俺はキメラじゃない!リザードマンだ!   作:傾国の次郎

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第1話

 

雨で濡れた暗い路地裏に一人の男が座り込んでいた。

「…ふぅ、なんとか撒いたみたいだな。」

 

男はその黒い短髪の頭を左手で支えながら、いま逃げてきた方を見る。

目線の先の大通りはまだ騒がしいが、男を追ってくる気配はない。

 

「…それにしても、元の姿に戻っただけで化け物扱いとは、この世界に獣人とか亜人はいないのかね。」

 

所々に鱗のある自身の腕をみながら呟く男は、人間ではない。

獣人、もしくは亜人に分類される種族リザードマンだ。

 

 

 

神様による転生で、とある剣と魔法の世界にリザードマンとして生まれ直した彼は転生特典をうまく使い、その世界で楽しく暮らしていた。

しかしある日、召喚魔法のようなものに巻き込まれいま彼がいる場所へと転移されてしまった。

しかも転移先は元いた世界とは違う世界で、地球とよく似た近代ヨーロッパのような世界だった。

とにもかくにも、ここがどこなのか知るために転移した場所(森の中)を離れ、2日ほど歩いた場所にあった街へと足を踏み入れたまではよかったのだが。

酒場で情報収集しようとした彼は、席につきビールを煽った瞬間緊張が解け、思わず人化の術を解いてしまった。

そこからは大変だった。いきなり店の中に現れた二足歩行する蜥蜴の化け物を前に、店の店主らがカウンターの下にあった銃をとりだし発砲。

何事かと詰めかけた通行人が彼を見て絶叫。

一時、あたりは夕暮れ時には似合わぬ喧騒を見せ、通報を受けた憲兵隊が出動する大騒ぎになった。

なんとか人垣の包囲網を抜け、いまいる路地裏に逃げ込んだ。

 

 

 

すっかり日も暮れてしまい、通りには人影もなくなってしまった時分に彼は再び動き出した。

 

「いつまでもこうしてても仕方ないし、とりあえず今日の塒を探すとしよう。」

 

彼は一旦情報収集を諦め、自身の拠点となる場所を探すべく路地裏の奥へと進んでいく。

いりくんだ路地裏を適当にぶらついていると行き止まりについてしまった彼はもときた道を引き返そうと振り返った。

 

「あなたが、さっきの騒ぎの原因の化け物とやらかしら?」

 

振り向いたら抜群のスタイルの色気たっぷりのお姉さんが片手を腰にあてて道をふさいでいた。

 

「貴女は…失礼ですがどちら様で?」

 

「答える必要性がないわ…、たぶん第五研究所から脱走した個体の一つでしょうし…、うん、グラトニー!」

 

「ラ、ラスト…こいつ、食べていい?」

 

「いいわよ、綺麗にね♪」

 

「ちょっと待ってくれ!?な、なにを…」

 

お姉さんの後ろから現れた小さく丸い人影がいまなにか不穏なことを、それにこいつらどこかで見たような…

 

「いっただきマァァァァアァス!!!」

 

小太りの男がいきなり大口を開けて突っ込んできた。

 

「くっ…!」

 

なんとか身を捩り男をかわすと、その無防備な後頭部に肘鉄を叩き込む。いきなりだったために手加減なしで入った右肘は、小太りの男の頭蓋骨を砕いてしまった。

しまったと思ったが、襲われて仕方なく反撃した結果なのでしょうがない。だが気分は悪かった。

 

「っ、おい!いきなりなにすんだあんた!」

 

「あら、中々強いのね♪…わたし、強い男は好きよ?」

 

「そんなこと言ってる場合か!殺しちまったぞ、このデブ!」

 

「大丈夫よ。その程度ではまだ死なないわ、私たちは…ね♪」

 

彼女がそう言い終えると、先程の男が起き上がっていた。

 

「こいつ…つよい、いっかい……しんじゃった。」

 

「バカな…!確かに頭蓋骨を砕いたはずだ、普通なら即死だぞ!」

 

「うん…いたかった…、だからこんどはおでのばん!」

 

殺しちまったはずのデブが起き上がって再び向かってくる。

彼は男の突進の力を利用して女のほうへ投げ飛ばすと、路地裏の壁を蹴り、屋上へと上がり逃走を開始する。

 

(あんな化け物とマトモに殺ってられるか…!、……それにこの世界…俺の想像通りだとすれば…、)

 

ラストと呼ばれた女、グラトニーという小太りの男、そして近代ヨーロッパのような街並み、これだけ揃えば察しはつく。

 

 

 

 

「にげられちゃった………。」

 

グラトニーと呼ばれた小太りの男は、ごはんをおあずけにされた犬のようにしょぼくれている。

 

「大丈夫よグラトニー、また次があるわ…。」

 

ラストと呼ばれた女は、グラトニーの肩に手を添え慰める。

 

(それにしてもあの男……、)

 

ラストは顎に手をやり物思いに耽る。

 

「…お父様に報告するべきかしら…。」

 

このセントラルシティに突如現れた化け物、その正体は先日の第五研究所の崩落のドサクサに紛れて脱走した実験体の一人だと思っていたが、どうも違うかもしれないと、ラストは思い始めていた。

 

「あんなに強いのならキチンと報告が上がっているはずだし…、それに…。」

 

計画に使えるかもしれない。

 

「…帰るわよ、グラトニー。」

 

ラストはグラトニーを連れて路地裏へと消えていった。

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