Rail road girl! レールロードガール! 作:けいはんぐらし!
津和野が保線の仕事にも慣れた頃、ついに京阪神緩行線のマルタイ作業に従事することになった。通行量も激しい須磨~垂水間の作業は、時間との戦いとなる。終電が行くのは深夜1時半。それ以降は線路封鎖が可能となる。しかし始発列車が来るのは5時半。4時間とかなりタイトなスケジュールになる。
「今日は鷹取基地から外側線下りの作業になる。時間がタイトなので、注意してください。」と、糸魚川は言う。
「かなり難しいから頑張るぞい!」と、津和野は言う。
「せやな。」と、糸魚川は言う。キヤ141の検測データ「マヤチャート」を見たとき、
「垂水駅から東に500m地点に、沈下が認められますね。」と、鳥飼は言う。
「そやなあ。ここにも沈下があるからなあ。まとめて修正しちゃいましょう。」と、糸魚川は言う。
「やはり先日から連続で貨物列車が通過しているからかなあ?」と、小郡は言う。
「確かに京阪神緩行線は、運行本数が多い大動脈だからなあ。」と、糸魚川は答える。
「ひっきりなしに列車が通る個所はすぐに線路が痛むなあ。今日の下り線作業は重要だなあ。」と、鳥飼は言う。
ミーティングの後、昼食休憩を済ませてから作業前点検に入る。
「このMTTは、ワゴンが2両連結されているから、作業時には注意してね!」と、鳥飼は言ったとき
「そうですね!ここの救援機材を使わないようにしたいですね。」と、津和野は答えた。
車両の点検をしていた時、津和野はひと月になることに気付く。
「このMTTはエンジンが古いですね。ちゃんと動くかなあ?」と、彼女は言うと
「確かに使い込まれているなあ。気にはなるは。まあ何かあれば救援カマが引っ張ってくれるさ。心配せんと作業を続けるんやな!」と、糸魚川は言った。
「そうですね!」と、津和野は言って作業を続けた。
「燃料残量よし!機器整備完了!」と、終了間際に津和野は“指さし呼称”して確認していた。
一行は仮眠を取った後、22時に点呼と夕食を済ませる。最終点検と打ち合わせを済ませ、深夜1時いよいよ出区を迎える。
「どもども!こんばんは。神戸保線区の若宮です。よろしく。」と、監視の作業員がやってきた。
「こんばんは。今日はよろしくお願いします。では早速、作業場所へ行きますか。」と、糸魚川は言う。
「MTT発進!」と、津和野は言って出区した。
作業箇所はおおよそ塩屋駅から西へ行った場所へ向かう。
「今日の作業場所は、列車線沈下箇所の修正と突き固めだからね。」と、糸魚川は言う。
「配置つきました。前方異常なし!」と、若宮は無線を入れる。
「こちらも配置よし!後方異常なし!」と、
「それでは作業開始します。」と、津和野は言うのと同時にマルチプルタイタンパーを作業モードにした。
特定のリズムでマルチプルタイタンパーは、線路をつかみ持ち上げ爪が砂利に入り振動を与える。
「今日も順調やなあ。」と、鳥飼は言う。
「さてこのまま作業を続けて終わらせまっか?」と、糸魚川は答えた。
作業開始直後は順調だったが1時間後、突然マルチプルタイタンパーに異常が発生した。
「エンジンの出力が出ないなあ。」と、津和野は異変に気付く。
「何か問題か?津和野君?」と、リーダーの糸魚川は言う。
「エンジン出力が低下して、これ以上の作業困難です。走行機器も異常発生。どうしたらいいのかなあ?」と、津和野は尋ねる。
「いったん機械を止めて、確認してくるは!おい鳥飼君、ちょっと手伝って!」と、糸魚川は言って2人で点検に向かった。
「いろいろ見てみたけど、機器故障が確認された。それもエンジン系統!音が少し変だったからなあ。仕方がないなあ。これはきつい。修理は工場でないと無理だ。やむを得ない救援要請するか。」と、彼は言って無線機を手に取った。
「こちら垂水駅列車線作業中のマルチプルタイタンパーです。走行機器異常により引き上げ移動困難。至急機関車による救援を要請します。」と、糸魚川は言う
「こちら京阪神緩行線指令の阿藤です。そちらへ宮原機関区より救援機を向かわせます。引き上げ体制をとってください。」と、無線が入る。
「津和野君!これから機関車牽引で大阪の本部へ救援する。準備頼むな!」と、糸魚川は言う。
