けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。
第84話です。

今回で本章は完結となります。

今回、魔法要素がありますので、苦手な方はご注意ください。
そして次話からは恋愛描写が強くなります。


第84話 終わりと思い

「ちくしょう、どうなってんだよ!」

 

とある廃工場にて、竜輝は毒づく。

 

「あいつはいつになったら来るんだ!」

 

竜輝は、探偵である田中が来るのを待っていた。

だが、来ると言った日から数日過ぎても来る兆しはなかった。

待っている間に、彼を取り巻く状況はさらに悪化していった。

 

(電話も止まって連絡ができねえ)

 

彼の携帯電話は、ついに止められてしまい連絡をとる手段がなくなってしまった。

食料は、手にしていた財布にあるお金を利用してコンビニ弁当で済ませている。

だが、お金も残り200円と、ついに底を尽きかけていた。

彼は電話が止まる前に田中から、浩介が魔法使いであるとの報告の連絡を受けていたのだ。

当初は笑い話にして気にも留めてはいなかったが、証拠を持ってくるという田中の言葉に、竜輝はその証拠が来るのを待っていたのだ。

 

(……まさか始末されたか!)

 

竜輝は、すぐにその結論に至った。

笑い話にして気にも留めていなかったことが、現実であるということを悟ったのだ。

 

「やっとわかったぜ。魔法で平沢唯の心を操ってるんだな! 何たる非業!! いや、外道!」

 

自分のやっていることを棚に上げ、勝手な妄想を口にする竜輝の心に、ふつふつと怒りが芽生え始めた。

 

「こうなったら、この俺様で化け物を始末してやろうじゃないか!」

 

(だが、どうやってだ?)

 

浩介に対抗する手段を竜輝は持っていなかった。

暴力団などとつながりがあれば別だが、今の隆起には武器になるような存在など残されてはいないのだ。

 

「…………とにかく、探すか」

 

竜輝は外を歩いて武器になりそうなものを探すことにした。

工業団地はどこも柵で覆われており、中に入ることはできても工場施設内にまで足を踏み入れることはできないのは、すでに把握していた。

 

「そこの坊や」

「あん?」

 

そんな時、彼を呼び止めたのは黒のローブをかぶった人物だった。

 

「誰だてめぇ」

「私は可愛そうな坊やの救世主」

 

威圧的な竜輝の言葉に、女性の声が返ってきた。

声からして老婆のようだった。

 

「坊やは大きな力に立ち向かおうとしている」

「…………」

 

老婆の話を、竜輝は生まれて初めて親身になって聞き入れていた。

 

「そんな坊やにこれを渡そう」

「何だこのおもちゃは?」

 

老婆から手渡されたのは首にかけるタイプのアクセサリーだった。

それを怪訝そうな様子で首をかしげる彼に、老婆は応える。

 

「それは、坊やの身を守るお守り。それがあれば自分を守ることができるぞよ」

「はっ…………まあ、ババアの顔を立ててもらってやるよ」

 

竜輝は老婆からひったくるようにアクセサリーを奪い取り、その場を去っていった。

 

「…………………」

 

その様子を、老婆は無言で見送るのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「じゃあな、唯」

「うん。またね―浩君」

 

哀れな探偵を一人潰してから二日たった。

夕暮れ時、僕はいつもの場所で唯と別れる。

この日も、何事もなく一日を終えようとしていた。

 

(あいつの話だと、すでに接触は済ませているようだから、そろそろのはずだけど)

 

一体いつになるのか、僕にはわからなかったが、とりあえず気長に待つことにした。

 

内村が行動を起こす時まで。

 

「ん? 電話だ」

 

自宅に戻って数時間程が経ったとき、携帯電話が着信を告げた。

 

「って、唯からか」

 

相手を確認すると、電話をかけてきたのは唯だった。

 

(一体こんな夜遅くに何の用だ?)

 

ため息をつきそうになるのを必死にこらえ、僕は着信ボタンを押すと耳にあてた。

 

「もしも――」

『浩君! 助けてっ!!』

 

僕が言い切る前に、唯の助けを求める声が聞こえた。

 

『よう、高月ぃ』

「内村っ」

 

続いて電話口から聞こえたのは内村の声だった。

 

『よくも俺様に、ひもじい生活をさせたな』

「自業自得だ。それよりも、貴様何をしている」

『何を? 俺様のものを取り返しただけだ』

 

僕の言葉に、内村は人を苛立たせるような声で答えた。

 

「………」

『話がしたいんなら来いよ。場所は――――』

 

内村から場所を聞き出した僕は、急いで家を飛び出す。

 

(なんということだっ!)

