第二十六羽 修行という名の合宿
「さて、タイトルにもある通り合宿をしようと思う」
「「「「「劔菜(先輩)メタイメタイ」」」」」
そんな第一声を放った我が部長にツッコミを入れるという恒例行事をして、とりあえず本題に入ることにした。
「先の予選、私達は尽く辛酸を舐めさせられた。私達以上の実力である奴等を倒すには、それこそ奴等より強くなる他がない」
「けど、合宿って言いますけどそんな時間はないっすよ」
事実今日は火曜日、地区本選が土日と考えると時間は全くといって良いほどにない。
「確かにその通りだ。だから合宿といっても私の家に来てもらう」
「先輩の家?」
「あぁ、そこで私の師匠とデュエルをしてもらおうと思う」
なんだろう、嫌な予感しかしない。そう俺達は全員思った。
ということで放課後、荷物を取りに戻った俺と蘭は、亮の家の車で先輩の家へと来たわけなのだが……。
「……でかいな」
「うん、大きい」
まるで昔の任侠映画の根城とでもいうような超和風建築に、大きな
初めて見た感想としてそれはどうかと思うのだが、目の前にある木の門に、武家屋敷のように聳え立つ白塗りの壁、さらにその上から見える松の枝葉等を加えるとどうしてもそうとしか思えない。
「まぁ中は普通の造りっすけどね、何度かお邪魔してるんで俺も」
「……ちなみに聞くが、先輩の家って何をやってるんだ?」
「結構色々幅広くやってるみたいっすよ?ホテル経営に料亭、警備関連に道路工事とか」
「……どんなマルチ企業だそれは」
まぁ色々と突っ込んでたらキリがないので、とりあえず中に入ることにする。
これまたなんというか、かなり広い庭に、松の木々が壁を隠すように並んでいて、見ただけで流石セレブだと言いたくなった。
「ホッホッホ……君たちが劔菜嬢が言っていた後輩たちかな」
「「ッ!?」」
と、まるで瞬間移動したように現れた老人に驚いていると、老人はフム、と呟き腕を組む。そして何を思ったのかこちらを見て
「よし、そこの
そう宣った。
「えっと、貴方は?」
「そんなことはどうでもいい、さっさとワシとデュエルじゃ」
そう言う老人の左腕にはデュエルディスクが展開されていて、どうにも先に進まないようだ。
「……分かりました。やりましょうか、デュエル」
「ヨイヨイ、それでは……」
『デュエル!!』
蓮 LIFE8000
老人 LIFE8000
「先行はワシが貰うぞ。ワシは『氷楯の守護者オーシン』を召喚!!」
『氷楯の守護者オーシン』 ☆3 A100
「『オーシン』は召喚後守備表示へとなる。そしてワシは手札から魔法カード『手札抹殺』を発動!!」
「な!?これは」
『オーシン』の効果を知ってる俺からすれば、これが意味するのは
「お互いに手札のカードを全て墓地へ捨て、デッキから棄てた枚数ドローする。そして童は『オーシン』の効果で、手札を効果で増やしたから全て墓地へ捨てて貰うぞ」
「ぐ……」
完全な手札破壊……ハンデスだった。自分は得をし、尚且つ相手にはなにもさせない、そういうことだった。
「ワシはカードを一枚伏せ、ターンエンドじゃ」
老人 LIFE8000 手札二枚
フィールド
『氷楯の守護者オーシン』 D1800
伏せカード一枚
「く、俺のターン、ドロー!!」
「この瞬間、罠カード『強烈な叩き落とし』を発動し、引いた手札を墓地へ捨てて貰うぞ」
徹底的な手札破壊、この老人、かなり強い。
「く……ターンエンド」
蓮 LIFE8000 手札0
フィールド
無し
「ワシのターン、ドロー!!ワシは『オーシン』攻撃表示にし、手札から装備魔法『妖刀竹光』を『オーシン』へ装備させる!!」
「な!?」
『竹光』……そのカテゴリーは確か、
「この効果で、『オーシン』の攻撃力は0アップする。そして魔法カード『黄金色の竹光』を発動!!『竹光』が存在するため、デッキから二枚ドロー!!……よし、手札から永続魔法二枚『燃え竹光』と『魂を吸う竹光』を発動!!バトル!!『オーシン』でダイレクトアタック!!」
「ぐ……」
蓮 LIFE8000→7900
「この瞬間、『燃え竹光』と『魂を吸う竹光』の効果が発動する!!次のターン、童はドローステップとメインフェイズ1をスキップしてもらうぞ」
「ち、だが、その手のカードにはデメリットがあるはずだ、それさえなんとか」
「……無理っすよ兄貴」
俺が食いかかろうとしたとき、亮がそんなことを呟いた。
「兄貴、申し訳ないっすけどこの勝負、兄貴は絶対に勝てないっす」
「……どういうことだ、亮」
「確かに『魂を吸う竹光』は、二回目のスタンバイフェイズに自壊する効果があるっす、けど……それは意味が無いんすよ」
……意味が無い?
