鬼灯の聖杯戦争   作:吾朗

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鬼灯の聖杯戦争⑫

(今回は士郎が鬼灯達と会合する数日前の話です)

 

 時刻は、日付が変わった位の深夜である。場所は冬木の地の柳洞寺と呼ばれる寺へと続く階段である。

 

 普段であれば、こんな時間に人など来ない所に男二人がその階段を登っていた。

 

「白澤様、どうして俺まで行かないといけないんです?」

 

「現世に来るついでに他の用事を片したかったから、その荷物持ちにね。タオ太郎君も息抜きになると思うよ」

 

「そうですかね」

 

 白澤はそう言い放ち登り、タオ太郎は雇われの身であり、昼間に他の用事を済ませ、この寺に寄ったら後は自由にして良いと言われているので強くは言わず引き下がる。

 

「それでこの先に、サーヴァントと呼ばれる亡者が居るんでしたっけ?」

 

「そうだよ。まだ写真でしか見てないけど飛びきりの美人さんがね」

 

 性別が女性ならどんな人でも愛せると言うほどの白澤は、これから美人に会えるということでテンションは高めである。

 

 そんな事を言いつつ、寺への入り口の門が後少しの所まで登った時である。

 

「待たれよ、そこのお二方」

 

 門の側の何も無いところから急に声が聞こえ、すぐにそこから顔が二枚目な着物を着た長髪の男が立ちふさがる。

 

「急に人が!お、お化け!」

 

「タオ太郎君、君もお化けみたいな物だろう?所で君は?僕達はこの先に用があるんだけど」

 

 その光景に桃太郎は驚き、白澤は冷静にツッコミを入れるが、男に道を塞がれた事に少々イラついている様子である。

 

「私はここの門番でね。主にはここをネズミ一匹通すなと言われている。悪いがここで帰ってもらおうか」

 

「どうしてもと言ったら?」

 

「実力で追い返すまでの事」

 

 そう言うと男は、腰に指している刀に手を乗せ臨戦体制に入る。

 

「どうすんですか、白澤様!?」

 

 話をするだけと聞いていた桃太郎は、まさかこんな事態になるとは思っていなかったため慌てふためく。

 

「落ち着きなよタオ太郎君、これを作っておいて正解だったな」

 

 白澤は懐に手を伸ばすと、そこから取り出した物を力一杯に投げつける。

 

 すると、そこから辺り一面に煙が立ち上ぼり何も見えなくなる。

 

「くっ!?小癪な!」

 

「あんたは時代劇に出てくる忍者か!?」

 

 何も聞かされていなかった桃太郎は、男と一緒に煙に巻き込まれ思わず叫ぶ。

 

「この煙には、僕が調合した薬が混ざっていてね、亡者であろうと直ぐに眠ってしまうよ」

 

「不覚!」

 

「そ、その為に用事でよった薬屋で色々と買っていたのか!?」

 

 桃太郎は薄れいく意識の中、森羅万象を司る神獣がこんなセコい手を使うなよと思い、またこんなことになるなら俺要らなかったんじゃねと考えに至る。

 

 煙が晴れた頃には二人の男が地面に突っ伏して眠っていた。

 

「タオ太郎君には、悪いことしたな。起きたら謝っておこう」

 

 特に悪びれた様子も無く、白澤はそう呟きながら門をくぐり寺へと入って直ぐの事である。

 

「全く門番を任せて直ぐに侵入を許すなんて、これは後でお仕置きね」

 

 声がした方向に白澤が目を向けるとそこには、地面から2、3メートル程の上空に浮かび、フードを深く被った女性がいた。

 

你好(ニーハオ)、君はキャスターのメディアちゃんでいいよね?」

 

「……貴方何者です?」

 

 キャスターは一見何か感じる物はあるが、これと言って驚異を感じさせない目の前の青年に、いきなり本名を呼ばれた事に驚き、笑っていた口元を引き締める。

 

「僕の名前は白澤だよ。今日は君と話がしたくてここに来た」

 

「話というのはなんでしょう?」

 

 白澤という名にどこか引っ掛かりを感じながらも、キャスターは話を続ける。

 

「話というのはね、メディアちゃんにはさっさとあの世に帰ってもらって僕とお茶したいなと思ってね。後、連絡先を教えて欲しいかな」

 

「なるほど、大体は理解しました。要するに貴方はあの世の刺客と言った所かしら?」

 

「理解が早くて助かるよ。で、どうだい?聖杯戦争なんて物騒な争いよりも、僕と一緒に遊んだ方が良いと思うな」

 

「私に帰って欲しければ、力ずくで連れて帰る事ね。それに貴方の様な男はタイプではないわ!」

 

 キャスターがそう言うと、魔術で作った魔弾で白澤に攻撃を仕掛ける。

 

「わわっ!」

 

 その攻撃に白澤は慌てながらも躱す。

 

「何とか躱したわね。でも次はどうかしら?」

 