「はい!配置につきます!」と、津和野は言ったあと駆け足で準備した。
「切り替えハンドル“牽引”位置よし!」と、津和野は指さし呼称しながら作業する。
「ジャンパー栓セットしたで!いつでも配給OK!」と、鳥飼は言う。
「これで一安心だね。」と、津和野は言った時に
「こちら京阪神緩行線指令です。もう間もなく救援のEF65が到着します。」と、無線が入る。
「これから引っ張って引き上げるで!」と、糸魚川は言う。
「誘導灯準備!」と、若宮は言ってサイリウムを準備する。
救援のEF65-1133が汽笛とともにやってくる。
「こちらは救援機運転士の梅小路です。ただいま配置につきました。連結準備お願いします。」と、無線が入る。
「こちらマルタイ作業員です。これから連結体制に入ります。」と、津和野は無線を入れて誘導灯を持つ。
「連結器ピン解除よし!これより連結開始してください。」と、糸魚川は無線を入れる。
「了解!作業開始します!」と、彼は言うのと同時に機関車のステップに立った。汽笛の合図にゆっくりと機関車は動きだし、マルチプルタイタンパーを連結した。
「ジャンパー栓接続完了!連結作業終了!」と、糸魚川は言って連結体制を解除した。
「そろそろ引き上げるから、若宮君と小郡君、鳥飼君はMTTの運転席に乗って!津和野君は機関車の運転席に乗るぞ!特等席で見物するで!」と、糸魚川は無線で指示を出す。
「了解です!楽しみだなあ!」と、津和野は返事の無線をする。
「そんなら配置つくは!」と、鳥飼も返事の無線をする。二人が運転席に乗り込んだとき
「今夜はお願いします。」と、津和野が言うと
「そやな!じゃあ安全運転で、吹田まで送っていくは!」と、梅小路は答えた。
「配置完了!」と、無線が入り糸魚川は「救援発車!」と、指示をだし出発する。
「識別点灯!神戸貨物ターミナルへ向け発車!制限45!」と、梅小路はいうのと同時に単弁自弁の順番にブレーキハンドルを解除し、マスコン(アクセル)を入れる。EF65はゆっくりと深夜の下り線を逆走し、神戸貨物ターミナルを目指す。須磨海浜公園駅を抜け、保線基地を横目に神戸貨物ターミナルに到着する。
「場内進行!神戸貨物ターミナル停車4両よし!」
「やっぱり夜間運転は緊張するなあ!」と、梅小路は話す。
「せやろ!保線作業は深夜が多いしなあ・・・」と、糸魚川は答える。
「しかし下関のPFの運転席に入れるって、なんかうれしいです。めったにない貴重な体験だから。」と、津和野が言うと
「そやな!ちゃんと体験するんだぞ!これがカマの運転風景だからな!」と、糸魚川は言う。
東京へ向かう夜行の貨物列車の通過を待って、出発信号を待ち85km/hで吹田の整備基地へ回送される。
「識別点灯!出発信号よし!救援9002レ発車!」と、梅小路は言うのと同時に、列車を発車させた。
津和野の視線は、運転士の梅小路を見ていた。無駄のないハンドル操作、何があっても動じない姿に・・・
電灯が消えたホームや街灯、踏切を横目に深夜の街をEF65は疾走していく。尼崎を通過すると、塚本信号所のデルタ線が見えてくる、列車はここから「北方貨物線」に入り、吹田まではショートカットする。
「この先もレール削正作業しているんだよなあ。」と、糸魚川は言う。
「そうなんですね。」と、津和野は答えた。
宮原操車場を通過し、深夜でひっそりとした新大阪駅を通過すると、終点のJR西日本の吹田工場がある。ここでマルタイは検査入場する。
「第一列進行!吹田操車場4両!停車!」と、梅小路は言って入線した。
「間もなくやなあ。」と、糸魚川は言うのと同時にEF65は停車した。
「停まるときは、一番緊張するなあ。まあ無事吹田に着いた。」と、梅小路は言いながら作業をしていた。
「機関車の運転、めったに見られないものを見せてもらい、いい勉強になりました。ありがとうございます!」と、津和野は言っていた。
「せやろ!機関車の運転はいい勉強になるやろ!いつか目指してみてもええんちゃう!」と、梅小路が言ったときに
「そろそろみんなのとこ行くで!ほな!」と、糸魚川は言って機関車から降りると
「ではこれで失礼します!」と、津和野も言ってお辞儀をして、糸魚川の後を追うように降りていった。
