けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。

今回から、しばらくの間同じような内容の話が続きますが、微妙に内容は異なっております。
そして、魔法要素も話が進むごとに強くなっていきますので、ご了承のほうをお願いします。

それでは、どうぞ


第62話 マラソン大会!

「ん……」

 

ふと目が覚めた。

カーテンの隙間から差し込むのは冬であればありがたい陽の光。

その光が、部屋を照らし出していた。

 

「ふぁ~」

 

あくびをして眠い目をこすりながら、僕は起き上がった。

 

「んー?」

 

ふと、違和感に気づいた。

 

(いつもの感じがない)

 

先日は日付が変わる30分前まで起きていた。

時間を確認すると午前6時だ。

6時間しか寝ていないと、いつもは若干疲れが残るはずだ。

他の人はどうかは知らないが、僕の場合は魔力自体を回復しなければいけないので、少なくとも8時間は寝る必要がある。

それかになればなるほど、疲れが残っていくのだ。

だが、僕の場合はそんな感じは一切しない。

これはまるで

 

「8時間以上熟睡したみたいだ」

 

(僕の身体はどうかしてしまったのだろうか?)

 

そんな不安を抱きながら、僕は再度時計を見る。

 

「は?」

 

時計に表示された日付に、僕は目を疑った。

その日付は、マラソン大会当日を指していた。

 

「………………僕の妄想? 記憶違い?」

 

僕の記憶には確かにマラソン大会での出来事が記憶に残っている。

 

「確か、生徒会長の選手宣誓が終わった後に走り出して、それから……あれ?」

 

マラソン大会当日のことを思い出していると、なぜか記憶の方があやふやなものになっていた。

 

「………まあいいか」

 

考えても仕方がないことなので、僕はそれ以上考えるのをやめた。

そして自室を後にすると朝食を食べ、いつものように身支度を済ませると、いつものように自宅を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――を誓います」

 

太陽の光がさんさんと照りつける中、生徒会長(名前は知らない)が台に上がって右手を上げながら宣誓の言葉を告げた。

 

「それでは、よーい」

 

校長の掛け声とともに銃声が鳴り響く。

こうして、マラソン大会は幕を開けた。

 

(今回は中盤を走るか)

 

軽音部の皆と一緒に走ろうと考えたのだが、去年は先頭を走っていたがそれらしい人物の姿を見かけることがなかったのだ。

なので、今年は中盤付近を走ることにした。

ちなみに、走り出す前に探し出せばいいというのもあるが、どうせのマラソン大会だ。

人探しゲームという勝手な遊びを加えたところで罰は当たらないだろう。

 

(まあ、このマラソン自体が僕にとっては遊びだし)

 

去年も今年も、僕はそれほど力を出していない。

僕にとっては幼稚園の子供を追いかけているような感じだ。

少しばかり、窮屈な感じはするもののこれはこれで力の制御の練習になるのではないかなと考えていたりする。

 

(にしても、本当におかしいな……)

 

先ほどからどうもこの光景を見たようなことがあるような気がするのだ。

 

(っと、もう1キロか)

 

そんな違和感を感じていると、1キロ走ったのか周りを走っている生徒たちが、若干ペースダウンをし始めてきた。

だが、やっぱり軽音部の姿は見つからない。

 

(そう言えば、この辺りで梓の姿見えるんだったっけ)

 

そんなことを考えていると、本当に梓の後姿が見えた。

 

「あずに……梓ー」

 

間違えて”あずにゃん”と呼びそうになった僕は、慌てて元の呼び方に戻した。

 

「あ、浩介先輩!」

 

僕の声に気づいたのか、走る足を少しだけ緩めるとこっちの方を振り向いた。

その横に一緒に走っている二人の女子も一緒に。

 

「浩介さん、早いですね」

「それをそのまま憂達に返すよ」

 

少し走る速度を速めて彼女たちの斜め後ろにまで迫りながら、僕は憂に返した。

 

「あれ?」

 

そんな中、梓が声を漏らした。

 

「こんにちは、浩介先輩」

 

深く考えるよりも前に、両サイドに髪を束ねた女子生徒が僕に声を掛けてきた。

 

「こんにちは……えっと、沢村さんだっけ?」

「鈴木です!」

 

名前が出てこなかった僕は思いついた名前を口にすると、彼女からツッコミが入った。

 

「失礼、鈴木さんだったね。あと2年ほどは覚えておくようにするよ」

「2年って、卒業したらまた忘れるんですか?!」

 

ちゃっかり計算したのか、鈴木さんが僕に言ってきた。

 

「記憶とは移ろいゆくもの。色々な人と出会うと、関係性のない古い人物の名前は忘れる物さー」

「それって、人としてどうかと思いますよ?」

 

ジト目で僕を見つめる梓に、指摘されてしまった。

 

