けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~   作:TRcrant

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こんばんは、TRcrantです。
第93話になります。

今回は中盤のほうで多少魔法要素が存在しますので、苦手な方はご注意ください。
本話より、新たなる章が始まります。
此処では番外編の話となります。


2年生編 『ファーストステップ』
第93話 移ろいゆくもの


11月下旬。

季節はすっかり冬へと移り、ひと肌恋しい季節が訪れようとしていた。

周りを歩く女子生徒は、みなマフラーやらカイロやらで寒さを紛らわしている。

 

「はぁ……」

 

試しに息を吐いてみると白い靄のようなものが出てきた。

季節はもう冬だ。

僕はここのところ毎日ある場所に立ち寄っている。

それはとある橋だ。

そこに差し掛かった時、ツインテールの髪形の女子生徒の姿があった。

 

「何をやってるんだ?」

 

しゃがみこんで何かに手を伸ばそうとして、逃げるように走り去っていった。

 

「………あぁ、なるほど」

 

少し近寄ってみると、そこには虎次郎の姿があった。

 

「おはよう、虎次郎。はい、いつもの御飯だよ」

「にゃ~」

 

下から差し込むように魚の切り身の入ったアルミパックを差し出すと、口元に黒い模様の入った猫はそれを食べていく。

この猫は、この間偶々見つけた野良猫だ。

本来であればこのようなことはしないが、魔が差したのか僕は今でも餌やりを続けている。

可愛げは全くない。

というより最初は威嚇されたりもしたが、最近はそんなこともなく頭を撫でても威嚇することもなかった。

そのうち飼い主と誤解してついてくるのではないかとも思ってしまったりするのだが、さすがに考えすぎだろう。

 

「それじゃあね、虎次郎」

 

食事を終えた虎次郎の頭を軽くなでると、アルミパックを回収して僕はその場を立ち去った。

ひと肌恋しいお寒いこの季節。

僕の心はどこかホッカホカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒いな、浩介」

「なにだらしないことを言ってるんだ……”男たるもの寒さには強くあれ”だぞ。まあ、確かに寒いけど」

 

教室で寒さに体を震わせている慶介に、僕はため息交じりに言った。

そんな時、僕の席に近寄る数人の女子生徒の姿が目に留まった。

 

「高月君でも寒いって感じるんだね」

「超人だから寒さも厚さも感じないって思ってたんだけど。やっぱり高月君も普通の人だったんだね」

「お前らは僕をなんだと思ってるんだ?」

 

女子生徒たちのあまりな言葉に、僕はジト目で追及する。

まあ、言いたいことは分かるけど。

 

「だって、夏なんて暑いのに平然と汗もかかずにいたじゃない」

「慣れの問題だ。もっと熱いところにも行ったことがあるんだから、ここの夏の暑さなんてまだまだ可愛い物だ」

 

任務で様々な世界に行くことがある僕の仕事上、仕方がないのかもしれないが中には劣悪な環境の世界もある。

気温数百度の灼熱地獄もあれば、氷点下90度越えの所だってある。

そう言った場所に対応できるように訓練を積んでおり、ある程度であれば耐性が出るようになっていた。

とはいえ、暑いものは暑く、寒いものは寒いわけだが。

 

「はぁ。寒くても、暑くても浩介はモテるんだよな。不公平だよな」

「不公平って……」

 

慶介の嘆きに、僕は言葉を失った。

 

「ちくしょー。なぜだー、なぜ俺だけモテないんだー!」

「それは……」

「やっぱり……」

「性格じゃない?」

 

慶介の言葉に、女子生徒から周りに回って僕の方に来たため、思いついた理由をそのまま口にした。

 

「あの、それは逆にダメージがでかいんですが」

「知るかっ!!」

 

季節がどうなろうと、僕たちはある意味いつも通りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、いつものように部室に集まった僕たちは唯が来るのを待つことにしたのだが……

 

「暗くないか」

「明かりでもつけるか?」

 

僕の言葉に反応した律がこっちを見ながら聞いてきた。

 

「いや、照明じゃなくて雰囲気が」

「冬だからこんなものだろ」

 

(冬と雰囲気が暗いのとどういう関係があるんだ?)

 

律の言葉の意味が、僕にはまったく理解できなかった。

もしかしたら冬の空気というのは人の雰囲気を暗くする何かが、あるのかもしれない。

そんなこんなで、再び部室内が沈黙に包まれた。

先ほどからずっとこのような感じなのだ。

さすがに冬だからと言って雰囲気まで暗くされるのはたまったものではない。

 

(抗議してでも元に戻してもらうか)

 

そんなことを考えた時だった。

 

「うぅぅ~、寒いぃぃぃ~」

 

体を震わせながら唯が姿を現した。

そしてそのまま流れるように僕の横に腰掛けた。

 

「律ちゃん、お寒いですな」

「お寒うございますね~」

 

(それはどこのおばあさんだ?)

