けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。

中盤のほうから魔法要素がありますので、苦手な方はご注意ください。
今回で本章は完結となります。


第77話 熱

「無断欠席……か」

 

放課後、2年1組の教室で、顎に手を当てながらつぶやく俺。

名は佐久間慶介。

自称、浩介の大親友SA!

別にサービスエリアの略ではない。

 

(いや、そんなことはどうでもいい)

 

どうも演技が度を過ぎることがよくある。

そのせいで浩介には非常に手堅い仕打ちを受けてしまうのだが。

俺がおかしく感じているのは、今名前が出た”浩介”についてだ。

本名は高月浩介。

女子9割で構成された部『軽音楽部』に所属する何ともうらやましいハーレム魔だ。

特に本人にその自覚がないことが腹立たしい。

それはのちに追及することにして、俺が一番疑問を感じているのは今日学校を休んだことだ。

浩介はこれまで学校を欠席したことはない。

それが今回は初めての無断欠席なのだ。

理由は分からない。

俺への連絡がないのだ。

 

(そう言えば、連絡先も知らねえ!?)

 

今更気づいた衝撃の事実に、俺は頭を抱えたくなってしまった。

 

(またまた軽音部がらみか?)

 

本当に不運な目に合う部活だなと俺は心の中でつぶやく。

 

「とりあえず、行くか」

 

俺は事の真相を確かめるべく、再び軽音楽部の部室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

「あれ? 佐久間君?」

 

部室を訪れると、何故だかおいしそうなお菓子がテーブルの上に広がっていた。

 

(まるでローマの休日だな)

 

ここは一体何部だろうと思うが、それはひとまず置いておくことにした。

 

「どうしたんですか? 佐久間先輩」

「浩介のことなんだけど」

 

先輩と言われた悦びに悶えそうになるのを必死にこらえた俺は、用件を切り出す。

 

「浩君はまだ来てないよ」

「いや、同じクラスだから知ってるって」

 

首を少し傾げながら答える平沢さんに、俺は冷静にツッコんだ。

 

「え、同じクラスだったんだ」

 

(あいつ、本当に何も言わなかったんだな)

 

俺のことは軽音部とは関係がないので、言わないかと思ったが本当に言っていなかったことに少しショックを受けた。

 

「浩介がどうして来てないのか、事情を知らないか?」

「あ、それなら……たぶん風邪を……ひいたからだと……思う」

 

俺の疑問に、秋山さんが非常に素晴らしい答えを口にしてくれた。

 

(にしても、俺ってそこまで怖がられているのか?)

 

視線をあちらこちらに忙しなく向ける秋山さんの様子に、俺はこれはまた別の意味でショックを受けていた。

 

「風邪か……ということは昨日のライブの後に体調を崩したのか」

「え? ライブに来てくれたの!?」

 

俺の言葉に、平沢さんが目を輝かせる。

 

「あ、ああ」

「どうだった? どうだった?」

 

興味津々と言った様子で聞いてくる平沢さんの姿に、俺は浩介のことがある意味憎らしく思ってしまった。

 

「そうだな。さすがは日本の誇るプロのバンドと言った感じだったな。曲は知らなかったけど、すぐに引き込まれた」

「は? 何を言ってるんだ?」

 

俺の感想に、田井中さんが訝しむように俺を見ながら声を上げた。

 

「いや、だからライブの感想だが」

「私たちプロじゃないし」

 

どうやら、俺と田井中さんの間で間違いが起こっているようだ。

 

「俺は昨日のH&Pのライブのことを言ってるんだけど」

「あ、そうだったのか」

「でも、どうして佐久間先輩がライブに? 当日のチケットは完売でしたけど」

 

中野さんの疑問も当然だ。

聞いてみれば当日のチケットは完売していたらしい。

 

「浩介に渡されたのさ。色々あってそのお礼だとさ」

「へー、良いな~」

 

平沢さんがうらやましそうに唇に人差し指を加えながらつぶやいた。

 

「やっぱり浩介の演奏は凄まじかった」

「は? 今なんて言った?」

 

俺の言葉に、田井中さんだけでなく軽音部のメンバー全員が反応した。

 

「だから、昨日のH&Pでの浩介の演奏は凄まじかったって言ったんだけど」

「な、なに!?」

 

大きな声を上げて立ち上がったのは秋山さんだった。

 

(び、びっくりした)