 

僕は自分の浅はかさを悔やんでいた。

極限状態に追い詰められた人間は、時にして理解できない行動をすることがある。

そのようなことはすでに知っていたはずだ。

僕はそのことを完全に考えていなかった。

 

(今は一刻も早く唯を助けないと!)

 

僕は途中で久美に結界を展開してもらえるように頼み、指定された場所へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

指定された場所はどこかの廃工場だった。

周囲を見ると生活していた痕跡があり、ここが奴の寝床だったのだろう。

 

(入り口付近の花束は何の意味があるんだろう?)

 

ふと、目に留まった花束に僕は考えをめぐらせるが、それは今は関係ないため頭の片隅へと追いやった。

 

「よぅ、高月ぃ」

 

その奥の方に、奴の姿があった。

そんな奴の手元にはナイフがあり、それは唯の喉元に突き付けられていた。

完全に人質にとられていた。

唯の表情はやはり、恐怖などによって青ざめていた。

 

「浩君!」

「……何が目的だ?」

 

内村を射抜くように見ながら、僕は尋ねた。

 

「貴様の前で、こいつをめちゃくちゃにしてやろうと思ってなぁ! 他の男に手を出すなんて、躾けねえといけねえし」

「……………貴様はつくづく人間の屑のようだ」

 

内村に対して、怒りはこみ上げなかった。

逆に哀れにさえ感じる程だ。

 

「そう言ってられんのも今の内だ」

「きゃ!?」

 

唯の悲鳴が聞こえた瞬間、反射的に攻撃魔法を内村に向かって放っていた。

それはまっすぐに内村に飛んでいき、着弾する

―――はずだった。

 

「何?」

「ガハハハハ! どうだ、見たか!」

 

目の前で起こったことに顔をしかめている僕を見て、内村は面白おかしく笑う。

 

「お前の力は、私には効かな―――」

「インパクト!」

 

内村の言葉を遮るように、僕は呪文を唱える。

 

「きゃああ!?」

 

次の瞬間、唯はまるで誰かに引っ張られているかのように、内村から吹き飛ばされる。

だが、少し飛ばされたところで唯はゆっくりと地面に着地した。

そして彼女を守るように結界が張られる。

 

「なっ!?」

「これで、貴様は唯には触れることはできない」

 

今度は内村が言葉を失う番だった。

 

「確かにお前には魔法が効かないが、それは”お前を起点にした”だけだ。お前以外の人物に対して生じる魔法事象は無効化できないみたいだな」

「おのれぇ。高月浩介め」

 

自分の目的を邪魔された内村は憎悪に満ちた目で僕をにらみつける。

 

「さあ、始めようか?」

 

僕の手にあるのは剣状のクリエイト。

内村の手にあるのは攻撃を通さない何かと鉄パイプ。

 

「おらああああ!」

「浩君! あぶない!!」

「失笑! 危なくもなんともない。ほら、遅い遅い」

 

真正面から殴りかかろうとする内村の攻撃を、僕は叫び声を上げる唯に笑いながら否定すると、余裕で回避した。

 

「死ねええええ!」

「ッフ!」

 

バカの一つ覚えのように特攻する内村の手にある鉄パイプだけを、僕は真っ二つに切り裂いた。

 

「この化け物めが」

「私が化け物ならば、それよりも下のお前はなんというのだろう? ゴミ? カス? それとも屑か?」

 

僕にはその答えは持ち合わせてはいないが、一番最後が有力のような気がする。

 

「ふざんけんなぁ!」

 

そんな僕の言葉に、内村が咆哮する。

 

「俺様は! 選ばれた民だっ!」

「あはははは! これは傑作だ! お前のような愚か者が、まだいるとはなっ」

 

内村の攻撃をかわしながら、僕は内村の言葉を笑い飛ばした。

 

「貴様は選ばれてはいない。ただ親のすねをかじり、親の光だけで輝いている。哀れなドラ息子だ!」

「ッ!? 貴様ぁぁぁぁ!!!」

 

