Akatetsu   作:けいはんぐらし!

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第6話 出会いと再送

 宮森はこの日、8時出社となった。しかし寝坊をして、7時半とぎりぎりの状態であった。

「え~靴下どこ~??」と言いながら、片方だけの靴下を探していた。仕方なくその辺にあった、色が近いものを使うことにした。そこへ追い打ちをかけるように、彼女の姉である宮森かおりから電話がかかってきた。

「もしもしあおい、元気にしている?」と、かおりが言うと

「え~!今忙しいのに、そして今から出社なのに。なんで。」と、あおいは言った。

「へえ郵便局員って、忙しいのだね。」と、かおりが言うと

「あたりまえだよ。毎日大量の郵便を取り扱うからね。特にゆうパックの部署は、何かと大変だよ。通信販売とかで忙しいからね。あと何で電話をしたの?」と、あおいは言った。すると

「今から新幹線でそっちへ行くね。」と、かおりが言いだした。

「え~何でお姉ちゃんは、そんなに唐突なの?でも今来ても私いないからね。」と、あおいが言うと、

「じゃあ部屋の鍵、ポストかどっかに入れといて。頼むね!」と、かおりは答えた。

「え~でも、そんなことできないよ。」と、あおいは言った。

「じゃあお願いね!」と、かおりが言って電話を切った。あおいは、今井の部屋に向かった。

「あ!おはようございます。おいちゃん先輩。」と、今井が挨拶をすると

「よかった、りーちゃん起きていて。」と、宮森は言った。すると

「何か用なの?」と、今井が言うと

「今日は昼ぐらいまで家にいる?お姉さんが来るので。」と、宮森が訪ねる。

「かおりちゃんねえさんですか。う~ん、今日はちょっと厳しいなあ。この後、用事があって原宿に行く予定がある。そしてゼミも・・・ でも三毛猫君は確か1日家にいるそうだよ。確かNゲージで遊んでいるとか言っているよ。この建物の私の部屋の隣に住んでいるからね。ちょっと聞いてみて?」と、今井は言った。

「わかった。じゃあ三毛猫君に聞いてみるよ。ありがとう。りーちゃん」と、宮森は言って三毛猫の部屋に行った。

「はい!おはよう、宮森さん」と、三毛猫が有機溶剤の芳しい匂いをさせて出てきた。

「三毛猫さん、本日お昼ぐらいまで家にいますか?」と、宮森が言うと

「いるよ。ただ14時からは黒磯訓練を撮るために、ちょっと上野までギャラリーに行って、そっから秋葉原のレンタルレイアウトへ行って、知り合いのNゲージに幅寄せに行ってくる。」と、三毛猫は言った。

「よかった。じゃあ私の部屋の鍵を預かってもらうことはできますか?私の姉の”かおり”がやってくるので、お願いできますか。」と、宮森が言うと

「確認オオライ!じゃあ預かっておきますね。ちゃんとお姉さんには、連絡しておいてくださいね。」と、三毛猫は言ってから宮森の部屋の鍵を預かった。

 そして宮森は自転車で、武蔵野中央郵便局へ出社していった。局に着くと駐輪場には、安原の自転車がとめてあった。

「もうえまちゃん出社しているんだ。」と、宮森は思った。いつも通り出勤簿に印鑑を押し、デスクへ向かった。そして企画社員用の朝礼が始まった。

 

 

 この日は昼から一大イベントがあった。それは「繁忙期の臨時学生アルバイト」の面接であった。面接は業務が落ち着いたら、15時から上の階にある会議室で始めると総務の社員が言っていた。

「アルバイトの面接には、私(丸川局長)と小笠原さん、そして葛城課長と下柳さんが面接官をやってもらう予定です。」と、丸川局長が言った。

さらに朝礼では、落合の転勤の話が出た。

「この月末付で、私は転勤することになりました。今まで本当にありがとうございます。」と、落合が言う。

「え!なんで!」と、高梨が言った。すると

「落合君は、神戸に行くことになったのだよ。理由は三毛猫君と交換になったことかねえ。向こうも、これ以上はもう待たないから人を送り込んでくれ!と、先日会議で言ってきているのもあったからなあ。」と、丸川局長は言った。