「まあ、冗談はともかく。ずっと覚えておく努力はするよ。さすがに忘れようとするのは失礼だし」

「お願いします」

 

項垂れるようにお願いしてきた鈴木さんの姿に、僕は何が何でも記憶にとどめておこうと決めるのであった。

 

「ところで、唯たちは見たか?」

「唯先輩ですか? 見てませんけど」

「そうか……」

 

梓の返事に、僕は顎に手を添えて考える。

 

(ここを走っていないとなると、まさか終盤の方か)

 

よくよく考えれば軽音部は一部のメンバーを除いて運動が得意そうな印象を受ける人物はいない。

一番後ろの方を走っている可能性が高かった。

 

「あの、良ければ一緒に走りませんか?」

「……鈴木さんが迷惑でなければ」

 

憂の提案に、僕は考え込みながら返した。

後ろに下がることは考えなかった。

速度をこれ以上落とすのは僕には無理だからだ。

走るのをやめて待つというのもあるが、それはそれでなんかいやだった。

 

「私は構わないですよ」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

鈴木さんが頷いたので、僕は梓達と共に走ることにした。

 

「あ、憂から聞いたんですけど浩介先輩ってギターなんですよね?」

「そうだけど、何か?」

 

走っている最中、鈴木さんから声が掛けられた。

 

「その、もしよければ私にも教えてほしいな、と」

「……? どういうことだ?」

「あ、純ちゃんはジャズ研究部でベースを担当しているんです」

 

鈴木さんの問いかけの理由がよくわからなかった僕に、憂がすかさず説明をしてくれた。

 

「なるほど。だが、ベースだったら僕ではなく澪の方が適任だろ? ギターとベースとでは若干奏法も異なってくるし」

「そうなんですけど、ジャズ研の先輩から浩介先輩のギターは格好いいって聞いたので」

 

(理由が”かっこいいから”かよ)

 

素直に喜んでいいのかわからない理由に、僕は心の中で苦笑する。

 

「まあ、考えておくよ」

「お願いします」

 

考えるとは言ったが教える可能性は限りなく0に近い。

理由としては部同士の問題だ。

軽音部とジャズ研究部はある種の競合関係……つまり、ライバルになる。

それぞれの部長が、部外者の介入を快く思うかどうの問題だ。

例えるならば、別の会社の社長が、ライバル会社の経営に介入するような感じだ。

どちらにせよ、律に話を通す必要があるが、それをする気は今の僕にはなかった。

僕をその気にさせる”何か”があれば話は別だが。

彼女には悪いが。

そんなこんなで、僕たちは走りきるのであった。

 

(でも、なんとなく見覚えがあるんだよな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、マラソンの後のお菓子は格別どすなー」

「そうですな~」

「おやじか、お前らは」

 

マラソン大会を終えた日の放課後、部室でムギの出してくれたケーキに舌鼓を打っている中、椅子にもたれかかりながら声を上げる唯と、それに乗る律に、澪がツッコみを入れた。

 

「でも、楽しかったわ」

「はい。また来年が楽しみですね」

 

とはいえ、梓とムギの二人はある意味間違っているような気がしたが。

 

「はぁ~疲れたわ」

「あ、さわちゃん」

 

そんな中、ため息交じりに入ってきた山中先生に、唯が反応した。

 

「ムギちゃん、紅茶とお菓子をお願い~」

「分かりました」

「完全にたかってる」

「というより、教師の面目丸つぶれですね」

 

ムギが席を立って紅茶とお菓子の用意をしている中、律のつぶやきに僕が続いた。

 

「だって、大変なのよ。教師というのも」

「へぇ~」

「先生ですしね」

 

山中先生の反論に、唯は分かっているのいないのか微妙な声を上げ、梓は想像がついたのか頷きながら答えた。

 

(そう言えば、この後ムギが珍しくこけてカップが僕の頭上に振ってくるんだったっけ?)

 

何となく覚えていることを思い出した僕は、”まさか”と一蹴した。

 

「浩介先輩危ないです!」

「お待たせしました。紅茶が入り―――きゃ!?」

「っと!?」

 

そんな時に掛けられた梓の警告に反応した僕は、偶々手にしていたボードを頭上に掲げる。

次の瞬間、ボードを持つ手に衝撃を感じた。

 

「だ、大丈夫かムギ?」

「わ、私は大丈夫だけど、浩介君が」

「……こっちは大丈夫だ」

 

ムギの言葉に導かれるように、全員がこっちを見るので、僕はボードを頭の方から退けて答えた。。

 

「よ、よかった……」

 

ほっと胸をなでおろす様子のムギ。

 

「僕にも、お茶のおかわりをもらえるかな? それでこの件はおしまい」

「わ、わかったわ。とびきりおいしい紅茶を淹れるわね」

 

僕は、そんなムギに紅茶のおかわりをお願いした。

 

「それにしても、よくわかったな」

「うん、あずにゃんもエスパーだと思ったよ」

 