 

いきなり大声を出されたため、俺は驚きを隠すのに必死だった。

 

「具合が悪いのに無理をしたらっ!」

「あ、待って澪ちゃん!」

「澪先輩、待ってください!」

 

秋山さんが突然部室を出て行く。

それに続いて部員が全員去っていった。

 

「……………俺、どうすんだよ?」

 

取り残された俺は、誰もいない部室でそうつぶやくのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

高月家、玄関。

床に倒れる浩介を見下ろしている、一人の少女がいた。

 

「いきなり月見草を送らせるなんて、何かあったと思ってきてみたら、本当に起こってるなんて」

 

少女は、心配を通り越し呆れた様な表情を浮かべていた

 

「意識を失っているだけだけど、このままだとまずいわね。早く調合しないと」

 

少女の手には草のようなものがあった。

それこそが、魔界での万能薬とも言われる”月見草”だった。

これを調合して液体状にして患者に飲ませることで効果を発する。

調合自体は非常に簡単だ。

必要なのはすり鉢と水のみ。

だが、それには患者それぞれに見合った調合比率にしなければならない。

少しでも間違えれば効果を発揮しないため、調合は医師が行うのだ。

だが、少女や浩介本人はその調合を簡単にすることができるため、医師に行わせる必要はないのだ。

少女は足早にキッチンに向かうと若干慌てた手つきではあるが、すり鉢で月見草をすりつぶしていく。

すりつぶした月見草を、ビーカーに入れそこに水を注ぐ。

 

(よし、このくらいでいいかな)

 

調合を終えた薬を、急須に移し替える。

 

「後は、これを飲ませる―――――ッ!」

 

次の手順に入ろうとしたところで、少女は顔を上げた。

 

「人の気配……誰かがここに来るわとりあえず隠れましょう」

 

気配を悟った少女は、慌ててリビングのテーブルの上に薬の入った急須を置くと、人目につかない陰に身をひそめる。

 

 

 

 

 

時同じくして、高月家前。

 

「澪ちゃん……どうしたの?」

「考えなくても、浩介が来ないのはおかしいだろ」

 

唯の問いかけに、澪は息を整えてから口を開いた。

 

「でも、風邪なんだからそうなんじゃないの? まあ、それでライブに出るのも問題だけど」

「だったら、同じクラスにいる彼が、来るのは変だろ。理由を知っているのであれば、来る必要はないのに」

「なるほど……確かにそうですね」

 

澪の推測に、梓が頷いた。

通常、前もって欠席を伝えられていれば担任は出席の際に有無も言わさずにすぐに欠席とする。

だが、無断の場合は出席の際に少しだけではあるが欠席と判断されるまでに時間がかかるのだ。

 

「それに、昨日は倒れるほどひどい状態だった。そんな状態でライブをした」

「そして、無断欠席……ま、まさか!?」

 

澪の言葉で、ようやく答えにたどり着いた梓は目を見開かせて澪の顔を見た。

 

「え? どういうこと?」

「つまりですね、浩介先輩は、欠席を伝えることができない状態に陥っているっていうことです!」

 

理解が追い付いていない唯に、梓が説明した。

 

「………と、とりあえず中に入って様子を確認しよう」

「そ、そうね。それが一番よね」

 

律の提案に、ムギも頷いた。

この時、彼女たちはチャイムを鳴らすということを完全に忘れていた。

 

「あれ、開いてる」

 

ドアの取っ手をひいたところで、玄関のドアが開いた。

 

「お邪魔しま……って、浩介!」

「浩介先輩!」

 

ドアを開けた彼女たちの目の前に飛び込んできたのは、うつ伏せに床で倒れている浩介の姿だった。

慌てて靴を脱いだ彼女たちは、浩介の下に駆け寄る。

 

「浩介! しっかりしろ!」

「―――――――――」

 

澪の呼びかけに、浩介は反応を示さない。

 

「熱っ!!」

 

浩介の体に触れた律は、そのあまりの熱さに驚きの声を上げながら手を引っ込めた。

 

「浩君! 浩君! 死んじゃ嫌だよ!」

「澪! 救急車!」

「あ、うん!」

 

涙を流しながら浩介に呼びかける唯をしり目に、律の言葉に慌てて携帯電話を取り出した澪は救急車を呼ぼうとする。

そんな時、奥の方で大きな音が響き渡った。

 

