Rail road girl! レールロードガール! 作:けいはんぐらし!
いよいよ大阪環状線での保線作業が始まる。全区間高架であるものの、毎日鋼製の国鉄電車や通勤客の重量で傷んだ線路の修理が始まる。大阪駅では、ホームにいた夜勤の駅員と主任である糸魚川が話していた。
「お疲れさんやねえ!夜勤はね!」と、糸魚川が言うと
「せやなあ。まあこれも慣れれば心配ないけどなあ。」と、駅員は答える。
「もうすぐ作業場所の天満へ出発や!行ってくるわ!」と、糸魚川は言ってマルタイの先頭キャビンになる。
「出発よし!」と、小郡は言って、スロットルを開きマルタイを発車させる。
津和野と中浜は後方キャビンより、敬礼してホームのほうを見ていた。
「いよいよ作業やなあ。」と、糸魚川より無線が入る。
「そうですね。緊張する!」と、津和野が返事の無線をすると、
「今日はオペレーター頼むわ!難しいけどよろしく!」と、糸魚川はお願いした。
「了解っす!頑張ります!」と、津和野は答えた。
右カーブで東海道線より離れ、連続カーブを抜ける。
「環状線らしい風景だなあ。」と、小郡は言うと
「せやなあ。」
右カーブと直線が繰り返す区間を、ホテルや学生アパート、マンションを横目に走ると、特有の形をした狭いホームの天満駅が見えてくる。
「天満停車!」と、小郡は呼称しブレーキを操作し、停車する。この駅より作業に入る。
「ほんなら、作業にはいろか!」と、糸魚川は言ってマルタイを作業モードにする。マルタイの車体の作業場所のあたりにあるカバーが下がり、作業時の粉じんや騒音を軽減させる。
「津和野君、配置についてな。」と、糸魚川は無線連絡する。
「オオライ!」と、津和野は言って作業用の運転台へ移動する。
「総員配置につけ!作業開始!」と、小郡は無線連絡すると、前方監視の中浜と後方監視の中島がそれぞれの配置につく。
「配置よし!沈下箇所の突き固め作業開始!」と、糸魚川は無線連絡する。津和野はGPSで位置を確認し、端末より指示された場所から作業に入る。マルタイのクランプを操作しレールを枕木ごと掴み、振動を与える爪を砂利に挿入する。
「津和野君、しっかり頼んまっせ!」と、小郡は無線連絡する。
「やってますよ!」と、津和野が返すと、
「まあ沈下がひどいから、こっちもゲージで確認している。しかしここの沈下は酷いなあ。」と、小郡は無線で返事をする。
「どれぐらいですか?」と、津和野が質問すると、
「ざっと1.5(cm)ぐらい」と、小郡は返事をする。
「じゃあ同じ操作を3回して矯正する。」と、津和野が言う。そしてマルタイを彼女が操作をする。
「先頭異常なし!進んで!」と、中浜より連絡を受ける。そのまま順調に作業を進める。特定のリズムでマルチプルタイタンパーは進んでいく。
「もうそろそろ沈下が酷い場所につくから、測定するわ!」と、糸魚川より無線連絡がある。
「了解!」と、津和野が返事の無線をする。
「ここも沈下が著しいわ!1.5(cm)以上ある。慎重に頼むわ!」と、糸魚川は無線連絡すると、
「オオライ!」と、津和野が言って突き固め作業をする。
時刻は午前2時前、桜ノ宮駅に着く頃に、
「津和野君、そろそろ機械と後方監視を交代して!」と、糸魚川が無線で連絡するのと同時に交代する。彼は、元は東海道新幹線のマルタイ作業をしていたので、かなり手慣れた手つきであった。
「後方、異常なし。」と、津和野はレールに顔を近づけ、1mmを感じながら作業状況を確認し、指さし呼称する。
その後方では“竹ほうき”を持った中島の姿があった。マルタイが散らかした砂利を整えていた。黙々と何も言わず、マルタイの後を一定の距離を保ち作業していく。
マルタイの100m先頭では、中浜が誘導作業をする。先頭に異常はないかを重点的に監視する。異常がなければマルタイオペレーター(運転士)へ無線を入れる。
マンションのそばでは、騒音に注意しながら作業する。突き固めは一定の間隔で作業する。沈下が酷い場所は重点的に矯正する。春を過ぎ初夏の姿となった桜を横目に、長い直線区間を作業する。
そして1時間ほどすると外回り線の作業が終わる。手前100mで作業員はマルタイへ乗り込む。そして駅に向かう。夜勤の駅員がヘルメットをかぶり外回りのホームにいた。
「お疲れシャン!今から折り返し?」と、駅員が糸魚川に尋ねると
