けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。
第79話です。

ついに黒幕が登場します。


それでは、これにて失礼します。


第79話 渦巻く悪意

翌日、通学路でばったりと唯たちと鉢合わせになった。

 

「おはようございます、浩介さん」

「おはよう、憂。それと唯も」

「お、おはよう浩君」

 

どこかよそよそしげに挨拶をしてくる唯に、僕はため息を一つつく。

 

「まだあの脅迫状を気にしてるのか?」

「……」

 

唯は何も答えなかったが、それがすべてを物語っているような気がした。

 

「いいか? あんな脅迫状如きにこっちがおびえたりする必要はない。こちらは何も悪いことをしてないんだから」

「そうだよ! お姉ちゃんは悪くないよ!」

 

僕の言葉に、憂も賛同してくれた。

 

「憂……浩君」

 

目を潤ませながら僕たちの方を見てくる唯に、僕と憂は頷く。

 

「分かった♪」

「だからって、腕を組めと言った覚えはないっ!」

「えへへ~」

 

先ほどまでの落ち込みはどこへやら……満面の笑みで僕の腕に自分の腕を組んできた。

 

「というより、歩きづらいのでほどいてもらえません?」

「いやっ♪」

 

結局、僕は校門のところまで腕を組んで登校する羽目になった。

だが、それでもいいと思った。

 

「おやおや~、お二人さんは本当にラブラブどすなー」

 

もっとも、律に冷やかされたのを除けば。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

同時刻、通学路にて。

腕を組んで登校する唯たちの少し後ろで、面白くなさそうに見ている人物の姿があった。

その視線には、一種の憎悪が込められていた。

 

「おのれ……高月浩介め」

 

そしてそれは浩介にのみ向けられていた。

 

「俺様の女に手を出しやがって」

 

ありもしないことをつぶやくその人物は、短めに切りそろえられた金髪に、相手を威圧する吊り目の青年であった。

 

「どうやら、俺様の誠意は通じなかったようだな。ならば……ククク」

 

青年は不気味な笑みを浮かべると、足早にその場から移動するのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

いつものように自分のクラスでもある4組に向かう。

 

「おぉ~、君は何て美しい太陽なんだっ!」

「え、えっと~」

 

入ってすぐに目に留まったのは、歯が浮くようなセリフを佐伯さんに吹き込んでいる慶介の姿だった。

その表情はどこからどう見ても困っているようにも見えた。

 

「ん?」

 

視線を感じたので、その方向に顔を向けると同じクラスの女子(名前は知らない)が慶介の方を指差して丸マークを僕に送ってきた。

それは僕にはやってよいという言葉にも聞こえた。

 

「さあ! 俺と一緒に大人のバラの中―――――ニンジャ!?」

「おはよう佐伯さん。朝っぱらから馬鹿がバカげたことをバカおかしく言って悪いね」

「あ、ううん。別に気にしてないから」

 

とりあえず、危険なことを口走ろうとする慶介を、百科事典で鎮めておくことにした。

 

「そう? それじゃこのバカを、今後バカなことができないようにバカすごいお仕置きをしておくよ」

「ば、馬鹿を強調しないでくだ―――ぐぼぁ!?!」

 

まだ意識の残っていた慶介の首元に、指を突き刺して再び気を失わせた。

そんなこんなで、いつもの一日が幕を開けた。

……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、一体なんだってんだよ!」

「ど、どうしたんだ?」

 

昼休み、購買部に昼食を界に向かっていた慶介は、憤りを隠せない様子で戻ってきた。

その手には何もなかった。

 

「聞いてくれよ浩介! 購買の方で昼食に焼きそばパンを三つほど買ったんだ!」

「へぇ。かなり競争率が高いやつでしょ? すごいじゃない。でもまあ、そのパンが無いけど」

 

購買部で一番競争率が高いのは『ゴールデン何とか』というパンだ。

一日に5,6個しか作られないため、幻のパンとも言われている。

噂によると、そのパンにありつけた者は将来大きな成功を収めるという噂まで流れているが、審議の方は定かではない。

焼きそばパンもそんな競争率が高い部類に入っているのだ。

それを三つも手に入れられる手腕は尊敬に値した。

 

「それがさ! ここに戻る途中にいきなり金髪の野郎が俺の行く手を遮って『佐久間慶介だな?』と聞いてきたんだ。だから”はい、そうです”って答えたんだ」

「………それで、どうなったんだ?」

 

”金髪”というフレーズに、僕は引っかかりながら先を促した。

 

「そしたらそいつにパンを三つも奪われたんだよ! しかも『恨むのなら高月浩介を恨め』とか意味の分からねえことを言い残して、どこか行っちまうし」

「…………」

 

どうやら、僕の予感は当たったようだ。

 

「本当に、最低な野郎だ……って、どうしたんだよ浩介?」

「ごめん」

「何謝ってんだよ? パンを取ったのはあの野郎で、お前のせいじゃないだろ?」

 

