクラスメイトに取り押さえられ、そして手にしたのこぎりで腕を………

 

「それから学校には通わずに、独学であそこまで上り詰めた。でも、時々思うんだよ。ちゃんと”卒業”をしたいってね」

「…………」

「皆と登校して、時にはバカなことをやったりして、楽しい時間も苦しい時間も一緒に味わう……そんなどうでもいいことが、僕は欲しかった」

 

言わないと思っていたことだったはずが、気が付くとすらすらと言葉が出てきていた。

 

「僕はね、唯や皆に感謝してるんだよ」

「感謝?」

「皆と出会ったおかげで、僕は宝石よりも価値のあるすばらしい日々を過ごせてる。だから、ありがとう。それと僕を受け入れてくれたこともね」

 

お風呂に入ると、心もやわらかくなるようだ。

普段ならば、決して言わないようなことを僕は次々に口に出しているのだから。

と、そんな時後ろの方で動く気配があった。

 

「え?」

 

気が付くと僕の頭の上には唯の手があった。

 

「私も、ありがとう。あの時、通り魔から助けてくれて」

「……そうか。全て知って夢にはできないか」

 

まるで母親が小さな子供をあやすように撫でられている中、僕は納得がいった。

通り魔事件の際に、僕が取った行動を唯が夢だと思い込んだのも、”魔法”という存在を知らなかったからだ。

だが、今は魔法という存在を知っている。知っている現象を夢にはできない。

 

「いつまで頭をなでてるつもり?」

「……ダメかな?」

 

後ろを見ずに、いつまでも頭をなで続ける唯に問いかけると、そんな言葉が返ってきた。

 

「勝手にしろ」

 

そんな彼女に、僕はそう答えた。

結局、唯が止めてくれたのはそれから数分後のことだった。

唯を先にあげてから僕も大浴場の清掃をすることにした。

こうして、魔界での一日は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

ふと目が覚めた。

 

「あれ……寝てたのか」

 

机の上には夏休みの課題が広がっている。

机の上に突っ伏すように寝ていたので、どうやらやっている最中に眠っていたようだ。

 

「………夢?」

 

椅子から立ち上がり、固まった筋肉をほぐしながら、僕は自分に問いかけた。

日付は僕が魔界に帰った日の夕方だった。

どこか夢うつつな感じで、頭がボーっとしている。

 

(夢じゃない)

 

それだけは確信できた。

それほどまでに、僕にとっては驚きが強かったのだ。

だからこそあのハプニングのような出来事は、僕の記憶の中に鮮明に焼き付いているのだ。

 

「本当に、すごい一日だった」

 

なにせ予期せぬ形で、僕の最後の秘密を知られてしまったのだから、もしかしたら”史上最強の”というべきかもしれない。

だが、結果としてこれはこれで良かったのかもしれない。

なぜならば、僕はまたかけがえのない大事なものを得ることができたのだから。

僕という存在を受け入れてくれる”親友”を。

きっと、僕はこの日のことをこれから先も、忘れることはないだろう。

 

「さて! 音楽の方もがんばりますか!」

 

そしてまた僕は新たな相棒であるギターを手にする。

それが、僕がこの世界で手に入れた相棒なのだから。

季節は夏真っ只中。

聞こえるのはセミの大合唱。

感じるのは心地よいそよ風。

見えるのは地面に照りつける陽の光。

 

(とりあえず、夏の課題をやるのはギターで軽く演奏をしてからにしよう)

 

そう自分に言い聞かせながら、僕は弦をはじき出すのであった。

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