僕の言葉に、激昂した内村は黒い何かを取り出した。

それはどこからどう見ても拳銃だった。

 

「はぁ、そんなものがあるなら最初からだしなよ」

「うるさい黙れぇっ!!」

 

ため息交じりの僕の言葉に、内村は銃を連射する。

だが、僕はそれを余裕で交わしていく。

 

「拳銃は確かに恐ろしいが、当たらなければ意味がないんだぞ?」

「くっ!!」

 

先ほどの連射で弾が切れたようで、内村は拳銃を投げ捨てた。

 

「結局お前はその程度の人間ということさ。 頭も心も空っぽな可愛そうな子供」

「うるさい!!」

 

もう完全に僕のペースだった。

内村は、僕が怒らせようと思えばいつでも怒らせ、そして行動をさせることもできる。

 

「こいつは俺様の女だっ!  俺はこいつを愛しているんだ! だが貴様は凡人の分際で俺様の女を盗んだ! お前だけは許さねえ。絶対に許さねえ!!」

「愛してるだぁ? 貴様のそれは愛などではない」

 

内村の口から出てきた見当違いな言葉に、僕は呆れ果てていた。

 

「貴様はただ人を自由に操りたかっただけだ。操って自分が特別であるという幻想を見たかっただけだ」

「ち、違う! 俺様は本当に心の底から愛して―――」

「では訊こう。お前は彼女がピンチの時、命を張ってでも守れるか? 自分の命を懸けてでも」

 

必至に否定する内村の言葉を遮った僕は、問いただす。

 

「そ、それは……」

 

内村は僕の言葉に口ごもる。

それは応えているも同然だった。

 

「それができずして、何が”愛している”だ。覚悟もねえくせにちんけな言葉を使うな。ガキ」

「だ、黙れ! だ、大体関係の内規様にそんなことを言われる義理は――「関係ならあるさ」――何ぃ!?」

 

僕の指摘に激昂する内村の言葉を遮って告げた僕に、内村は目を細める。

その姿には威圧感などみじんもなかった。

 

「だって、僕は平沢唯のことが、一人の女性として好きなんだから」

「なっ!?」

 

僕のカミングアウトに、内村は目を見開かせて固まった。

僕自身も不思議だった。

なぜ、このタイミングで自分の思いを告げたのかと。

だが、それは今はどうでもいい。

 

「僕には覚悟もある。唯がお前に拉致されたと知って、私は刺し違えることになってでも唯を助けようと思い、ここに来た。私はこれからも唯を守る。そのために、私には魔法がある」

「は、はは! 馬鹿馬鹿しい! 何が守るだ! 化け物は化け物らしく、人間の奴隷になっていればいいんだっ!!」

 

僕の決意を、内村は笑い飛ばし暴言を吐く。

 

「私は変化を恐れた。自分が最強の座から転落すると思ったからだ。魔法だけが私の存在意義。それを失うのを恐れた」

「はぁ? いきなり何を言ってんだぁ?」

 

僕の独白に、内村は小ばかにしたような表情を浮かべるが、僕はそれを気にせずに続けた。

 

「でも、平沢唯という存在がそんな僕を変えてくれた。僕の存在意義を新たに作ってくれた。魔法に代わる新たなる意義を。だから、僕は変わる。これまでの自分を捨ててでもっ! そして―――」

 

僕はそこで言葉を区切った。

そしてこれまで封じてきた自分の力を解放する。

 

「この一撃がその証! 過去の変化を恐れた弱い自分への別れのレクイエム。そして新たな自分になるという決意! 貴様が平沢唯のことを本当に愛しているというのであれば、この一撃! 受け止めて見せろ!!」

「じ………上等だぁ! この俺様こそが平沢唯を愛するに足りる存在だと証明してやらぁ!!」

 

僕の誘いの言葉に、内村はうまく乗ってきた。

彼は大きな勘違いをしている。

奴は僕の魔法を防げると”思い込んで”いるのだ。

僕の魔法を”完璧に”防いだものは一人もいないのに。

僕の雰囲気に飲み込まれそうになりながらも、言い返せたのは彼なりのプライドだろうか?