「高梨!これから何が起こるかわかるよねえ?人手不足でますますビシバシこき使うからね!」と、矢野は言って詰め寄った。

「まあ神戸では関東にはない何かもあるし、自分にもいい経験になると思う。」と、落合は言った。

 

 そしてミーティングの後、第一供給の山田は宮森と話していた。

「へえ安原が倒れたってか。最近元気ないなあ?と、俺も思っていたよ。確かにここは、女性にはきつい現場だと思う。25kg超えのゆうパックを取り扱っていちゃねえ。人手不足であれだけの激務をこなしたら、無理があると思うよ。そもそも人が最近、郵便局に集まらない。慢性的に・・・」と、山田が言った。

「え~?なぜ郵便局に人が来ないのですか?」と、宮森が尋ねると

「郵便局のバイトは給料安いし、ライバルの飲食や販売のサービス業が給料あげたらね。もう少し給料上げないと人は来ないと思う。そうなれば、安原さんも激務にならずに済むけどね。まあ災害対応よりはマシだけど。」と山田が言う。すると宮森は、以前に山田が経験した災害対応の話題について尋ねる。

「話には聞きますけど、伝説に聞く東日本大震災からの復旧業務、どれぐらい激務でしたか。」と聞いた。

「まずトラックが局へ向かっている途中に地震や津波で被災しまくったし、局内のロールパレットが全部おじりしていたなあ。さらに局員数名が配達中に殉職、そして区分機のベルトコンベアは崩壊し、郵便局は耐震強度不足で取り壊しが決定し統合となった。俺は結果的に、3か月ブッ通しで郵便局に泊まり込みで勤務し、あの震災の復旧作業にあたっていたよ。関東でもあそこは被害の大きかったなあ。30過ぎて不審の思った大家から親へ電話が入ったとか、炊飯器にカラフルなカビが発生していたとかなあ。あんな地獄、後にも先にもないねえ。」と、山田は言っていた。その様子を宮森は息を飲んで、声を失った表情で聞いていた。

 

 

 この日の到着は、鉄道便は休みであった。そのため関西からの到着量は、少なかった。また休日明けもあって新東京多摩下り雑は、いつもより少なかった。しかし鉄道便の休みとはいえ、船(フェリー)臨時クール便のコンテナは着いた。

「お!九州からの臨時だねえ。」と、葛城課長は言った。

「何それ?」と、宮森が聞くと

「まあ九州から生鮮食品が大量に到着するのだよ。特にお肉が大量に来ることになった。」と、矢野が言った。そして彼女は、

「今日はレーンよりもチルド室が忙しくなるなあ。」とも言っている。

 そういっている間にも、第86日通丸というRo-Roコンテナ船は東京港の岸壁に接岸した。それに今回の主役のリーファーコンテナ(冷蔵コンテナ)が陸揚げされ、トレーラーに積まれていた。

 

 午前中はトラック便のみの到着となった。そして貨物の量は、新東京多摩下り雑を入れても比較的少なかった。しかしリーファーコンテナが到着すると、状況は一変した。

 宮森あおいはこの日の午前、小笠原と共にチルド室でクール便を手区分で処理していた。小笠原はいつもAラインコートを着て、作業にあたっている。その姿は武蔵野中央郵便局では一番のおしゃれな郵便局員でもある。小笠原の区分している様子は、まさに神業だった。携帯端末で入力後、行き先の書いてある冷蔵ロールパレットに積み込む。その手さばきは、無駄がなく素晴らしく、区分係は見とれてしまうものだった。

 

 昼からは通常通りの全国差し立てであった。レーンでは、連日の業務の疲れにより安原がかなりクタクタの状態で、区分作業にあたっていた。そして注意散漫の状態でいた。それを見た杉江はアドバイスをしようとする。しかし声をかけてはかわいそうだと思っていた。そして杉江は、自分が持ってきたほうじ茶を水筒からコップへ移した。レーンには、ほうじ茶の香りが漂い、安原も気が付いて杉江のほうを見た。

