鬼灯達三人は、ただ今頭からまっ逆さまに、地獄の下へ下へと降下中である。
鬼灯は慣れたものと言わんばかりに、涼しい顔で落ちていく。新卒である唐瓜や茄子にとっては、絶叫するという程には無いとしても、上を見上げても下を見下ろしても底は見えず、さらに今自分達がどちらの方向に落ちているのかも分からなくなってきて、さすがに恐怖を感じざるを得ない。
しかも、鬼である自分達は平気だとしても回りには炎が燃え盛っており、亡者にとってはたまったものでは無いのだろう。
回りを見渡してみると、少なからず亡者も一緒に堕ちていくのが見ることができる。
その顔を見てみると、亡者と言うにしてもその顔はとても青白く目は虚ろに開かれて流れに身を任せる様にして堕ちていく。
ここ辺りの亡者達は確か四、五百年はこうして堕ちて行ってるはずだ、こんな堕ちていき、熱さ以外なにも感じることが出来ない所で、差は有るにしても最長で二千年もこんなことをするのでは気が可笑しくなっても仕方がないのかもしれない。
だが、本当の地獄は当たり前の事だが目的地に着いてから始まり、堕ちていく何千、何万倍もの長い時間をありとあらゆる拷問を受けていくのだが。
そこで唐瓜はふとある亡者に目が止まった。辺りをよくみると同じ様な亡者が何人か確認できる。その亡者の特徴は、ヘッドホンを着けてテレビを見ているのである。
「鬼灯様、あの亡者達は一体何を見ているんです?」
「あの亡者達は、生きていた頃の自分を見ているんです」
「生きていた頃の自分?何のためなのですか?」
「それは、堕ちていく時間が勿体ないという意見が出ていたので、試験的に導入したものなのです。文字通りにただ生きていた頃の自分を見せているだけですよ」
鬼灯様が言うには、生きていた頃の自分を見ると言うには亡者達にとって、思っていた以上に精神的負担を与えられているのだと言う。
確かに考えてみると、ホームビデオなどで自分の映像を客観的に見ると、どこか恥ずかしい気持ちになる。自分を客観的に見るのは思っている以上に来るものがある。
ホームビデオなどでそうなるのであるから、自分の人生を客観的に見続けるというのは確かにかなりきついものである。
「最初の方は、悲鳴を上げ、顔を赤らめ、悶えているだけなのですが、10日もすると、すっかり大人しくなるんですよ、これが」
「それ、精神が崩壊しちゃってますよね!?」
唐瓜は周りの亡者達がそれによって、死んだ魚の様な目をしてただ堕ちていく状態になったのだと分かり、本来はするはずもない同情の念を持たずにはいられなくなる。
「人間というのは、そこまで己を客観的に正視したくないものなのでしょうか……」
「鬼灯様は、人間の全てをわかった上でやってますよね!?」
本当にこの人は鬼の中の鬼なのだと思う。大昔だが、人間だったとはとても思えない。
「ただ
「……確かに」
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そんなこんなで話ながら落ちていく一同。
「目的の亡者が見えて来ましたよ」
「え?どれですか?」
「あの長い黒髪で女性の亡者です」
そう言われて見てみると、確かにそこには長い黒髪で女性の亡者がいた。特徴をもう少し上げるとすると、その亡者の年齢は14、15位の少女と言えるのであろうか。
後、その少女は先程話題にあがっていたビデオを見ていたのである。しかし、少女はそれをどこか楽しんで見ている様で、他の亡者とは違い死んだ魚の様な目はしていない。
「あの少女の亡者ですか?わざわざ連れていくということは有名な亡者なんでしょうが、一体誰なんですか?」
「ああ、そういえば言ってませんでしたね。あの亡者はかの有名な、織田信長です」
「…………の、の、信長~~~っ!!?信長ってこと言ったらあの、本能寺やら殺してしまえホトトギスで有名なあの織田信長ですか!?」
「どうしたんです?そんなに驚くような事ですか?」
「いや、色々言いたいことはありますけど、まず何故に少女なんですか!?」