慶介に謝罪の言葉を告げると、首をかしげながらそう切り返してきた。

 

「だけど、慶介はただ巻き込まれただけじゃない」

「別に俺は構わねえって。俺ってMだから、逆にウェルカムさっ!」

「………」

 

その言葉僕を励ますための物なのか、それとも本心なのかがわからなかった。

だが、僕は前者の方で取っておくことにした。

僕は箸で弁当のおかずやご飯を適当にふたの方に移すとそれを慶介の方に差し出した。

 

「これは?」

「余りものだ。今日はちょっと多く作ったから。さあ、食え。食わなければ眠らせる」

 

弁当箱のふたを呆然と見ている慶介に、マシンガンのごとく告げるとさらに慶介の方に突き出した。

 

「な、なぜに脅迫系!?」

「じゃあ、食べない?」

「食べる!」

 

この切り返しの速さは慶介らしいと思う。

さっきまでツッコんでいた慶介は、料理を口にするので夢中なのだから。

 

(……にしても、さすがというべきか)

 

僕は料理を口にしながら、慶介の話のことを考えていた。

 

(本人ではなく、周りから攻めていく。戦略としては非常に素晴らしい判断だ)

 

敵ながら、相手の手腕に称賛の声を送るほど、鮮やかだった。

 

(さて、次はどういう手に打ってくるか……)

 

相手の打ちそうな手はすでにいくつか予想している。

それに対する策もしっかりと用意している。

だが、いずれもすぐに対抗できるわけではない。

どうしても防戦になってしまうだろう。

 

(まあ、たまにはこういうシチュエーションもいいか)

 

時には防戦一方で、のちに大逆転するというのもいいと思った。

有名な言葉でいうのであれば”倍返し!”みたいな感じで。

 

(それはともかく、次にどのような手を打つか。楽しみに待つとしよう)

 

先ほどから殺気のようなものを僕にぶつけている視線を受けながら、僕は心の中でそうつぶやくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「HRは以上」

「起立、礼」

 

担任の先生の言葉受けて日直が、号令をかけ一日の終わりを告げた。

 

「浩介は部活だろ?」

「あたりまえ」

 

終わるや否や声を掛けてくる慶介に、僕は頷きながら返した。

 

「それじゃ、俺は帰る」

「また明日」

 

教室を後にする慶介に、僕は手をひらひらとふりながら見送る。

 

「そう言えば、慶介って生徒会役員だよな?」

 

早く帰ったりしてもいいのだろうか?

 

「ぎゃああああああ!!!」

「………」

 

廊下の方からこの世のものとは思えない断末魔が響き渡ってきた。

それは慶介のものであるのは間違いなかった。

 

「やっぱりサボろうとしたんだ」

 

僕は心の中で慶介に手を合わせた。

 

「さて……」

 

楽器類はすべて部室に置いている。

だが、僕は今のところ部室に行く気はない。

それは別に部活動が嫌だからというわけではない。

僕に殺気を送り続ける、人物がいるからだ。

いい加減鬱陶しいので、こちらから動き出すことにしたのだ。

僕は教室を後にすると廊下を歩いていく。

気配も一緒に移動する。

一応隠れているつもりらしいが、気配ダダ漏れで相手がどこにいるかは手に取るようにわかった。

やがて、人通りの少ない場所までたどり着いた。

そこは、よほどのことがない限り通らない学校の端にあたる場所だ。

僕はそこで足を止めた。

未だに気配は後方に感じる。

 

「いい加減出てきたらどうだ? ストーカーさん」

「何だ、気づいていやがったのか」

 

僕の呼びかけに少しだけ間が空いて声が返ってきた。

その声に、僕は後ろに振り返り、奴と対峙した。

そいつは短めに切りそろえられた金髪に、吊り目が印象的な男子生徒だった。

威圧的だと本人は思っているようだが、僕に言わせてみれば子供が背伸びをしたような感じで滑稽に見えた。

 

「お前だな。おかしな脅迫状をよこしてきたのは?」

「さぁ? 俺様は知らねえな」

 

僕の問いかけに、男子生徒はとぼける。

嘘であることは明白だが、完璧(この世界での)な証拠が無い為僕はそれ以上追及することはできない。

 

「まあいいだろう。では、何をこそこそついてくる? 偶々とは言わせないぞ。この辺には特に何もないから生徒は立ち寄らない」

「なるほどなぁ。この俺様を誘い出したというわけか」

 

ようやっと僕の狙いに気付いた男子生徒は、不敵の笑みを浮かべるとそれをすぐに消して睨みつけ出した。

同時に殺気が増すが、怖くもなんともない殺気に僕は特に反応をすることはなかった。

 

「まあいい。お前に警告する。平沢唯に近寄るな」

「あんたに指図されるいわれはないが?」

 

男子生徒の要求に、僕はそう言って斬り捨てた。

 