「ほうじちゃ?」と、安原が言うと

「君いつも頑張りすぎているね?やっぱり区分は供給と違って、根気と体力の両方必要だからね。」と、杉江は言った。その時に宮森がやってきて、

「えま!調子はどう?あとまだノーステップが6パレット到着するようだから、区分お願いね。」と、言いに来た。安原は「うん!」とうなずいただけだった。すると

「若い時でないとね、区分の流れは学べない。誤送しない癖もね。今が頑張り時だよ。」と、杉江が言うと

「早く区分すれば、丁寧にできるのですか?」と、安原は返した。

「早く分けると誤送が出るし、取り扱いも雑になる。投げてしまう。ゆっくり丁寧になると遅くなる。早く丁寧に誤送なく区分できるようになるには、一連の流れを理解する必要がある。今君の周りにうってつけの手本がいるじゃないか。神戸の三毛猫君や井口さん、彼らも同じ道を通ってきたからねえ。いい相談相手はいると思うよ。」と杉江は言った。

「じゃあもっと早く区分すれば・・・」と安原が言う。

「たとえ正確に区分できても、スピードは落ちていくと思う。重量物が来ればなおさらだよ。」と杉江が言う。

「最初は下手でもいいのですか?」と安原が言う。そして

「それはね、先輩がクリアできる基準に区分できないとないとなあ。それができれば食べられる。できないと辞めていく。時代は変わっても、はたまた雇用形態が正社員でも非正規でも問わない。それが郵便局の区分係だねえ。」と、杉江は言い放った。彼はまさにいろいろなものを見て悟りきっている様子でもあった。

 

 

新幹線で宮森あおいの姉、かおりが武蔵野市に着いた。そして武蔵境駅に彼女は降り立って、

「へえこれが東京、うちに街とそう変わんないじゃん!」と言った。

そしてまっすぐに宮森あおいのアパートへ行った。するとあおいの部屋の扉に紙があった

「歓迎宮森かおり様 305号室へ来てください。武蔵野中央郵便局員三毛猫」と書いてあった。

そして三毛猫の部屋にかおりは行った。

「こんにちは。宮森かおりさん。来るのを待っていましたよ。宮森あおいさんからそちらの部屋の鍵を預かっています。あ!よかったら私の部屋へ・・・」と、三毛猫が言った。

「では少しお言葉に甘えます。」と、かおりは言って三毛猫の部屋へ入った。しかし彼は、ものすごい「オタク」であったのは言うまでもない。部屋にはアニメグッズやNゲージ、鉄道写真があった。

「すごいですねえ。電車とアニメ好きなんですか?」と、かおりが質問すると

「まあね。俺も数年前からアニメはまっていてね。ちょっとずつ買っている。あと鉄道はその前からずっと・・・幼い時から・・・」と、返事をしてお茶をかおりに出した。

「あらいいの。じゃあ頂いていくね。」と、かおりは言ってからお茶をいただいた。

「しかしアニメは決して安い趣味じゃないよ。かなりお金がかかる。グッズは特になあ。だからうちの親は不平を言っている。」と、三毛猫は言って一番彼が気に入っている等身大エアPOPを見せた。そして

「あまり長居すると申し訳ないので、そろそろ妹の部屋へ行きますね。」と言って、三毛猫がかおりをあおいの部屋まで送ったあげることにした。そしてあおいの部屋へ入った。

「へえ案外きれいにしているじゃん!」とかおりは感心していた。

「まあ生真面目ですからね。あおいさんは・・・」と、三毛猫は答えた。

「ところで、かおりさんは何のお仕事をなさっているのですか?」と、三毛猫が聞くと

「信用金庫の職員です。」と、かおりは答えた。

「そうですか。まあ私の母方の伯父に銀行員がいたなあ。では私はこれで失礼します。」と三毛猫は言って、あおいの部屋を後にした。

 

 

 姉のかおりは、妹あおいの服を無断で借りて、かおりはある場所へ向かった。それは「パチンコ店」だった。武蔵野市でガラが悪いとうわさされ、ヤンキーやならず者が多数店内でうろうろし、煙草を咥えながらパチンコに興じていた。大音量のアナウンスやBGM、パチンコ台の音、タバコ臭い店内で、かおりは出玉がよさそうな台を見つけ遊び始める。すると彼女は、