そんな中、律の漏らした言葉に、唯も頷く。

 

「あ、いえ。その……浩介先輩にムギ先輩が紅茶をこぼすのを前にも見たような気がしたので」

「そうか? 私の記憶の限りでムギが浩介に紅茶をこぼしたことなんてなかったけど」

 

梓の発した渓谷の理由に、澪は首を貸しえながら相槌を打った。

 

「きっと私がこぼした時のだよ。あずにゃん」

「あのとき、あずにゃんはここには来てないよ」

 

唯が配膳をしたのは、新入生歓迎会の前で、梓の姿は見かけていない。

鈴木さんから聞いたのであれば話は別だが。

 

「むむむ……」

「お茶入りましたよー」

「ありがとう」

 

腕を組んで考え込む中、ムギが紅茶のおかわりが入ったティーカップを手に戻ってきた。

 

「それって、デジャブじゃないのか?」

「でじゃぶ?」

 

律の出した言葉に、唯は分からなそうに首をかしげた。

 

「見たことがない場所を見たことがあると思うことだよ。でも、本当はちゃんと見ているんだけど記憶が抜け落ちているだけらしいよ」

「へぇー、そうなんだ」

 

澪の答えに、唯は感心したように頷くとつぶやいた。

 

「あ、そう言えば浩君たちは順位はどうだったの?」

「僕はあずにゃんと同じだったと思うよ」

「浩介君はやっぱり早いんだね」

 

僕の答えに、ムギは紅茶のおかわりが入ったカップを置きながら言った。

 

「まあね」

「去年はトップでゴールしてた程よ」

 

そんな中、山中先生が、ウインクしながら人差し指を立てて補足した。

 

「あんたは化け物か!」

「あ、でも。浩君だから当然かー」

 

ツッコミを入れる律に、納得顔の唯。

 

「ずるでもしたのか?!」

「するか! 普通に走っただけだ」

 

律に掛けられたあらぬ誤解に、僕は猛反論した。

 

「そうよ。今回のコースは近道なんてないもの」

 

唯たちが示している言葉の意味を知らない山中先生は、言葉通りに受け取って僕の言葉に賛同した。

 

「あ、そうだ。走ってる時に、おいしいケーキ屋さんがあったんだよー」

 

ふと唯が話題を変えたことで、話はケーキ屋のこととなった。

 

「やっぱり、今日も練習は無しですか」

「あはは……明日は大丈夫だと思うよ……たぶん」

 

肩を落としている梓に、僕は苦笑しながらそうフォローの声を掛けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お風呂も入って、予習復習もできたし、今日は早く寝るか~」

 

時刻は夜の9時30分。

やることをすべて終えた僕は、自室に入って腕を伸ばしながらつぶやいた。

 

「って、そう言えばあったね。やること」

 

そんな僕の視線の片隅に見えた段ボール箱に、先ほどまで上げていた腕を力なく降ろしながらつぶやいた。

それは魔法連盟での僕の仕事用の書類が入ったものだ。

 

「やれやれ、起訴か不起訴かを決めるのも大変だよ……」

 

ため息交じりに呟きながら、僕は段ボール箱の中からファイルを10個程度取り出した。

本当は500ほどあったが、これまでにコツコツやって終わらせたのだ。

それの提出期限は今日の23時59分59秒までだ。

だからこそ急いでやらなければならない。

 

「一つ10分以内に終わらせれば間に合うか」

 

ファイルの内容は数百ページにも及ぶが、何とかなるだろう。

……たぶん。

僕は、できる限り急いで仕事に取り組むのであった。

そして、二時間後の11時30分。

 

「終わったー!」

 

何とか仕事を終わらせることができた僕は、固まった筋肉をほぐしながら仕事を終えた解放感に浸っていた。

 

「さて、この書類を段ボールに詰めて……」

 

僕は段ボールの箱に10このファイルを詰めるとテープで閉じた。

 

「後は、転送システムで送ればいいだけ」

 

右腕を前方に掲げ、手を開くようなしぐさをしてホロウィンドウを展開させる。

そして『転送』の項目に手を触れると、目の前の段ボール箱が光りだし大きく光を放った。

光が薄まると、目の前の段ボール箱は跡形もなく無くなっていた。

 

(にしても、本当に僕がうっすらと覚えていることとそっくりな一日だった)

 

今日一日は、まるで同じ日を体験しているのではないかと思うほど記憶していることと似ていた。

とはいえ、しっかりと覚えているのではないため、おぼろげになっているが。

 

「既視感か……」

 

本当にそういう類のモノなのだろうか?

 

「……とにかく寝よう。明日に響くし」

 

僕はそうつぶやくと、部屋の明かりを消してベッドに潜り込んで目を閉じた。

悩んでいても始まらないし、何より確証がない。

そして意識が闇の中へと沈んでいくのであった。

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