「な、何?」

「ど、泥棒?」

 

突然の物音に、全員の手が止まった。

 

「ぁ………」

 

その時、澪の手から携帯電話が落ちた。

 

「澪先輩?」

「どうしたの? 澪ちゃん?」

 

澪の異変に、梓達が心配げに声を掛けるが、それを無視して澪は音のした方へと歩いていく。

 

「澪、勝手に行くのはまずいって! って、力強っ!」

 

必死に止めようとする律の手を振り払って、澪は進んでいく。

やがて、澪が立ち止ったのはリビングのテーブルの前だった。

 

「こ、これはすごいわね」

「ひどいです」

 

地面に散らばった鍋などの調理器具に、梓達は顔をしかめた。

 

「これ」

「え?」

 

そんな異常な光景を気にも留めない澪は、テーブルの上に置いてある急須を手にした。

 

「この中に薬が入ってる」

「ど、どういうことですか? 澪先輩」

「って、言うか。どうして薬が入っているって言えるんだよ?」

 

澪の不自然な言動に、梓達は怪訝な表情を浮かべる。

 

「って、スルーですかい!」

 

そんな梓達を無視して元来た道を戻る澪に、振り回される形で律たちは移動する。

 

「どいて」

「澪……ヒック……ちゃん?」

 

嗚咽交じりに、澪の名前を口にする唯に澪は再度口を開く。

 

「浩介を助けたいのなら、すぐに退いて」

「え、う、うん」

 

澪から放たれるオーラのようなものに、唯は条件反射にも近い形で浩介から離れた。

それを確認した澪は、浩介の傍らに座ると、手にしていた急須の口を浩介の口に半ば強引に入れる。

 

「み、澪。一体何をやってるんだよ!」

「治療」

 

律の怒鳴り声にも近い問いかけに、澪は簡潔に答えた。

 

「これで、浩介は治る。これはそういう病気だから」

「一体どういうことなんだよ? というか、どうして澪がそんなことを知ってるんだ?」

 

疑いの目で澪を見ながら問いただす律に、澪は不敵な笑みを浮かべる。

 

「それは、今のあなたたちが知らなくてもいいことよ」

「は? いきなり何を言ってるんだよ?!」

 

突然口調を変えた澪に、律が慌てながら澪に声を掛ける。

だが、それに応じることはなく、澪の身体はまるで糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 

「み、澪!?」

「澪先輩!?」

「澪ちゃん!?」

 

突然崩れ落ちる澪に、慌てた様子で律たちが呼びかける。

 

「ぅ…………あれ?」

 

律たちの呼びかけに反応するように目を開けた澪は、首をかしげながら立ち上がる。

 

「どうして私は倒れてるんだ?」

「何も覚えてないんですか?」

 

疑問を口にする澪に梓が控えめに尋ねる。

 

「うーん……」

 

だが、その問いかけに、澪は首をかしげるだけだった。

 

「はっ! まさか、浩介の幽霊が澪に乗り移って――――」

「縁起でもないことを言わないでください!」

 

閃いた様子で口を開く律に、梓が大きな声で叫んだ。

 

「ぅ……ん」

「へ?」

 

そんな時、今まで無反応だった浩介がうめき声をあげた。

 

「浩介先輩!?」

「浩君?!」

 

再び浩介に声を掛ける梓達だったが、目を覚ます様子はなかった。

 

「とりあえず、部屋まで運ばないか?」

「え? でも、救急車は?」

 

律の提案に、澪は若干驚いた様子で聞いた。

 

「澪がそれで浩介に薬を飲ましたからいいんじゃないのか?」

「え? 私が?」

「本当に何も覚えていないんだ」

 

首をかしげて信じられないと言わんばかりにつぶやく澪に、律は目を細めながら口を開いた。

 

「それで、浩介の部屋ってどこ?」

「あ……」

「こうなったら探検よ!」

「って、ムギ先輩?!」

 

澪の問いかけに固まる律をよそに、探検と称して家の中をくまなく探しだすムギに慌てて梓が続いた。

浩介の部屋はいとも簡単に見つかった。

だが、そこには問題があった。

 

「2階か……」

「私たちじゃ無理ですね」

 

それが、浩介の部屋の場所だ。

浩介の部屋は2階にある。

つまり、浩介を担いで階段を上る必要があるのだ。

だが、普通の女子にそのようなことができるはずもなく、唯たちは再び壁にぶち当たった。

 