「はぁ? あの女はこの俺様の物だ! 人のものを盗むのは犯罪だと習わなかったか?」

「…………………」

 

男の言葉に、僕は目を瞬かせる。

そして出てきたのは怒りよりも憐みだった。

 

「なるほど、よくわかった」

「そうか。ならばすぐに軽音部を――」

 

僕の言葉に、男子生徒が満足げに口を開く中、それを遮るように僕は言葉を続けた。

 

「貴様が、哀れだということがな」

「何だと?」

 

僕の言葉に男子生徒の殺気がさらに強まる。

 

「おまけに惨めだ。貴様は心が空っぽのかわいそうなお子ちゃまだ。前に言ったかもしれないが、僕が何をしようがこちらの自由。貴様の指図は受けない」

「………………」

 

男子生徒は、僕の宣言に返す言葉も無いようで動揺のあまり、口を只パクパクさせているだけだった。

 

「ふ、ふん! いきがっていられるのも今の内だ。この俺様に逆らうと、痛い目を見るぜ?」

「どう見るというんだ?」

 

男子生徒の粋がるような言葉に、僕はあきれながら問いかけた。

 

「この俺様は内村財閥の会長の息子だ! 政治家の方にも知り合いがいるんだ。俺様の一言で、お前は社会的に抹殺できる」

「……………」

 

男子生徒の言葉に、僕は何も言い返さずに只々男子生徒をにらみつけるだけだった。

 

「分かっただろ? 分かったのなら俺様の言うとおりに――「ならば、僕からも忠告しよう」――何だ?」

 

僕が押し黙ったのを見て自分の勝利を確信した男子生徒に、僕に言えるのはただ一言だけだ。

 

「あまり私たちにケンカを売らない方がいいぞ? さもなくばお前……」

 

ゆっくりと男子生徒の方に歩み寄りながら、僕は警告する。

そして男子生徒の耳元まで移動すると、小さい声でこう告げた。

 

「――――死ぬよ?」

 

そしてそのまま僕は、男子生徒野分を通り抜けて部室へと向かう。

 

(奴の言葉が本当かどうかは、いずれ明らかになるだろう)

 

本当であれば、久々の大捕り物が繰り広げられることになる。

 

(いずれにせよ、あいつは恐怖を味わうことになるだろうな)

 

男子生徒は、僕にケンカを売ってどうなるかを知らない。

”高月家にケンカを売って無事だった者はいない”

それが、故郷で言われている言葉だ。

そして今回も同様の結末をたどることになりそうだ。

 

「さて、早く部室にでも行くか」

 

そして僕は律たちに怒られるであろうことを予想しながら部室へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、遅れた」

「遅いっ!」

 

部室に足を踏み入れると、予想下通りの言葉を律からかけられた。

 

「まあまあ。浩介君、お茶にしましょう」

 

ムギの言葉に、促されるように僕は自分の席に着いた。

 

「お、今日はマドレーヌだ」

 

僕たちの前に出されたのは、マドレーヌというお菓子だった。

 

「あ、そう言えばあれはどうなったんだ?」

「あれ? あれって何のことですか?」

 

律の問いかけを聞いていた梓が律に尋ねた。

 

「ああ、それがさ唯に浩介と別れろとかいう脅迫状が届いてたんだよ」

「脅迫状!?」

 

先日は違う下駄箱にいたことと、脅迫状に関することには触れなかった為知らなかった梓が驚きをあらわにした。

 

「大丈夫ですか? 唯先輩」

「大丈夫、浩君が何とかしてくれるって言ってくれたから」

 

お菓子を堪能しながら頷いて答える唯の言葉に、今度は僕の方に視線が集まる。

 

「それで、何か分かったのか?」

「ああ。犯人を突き止めて忠告はしておいた」

 

澪からの問いかけで、僕は先ほど自分がした対応を説明した。

 

「それなら安心ですね」

「やっぱり男の子ね♪」

 

僕のその対応で、安心ムードに包まれる部室内。

だが、

 

「忠告はしたが、これで終わったと思わない方がいい」

「それって、どういうことですか?」

 

僕の言葉に、梓が不安そうな表情で訊いてきた。

「いや、杞憂に終わってくれれば一番いいんだがな」

僕はそう口にするだけで留まった。

(しかし、あいつの目。あれは、少しばかり厄介な相手になりそうだな)

あの男子生徒から感じた”何か”に、私は底知れぬ不安を抱くのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「あの野郎っ」

 

誰もいない廊下で、少年……竜輝は唇を噛み怒りに肩を震わせていた。

 

「この俺様が親切に忠告してやったのに………」

 

それは実に身勝手な言葉だった。

 

「そうか。貴様もどうやら痛い目を見ねえと分からないようだなっ」

 

そして浮かべたのは不気味な笑み。

 

「ガハハハッ! 待ってろよ、高月浩介っ!」

 

高笑いをしながらあ、竜輝はその場を立ち去る。

今、悪意は着実に浩介達へと迫り始めていた。

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