 キャスターは自分の周りに先程と同じ魔弾を作りだす。しかし、それは1個では留まらず10個程作り上げ、並の身体能力の白澤には厳しい様に思われる。

 

「これで終わりよ!」

 

 10個の魔弾は、ギャーギャーとパニクっている白澤に殺到し、土煙をあげる。

 

 やったかとキャスターが思った時である。今だに立ち上ぼっている土煙の中から自分が放った魔弾が打ち込まれてきたのだ。

 

「これは、呪詛返し!?」

 

 咄嗟に返ってきた魔弾を更に跳ね返そうかと考えたが、何やら術の構造が何やら変になっておりうまく返す事ができず、やむ無しに魔弾を新たに作りだし打ち落とす。

 

 土煙が晴れるとそこには、肩で息をして疲れた顔をした白澤がいた。

 

「まさか呪詛返しをしてくるとは、思っていたよりやるようね」

 

 キャスターは感心しているが、この男は森羅万象と言えどもそれは中国の方の道教とかの事だけなので、本来なら西洋の魔術を返す事は出来ない。しかし、この神獣は昔西洋の女性にちょっかいをかけ、色々あり追い回されその時の経験で魔術を多少知っているだけである。

 

 しかも知識はあるが、技術はからっきしなのでパニクって何とか返したのである。そのお陰で術式は滅茶苦茶になりキャスターは返せなかったのだが。

 

「ちょっと、タンマタンマ!話をしよう!話せばわかる!」

 

「問答無用!私には宗一郎様という方がいるので絶対に耳は貸しません!」

 

「え?君ってもしかして旦那さんいる?」

 

「そ、そうですけど」

 

 キャスターの発言を聞くやいなや態度が急に変わった白澤に、キャスターは少し戸惑いながら答える。

 

 すると、白澤はうわーどうしようと一人言を呟きながら考え出す。

 

 そんな無防備な白澤にキャスターは攻撃をぶちこんでやろうかと考えだした時である。

 

「うん、決めた。諦めるよ」

 

「……はい?」

 

「だから僕では力ずくでメディアちゃんをどうにか出来ないし。第一僕は人妻には手を出さないようにしてるんだ。だから帰るよ」

 

「無事に帰らせると思って?」

 

「う~ん、取って置きのを教えてあげるから見逃してくれない」

 

「…………取り合えず聞きましょう」

 

 正直な所、白澤の様な男は苦手でさっさと何とかしたく、見逃した所で自分の驚異には余り無さそうと考え、聞くだけはと話に乗る。

 

「召喚術の、一つなんだけどね……」

 

 そう言って白澤はキャスターに術を教えて、ちょうど起きた桃太郎を連れて帰っていった。

 

「やっと、帰っていった。とても疲れたわ」

 

「お主の様な者を、これ程疲れさすとは中々の者達であったな」

 

「元はと言えば、簡単に浸入された貴方のせいでしょ!」

 

「まあまあ、そう怒るな。せっかくの美人が台無しだぞ?」

 

「あんたに言われても嬉しくないわよ!」

 

 そう言ってキャスターは、浸入された罰でアサシンの動きを封じ、鼻の穴に大量のワサビを詰めこむ。

 

「こ、これは中々」

 

 流石のアサシンも耐えれず、涙を流しながらのたうち回る。その光景を見てキャスターは幾分か満足し、寺へと帰っていった。

 

 そしてキャスターは、早速白澤に教わった術を試すために準備に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

「全く、睡眠薬を使うなら使うで前もって教えて下さいよ」

 

「ごめんよ、タオ太郎君。今度何か奢るよ」

 

 白澤は、柳洞寺の帰り道で怒った桃太郎に謝っている所である。

 

「はぁ、それはもういいです。所で良く俺らを見逃してくれましたね」

 

「それは僕が術を一つ教えたからね。快く見逃してくれたよ」

 

「どういう術を教えたんです?」

 

「召喚術だよ」

 

「妖怪とかのですか?」

 

 白澤は一説では妖怪の長とも言われている存在で知ってても可笑しくないと考える桃太郎。

 

「妖怪は妖怪でも、鬼のだよ」

 

「そ、それってもしかして?」

 

「十中八九、あいつが呼ばれるだろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 儀式の準備が出来たキャスターは早速呪文の詠唱に取りかかる。

 

 あの胡散臭い男が言うには、現時点で地獄の中で一番怨みを持った鬼が呼ばれるとの事だけど、本当に使えるのかしら?

 

 疑問に思いながらももし出来なければ、あの男には使い魔をつけているので、呪殺でもなんなりしてやろうと考えたときである。

 

 儀式に書いた魔方陣の中心から、煙が立ち上ぼりその中から人影が現れる。

 

 これは想像以上に良い買い物をしたかも知れないわね。煙の中から感じるこの力はアサシンよりも遥かに上のようね。

 

 そして煙が晴れるとそこには、目付きが悪く黒髪で何故か携帯電話を持っており、とても機嫌が悪そうな鬼神様がいた。


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