「もう追いかけては…こないみたいだな。」
屋根づたいに逃げた俺は周囲を確認して一息つく。
「しかし、グラトニーにラストね…。」
まさかこの世界がハガレンの世界とはな、元いた世界も大概だったけど、こりゃまたややこしい世界に迷いこんだもんだ。
「…たぶん俺のこと実験台のキメラと勘違いしてんだろうな、第五研究所とか聞こえたし。」
原作でも描かれていた物語の重要な転換点のひとつだった第五研究所崩落の一件、でも俺はここでおかしな点に気づいた。
第五研究所崩落の前にマッチ大佐との闘いで死んだはずのラストが目の前にいたことである。
「原作通りならラストは死んだはず…それが生きてるってどういうわけ?」
どうやら原作通りという訳ではないらしい、となると原作を知ってるっていう類いのアドバンテージは通用しないってことだ。
「さてさて…どういうことやら。とりあえず原作キャラに会いに行こうかね!」
さくっと行動方針を決めたら即実行!
「少し状況が違うとはいえ第五研究所が崩落したのなら、いまは…………、あれ?なんだっけ、ハガレンの原作最後に読んだの何年も前だからな…。」
どうやら元より俺にアドバンテージはなかったようだ。
気を取り直して目指すは大総統府、中央司令部に行こうと思う。
軍部までいけば主人公たちに逢えるかもしれないし、仮に会えなくても居場所くらいは掴めるだろう。
とりあえず今日のところはここで夜を明かそう。
「ふぁあっ……」
俺はあくびをひとつして深い眠りに落ちて行った。
「ただいま戻りました。」
セントラルシティの地下に広がる地下道を歩き、その中央に位置する開けた空間に出ると、目の前に巨大なパイプがいくつも走る椅子に座る主に帰還の挨拶をする。
「……ラスト、か。よく戻った。」
椅子に座る壮年の男は白いガウンのような独特な衣装を払い、立ち上がる。
「…それで、首尾はどうだ?」
「お喜びください、多少想定外の事態はありましたが…マスタング大佐、彼もまた人柱候補として十分な素質があります。」
「……そうか、」
男は一言そう言うと、部屋の奥へと進んでいく。
「…お父様。」
ラストは歩き去る男に後ろから語りかけ、男は振り向く。
「…どうした?」
「実は…、いえ、なんでもありません。」
ラストは先程のことを目の前の主に報告しようか迷ったが、わざわざ話しに出すまでもないと、考え直す。
「…?…そうか。」
男はもうこちらに興味はないとばかりに奥へとひっこんでしまった。
「お父様に報告するようなことでもないわね、今は…ね♪」
ラストの頭には走り去る蜥蜴男の後ろ姿が焼き付いていた。