けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。

第68話になります。


第68話 軋み

「よし、到着~」

 

学校を後にし、歩くこと数十分。

ようやく目的の楽器店『10GIA』にたどり着いた。

 

「それじゃ、私はここで待ってるよ」

「……? どうしてですか?」

 

外で待つと口にする澪に、梓は首をかしげながら尋ねた。

 

「右利き用の楽器を見ても悲しくなるだけだから」

「………」

 

哀愁を漂わせて答える澪に、梓もまた哀愁を漂わせる。

そんな澪に、律が一言

 

「お、今レフティーフェアをやっているみたいだぞ」

「え!?」

 

と告げると、澪は驚きに目を見開かせた。

 

「だから、一緒に行こうぜ」

「おー!」

 

先ほどまでの哀愁はなんだったのか、先ほどとは打って変わった様子の澪に、僕は苦笑するしかなかった。

そして、店内のレフティー用のベースが置かれているブースの前に向かった。

 

「………」

 

澪の前には複数のレフティー用のベースが展示されていた。

それを前にして、澪は固まっていた。

 

「こ、ここは天国ですか!?」

 

そして突然意味の分からないことを叫びだした。

 

「~~~~~っ! 店員さん、ここにあるギター全部ください!」

「こら、落ち着け」

 

嬉しいのか楽器をまとめ買いしようとしている澪を律が必死に落ち着かせた。

 

「……私たちは先に行きましょうか」

「うん」

 

そんな澪の様子をしり目に、僕たちはメンテナンスをお願いすることにした。

 

 

 

 

 

「あのすみません」

「はい。なんでしょうか?」

 

カウンターで梓が声を掛けると、眼鏡をかけた男の人が応対した。

 

「ギターの調節をしてもらいたいんですが」

「はい。それで調整するのはどちらのギターですか?」

「こちらです」

 

店員の問いかけに、梓は唯にギターケースを渡すように促した。

 

「これです」

 

唯がカウンターにギターケースを置いた。

 

「それでは、ちょっと見せてもらいますね」

 

そう言って、店員はケースを開けてギターを見えるようにした。

 

「う゛ッ!?」

 

それを見た店員の表情がこわばった。

ボディは汚れ、弦が錆びているという状態に、店員が口にした言葉は

 

「これ、ビンテージギターですか?」

 

だった。

 

「違います」

「ただ汚いだけです」

 

きっぱりと答えた僕と梓は、恥ずかしさでいっぱいだった。

自分のギターではないのに。

一方、そんなギターの持ち主はというと

 

「まだ使ってから一年です!」

「威張るなっ」

 

胸を張っていた。

まるですごいだろと言わんばかりに。

まあ、ある意味すごいことではあるけど。

 

「そ、それでは終わるまで店内でお待ちください」

「よろしくお願いします」

 

気まずそうに、促す店員に、梓は恥ずかしさのあまりに小さくなりながらも返事を返した。

 

「それじゃ、終わるまでどこかで見てましょうか? ……唯先輩?」

 

梓の呼びかけに答えず、梓はじっと店員の作業の様子を観察していた。

今は、錆びた弦をすべて切っている工程だ。

 

「あぁ、私のギターが丸裸にされて行く」

「何を言ってるんだ?」

 

目を潤ませながら嘆くようにつぶやく唯に、僕は目を細めながらツッコんだ。

 

「それにしても、どうして唯先輩はあのギターを選んだんですか?」

「え?」

 

そんな中、梓は疑問だったようで、ギターを選んだ理由を唯に訊いていた。

確かに、レスポールは重く、ネックも太くて癖が強い。

初心者向きではないとまでは言わないが、僕も唯がこのギターを選んだ理由が気になっていたので、聞いてみることにした。

 

「だって、可愛いから」

「「……………」」

 

自信満々に唯が答えた理由に、僕たちは唖然としていた。

 

「可愛い?」

「うん。可愛いからだよ」

 

聞き間違いだと思ったのか、目を瞬かせながら聞きかえした梓に、唯は再度同じ答えを返した。

見れば、店員も固まっていた。

(あれを可愛いと表現する唯の感覚がわからない)

せいぜい、かっこいいからだろと心の中でツッコみを入れる。

「え? 可愛いよね? 浩君」

「ま、まあ。センスは人それぞれだし」

「私の言葉を取らないでください」

そんな梓の言葉をスルーしつつ、僕たちは律が待つところへと戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

「お待たせしました。メンテナンスの方を頼んできました」

 

離れたところで待っていた律たちの元に戻りながら、梓が声を掛けた。

 

「あれ、澪は?」

「あー、あいつならまだトリップ中だ」

 