「今日は負ける気がしないなあ。」と言って、よさそうなパチンコ台を見つけて打ち始めた。あおいの服のパワーか、この日は思いっきり出玉がよかった。

「連チャン、連チャンだ!これでは席も立てないなあ。」と、かおりは言っていた。あっという間に彼女の足元には、パチンコ玉満載のドル箱が並ぶ。

その時にゆうちょ銀行の営業マンの興津が、かおりに声をかけた。さらに木下の姿もあった。

「こんにちは。武蔵野中央郵便局のゆうちょ銀行営業の興津です。もしよければNISAや投資信託などの金融商品いかがですか?新規で口座開設も歓迎です!」と言ったときに、木下が

「あと私は、ゆうパック営業の木下ですが、よければ”かもめーる”やふるさと小包はどうですか?パチで勝ったお金で、おひとついかがですか?」とも言った。すると

「あら?武蔵野中央郵便局?私の妹が偶然そこで働いています。それもゆうパックの部署で。」と、かおりは答えた。

「あ!もしかして宮森さんのことですか?先ほど電話がありましたよ。お姉さんが東京にいらしているって!」と、木下は興奮した表情で言った。その瞬間に、

「また大フィーバーだねえ。今日は来てよかった。出玉が止まらないなあ。」と、かおりは言ってパチンコに興じていた。それを見た木下は

「もしよければ、会社とかで必要な”かもめーる”、購入してはどうですか?折角パチンコで勝ったので、縁起かついでぜひ50枚どうですか。」と、詰め寄った。かおりは

「じゃあ今回は、武蔵野中央郵便局で買って帰るよ。ちょうど会社で頼まれているからさ。」と、言って安請け合いした。そして木下より「申し込みはがきと振込用紙」を受け取り、かおりは夕方までパチンコで遊んだ。この日パチンコで4万5千円も勝っていた。

店員を呼び出し台車で玉の入ったドル箱を運び、玉を数えてから景品のライターの石を店員からもらい、景品交換所で換金した。

「さすがに妹から服を借りて行ったのは正解正解!」と、言いながらパチンコで勝ったお金と木下誠一の名刺を持って、スーパーに寄ってからあおいのアパートへ帰った。

 

 

 しかし特殊郵便課へ行った遠藤は、まだ下柳と高梨の行動にすねている様子であった。

「機嫌を直しましょうと」と、高梨が言いに来ても「嫌だ!」の一言だけであった。

「お前!もうとっとと消える!高梨!」と言って、遠藤は彼を貨物用エレベーターに押し込む始末であった。

 そこへ丸川局長がやってきた。

「ちょっと遠藤君、もし可能ならば、短期のアルバイトの採用面接、少しやってみないかね?小笠原さんに無理を言うと困るからなあ。あとかわいい女の子も多いし。」と、丸川局長は言った。すると

「じゃあ私が小笠原さんの代わりに面接やります。」と、言い出した。そして

「それでは、遠藤君、今日の面接お願いね。ちょっと気分良くなると思うよ。」と、丸川局長は言った。

 丸川局長の言ったことは正解であった。面接でかわいい高校生の女の子と話ができたばかりか、遠藤と下柳は、仲直りするきっかけにもなった。

「今日はかわいい子ばかりだったよなあ。下柳君。」と、遠藤が言った後、

「そうだな!イベント会社の娘さんまでいたね。あの子、ピンクの髪の毛に制服姿は、清純派に見えましたね。」と、下柳も言っていた。

「あの子が今度から来てくれそうだなあ。運動部なので体力にも心配ないみたいなので。これで夕方の差し立てが順調になるなあ。」と、遠藤が言って気分はルンルンであった。

そして彼らは、輸送ゆうパック課のベルトコンベアのレーンで区分作業にあったった。

 

 その頃、三毛猫は痛法被を着て、上野駅へ乗り出した。広島から来た鉄オタ仲間と合流し、ギャラリーであふれかえったホームへ向かう。

「うわ~人多い!」と、広島の友人が言うと

「あたりめぇだろ!東京だからな!そりゃ俺は準備万端だぜ!痛法被に痛Tシャツだろ!ズボンはユニクロ。これが激パ(罵声大会)出撃ファッションだ!」と、三毛猫は言った。

