鬼灯の聖杯戦争   作:吾朗

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鬼灯の聖杯戦争⑤士郎side2

 

「……ここは一体どこなんだ?」

 

 気が付いたら、見知らぬ所にいた。回りを見渡してみると空は赤黒く、遠くの方に見える山も普段見ている山とは違いなんだか尖って見える。近くには何やら大きな河が流れていて、更には空気もどこか重たく感じ、居心地の良い場所では無かった。

 

 確か自分は夜中の学校で青い男と赤い男の争いを目撃して、そこから逃げ出して……!!?

 

 そこでその青い男に心臓を刺されたのだ。

 

 士郎は慌てて刺された所に手を伸ばして見る、すると有るはずの傷は無く、他も確認してみるが傷一つない、いつも通りの体であった。

 

 訳が分からず、先程の事も今の事も夢なのでは無いのかと思い始めた時である。

 

「おい、坊主!さっさと着てるもんそこの木に引っかけて銭を渡しな!早くしないと後ろがつっかえて来るんだよ!」

 

 後ろから急に怒鳴られて、驚きながらも振り替えってみる。そこに居たのは自分よりも背の低い、腰の曲がった婆さんだった。それだけならその辺にいる婆さんですんだであろう、しかしそれだけでは無かった。婆さんの頭に角が二本、確かに生えていたのだ。

 

「え~と、お婆さん?言っている事が良く分からないのですが、というかここはどこなんですか?」

 

「はぁ、珍しい事では無いけど状況が理解出来ていない奴に説明するのは面倒だねぇ。簡単に言うとお前さんは、死んで今三途の川を渡ろうとしている所さね」

 

 何となく予想は着いていたことだったが、自分は死んでしまったのだ。傷一つ無い状態なので、まだこれが夢なのではと思わずにはいられないが、この回りの状況や婆さんの事を考えると納得せずにはいられない。

 

「……自分は死んでしまったんですね」

 

「ほぉ、言われてすぐに納得するとは珍しいねぇ。なにが原因で死んじまったかは知らないが、諦めが肝心だよ。さぁ、理解出来たならさっさと着てるもん脱いじまって河を渡る準備を……」

 

 お婆さんが、急に話すのを止めてこちらを注意深く見始めた。何をすればいいのか分からずに見られるがまま立った状態でいると。

 

「どうやらお前さんまだ完全に死んではいない様だねぇ。それなら話は別さね、生きるか、死ぬかはっきり決まるまでここで待機だよ」

 

「え?それってどういう?」

 

「言葉通りの意味さ、まだお前さんは生死をさまよっていて、気の早い内にこっちに来ちまったって訳さ。別に珍しくも何ともないさね」

 

 まだ死んでいない、それを聞いて士郎はどこか気が楽になる。しかし、気を失う前の事を思いだし、また気が落ちてしまう。なんせ心臓を刺されたのだ、記憶違いでは無いとしたらそこから生還するのは絶望的だと感じられる。

 

 本当に俺はこのまま死んでしまうのか?人の命を何とも思っていない様な奴に殺されて、やりたかった事も満足に出来ない内に?

 

 そう思ってくると死んでも死にきれない気になってくる、そう考え落ち込んで来たときだ、

 

「なにするんだよ!?やめてくれーーー!!」

 

 今の声は子供の悲鳴!?あっちからか!?

 

 と、思わず声の方に走りだそうとする士郎。しかし、それを止めようと婆さんが立ちはだかる。

 

「まちな、待っとけとは言ったけど、勝手に動いていいとは言っていないよ」

 

「婆さんもさっきの悲鳴を聞いただろ!?しかも子供の声だ早く助けに行かないと!?」

 

「ああ、それならその必要は無いよ。ここでは珍しくも何とも無いね。ただ刑をしているだけなんだから」

 

 刑だってそれって……。

 

「気になるんだったら教えといてやるよ」

 

 そこで婆さん、聞けば名前は奪衣婆(だつえば)というのだそうだ。奪衣婆さんがいうには、ここ三途の川はあの世の玄関口というだけでは無いのだそうだ。

 

 別名、賽の河原と呼ばれ地獄の一つであり、元は「親より先に死んだ子」が堕ちる地獄だったそうだが、今では殆どの子供はここに堕ちるそうだ。何でも「地獄は酷すぎる、かといって簡単に天国に送るわけにもいかない」とかなんとか。それで今はここにいる子供達は転生を待つ間ここで刑もとい修行をしているのだとか。

 

「……なるほどそれで修行って、あの子達は何をやらせられているんです?」

 

「大したことではないさ。ただジェンガを積ませて獄卒共がそれを壊すその繰り返しさ」

 

「なんでさ!?」

 

 思わずツッコミを入れてしまったが、今なんて言った?聞き間違えではなければジェンガと言ったか?あの世でジェンガ?

 

 聞けば、昔は石積みだったらしい。何でも石だとあんまりだと声があがったらしく、それに応じて積み木であるジェンガになったとか。

 

 元よりあの世の事なんてあるとはあまり思っていなかったが、逆に現実味のあることを聞かされて、やはりこれは夢なのではと思わずにいられない。そう思ってきた矢先の事だ。

 

「お前さんどうやら一命をとりとめた様だね」

 

「本当ですか!?」

 

「本当も何もお前さんの身体が透けて来ているだろ?それが何よりの証拠だよ」

 

 そう言われ自分の身体を見渡すと確かに透けて来つつある。

 

「色々面倒見てもらってありがとう、婆さん」

 

「別にあたしゃ何もしとらんよ。ただ年寄りの会話に付き合って貰っただけさね」

 

 そういう奪衣婆の顔はどこか満更でもないような感じである。

 

「じゃあまた」

 

 そう言い残し衛宮士郎は現世に帰っていった。




ハサンで破産しそう………。

どうもここまでお読み頂いてありがとうございます。

この小説で初めてちゃんと出てきた女性キャラが奪衣婆さんって………。

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