「その事ですか、…………私も最初は驚きましたが、そういうものだと思っていて下さい。ぶっちゃけ私にもよく分かりません、イイデスネ?」
「「………………ア、ハイ」」
鬼灯から何とも言えないプレッシャーを感じてしまい、唐瓜と茄子はこれ以上この事に関しては聞くことができなかった。
「なんじゃ、せっかく真田丸の本能寺の所を楽しんで見ていたというに騒がしいのは誰じゃ?」
「死後の裁判振りですね、お久し振りです。鬼灯です」
「鬼灯……、おお確か閻魔の横に控えていた鬼神か!久しいな今日はどうした?前に言ってた獄卒の勧誘か何かか?」
「いえ、今回は別の様で来ました」
そうして鬼灯は信長に対して、聖杯戦争の事、それに対して逃げたした亡者を連れ戻すのを手伝って欲しい旨を伝える。
「ふむ、聖杯戦争のう……。しかし何故わしが他の亡者達を出迎えに行くことになるんじゃ?」
「その事なのですが、今確認している亡者なのですが、何名かが神性を持ちで、こちらとしても少々手を焼く事になりそうなので、あなたを頼りに来たわけです」
「なるほどのう」
「手伝っていただけますか?」
「嫌じゃ、面倒だし真田丸見返していて忙しいからわしは行かんぞ」
「仕方がないですね、こうなることは薄々分かってましたが……。現世に出ている間こちらが要請しない時は、自由にしていいという条件でどうですか?」
それまでは、ぐだぐだとしていた信長だったが、鬼灯の言葉を聞くと途端に目の色を変えてくる。
「何?それは本当か?」
「ええ、構いませんよ」
「そ、それなら仕方がないの~そんなに頼まれると断るのもあれじゃしな。是非も無いよね♪」
「新しいもの好きの信長さんなら食い付くと思いましたが、見事な掌返しですね」
「う、うるさいのじゃ。そんなことより約束したことは、しっかり守って貰うからな!?」
「それではあなたを現世に連れ出す許可とビザを発行してくるので待っていて下さい。その内に烏天狗の方を迎えに出しますので」
「わかったのじゃ!早く迎えを使わすのじゃぞ!」
そうして、その場を去る三人であった。
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「それにしても驚いたな~」
「そうだよな、信長があんな可愛い女の子だったとはおもわないよな」
「だよな~普通に男だと思ってた」
茄子と唐瓜は鬼灯の後ろを歩きながら、先程会った織田信長について話し合う。
「そういえば鬼灯様は信長との会話で獄卒の事が少し話題が上がってましたけどあれはどういう事なんですか?」
「あれはですね、織田信長の生前はお二人も知ってはいると思いますが、色々やらかしていて普通に地獄堕ちというのは分かると思います」
「はい」
「それは、なんとなく」
「しかし、信長のカリスマ力は凄まじく供養とかは、それは大層に届けられており、それから減刑を考えると天国行きにはならないとしても、獄卒に働ける程になっていたんです」
「なるほど、でも断られたのですよね」
「ええ、理由等はよく分かりませんが、だから本来通りに亡者として今堕ちて行ってる所なんです」
そう言っていると、鬼灯の胸元から携帯の着信音が鳴り響く
「失礼します」
そう言って鬼灯は二つ折りの携帯を取りだして電話に出る。
「もしもし、鬼灯ですけど……ああ、大王ですか。お疲れ様です、どうかなされましたか?」
それから鬼灯の電話の応答を聞いているとどうやら相手は閻魔大王の様で、これから鬼灯達が現世に向かうので地獄の方でのスケジュール変更についての事のようだった。
そして、10分程話していたときであろうか、
「あなたも、こんな時なんですから休日出勤位してください!!」
鬼灯がそう言って怒鳴りあげる。どうやら、スケジュール変更で大王が休日出勤になったことに着いて文句を言って来たらしい。
その事事態は玉に見る光景ではあるので別にいいのではあるが、問題はそこからだ。
怒鳴った鬼灯は直後、二人の目の前から消えてしまったのである。