「ここで撮るのは避けて、別の場所へ行こうかなあ?」と言って、3人は上野駅から近くの踏切へ移動した。

そしてEF81-81がブルートレイン5両を牽引して、通過していった。

「ほら!きたぞ~!黒磯訓練!」と、三毛猫は言ってシャッターを切った。

「一発で決まった~!」と、彼は叫ぶと

「俺も決まった!パーイチ好きだし、ローピン+銀帯サイコー!!!」と、広島の友人は言っていた。

 

 

 15時から武蔵野中央郵便局では、夏季繁忙期の学生アルバイトの面接で3人ほど抜けた。安原と藤堂、山田は午後到着の区分をやっていた。そして高梨が供給をやれという時に、再び問題を起こした。

「高梨!またお酒の瓶を供給しようと思ったでしょ。」と、矢野が聞くと

「え?」と高梨はとぼけた。

「何度言ったらわかるんですか!瓶と卵は機械禁止って言ったのに、なぜ君はわかっていない何て。」と、矢野は怒り出した。

「すまねええええ!」と高梨が言った途端、矢野は切れて思いっきり彼の頭を平手打ちした。

 

 この日の配達は、渋滞等がなく順調であった。道順組み立ての瀬川も、配達から帰ってきた京橋と話していたぐらいであった。

「あら京橋さん、配達お疲れ様です。」と、瀬川が言うと

「いえいえ、まだまだこれからですよ。この仕事、人手不足なので残業毎日です。」と、京橋は答えた。

「武蔵野市、だいぶ慣れましたか?」と、瀬川が尋ねる、すると

「まあね。」と、京橋は答えた。

 

 午後締め切りの荷物は、少ししかなかった。理由はノーステップがほとんど午前中に差し立てとなったからだ。あまり残っていない状況にかつ、午後差出のゆうパックもあまりない状況となった。

安原は疲れを見せながらも、北陸方面の区分作業に従事していた。そして石川県と富山県を勘違いし始める。そして積み込みを間違え始める。そのことについて、誰も気が付かなかった。区分検査もしないまま、ロールパレットは出発貯留エリアへ移動していった。

 

宮森あおいはこの日の18時に、本田から

「今日お姉さんが来ているみたいだねえ。荷物も少ないし残りの差し立ては心配ないから、もうあがりにしていいよ。」と、言われた。宮森は、

「お言葉に甘えます。お疲れ様です。」と言って、郵便局を後にした。

 

 

 あおいが家に帰ると、姉のかおりと今井が部屋にいた。あおいは帰宅して、かおりの姿に驚いた。

「おっかえり~!お仕事ご苦労様!」と、あおいの可愛がっていた人形を持って挨拶してきた。

「おつかれっす~!」と、今井が言ってきた。

「で、なんで今井さんが・・・」とあおいが聞くと、

「偶然パチンコ屋から帰りのスーパーでばったり会った。で、家までついてきちゃった。」と、かおりは言った。あおいは、姉の服を見て

「ねえちゃん、それ私の服!」とあおいが聞くと

「かりたよ~!」と、かおりは人形を介した裏声で答えた。そしてタバコ臭のする姿を見たあおいは、

「おねえちゃんまたパチンコやったでしょ!」とあおいが聞くと

「そう!大勝したよ!出玉が止まんなかった!やっぱり服を借りていったのは正解だった。」と、かおりは答えた。

「おねえちゃんも、もっと真面目にしてよ。クズ修行やめてほしい。そのうち借金とか横領とかしないか私も心配だからね。」と、あおいは言った。

「ノープロブレム!」と、かおりは言った。そして

「真面目ってね、よいことと悪いことがあるんだよなあ。そのうちわかると思うよ。」とかおりは言っとき、

「でもクズ修行とは違うと思う。」と、あおいは答えた。

「さてそろそろこれでも食べよ!」とかおりは言って、彼女がパチンコで勝ったお金で買ったカニとウニの缶詰を酎ハイやビールを飲みながら食べた。

 

 

