ここは、亡くなったものが逝く所と言われるあの世である。更に言うならば、この地は生前に悪行を行った者が落ちるとされている地獄である。
空は常に雲で覆われ赤黒く、空気も重く淀んでおりとてもではないが生物が住めたものではない。
そんな所を、二本角と三本角の小鬼達が慌てた様子で駆けていた。
小鬼達が駆け込んだ先は、十王の一人であり、地獄全272部署を治めている閻魔大王がおわす閻魔殿であった。ここ閻魔殿は亡者達を天国逝きか地獄落ちかを決める場所である。
小鬼達が慌てて駆け込んだ先には、一人の鬼神が作業をしていた。
「鬼灯様ーーっ!鬼灯様ーーっ!た、大変ですっ!」
「そんなに慌てて一体どうしたんですか?唐瓜さん、茄子さん」
慌てた小鬼達に対応した鬼灯と呼ばれた鬼神は、作業の手を休めることなく返答した。
この鬼灯と呼ばれる者は、閻魔大王の第一補佐官であり、非常に有能であり鬼の中でトップの立場にある。
「それがですね、佐々木小次郎の亡者が居なくなってしまったんですよ!」
「なんですって、佐々木小次郎というとあの剣豪の?」
「はい、あの巌流島で有名なあの佐々木小次郎です。」
「そして、行方の方は分かっているのですか?」
「それがですね探しだした所見つかりはしたのですが、その場所がなんと日本の冬木市だったんです。」
「冬木市ですって!?そうなると、もしかすると。」
鬼灯が考えている所に、他の獄卒が慌てた様子で駆け込んできた。
「鬼灯様ただいまEU地獄の方から緊急の伝書が届けられました。急ぎお目通しを。」
EU地獄とは、文字通りEU地方の地獄の事であり、そこはサタン王が治められている。
「こんな非常時に一体どうしたんですか。なになに……っ!」
愚痴を溢しつつ伝書を読み出した鬼灯はある程度読んだ所で固まってしまっていた。
「どうしたんですか、鬼灯様?一体何が書かれているんです?」
と、普段見られない様子に思わず唐瓜が聞いてみると、
「なんでもEU地獄の方でも、ここと同じ事が起こっているようなんです。まさかとは思いましたが少し面倒な事になりそうですね。」
「それってどういう事なんでしょうか?」
「ああ、唐瓜さん達は新卒で前の聖杯戦争の事は知らないんでしたね。」
「「聖杯戦争?」」
普段聞きなれない単語に唐瓜達は思わず聞き返してしまう。
「ええ、聖杯戦争とは、その昔魔術師達が何でも願い事を叶える事の出来る聖杯を作り上げ、その聖杯を求める七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントがその覇権を競う。他の六組が排除された結果、最後に残った一組にのみ、聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる。そういったものです。」
「サーヴァント?マスター?魔術師?」
一気に説明され専門用語がたくさん出たことにより、唐瓜達の許容範囲は軽く越えてしまったようである。
「まあ、簡単に言うと英霊と呼ばれる亡者とそれを扱う生者のタッグが7つあり、それらが何でも願いの叶う聖杯を求め戦い合うバトルロワイアルです。ここまでは大丈夫ですか?」
「えーと、なんとか」
「詳しい事はまた時間があれば話しますが、その聖杯戦争、昔はお互いが殺し合うだけで、亡者も現世に出てもすぐに戻っていたので見逃していたんです。」
「それだけでもかなりの大事だと思うんですけど、他にも何か問題が?」
と、唐瓜が若干引きつつもその先を聞いてみる。
「それがですね、前の聖杯戦争の時に戦いの舞台であった冬木市が聖杯戦争の影響で大災害に見舞われたんです。私もその時、あまりの事態だったので現場に派遣され、鬼の私が言うのもあれですが、あの光景はまさしく地獄でしたね。」
「そ、そんなことがあったんですね。」
「ええ、現世の者が主にやっている事とは言え、その大災害は亡者によって引き起こされており、無関係の人達も巻き込まれた事もあり、全世界地獄会議によりこれから先に聖杯戦争が行われる際にはあの世の者達でなんとかするって事になったんです。」
「なんとかするって、一体どうするんですか?現世の事なんですよね?」
「簡単な事です。基本的にはお盆の時にやった時と同じです。現世に行った亡者達を力ずくでもあの世に連れ戻すんですよ。」