「ならば、俺が運ぶぜ!」

『きゃあ!?』

 

突然彼女たちの背後から名乗りを上げる人物に、唯たちは飛び上がった。

 

「な、なんだ。佐久間か」

「び、びっくりした」

 

突然現れた佐久間に、律たちは落ち着くように深呼吸をした。

 

「それにしても、一体いつの間に」

「そんなことより、早く案内してくれよ。運ぶから」

「わ、分かったわ」

 

澪の疑問を躱すように急かされたムギは、慌てて浩介の部屋へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか運べた」

 

浩介の部屋まで運び終えた唯たちは、浩介をベッドに横たえると、布団をかけた。

 

「ありがとな、佐久……って、いないっ!?」

 

お礼を言いながら、佐久間の立っている方を見た律が驚きの声を上げた。

 

「本当だわ」

「な、なんだか今日は変なことが起きますよね。澪先輩や佐久間先輩とか」

 

だから、さっきから聞いているんだけど私が一体どうしたんだ?佐久間がいないことに驚きながらも不気味そうに言う梓に、澪は不思議そうな表情を浮かべながら問いかけた

 

「って、もう下校時刻ギリギリ!?」

「あ、そう言えば荷物全部置きっぱなしだった!」

 

浩介の部屋に置かれていた時計が示していた時刻に、律が大きな声を上げるとそれに澪が続いた。

 

「急いで取りに戻らないとっ」

「唯は浩介を見ててくれ! 目を覚ましてもどこかに行かないように!」

「了解であります!」

 

全員は慌ただしく浩介の部屋を去っていくと、高月家を後にするのであった。

 

 

 

 

 

「何とかなったようね」

 

その様子を家の屋根に腰掛けて見下ろしている少女は静かにつぶやいた。

 

「ここにきて完全複製(パーフェクトコピー)を行うことになるとはね」

 

高月家で起きた様々な怪奇現象は、すべてこの少女によるものだった。

最初に行ったのは食器棚の崩壊。

それによって、全員をリビングの方へと集めさせた。

 

(兄さんが病院で検査されるのは、少々分が悪い)

 

浩介の肉体は普通の人間と大差がない。

だが、問題は治療方法にあった。

どのような薬を投与しようとも、手術をしようとも無力症候群は根治できない。

根治には月見草の投与が必要になる。

だからこそ、救急車を呼ぼうとするのを妨害するために、打った次の手が任意の人物を操り、薬を飲まさせることだった。

それが澪だった。

そこまでは彼女の計画通りだった。

 

「でも、まさか部屋に運ぶ人員不足までは頭が回らなかったかな」

 

ただ、あるとすれば浩介を彼女たちが運ぶことができないことまで、考えていなかったことだった。

 

「彼女たちの記憶の中で一番新しい適材の人物を割り出して演じるのはかなり大変だった」

 

対応策で出てきたのが、全員に共通する人物に完全模倣(パーフェクト・コピー)で変装をすることだった。

とはいえ、しっかりとした情報が揃っていない状態での変装だったので、少女は早々にその場を立ち去る必要があった。

それが高月家で唯たちが体験した怪奇現象の正体だった。

 

「……さて、帰りましょうか」

 

少女は立ち上がると静かに呟いた。

それから数秒後、少女の姿は消えた。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「ん……」

 

ふと目が覚めると、僕はなぜかベッドの上で寝ていた。

 

(おかしいな。確か僕は玄関で倒れていたはずだけど)

 

記憶はしっかりと覚えている。

無理をしてライブに出てしまった僕は、玄関で力尽きたのだ。

正直、今回ばかりはまずいと思ったが何とかこうして生き延びたようだ。

 

「浩君」

「ゆ…い?」

 

ふと聞こえてきた声に、僕は未だに怠い体を動かして、声の方へと視線を向けた。

そこには椅子に腰かけ、嬉しそうな表情を浮かべている唯の姿があった。

 

「良かった。目が覚めたんだね」

「ああ……何だか迷惑を掛けちゃったみたいだね」

 

本当に安心した様子で声を上げる唯に、僕はそう返した。

ここにいて僕がこうなっているということは、誤魔化しても無駄なことだというのは分かっていた。

 

「そうだよ! 無理してライブに出るなんて。澪ちゃんたち心配してたよ」

「そうか……それは悪いことをしちゃったな。後で謝らないと」

 

唯の呆れたような言葉に、僕は後悔の念を感じていた。

それは何に対してだろうか?