「せやなあ!」と、糸魚川は答える。そして運転通告券を受け取り、折り返し作業にあたる。マルタイは森ノ宮電車区の車庫へ向かう線路を横目に、外回りの電車線と内回りの電車線の中間にある折り返し線に入る。深夜の繁華街京橋はひっそりとした様子であり、ネットカフェやコンビニぐらいの明かりしかない街を眼下に見えてくる。
「こちら先頭第一エンド、津和野。運転台交換します。どうぞ!」と、津和野が無線をする。
「こちら後方第二エンド、小郡。了解切り替え開始。完了後、信号変わり次第発車。」と、小郡は無線で返した。
3分後に下り線の入れ替え信号機が開通し、内回りのホームへマルタイは滑り込む。そして次の作業場所である、内回りの沈下箇所へ向かう。長い直線に入るところが、軽く沈下していることをマヤチャートで確認されているので、GPSで位置を確認し、端末より指示された場所から作業に入る。先頭監視の中浜がマルタイより降りて、誘導作業にあたる。
「先頭異常なし!それでは作業してください。」と、中浜が無線を入れると
「オオライです!」と、小郡は無線で返す。
「配置はいるわ!」と、中島は無線を入れて竹ぼうきを片手に作業にあたる。
小郡は運転席に座り、運転操作の作業にあたる。津和野は車両後方で作業状況の確認をする。内回り線も重量のある鋼製車の多い路線だけに、沈下も外回りと同様の状況であった。
しかし津和野は、ここで見落としをする。それは所定の高さまで矯正されたのではなく、沈下したままであった。それに気付かなかったが、偶然後方で砂利を片付ける作業の補助をしていた糸魚川が様子を見に来た時に気づいた。
「おい!津和野君!これでは作業不十分やぞ!あと2回同じ操作せなあかん!作業一旦止めろ!」と、糸魚川が叫ぶと
「そうですか?」と、津和野が言うと、
「水準が若干おかしい!マルタイのチャートを確認しろ!」と、糸魚川がそう答えて無線で小郡に作業停止連絡をする。
マルチプルタイタンパーには、レーザー式検測装置が積まれているため、作業の仕上がり等が確認できる。予想通りあと5mmほど沈下している状況であった。作業を急ぐあまり津和野は、重大な見落としをしてしまった。そしてマルタイの運転席に乗り込み、チャートを確認する。
「どないしたんや?ミスったのか?」と、小郡は乗り込んできた津和野に言う。
「そうそう!」と、彼女は答えて、いそいそとチャートを見て無線機を手に取る。
「確認しましたが、やはりそうです。」と、津和野が無線連絡する。
「じゃあさっきのとこを、しっかり突き固めろ!元の位置に戻って配置について!」と、糸魚川は無線で答える。
配置に着いて再び小郡は突き固めをする。後方では津和野が位置を確認する。
その後は、糸魚川が後方確認しながらの作業に代わる。津和野は中島と共に竹ぼうきを持って、マルタイが散らかした砂利を整理していた。
「やらかしたんやなあ。」と、中島が津和野に尋ねる。
「そうそう」と、彼女が答えると、
「今のうちしか学ばれへんことが、たくさんあるよ。それを全部、身に着けや!」と、中島は言いつつ、砂利を整理していた。
「そうですねえ。」と、津和野が言うと
「当たり前やで!」と、中島は答えた。
この日は時間内に問題個所の矯正が終わり、いよいよ宮原へ引き上げる。天満駅よりマルタイを作業モードから走行モードに切り替え、最終点検を行ってから来た道を進む。
東の空は、明るくなり始める4時すぎ頃、ようやく大阪駅へ帰還することになった。
内回りの1番ホームに入ると、ホームに居た駅員が誘導する。
「お疲れ様!これから引上げでんな!」と、駅員は言っていた。
「そうそう!」と、糸魚川が言うと、
「ほんなら宮原へもどろか。」と、小郡は言う。すぐに入れ替え信号機が切り替わり、折り返し線に入る。反対側の津和野が居る運転台に交換する。
「ハンドル切り替え操作完了!車掌側にセットしたで!運転たのむわ!」と、小郡は無線で指示を出すと、
「オオライ!準備入ります!」と、津和野は無線で返す。そして入れ替え信号機が切り替わり、環状線の外回り2番ホームへ向かう。
そして外回り線ホームに入ると、普段はサンダーバードの到着ホームとなる、東海道線の3番ホームに「レール削正車」が京都方向より入ってくる。