次の日、津和野と糸魚川は陸上勤務になっていた。そのため二人の姿は、本部の会議室にあった。普段は座らない革張りの椅子に掛けて、今度の保線作業をする際の打ち合わせも兼ねて話をしている。
「今度はレール削正業務だなあ・・・マルタイがあれではしばらく乗られへんからな。」と、糸魚川は言う。
「そうですね。故障で配給されましたね。」と、津和野が返すと
「そうそう。こっちは元レール削正車のオペレーターだったから、君にお願いしたいことがある。」と、糸魚川は言う。
「なんでしょうか。」と、津和野が返すと
「後方監視をやってほしいのだけどお願いできるかなあ?」と、糸魚川は言う。
「わかりました。じゃあ行きます!私もやりたいです!」と、津和野は笑顔で答えた。
「でも今回削正作業するのは、神戸市営地下鉄海岸線なんだ。めったに見れへんもんが見れるから楽しみにしいや!」と、糸魚川は言ったとき
「すごいですね!」と、津和野は返した。
「せやろ!神戸の深い場所でレール削正はね。ところで君のお父さんも運転士だったんだってね。だから昨日、下関のPFの添乗したとき、興味深そうに見てたんやね。“蛙の子は蛙の子”だなあ。」と、糸魚川が付け足すと
「そうだなあ。自分もこうやって保線車両を動かすとき、一番楽しく感じているからねえ。」と、津和野は言う。
「また機会があれば、機関士目指してみるか?チャンスがあればの話!」と、糸魚川は言うと
「え!保線エンジニアから運転士ですか!できるのですか?」と、津和野が答えると
「もちろん!ただ度胸と頭脳があればの話。」と、糸魚川は言う。
その時、打ち合わせのメンバーがノックして入ってきた。そして保線の入念な打ち合わせが始まる。
「今回作業する箇所は非常に難しいですね。何しろ深い場所での作業とピット(縦穴)から重機械の搬入と排出まであるからなあ。」と、糸魚川は言っていた。
「搬入は天井クレーンで搬入できる、ハラスコのものを使うわ。あれなら極小リニアトンネル対応やし。」と、レール削正の担当は言っていた。
「それがいいと思う。1台しかないあれね!」と、言っていた。
「新京阪物流のトレーラーで、京都の本部からレール削正車を神戸市兵庫区の御崎公園車両基地まで夜間に輸送する。そこから朝からクレーンで降ろし、地下で組み立てと点検を行い、その晩から作業する。これになります。」と、担当の者から言われる。
「結構タイトなスケジュールだねえ。」と、糸魚川は言う。
「とにかくすぐにトレーラーへ載せられますので心配ないと思います。2時間もあれば問題ない。」と、担当から言われた。
「スケジュールが立っているのならそれでいい!」と、糸魚川は答えた。
「ところで津和野君は、後方支援のやり方は分かっているか?」と、担当が質問する。
「心配ないです。」と、津和野は答える。
「お願いしますね。地下鉄隧道内は地上と違い環境が過酷です。保線車両からのばい煙もあるので、作業は慎重にしてください。とにかく事故がないように、お願いします。」と、担当は言った。
「確認オオライです!」と、津和野は返事をした。そして会議は終わった。
「いよいよだなあ。神戸出張。しばらくは戻られへんで。大阪!」と、糸魚川は言う。
「そうですね。でも糸魚川さんのかっこいいところ見られるのを、私も楽しみにしています。」と、津和野は答える。
「現地到着するとメカニックとともに地下へレール削正車を降ろし組み立てて、うちらがするの出発前点検をする。組み立ては1日か2日で終わるからなあ。あれは輸送・車両部の仕事。作業部とちゃうからなあ。」と、糸魚川は言うと
「そうなんですか。じゃああの方は。」と、津和野は言う。
「あれは作業管理部の社員。現場の管理をしている。」と、糸魚川は答えた。
「ふ~ん」と、津和野は言うと
「これからが大変だぞ。連続夜勤が続く!海岸線は全長8km。総延長は16km。レール削正車の1日の処理能力500m/1dayだからね。ざっと計算で1か月はかかる。大仕事だよ。」と、糸魚川は言った。
「一大プロジェクトですね。」と、津和野は言う。
これから津和野と糸魚川、鳥飼は、神戸市営地下鉄へ1か月間の出張することになった。デカいプロジェクトを任される糸魚川は成し遂げられるか。