「……蓮、『妖刀竹光』には1ターンに1度、フィールドの『竹光』を手札に戻して、装備モンスターをダイレクトアタックすることができるようにする効果がある」
「それのどこが…………あ!!」
漸くそこで亮が言いたいことが分かった。それと同時に、自分が絶対に勝てないということも。
「『妖刀竹光』の効果で、『魂を吸う竹光』を戻されたら、蓮はこのデュエル中ずっと、ドローする事が出来なくなる。そして蓮の手札は一枚も増えず0のまま、手札も無く、フィールドも空なら、相手はこれ見よがしに殴り続ければ勝てるんだから」
「無限ループ、ということか」
しかも此方は手札を持つことすら許されない、かなり厳しい状況だった。
「その通り、童は何もできず、負けるのを待つだけじゃ。ワシはこれでターンエンド」
老人 LIFE8000 手札1枚
フィールド
『氷楯の守護者オーシン』 A100
『妖刀竹光』 装備魔法
『燃え竹光』 永続魔法
『魂を吸う竹光』 永続魔法
「俺のターン!!」
「永続魔法『燃え竹光』、及び『魂を吸う竹光』の効果発動!!メインフェイズ1とドローを封じる!!」
「ぐ……ならバトルフェイズからメインフェイズ2へ入る」
「フォッフォッフォ、手札もフィールドも空の状況でいったい何が出来る」
確かにその通り、手札もフィールドも何も無い状況で勝つなど不可能に近い。だが、
「俺へのメタ張りしたいなら、そこに端末世界でも張るんだったな!!墓地の『ネクロブライト』の効果発動!!このカードを除外して、墓地の闇属性レベル3以下のモンスターを特殊召喚する!!」
「な!?闇属性デッキじゃと!?」
「悪いが俺は鳥獣デッキ以外にも持ってるデッキはあるんだよ、俺はこの効果で墓地の『金狐角』を特殊召喚!!」
『金狐角』 ☆3 A1500
「『金狐角』が召喚、特殊召喚に成功したとき、墓地から『銀狐角』を特殊召喚する!!」
『銀狐角』 ☆3 A1400
「『銀狐角』も召喚、特殊召喚に成功したとき、墓地から『金狐角』を特殊召喚できるが、存在しないから関係ない」
「ぐぬぬ……何故じゃ、何故鳥獣デッキを使わなんだ?お主のメインデッキであろう」
「アンタがいきなりデュエルを吹っ掛けてきたからだよ。恐らくは、劔菜先輩の入れ知恵だろ?だから最初から動かないで、アンタのやることが分かってから動かせてもらった」
その通りと言うように、老人はぐぬぬと唸って盤面を見ている。
「行くぞ、俺はレベル3の『金狐角』、『銀狐角』でオーバーレイ!!エクシーズ召喚!!現れろ、『彼岸の旅人 ダンテ』!!」
『彼岸の旅人 ダンテ』 ★3 D2500
「『ダンテ』の効果発動!!ORUを一つ取り除き、デッキからカードを三枚まで墓地へ送る。これによりこのターン終了時まで攻撃力を送った枚数×500アップする。俺は上限の三枚墓地へ送る」
「守備表示で壁とするが墓地肥やしはすると……そういうことか」
「俺はこれでターンエンド」
蓮 LIFE7900 手札0
フィールド
『彼岸の旅人 ダンテ』 D2500 ORU1
「ワシのターン、ドロー!!『妖刀竹光』の効果で、『魂を吸う竹光』を手札に戻し、装備してる『オーシン』をダイレクトアタック出来るようにする。そして『魂を吸う竹光』を再び発動し、バトル!!童にダイレクトアタック!!」
「く……この程度」