 翌日休日であったが業務はあった。宮森あおいが出社すると、差し立てスケジュールのところに赤紙(非常事態宣言)が貼ってあった。それは、昨日差し立てたゆうパックで誤送が発生したことでもあった。急いで宮森が調べると、安原が区分した金沢宛のゆうパックが、なぜか富山に行っていたことであった。すぐに宮森は、新富山へ電話をした。すると

「そちらから差し立てたゆうパックですが、確かに誤送が多かったです。4パレット中すべてに金沢宛が入っていました。まあ急いで区分するあまり、仕分番号のみを信用して区分した感じかなあ?本当は区分検査をしていればこんなことはなかったですが。この荷物、すべて送達が1日遅れそうです。」と、富山のものは言った。

「了解しました。この件については私が・・・」と宮森が言うと、

「そちらの郵便局員の安原さんだねえ。あの荷物を差し立てたのは。行き先の紙に安原さんの印鑑がったので。こんな区分をしてはダメです。しっかりと指導お願いします。」と、富山のものが言うと

「わかりました。このことについては、私が安原へ連絡しておきます。」と、宮森は答えた。

葛城課長は、誤送の件については承知であったが、人手不足がったので塵芥室送りにしないつもりで通した。なので、非常事態宣言の掲示する程度のことであったことを宮森へ伝えた。

 宮森はすぐに自宅にいる姉へ電話をした。

「まあ真面目がいいほうに行く時もあれば、悪いほうに行く時もある。真面目な人ほど自分を追い詰めるし、見失いやすいよ。たぶんスランプだと思う。これ以外に言いようはないよ。」と、アドバイスをしただけだった。

そして宮森は、屋上に安原を呼び出して話をした。

 

 

「えま~、ちょっと言いにくいことなのだけど、実は昨日の差し立ての際、金沢宛が富山へ誤送していたみたいだよ。」と、宮森が言った。

「誤送!金沢宛が富山に!」と安原が言うと

「そう!4台すべてに入っていた。誤送入力後、再度差し立てになった。1日遅延して向こうには届くことになった。」と、宮森は言っていた。すると

「それって郵便局員として失格ってことだよね。」と、安原が言うと

「そんなことないよ。誰だって失敗はある。」と、宮森が励ますと

「失格だよ・・・」と、安原は言い出す。

「大丈夫だよ。絵麻はすごいよ。あれだけの荷物をたった一人で処理できるなんて。」と、宮森が励ます。

「でも三毛猫君は、私と同じ仕事を6日間でプロ級区分係だったと言われた。それもゆうメイト時代に・・・誤送もゼロだし・・・」と、安原が言った。

「あの方は、元から天才だったから。さらに地理に詳しいからね。」と、宮森が答えるが

「でも他の方、何て言っていた・・・」と、安原は聞いた。

「もう少し丁寧に区分してください、と言っていた。」と、宮森が答えると

「丁寧に区分していたら、差し立ての時間に間に合わないよ。もってスピードを上げて区分できるようにしたい。技術も上げたい・・・このままでは食べていけないし、使えない郵便局員になってしまうよ。」と、安原が泣きながら言った。そして宮森からもらったドーナッツを持って、自分の持ち場へ戻ろうとした。その時、喫煙休憩のために井口が配達仕立て室から非常階段へやってきた。そこへ急ぎ足で来た安原と井口の肩が当たる。そのとき安原が持っていたドーナッツを床へ落としかける。井口がすぐさまキャッチし、床へは落とさなくて済んだ。そして

「おっと!危ないよ~!これ、やすはらっちのん?」と、井口が言うが安原は無口で泣いていた。

「じゃあもらっちゃおう!」と井口は言って、安原のドーナッツを食べた。

そのまま安原は走って、輸送ゆうパック課へ戻ろうとした。その様子を見た井口は何かを察した。

「やすはらっち、聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥ってね。」と井口が遠まわしに聞いた。しかし安原は足を一瞬止めたが、何も言わずに再び泣きながら走って行った。

 

 そしてこれから迎える繁忙期は、黄色信号が点灯するきっかけにもなった。気まずい空気が局内に立ち込めていたのは言うまでもない。

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