「お~い!今から乗り越し分岐器を操作するから、準備するわ!」と、レール削正車の乗務員が2人降りてくる。
「お~!助かるわ!悪いね!」と、糸魚川は答える。中島と中浜、そして保線車両用の大阪環状線と東海道線を結ぶ渡線を6人がかりで開通させる。
「乗り越し分岐器って、結構手間なんですね。」と、津和野が言うと
「せやで!1つにつき3名必要やからなあ。2個あるとなおさらや!」と、糸魚川は言う。
「そうですね。2つあれば2個同じ作業が必要。」と、津和野は納得した様子で答えた。そして
「おい!レール削正車のお前らも行くんか?」と、糸魚川が尋ねると、
「環状へは、いかへんで!この後、塚本経由で入庫する。」と、作業員は言う。
「セット完了!ほんなら作業を始めようか。」と、小郡は無線で言うと、
「そうやなあ。津和野君、微速進行で発車して!」と、糸魚川は無線連絡する。
「それでは発車します。微速進行!」と、津和野は言ってスロットルを緩く開きマルタイを発進させる。そして、ゆっくりとした速度で車輪を軋ませながら、乗り越し分岐器を抜けて環状線から東海道線へ渡っていく。
「脱線せんようにゆっくりでええで!」と、中島は無線で津和野を気遣う。
「今どの辺を抜けている?」と、津和野が無線で返すと、
「ちょうど1両目が抜けた。」と、糸魚川が無線で答える。そして無事にマルタイは、環状線を抜け東海道線に入る。
「ほんなら始発が走れるように作業して!」と、糸魚川は無線連絡する。乗り越し分岐器のトングを戻し、それが外れないように施錠する。
「作業完了!」と、レール削正車の作業員が言うと、
「トングレール、定位置確認よし!」と、小郡は指差し呼称する。そしてホームにいた駅員が様子を見に来る。
「お!これなら大丈夫でんなあ。では指令に伝えておくわ!」と、駅員は言ってホームへ戻った。
マルタイはこの後、東海道線の下りを逆走し新大阪駅のホームに入る。運転は小郡が行い、津和野と糸魚川は後方のキャビンで休んでいた。そして宮原の車庫へ入区し、すべて作業は終了となった。レール削正車は、大阪駅の西側にある保線車両用留置線へ入れられ、翌日以降の作業に備えた。
しかしこの日、津和野が起こした失敗は新宮の耳に入れられることになっていた。そして彼より本部にて、いろいろ質問される。
「今日の作業お疲れ様。今日は君が少しトラブルを起こしたと聞いたよ。何だったん?」と、新宮は言う。
「チャートの見落としです。」と、津和野が答えると、
「そりゃあかんなあ?作業の遅れや重大事故にもなる行為だからなあ?」と、新宮は言う。
「そうですか。大きな失敗だったと・・・」と、津和野が言ったとき、
「北海道で問題になった行為だから、これはよくないと思うで!絶対に見落としはやめてほしい!」と、新宮は言う。そして
「今回の始末書はええから、今後どうするかは検討に入ってほしいなあ!それを次に言ってほしい。」と、彼は付け加えた。
やっとこの日の業務は終了となり、津和野は複雑な気持ちで帰宅するのであった。朝の大阪は、活気にあふれていた。
「あ~作業失敗だったけど、今後をどうするかだなあ?困るなあ?まあ気分転換にでも、久しぶりに服屋にでも行くか?神戸に移転してから行ってないし?いいものあれば、高くても大人の道具(クレジットカードのこと)を買ってしまおうかなあ?」と、津和野は思っていた。下りの新快速で三宮へ行くと、ブティックに新作の服があった。
「いらっしゃいませ?あ!保線技師の方ですね?お久しぶりです!」と、店員が言うと、
「こっちは夜勤明けですよ。移転して初来店っす!さて、新作入りましたか?」と、津和野が尋ねると、
「こちらになります。」と、店員が商品を勧めてくる。それは紺色の地に、汽車のおもちゃ柄のプリントがされたジャンパーカートであった。
「これ私の好みの柄じゃん!買ってしまおうかなあ?」と、津和野が言うと、
「即決ですか!ありがとうございます!」と、店員が言った。
「職場の知り合いがロリータ好きなんですよねえ?」と、津和野が言うと、
「それはいいですねえ。」と、店員が答えた。この日は、2万5千円のお買い上げとなったが、津和野はいい気分転換になったと言った。
この服が今後すごいことに繋がるとは、このとき彼女は思っていなかった。そして初めての挫折について学ぶのであった。