蓮 LIFE7900→7800
「これで童は次のターンもメインフェイズ1とドローを封じられた!!ワシはメインフェイズ2に入り、手札から二枚目の『黄金色の竹光』を発動し、二枚ドロー!!そして『切り込み隊長』を攻撃表示で召喚!!」
『切り込み隊長』 ☆3 A1200
「『切り込み隊長』の効果は発動せず、ワシは2体のモンスターでオーバーレイ!!エクシーズ召喚!!現れよ、『幻影騎士団ブレイクソード』!!」
『幻影騎士団ブレイクソード』 ★3 A2000
「なるほど、それが爺さんの本来のスタイルか」
恐らく『オーシン』を引いたのは偶々で、本来は『幻影竹光』だったのだろうな。
「『妖刀竹光』が破壊されたことにより、デッキから『折れ竹光』を手札へ加える。そして『ブレイクソード』の効果発動!!このカードと『ダンテ』を選択し、破壊する!!」
「墓地の『スキル・プリズナー』の効果発動!!このカードを除外して、『ダンテ』に対する効果をターン終了時まで無効にする!!」
「何処までも想定外なことを……ワシはこれでターンエンド!!」
老人 LIFE8000 手札二枚(『折れ竹光』)
フィールド
『幻影騎士団ブレイクソード』 A2000
『燃え竹光』 永続魔法
『魂を吸う竹光』 永続魔法
「俺のターン」
「二種の『竹光』の効果で、メインフェイズ1とドローはできん!!」
「なにもするつもりも無いさ、俺はこれでターンエンド」
蓮 LIFE7800 手札0
フィールド
『彼岸の旅人 ダンテ』 D2500
「ワシのターン、ドロー!!『ブレイクソード』の効果発動!!このカードと『ダンテ』を破壊する!!」
「墓地の罠カード『仁王立ち』の効果発動!!『ダンテ』を選択して、このターン『ダンテ』以外のモンスターに攻撃できない」
「猪口才な真似を……破壊された『ブレイクソード』の効果発動!!墓地の同レベル幻影騎士団モンスターを、レベルを一つ上げて特殊召喚する!!現れよ『幻影騎士団サイレントブーツ』、『幻影騎士団ダスティローブ』!!」
『幻影騎士団サイレントブーツ』 ☆4 A200
『幻影騎士団ダスティローブ』 ☆4 A800
「ワシは2体のモンスターでオーバーレイ!!エクシーズ召喚!!現れろ、『
『幻影騎士団皇アヴァロ・パラディオン』 ★4 A2800
「『アヴァロ・パラディオン』……!?(既存カテゴリーのに加わったのか……)」
「『アヴァロ・パラディオン』がエクシーズ召喚に成功したとき、墓地の『幻影騎士団』モンスターを1体、このカードのORUに加える、ワシは『ブレイクソード』を選択する!!」
墓地から引っ張り出されたデュラハンの騎士は、要塞のようなモンスターへと吸い込まれ、回りを回る光の玉へと変化した。
「ワシはカードを一枚伏せ、これでターンエンドじゃ」
老人 LIFE8000 手札二枚(『折れ竹光』)
フィールド
『幻影騎士団皇アヴァロ・パラディオン』 A2800
『燃え竹光』 永続魔法
『魂を吸う竹光』 永続魔法
伏せカード一枚
「俺のターン、ドロー!!」
漸くドロー出来ると思いながら引いたカードを見た俺は、それだけでニヤリと笑った。
「俺は墓地から『ブレイクスルー・スキル』の効果発動!!『アヴァロ・パラディオン』の効果を無効にする!!」