 

口にすると何だか面倒くさいことになるような気がしたので、あえて何も言わないことにした。

 

「あ、律ちゃん」

「何だ唯―――――ひゃああああ!!?」

「おぉ~、あったかい―」

 

ふと何かを思い出したような表情をした唯は律の頬に両手を触れさせた。

 

「何を、するんだっ」

「ひゃああああ!!!?」

 

律もやり返す形で、一気に部室が賑わしくなる。

 

(さすが唯。雰囲気を変えるのが上手だ)

 

もはやそれは素質なのかもしれない。

 

「こうなったら、ぴと」

「ッ!?」

 

いきなり腕に抱きつく唯。

 

「うん、やっぱり浩君はあったかあったか、だよ~」

「あはは、僕もだよ」

 

寒さなど感じてもいなかったが、体の内側から暖かくなるような感じがする。

きっとそれがひと肌なのかもしれない。

どんどん僕は元気になっていくような気がした。

きっと唯の力なのかもしれない。

 

「………なんだろう、寒いはずなのにそれが気にならなくなるこの感じは?」

「私も、なんだか寒さが吹っ飛んだよ」

「私はもう慣れました。でも、暑いです~」

 

それを見ていた周りが別の意味でぐったりとしてしまったが。

 

 

 

 

 

そんなやり取りもひと段落したところで、練習を行うことにした。

 

「うーん、寒くてギー太が弾けないよー」

「何、洒落ごとを」

 

唯の漏らした言葉に、僕は冷たく返した。

それほどくだらない理由だったのだ。

 

(まあ、気持ちは分からなくもないけど)

 

「そうだ! 手袋をすればいいんだっ!」

「やってみろよ」

 

唯が名案だとばかりに口にした案が、どのような結果をもたらすのかがわかったのか苦笑しながら律が促した。

それを受けた唯は手袋をはめるとピックを持とうとするが

 

「ピックが持てないよ~~」

「そこからかいっ!」

 

ピックをお手玉のように弾く唯に、思わずツッコみを入れてしまった。

そんなこんなで、ようやくピックを持つことができた唯は、弦を抑えてピックを持った左手をストロークさせる。

聞こえた音色は、伸びが悪くミュートしているようなものだった。

つまり、簡単に言うと

 

「あぅぅ、弾けない!」

 

ということだった。

すると、何を考えたのかギターを横に置いて手袋を外すとそれを先ほど自分が座っていたベンチに置き、それを指差して

 

「失望したっ!」

 

などと叫んだ。

 

(まあ、ある意味予想通りの結果だけど)

 

弾けた方が僕にとっては驚きだ。

 

「当たり前だ。なあ、律?」

 

そんな唯に言った澪は、律にも同意を求めようと声を掛けるが、返事が返ってこない。

 

(ん?)

 

「律?」

 

澪が再度声を掛けるが、やはり反応がない。

ぼーっとどこかを見ているだけだった。

 

「律、どうしたんだ~?」

 

僕はドラムの椅子に腰かけている律の顔の高さに合わせてかがむと手を振りながら声を掛けた。

 

「ッ!? きゃ!!」

「たんぺ?!」

 

一瞬何が起こったのか理解できなかった。

だが、左頬からじんわりと伝わる痛みが何が起こったのかを物語っていた。

叩かれたのだという事実を。

 

「………………なぜ?」

「あ、わ、悪い。浩介の顔が目の前にあったから、びっくりして」

 

慌てて謝ってくる律だが、僕は怒りよりも疑問の方が強かった。

窓側に移動して首を傾げ続ける。

窓から伝わる冷気がなぜか一番冷たく感じた。

 

「浩介先輩大丈夫ですか?」

「僕の顔って、ビンタされるほど変なのか?」

 

心配そうに声を掛けてくる梓に、僕はそう尋ねた。

 

「い、いえ! 浩介先輩は何も悪くないですよ!」

「そうだよ! みんな冬が悪いんだよ」

 

梓に続いて唯が返事を返した。

 

「冬のせいにしないでください」

「あ、そうだよね。冬でもいいことはあるもんね」

 

何とか立ち直れた(というより、深く考えるのが馬鹿馬鹿しく思えてきた)僕は窓から視線を外した。

 

「あ、そうだ! 今度の日曜日皆で鍋をしようよ!」

『……………』

 

唯の唐突な提案に対して、みんなの反応は冷ややかなものだった。

 

「あれ?」

「ごめんなさい。その日は私、用事があって行けないの」

「私も。弟を映画に連れてく約束をしてるから」

「私も、その日は家から出られそうになくて」

 

ものの見事に用事が重なっていた。

ここまで来ると作為的なものを感じる。

 

「えぇ~………澪ちゃんと浩君は?」

「私も、歌詞の方を考えたいから」

「そんなぁ~」

 

澪の返事に、悲しげな表情を浮かべる唯に、圧された澪は視線を逸らした。

 

「いつも唯や律が邪魔をして作詞に集中できないんだよ」

 

そう言って床に置いたのは一冊のノート。

それは澪が作詞をするときに詩を綴る物だった。

 

「ほら」

 

それを開いた澪は見るように促したので、それを覗き込んだ。

 

「なんだ、これ?」

 

そこにはページ一杯に色々な絵が描かれていた。

 

(これはいつから作詞ノートからお絵かき帳になったんだ?)

