「……」ズーン
あのあと、どうにか火は消し止められたものの、それと同時に上着は燃え付き、現在上半身半裸に亮のコートを羽織ってアクションフィールドの隅で体育座りで俺は落ち込んでいた。
「あー……その、なんだ……服、すまん」
「……うん、大丈夫大丈夫、どうせ機械がぶっ壊れてエクゾディアの炎だけが実体化したんだろ……」
「いやぁ、俺も炎だけ実体化するとは思わねぇ「何してるんですかぁ!!」っでぇ?!」
遊牙が苦笑いのまま返した瞬間、まさしく電光石火というように柚子ちゃんのハリセンが遊牙の頭にクリーンヒットする。
「いっつつ……あ、そういや、みんなって俺のあの試合を観てないんだっけ? 今から行くか?」
「ん?あの試合って「当然、見させてもらう」おい蘭、台詞奪うな」
もうなに?服は燃えるし、台詞は奪われるしで今日は厄日だな、うん。
「まぁまぁ兄貴も悄気ないでくださいっす。ところで、どんな試合なんすか?」
「あぁ、俺が日本リーグのデュエルチャンピオンと決闘したやつだよ。ま、俺の方はスタンディングデュエルの方だけどな」
亮のその問い掛けに、遊牙は笑って返した。
「日本リーグ……タイトルリーグみたいなものね」
「それとは違うと思うわよ……蘭」
「でもデュエルチャンプって誰っすかね?」
「……私としては嫌な予感しかしないが」
俺らのその言葉に、苦笑いと共に遊牙と一緒に視聴覚ルームに入る。途中遊牙は他の面々に入らないように伝え、実質的に俺ら全員と遊牙の7人だけの密室になった。
「今から見せるのは……音声ナシの動画。もちろん、音声アリもあるにはあるけど、もろもろの事情で表立って公開しているのはこっちだ。色んな意味で驚くなよ? この世界の住人じゃないんだろうから、色々と突っ込みたいとは思うだろうが」
「あー、やっぱり気付いてたか……何時からだ?」
「遊輔さんが言っていた○○という遊輔さんが知らないカードショップの話題、かな? 遊輔さんが知らないって話を聞いて、最初はよっぽどコアな店かと思ったけど、遊輔さんはそういうのでも探したりしてたし……それで知らないってのは流石におかしいと思った。確信に変わったのは初戦……アクションデュエルでの暗黒界の門発動だな、あれで確信に変わったな」
「うげ、まさかそんなところでバレるなんて……」
「ふむ、しかし遊輔さんはそんな事してるのか……いったい何者なんだ、彼は?」
「……まぁ、俺もあの人は何者なのかわかんねーからな。デュエルの腕は本物らしいから臨時講師してもらってるみたいだけど……少なくとも、俺はあの人の事はまだ信用はしていない。生徒である身だから色々手伝ってもらったりはしたが」
劔菜先輩の問いに、苦笑いをしながら録画されている試合のテープを再生するために色々操作をすれば無事に再生できる状態になったようで軽く頷いた。
「……これで、良し。多分、突っ込みたくなるだろうが……まぁ、見てくれ。観客席の位置の関係で手前が俺、奥がこの世界でのスタンディングチャンピオン……だ」
彼がそう言うと、テレビ画面に映像が流れ始めた。徐々にズームされて映し出されていたのは、特徴的な丸眼鏡に緑の衣装……明らかに小者という感じの見たことのある風貌にまさかと嫌な予感がした。
そして今度は電工掲示板が映し出されるとやはりというか、そこに出されていた名前はあの『インセクター羽蛾』の文字が映し出されていたのだ。
「アイエエエ!!HAGA!?HAGAナンデェ!?まさか自力で脱出を!?」
「俺だって対戦相手を知らされた時は驚いたんだし、無理もないさ……」
「ふーん、……そういえば昆虫のタイトルホルダーも『インセクト女王』使ってたわね……瞬殺できるけど」
そんなこんなで試合が進み、防戦一方だった遊牙がここでペンデュラム召喚を行った。
「……ここ。ここから、俺のプレイングに関する記憶はデュエル終了まで途切れていたんだよ」
ペンデュラム召喚をしたタイミングで一度止めた遊牙はポツリとそう告げた
「ふーん……意識がなくなる……ねぇ?」
「けど今回は何もなかったみたいだし、意識が飛ぶことは蓮とのデュエルから見ても大丈夫だったみたいだね?」
「そう、俺も今回のデュエルで意識を失うことはなかった事には驚いているんだ……何が条件でこうなっているのか……皆目見当もついてない」
と、そう話してるうちに『グレート・モス』が体勢を崩したところを『オッドアイズ・ファントム』が破壊、さらにその効果であの羽蛾をぶっ飛ばして試合終了と相成った。そして遊牙が辺りを見渡したところで映像は途切れていた。
「さっき辺りを見渡していた時に俺の意識は回復した……って感じだな。何か聞きたいことはあるか?」
「……言いたいことはとりあえず山ほどあるけど、とりあえず蓮を元に戻さないとダメね」