「グッ……(『アヴァロ・パラディオン』は戦闘したモンスターをORUを消費して、バトル終了時に除外する効果を持ってるというに……)」
どうせバトル後に除外するとか、おおかたそんな効果を持ってるんだろ。知ってるっつうの。
「続けて俺は魔法カード『貪欲な壺』を発動!!『金狐角』、『ダンテ』、『シキツル』、『Theトリッキー』、『シュテンドーガ』、『冥総裁ハーゲン』を手札に戻して二枚ドロー!!」
「ふ、高々手札二枚で何が出来る!!」
「このターンで終わらせることが出来るんだよ、俺は『死者蘇生』を発動!!墓地から蘇れ、『銀狐角』!!」
『銀狐角』 A1400
「カードを一枚伏せ、バトル!!『銀狐角』で『アヴァロ・パラディオン』を攻撃!!」
「攻撃力が低いモンスターで攻撃だと!?血迷ったか!!」
蓮 LIFE7800→6400
「いや、これで良いのさ!!伏せていた『呪の覇王カオティック・セイメイ』の効果発動!!相手フィールドのモンスターの攻撃力を半分にし、闇属性モンスターが破壊された為特殊召喚する!!」
「な!?そうはさせん!!カウンター罠『神の警告』発動!!相手の召喚、反転召喚、特殊召喚する効果が発動したとき、その効果を無効にして破壊する!!」
老人 LIFE8000→4000
呪の覇王が現れようとした霧に雷鳴が鳴り響き、大型のそれがぶつかり消えてしまう。
「どうやらそのデッキのエースモンスターのようだが、無効にしてしまえば意味はあるまい!!」
「……いや、寧ろ
俺の言葉に呼応して、空から巨大な陰陽師の格好をした蛇……『カオティック・セイメイ』がフィールドに降臨した。
『呪の覇王カオティック・セイメイ』 ☆8 A2000
老人 LIFE4000→3000
「な!?どういうことだ!?なぜ無効にして破壊したモンスターが!!しかもなぜワシのライフが減ってる!?」
「『カオティック・セイメイ』の第二の効果、このカードがバトルフェイズ中に
「なんじゃと!?」
これがこのモンスターの強みの一つだ。バトルフェイズ中に関してだけはこのモンスターに対して戦闘破壊も効果破壊も意味はない、しかも自身の効果で自爆特効しても自分はダメージを受けない、強さだけなら禁止級の一枚なのだ。
最もバウンスやブラックホールとかでのメインフェイズに破壊されたら絶望的なため、使うときはそのターンで決める……切り札としての使い方以外無いのだが。
「バトルフェイズ中の特殊召喚だから、『カオティック・セイメイ』は攻撃可能!!カオティック・バースト……三連打ァ!!」
「ぬぁぁぁぁぁぁ!?」
老人 LIFE3000→2000→1000→0
「見事なライフジャストキルだったな、蓮」
どうやら見ていたらしい劔菜先輩と、その後ろから裕司先輩と椿姫先輩もやって来る。
「どうです師匠、中々に強いでしょ、我が後輩は」
「ええ確かに……まさかあのようなカードを使うとは思いもしなんだ、ワシもまだまだというところですかの」
「いや、そんなことは……」
寧ろ本来の鳥獣デッキだったら、それこそ何もできずループで攻撃され続けるだけだったと思っている。
「ですが、まだまだ青い部分も多い、これは修行の甲斐がありそうですな」
「というわけだ、三人とも、ビシバシ扱いて貰うから、覚悟するように」
「「「うっす!!」」」
ここに、初めての合宿が開始された。