澪の姿がないのに気付いた僕が疑問を投げかけると、律が苦笑しながら答えた。

どうやらまだベースの方を見ているようだ。

 

(しばらくそっとしておこう)

 

僕はとりあえずそう決めるのであった。

 

「紬お嬢様!」

「紬お嬢様!」

 

そんな中、ムギの姿を見かけた店員の二人がムギに声を掛けた。

 

「え? え?」

 

事態が呑み込めない梓達に、僕は小さな声で説明することにした。

 

「この楽器店、ムギの家……琴吹家の系列の楽器店なんだよ」

「そうだったんですか」

「びっくりしたー」

 

僕の説明に、納得する梓に、息をつく唯。

まあ、これが唯たちならではの反応だろう。

 

「でも、どうして浩介がそんなことを知ってるんだよ?」

「調べたから」

 

律の疑問に、僕は簡潔に答えた。

 

「調べたって……」

「気になったから、ちょっとね」

「どうやって調べたんですか?」

 

非常識だとは思ったが、気になったため調査を頼んだのだが、梓はその方法を聞き出そうとしてきた。

 

「申し訳ないけど、それは機密事項だから言えない。まあ、知ったからどうこうするわけじゃないし、危害を加えるつもりはないから安心して」

「だったら、良いんだけどな。あんまり、そういうのはしない方がいいぞー」

 

律から忠告されてしまった。

確かに友人のことを調べるのはあまり気分がよくないだろう。

 

(まあ、ムギは知らない方がいいかもな)

 

ムギは一歩間違えれば僕の敵となるような立ち位置にいる。

その所以が、高月家の特性だ。

高月家は魔法使いに対して絶対の力を持つ。

それは、魔法使いを魔法使いでがなくする力。

僕はそれを”破門魔法”と呼んでいる。

魔法使い不適格者に行われる魔法だ。

それと似た行為が、”破門”だ。

これは魔法使いはもちろん、大金持ちの家系にも適用される。

ある条件に一致すれば、それが行われるようになる。

そして、それにふさわしい家系を見極め、執行するのが僕の役目だった。

これまで、数えきれない家系をこの手で破門にしてきた。

そう言った家系に一致しているのは、横領やら詐欺などの犯罪行為を息を吸うみたいに行っていることだろう。

ちなみに、破門された家の者は、一文無しになる。

全ての財産や土地すべてを没収する。

人権を無視した裁きなのだ。

そして、それはここでも適用される。

何せ、僕がここにいるのだから。

 

(まあ、調べた結果琴吹家は優良中の優良家系だったから。そんなことはしなくて済みそうだけど)

 

今後一生、ムギの家の破門だけはしたくないなと、心の中でつぶやいた。

閑話休題。

 

「お待たせしました」

 

待っている僕たちの下に、先ほど応対した店員が姿を現した。

その手には新品同様の輝きを発しているレスポールがあった。

 

「お、きれいになったな」

「これからはちゃんとこまめにメンテナンスを――「ギー太!」――……」

 

(な、名前まで付けてたんだ)

 

ギターの名前を叫びながら店員からギターを半ばひったくるように受け取る唯の感覚には、僕でさえ舌を巻く勢いだ。

とはいえ、僕も杖に名前を付けているわけだが。

確実にそれとは話が違うだろう。

 

【クー子なんて呼んだら、怒りますよ?】

【呼ばないからっ】

 

念話で釘をさすクリエイトに、僕は素早く答えた。

呼んでいる自分が想像できないし、読んだら確実に地獄を見るのは明らかだ。

 

「ありがとうございます!」

「い、いえ。お代は五千円になります」

 

店員が請求金額を告げた。

その瞬間に、唯の動きが止まった。

 

「お金とるの?」

「いや、当たり前じゃないですか」

「ボランティア活動じゃないんだから、取るに決まってるでしょ」

 

唯の当たり前にも思える疑問に、答える梓に続いて僕も答えた。

その時、なんとなく嫌な予感がした。

 

「……お金持ってない。どうしよう」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

予感というのは当たる物だ。

唯の衝撃の発言に、僕たちは言葉を失った。

店員もまさかそうなるとは思っていなかったのか、完全に固まっていた。

 

「どうかしたの?」

 

そんな時、僕たちの様子に気が付いたムギが近づきながら声を掛けてきた。

 

「それが、唯先輩メンテナンスにお金がかかることを知らなくて」

「え、そうなの? 大変……手持ちあったかしら」

 

まるで自分のことのように、鞄の中を探すムギ。

そんなムギの様子を見た先ほどまで声を掛けていた店員が、慌てた様子で声を上げる。

 