「は? どういうことだ?」
蘭がそう言ってる当の俺はというと……
「俺が羽蛾と同レベル……俺が羽蛾と同レベル……俺が羽蛾と同レベル…………」ブツブツ
再びネガティブモードで部屋の隅で項垂れていた。
「……アホらしい」
俺の様子を見ていた遊牙は小さくため息を吐くとそう言い放った。
「あ?」
「なんすかアホらしいって!!どういう意味っすか!!」
「あぁ、アホらしい。そう言ったさ……あんなマグレのエクゾディア揃いの勝利と俺が意識を失ってたとは言え……ライフキルで倒しての勝利。それが同じだなんて言おうとしているのがアホらしいと……そう言ってるんだよ。少なくとも、同じ相手とデュエルをした場合を考えてもインセクター羽蛾には何度でも勝てると言い切ってやる。だが、お前とデュエルをした場合は……何度も勝てる見込みなんて、まずねぇよ」
……まぁ遊牙の台詞も最もだから、それについては認めよう。だが、
「……そりゃ、俺だってあんな害虫野郎に負けるつもりは無いけどよ……それでも、結局のところ俺はエースモンスターでダメージを与えられてないうえに、自分からエグゾを組み立てさせちまったからな……それに……」
「……それに?」
「今回の負けで蘭との賭けが成立しちまったから……そっちも含めてショックが……な?」
俺がそういうと、これまた遊牙は呆れたような顔を浮かべてる。
「……あぁ、あのタイトルの話か。そもそもな話……俺が知る範囲で蓮が賭けに乗ってる様子はなかったが?」
「俺はな、けど蘭の奴が妙に乗り気でな、まぁ蘭の師匠で俺らの世界のタイトルチャンプを、チャンピオンの手抜きとはいえ、テレビの生放送で倒しちまったせいで、色々とスポンサーになりたいと五月蝿いんだよ。仲でも鳥獣のタイトルホルダーが俺と世代交代したいと、これまた乗り気で……」
「あー、そういう事か……なるほどな、それは確かにな」
「……それに、蓮は私達の世界でデッキ破壊をメインにしたデッキで世界ベスト4になってるから、ブランド力は強い。……まぁ、今回はさすがにライフキルじゃないから、別に賭けはノーカンにしてあげるけど」
「……そうして貰えると助かる」
もしそうじゃなかったら明日からプロのハードスケジュールをこなさなくてはならないとかホントに困る……うん。
「……まぁ、その件は一応落着したようだし……改めて、何か聞きたいこと、あるんだろ?」
「あぁ、まずは確認だがお前の正体は、所謂転生者って奴なのか?」
「……転生、と言えるのかは分からない、な。俺自身、気が付いたら『榊遊牙』の姿になっていた……としか言えない。というのも…………」
そこからの事を買いつまんで説明すると、OCG次元(仮称)にいたどこにでもいるような高校生(の筈)だった、彼、
「なるほどね……何となくそうだとは思ってたけど、まさかマンホールとはなw」
「トラック事故とかで死ぬのが確定した状況じゃないだけマシだよ」
いやまぁどっちもどっちだとは思うがな。
「まぁ確かにな、なら転生前の知識で悪いが、少し確かめさせもらうが、次の言葉に聞き覚えはあるか?ネクサス、マジック、ブレイブ、そしてスピリット」
「……別のカードゲームだって事は知ってるし、あっちにいた時の友人がやってたのを見たことはある。だが、簡単な単語でしか俺は知らない。強いて挙げるとすれば……『バトルスピリッツ』『ライフで受ける』『ネクサス、マジック、ブレイブ、スピリットというカード種類を示す単語』……ってだけだな。俺はそれをプレイしたことはないのでな。カード名なんて気にしたこともねぇからな、聞かれても知らねぇぞ?」
「それだけ分かれば上等、でだが……お前が生前までで見たことのないカードが、俺らとの戦いであったろ?」
「あぁ、あったな…………って、まさか……」
ほんと、こういうときって転生者は楽だから良いよな。うん。
「そ、俺らの世界じゃ、そのバトスピのスピリットが遊戯王のカードになってるわけだ。んでだが、お前が使ったあの鳥達はお前が言ってたみたいにいつの間にか……だったんだよな?」
「……あぁ、俺が【今日、デッキの確認をするために中を見た時には無かった】な。えっと……」
遊牙はそこまで言うと、先程まで使用していたデッキを確認する。すると……
「……やっぱり、50枚になってるな。確か……違うカードは……うん、この10枚だ」
『ナイトイーグル』
『己の跳獣王 ライオ・ビット』
『翼の覇獣スパ・ルーダ』
『アルティメット・ショカツリョー』
『アルティメット・セッコーキジ』
『乙の跳獣女王アルレ・クイーン』
『風楯の守護者トビマル』
『黄金の大翼ライチョークス』
『アルティメット・ハシビロウ』
『千刀鳥カクレイン 』