 

(まあ、いいか)

 

僕はその一言で考えるのをやめた。

そして僕は杖状のクリエイトを内村に向けて構える

 

「永劫の闇よ。我が力に応えよ」

 

それが始まりだった。

それは数十年ぶりに紡ぐ、魔法の呪文。

 

「我が名の下に、集え」

 

それはかつて最凶と呼ばれた魔法。

 

「全てを滅ぼし、全てに裁きを下す審判の闇よ。我の名の下にかの者に裁きを与えたまえ」

「ひぃ!?」

 

僕が内村を見据えると、怯えたような表情を浮かべた。

僕の体中に言葉にはいい表せないほどの力が込み上げてくるのがわかった。

それは、僕の心を侵食しようとする。

でも、僕はそれに耐える術を知っている。

この僕こそが、闇を纏う魔法使いなのだから。

 

「闇を纏いし魔法使い、高月浩介が命じる。咎人に破壊という名の裁きを下せ! ダーク・ラスト・ジャッジメント!!」

 

ついにそれは放たれた。

死神に魅入られた魔法とも言われたそれが。

それを喰らって生還したものは0と言われた凶悪な力が。

 

「ぐ、ぐぐ……どうだ! 防いでるぞ! 俺様はお前の魔法を防いでる!!」

 

確かに、防いでいるという表現は正しいだろう。

現在、内村を覆うように守る何かは、僕のダークラストジャッジメントと拮抗している。

だが、それはあくまでも”均衡”状態にあるだけだ。

つまり、

 

「なっ!? ひ、ひびが?!」

 

ゆっくりとだが、内村を守る何かに小さなひびが入り始める。

 

「あんたが言っているそれは、確かに魔法攻撃から身を守ることができる。だが、”常時ではない”。それはあくまでも、一時しのぎでしかない」

「な、何を言って――」

「つまり、いずれそれは破れるということさ」

 

それだけを告げて、僕はその場をジャンプすることで、結界に覆われている唯の前に着地した。

 

「浩く―――」

「舌噛むから話すな」

 

僕の名前を呼ぼうとする唯に、告げると勢いよく飛び上がった。

天井が抜け落ちているので、外まで飛び上がることができた。

 

「兄さん!」

 

外まで飛び上がったところで、待機していた久美が空を飛んで近づいてきた。

 

「久美、唯を」

「任せて! ちゃんと家まで送るわ」

「浩君――――」

 

唯が何かを言いかけるが、それよりも早く久美は唯の家へと向かっていったため、僕には聞き取ることができなかった。

そしてそれと同時に、爆音が響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ……ぅ」

 

トドメの爆発によるダークラストジャッジメントの余波が止んだのを確認した僕が、再びあの廃工場に戻るとそこには地面に倒れている内村の姿があった。

着ている服はいたるところが切り裂かれており、赤い物も見える。

完全に満身創痍の状態だった。

 

「あの一撃を受けてもなお生きているのは、運がいいな」

 

虫の息ではあるが、まだ息があることに僕は驚きを隠せなかった。

 

(まあ、久美に作らせた防御特化型のマジックアイテムのおかげだろうけど)

 

久美に老婆の姿に変装してもらい、あらかじめマジックアイテムを渡しておいたのだ。

それはこのアイテムの特徴を伝え、内村の絶望に染まった顔を見るためだ。

 

「さて、お前には二つの道がある」

 

虫の息の内村を見下ろしながら、僕はそう告げる。

 

「お前は自分の好きな道を心の中で応えろ」

 

僕はそう告げるとクリエイトを彼の体に当てる。

それによって、彼の心の声が一気に流れ込んできた。

その声は”殺す”や”許さない”といった負の感情が主だった。

 

「まず一つ目。このまま死にゆくのを待つ」

 

僕の言葉に”死にたくない”、”いやだ”と言った拒絶の言葉が入り込んでくる。

 

「そして二つ目。改心し、第二の人生を過ごす」

 

その案件に、内村の”それがいい!”、”頼む、助けてくれ!”と言った懇願が聞こえてきた。

その姿は、まさしく哀れだった。

 

「心得た。お前の選択した道の先に、命運が有らんことを」

 

僕は祈りの言葉を継げながら、剣を上空に掲げた。

”何をする気だ”

今度は怯えが込められている声が聞こえた。

 

「さようなら、内村竜輝」

 

僕はお別れの言葉を紡ぎながら、剣で内村の身体を躊躇もなく貫くのであった。

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