「お、お嬢様! 代金の方は結構ですので!」

「え、でも悪いわ」

「いいえ! お父様には日ごろからお世話になっていますから、サービスということで結構です」

「でも……」

 

慌ててただにしようとする店員と、お金を払おうとするムギの押し問答という不思議な光景が繰り広げられてしまった。

結局、ムギが押し切られる形となり、メンテナンス代はタダとなった。

 

(あの店員の給料の方が心配だ)

 

僕は店員の給料がどうなるかが不安で仕方がなかった。

 

 

 

 

 

「よし、メンテナンスも終わったし、帰るか」

『はーい』

 

律の提案に、みんなが返事をすることで頷いた。

 

「って、あの澪先輩は?」

「あー、呼んでくるわ」

 

そう言って律は未だにベースの前を陣取っている澪の方へと向かった。

そして残った僕たちは、ギターのメンテナンスに関しては無しをしていることにしたのだが、微妙に律たちのことが気になった。

律は澪の襟首をつかんで、強引にこっちに連れて来ようとしたが手が滑ったのか鈍い音と共に、澪がしりもちをついた。

 

「―――――――――――」

「もういいよ! ――――――」

 

二人がどんなやり取りをしたのかは断片的にしか聞こえなかったが、何となく聞こえたような気がした。

歯車が軋むようなそんな音を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後6時を告げる鐘が鳴り響く中、僕たちは楽器店の前にいた。

 

「はぁー、ギー太がきれいになって良かった~」

「名前着けてたんだな」

 

ギターに名前を付けていた唯に、澪が苦笑しながらつぶやいた。

 

「この後どうする?」

「よし! お茶でも飲みに行くか!」

「またお茶ですか?」

 

ムギの問いかけに答える律の言葉に、梓はあきれた様子で肩を落とした。

 

「あ、ごめん。私この後、和ちゃんと会う約束があるんだー」

「えー。それじゃみ―――」

 

唯の言葉に、不満げに目を細める律が何かを言いかけた時だった。

 

「え、和も来るの? 私も一緒に行っていいかな?」

「え……」

 

澪が唯に尋ねた。

 

「あ、そうか。澪ちゃん和ちゃんと同じクラスだったんだっけ。いいよー」

「やった」

 

一緒に行くことにOKされた澪は、嬉しそうに笑った。

だが、僕は聞き逃さなかった。

一瞬、律の口から寂しそうな声が漏れたことを。

一瞬ではあるが、澪の名前を口にしようとしていたことを。

そして、澪と唯は真鍋さんと待ち合わせているであろう場所へと向かっていく。

 

「みんな、後をつけるぞ」

「え? どうしてそんなことをする必要が――「いいからいいからー」――あ、律先輩」

 

律の言葉に、梓が疑問の声を投げかけるがそれを無視して律が歩き出してしまった。

 

「浩介先輩」

「…………」

 

僕は首を横に振って律の後に続く。

 

「三人とも、遅いぞー」

「………」

 

律から促されるまま、僕は律の方へと向かう。

それは、はっきり聞こえたからだ。

さらに歯車が軋んでいく音を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやってきたのは、とあるこじゃれた喫茶店。

僕たちはそこの澪たちが腰かけた席の斜め後ろ側に座っていた。

 

「っち、なんだかいい雰囲気」

 

顔を隠しているつもりなのか、メニュー表を手にしている律がつまらなさそうに声を上げた。

 

「って、言うよりどうしてこんなにこそこそと。浩介先輩も食べてないで何とか言ってください」

「あー、このチーズケーキは美味しいなー」

 

梓の訴えを完全に無視した僕は、頼んでおいたチーズケーキセットに舌鼓を打つ。

 

「ふふ。何だか探偵みたい」

『………』

 

そんな中、面白そうに声を上げるムギに、一瞬僕たちの間で沈黙が走った。

 

「よし、突入しよう」

 

そう口にした律は、澪たちのいる席の方に乱入した。

そして強引に話に加わる律。

”何を頼んでるのー?”などの陽気な声が聞こえる。

 

「律ちゃん……アイス溶けちゃうのに」

 

その言葉で、僕は律が座っていた席を見る。

そこにはアイスとケーキという若干統一性がないような気もするデザートにも、手を付けずに置かれていた。

僕にはなんとなくわかる。

彼女の心の中は、陽気さとは真逆の状態にあるということを。

 

「はぁ……」

 

それを目にした僕は、ため息をつくことしかできなかった。

それは自分の無力さに対する物なのか、いらだちによるものかはわからない。

 

(できれば、占い通りのことは起こらないでほしいんだけどね)

 

そんな僕の願いもむなしく、占い通りの……一番僕が危惧していた事態が発生したのは、それから間もない日のことだった。

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