出されたそのカードはどれもこれもバトスピのそれであり、
「わぁお、どれもこれもバトスピ関連のカードばかりだな、おい」
ブレイブ、スピリット、極めつけにアルティメットと、さっきデュエルで出してきたモンスターばかりだ。
「そっか……ほら」
すると遊牙は今手元にあるバトスピカードを差し出した。まるでこのカード達を俺達に託すように。
「……良いのか?不自然にとはいえ、自分のデッキに入ってたカードを渡しちまっても?」
俺はそのカードを持つ遊牙の目を確かめる。言っては悪いが、どれもこれも強力な効果を持ったカードばかりだ、それを簡単に手放すという事に不思議でしかならない。
「そりゃあ効果も強力さ。俺のデッキにも合うし……でもな、仮にこれを公式試合で使ったらどうなる?」
「そりゃ……あぁ、なるほどな」
「少なくとも、今はまだこの世界にあるのはこのカードだけだが……いずれ増えてしまうだろ? そうなったら高いカードパワーや強力な効果を持つカードが優遇されるこの世界……いずれ本当の遊戯王カードの価値はグンと下がってしまうだろうな。バトルスピリッツのカードは結構強いし、それは認めるが……まだまともに出ていない今のうちに処理してしまう方が一番いいんだよ。それに、元々が遊戯王じゃないカードを持っていることで【そのカードを持っているから強い】なんて、言われたくないからな……」
確かにこいつの言う通りだ。それと同時に、やはり流石はOCG出身者だけなことはあると感心すらしてしまった。
「そっか……そういうことなら、ありがたく回収させて貰うな」
俺は受け取ったカードを別のカードケースにしまう。
「……私からも一つ忠告しておく」
「忠告? 何だ……?」
「この先、一筋縄じゃいかない事が続くかもしれない、けど、そのために力に呑まれないことね。でないと、逆になにも守れなくなるわよ」
蘭の指摘は、恐らくはこの先の物語についての事だろうということは何となく分かった。
「……あぁ。俺は少なくとも、遊矢が暴れた時には……周りへの被害は…………それと、遊矢自身への被害も……すべてを最低限に抑える。その為にも……俺は力には呑まれないようにするさ」
「……ちょっとまちなさい、その言い方、全てを知ってる訳じゃないのね?」
「遊牙君、君はいったい、
「……そう、だな。舞網チャンピオンシップス終了後、と言えばいいかな。シンクロ次元へ旅立つ所までは見た。その後にカードを買いに行って、それ以降は話した通り、だな」
なるほどなるほど……つまり、
「……そうか、てことは『LL』を使うのは不味かったな……」
「……蓮、自分でそういうのはダメだって言ってたくせに……」
「そうだったな。俺はてっきり、蘭たちと一緒で全部を知ってるのかと思ったからよ。あ、言っとくがその事は一切口にする気はねぇぞ?」
「……一応聞くが、何故?」
「言ったら悪いが、遊輔さんみたいに、本来なら居るはずのない人間まで居るんだ、てことは未来が同じと決まってないし、何より未来ってのは自分で見つけるから良いもんだろ?」
俺はニヤリと笑って遊牙に手を差し出す。
「今日は負けたが、次は勝つ。アクションデュエルで負けて、得意のスタンディングでまで負けるわけにいかねぇからな、覚悟して腕を磨いておけよ」
「そん時があれば……その時は次も勝たせてもらうさ」
遊牙も俺の手をがっしりと掴み、握手を交わすのだった。
「……さて、本日は有意義な時間、感謝させて貰う」
あのあと、塾の面々とデッキについて話したりと、時間があっという間に流れ、気付けば夕方近くになっていた。
「こちらこそ、とても塾生にとってもそして自分にとっても有意義な時間だった。とても感謝している」
遊輔は笑って返す。そして塾のドアを開けた時……一閃の光が突然ドアの向こうより光り、俺達はあっという間に意識を失った。意識を失う寸前、先程発生した光とは別の小さな光が自分の方へと向かっているような感覚を俺は覚えたが、意識はあっという間にブラックアウトした。
「ん……あれ?俺の部屋?」
いつの間にか寝ていたのか、机の上に寝ていたらしい俺は、重たい頭を持ち上げて軽く伸びをする。
「なんかすげぇデュエルした気がするような……ってあれ?なんで俺、亮のコート着てるんだ?」
何となく意識が曖昧だったが、とりあえずコートを脱いで部屋着に着替える。
「夢だったのか……?いや、でも……」
そんなときだった。聞きなれたインターホンが聞こえ何事かと思うと、見慣れた蘭の姿がそこにあった。
『……ごめん、お腹すいたから……料理お願いしてもいい?』
「たく、またかよ!!」
大慌てで部屋着に着替え、ドアの前にいる蘭を迎えにいく。
「けど、まぁいいデュエルだった気がするな……」