みんなに迷惑をかけたこと?

それとも……

 

「ねえ浩君」

 

そんな僕の考えを止めたのは、唯が僕を呼ぶ声だった。

 

「私ね、ライブの前の日に夢を見たの」

「へぇ、どんな?」

 

僕は唯に先を促す。

 

「浩君が私の部屋に来て、風邪を治してくれる夢」

「……」

 

それは紛れもなく、僕が実際にしたことだった。

 

「浩君が、倒れたのって、私から――「違うっ!」――え……」

 

僕は気が付くと大声で反論していた。

ただ、唯の悲しげな声を聞くのが嫌だったから。

 

「僕のこれと、唯の風邪とは全く関係はないよ。日ごろの不摂生が祟っただけ」

「でも……」

 

僕の言葉に納得ができないのか、唯はなおも食い下がる。

 

「僕が唯の部屋に訪れたという証拠もないし、僕のこれが唯のせいだという証拠もない。唯が気に病む必要は一つもないんだ」

「浩君……」

 

(らしくないことを言ったな)

 

本気で今日の僕は僕らしくない。

 

「納得したのなら、この話はおしまい。いいね?」

「……うん」

 

僕の問いかけに、唯はしぶしぶではあったが頷きながら答えた。

 

「それにしても、よく手当てができたよな。薬を飲ませてくれたんだよね?」

 

今のところ症状は良くなっているようなので、おそらくは唯たちの方で適切な処置を施してくれたのかもしれない。

 

「ううん。私じゃなくて澪ちゃんが気絶している浩君に急須で飲ませてたよ」

「急須で?」

 

唯の言葉に、僕は引っかかりを覚えた。

 

(急須ということは、調合が終わっていたということか? 唯たちが調合を? いや、それはない。彼女たちは比率を知らない)

 

月見草の調合比率は、正確にしなければ効果を発揮しないため、かなり調合が難しい薬草だ。

 

「どうかした?」

「いや、なんでもないよ」

 

とりあえずこの件は、追及しない方が無難そうだ。

もしかしたら”あいつ”につながるかもしれないし。

 

「あ、タオル変えるね」

「あ、ああ」

 

今気が付いたが、僕の額には濡れタオルが置いてあった。

それを唯は手にすると、どこから持ってきたのか水が張ってある洗面器に入れて絞ると僕の額に乗せた。

 

「まるで夢でも見ているようだ」

「え? 何が?」

 

僕がふと漏らした言葉に、唯は僕の顔を覗き込みながら聞いてきた。

 

「唯に看病される日が来ることになるとは。本当に夢みたい」

「私も、やればできる子なんだよ~」

「言えてる」

 

明るく言う唯に、僕が相槌を打つと自然と笑みがあふれ出た。

 

「ありがとう、唯」

「ううん。私の方もありがとうね」

「唯にお礼を言われる理由は見当たらないけど、素直に受け取っておくよ」

 

唯のお礼の言葉を僕は、素直に受け取ることにした。

もしかしたら唯には色々な意味を込めてお礼を言ってきたのかもしれない。

 

「…………っ」

 

そんな時、柔らい笑みを浮かべている唯を見ていると鼓動が強くなったような気がした。

 

「どうしたの?」

「い、いや。なんでもない」

 

首をかしげながら聞いてくる唯に、僕は慌てて答えた。

 

(今日の僕は何かがおかしい)

 

唯を見ていると心臓がバクバクいう。

これはきっと熱があるからに違いない。

 

「唯ー、浩介は目が……覚めてる」

 

そんな変な雰囲気を打ち破ったのは、部屋に入ってきた律だった。

 

「浩介先輩!」

「浩介君!」

 

そして一気になだれ込んでくる梓とムギたち。

 

「大丈夫ですか?!」

「具合とかはどう?」

「大丈夫だから。だから揺らすのはやめて」

 

どこにそのような力があるのかはわからないが、力いっぱいに体を揺らしながら聞いてくる梓に僕は必死にお願いした。

 

「まったく、具合悪いのにどうしてライブに出るかな、本当に」

「そうだぞ。私たちがどれほど心配したと思ってるんだ!」

 

その後、律や澪たちからお説教をされたのは、言うまでもないだろう。

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