 

そんな変な沈黙が走る中、これを書いた主犯の二人はというと

 

「「申し訳ありませんでしたぁっ!」」

 

土下座をして息を合わして澪に謝っていた。

 

「あ、それじゃ、浩君は?」

「僕も無理だ」

 

こちらの方にも及んだ問いかけに、僕はきっぱりと告げた。

 

「そ、そんな……」

「おやおや、もしや不倫ですか?」

「はぁ!?」

 

にやりとほくそ笑んだ律の一言に、僕は首をかしげる。

 

「そうなんですか!?」

 

何故だか僕に不倫疑惑がかけられてしまってる!?

 

「信じてたのに……」

「浩介君、それは人として最低よ」

 

そして非難の目が向けられる。

 

「だぁぁぁ!! 不倫なんかするわけないだろうが! 僕が愛してるのは唯だけだっ!!」

「ッ!?」

「おやおや~、お熱いどすなぁ」

 

僕の大声の告白に、唯の顔が真っ赤になる。

そんな中、律のいたずらっ子のような表情が全てを物語っていた。

 

(嵌められたっ!)

 

「浩介先輩、恥ずかしいことを大きな声で言わないでくださいっ」

「………………」

 

もう、何も言うまい。

 

「そ、そそそそれで、どうしていけないんだ?」

 

そんな中、澪によって話題が変えられた。

まあ、ドモらなければもっとよかったんだけど。

 

「一回故郷の方に戻るから」

 

答えも非常に簡潔だった。

 

「故郷って、魔界ですよね? どうして戻るんですか?」

「新人のバカがどうも気が弛んでいるようだから、一回徹底的にしごいてやるんだよ」

 

それはこの間父さんから言われたことだった。

 

『管理センターの新人がどうも気が弛んでいるらしくてな、遅刻をしたり転送ゲートの座標を間違えたりしている。このままでは任務に支障が出る故、お前の方で性根を叩き直してもらいたい』

 

それが、父さんの指令だった。

 

「ついでに、年始に行う仕事も一緒に片づけてくるから帰るのはかなり遅くなると思う。まあ、年末年始はゆっくりしたいからね」

「むぅ……それじゃ、ギー太と憂の三人で鍋にしよう」

 

(三人……なのか?)

 

何だかツッコんではいけないような気がするんだが、すごく気になった。

 

「ギター汚さないでくださいよ。この間メンテナンスしてもらったばっかりなんですから」

 

ティーカップを手にしながら注意をする梓に、唯はピースサインをしながら口を開いた。

 

「大丈夫だよあずにゃん。ちゃんと前掛けをするからー」

「……ならいいですけど」

「いいのかよ!?」

 

梓の反応に思わずツッコみを入れてしまった僕だが、みんなもそれは同じだったようで、梓の方に視線を送っていた。

そんな冬の部活風景だった。

 

 

 

 

 

「あ、浩君。寄り道していい?」

「別にかまわないけど、どこに行く気だ?」

 

帰り道、全員と別れふたりきりになって少ししてから聞いてきた唯に、僕は疑問を投げかける。

 

「コンビニ♪」

 

何のためらいもなく、笑みを浮かべて告げたのはそれだった。

 

「なぜにコンビニ?」

 

(今日はみんなおかしいな)

 

律はいきなり顔を叩くし、ムギは突然どこかに行くし、梓は”おもちゃ”を買いにどこかに行くし、唯はなぜかコンビニに行こうとするし。

 

「何の食べ物を買うんだ?」

「あぁ!? 浩君、私の心の声を読んだんだね」

 

当たりだったのか頬を膨らませて抗議の声を送る唯に、僕はため息をついた。

 

「心を読むまでもない。さっき唯のお腹がかわいらしくなってたし」

「あうぅぅ~、浩君のイジワル」

「はいはい、むくれないむくれない」

 

気づかれていないとでも思ったのか、頬を膨らませる唯に、僕はなだめながらコンビニへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

「にっくまーん、ホッカホカ~♪」

「良いよな、お前は何事にも幸せそうで」

 

当たり前のことなのに、それを嬉しそうに喜んでいるのはある意味才能なのかもしれない。

 

「浩君は私といて楽しくない?」

「そんなことはない。ただ、唯のように何事にも楽しむという感覚がわからないだけ」

 

悲しげな表情を浮かべる唯から視線をそらして、僕はそう返した。

 

「それじゃ、浩君はこれからそれがわかっていくんだね」

「…………そうだな」

 

そのような日が来るかはわからないが、僕はそう返しておくことにした。

その日が来るときこそ、僕は本当の意味で変われるかもしれないから。

 

「ということで、浩君には肉まんを半分進呈しよう!」

「どうも」

 

唯から肉まんを分けてもらった僕は、それを口にする。

肉まんの生地に入った肉が、実に絶妙な味を出していた。

 

「どう?」

「最近のコンビニはレベルが高いんだね」

 

唯に促されて出てきたのは、そんな言葉だった。

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