THE IDOLM@STER  二つの星   作:IMBEL

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風邪をひいてしまいました。熱は出ていませんが、喉が痛いです。
後、UAが二万を超えました。


第9話 黄金週間の過ごし方 その2天然王女とお姫様

ゴールデンウィーク2日目の朝。朱里は前日の疲れから、泥のようにベッドで眠っており、そのせいか、普段なら1回で止めるはずの携帯のアラームをもう3回も聞き逃していた。

(…音、鳴ってる?)

ようやくアラームの音が耳に入り、朱里の思考はゆるやかに覚醒していく。

(…目覚まし、止めなきゃ)

アラームを設定している携帯を止めようと腕を伸ばした瞬間…ビキビキと激しい痛みが全身を貫いた。

「~っ!?痛ってええええ!!!」

朱里は星井家全体に聞こえる程の大声で叫んだ。こんな豪快な目覚めの一言を出したことは1周目を含めても恐らくないだろう。…そしてその痛みの正体が、昨日の自主練が原因で出来た筋肉痛だということに気付いたのはそれから数秒後だった。

(…そりゃそうか、昨日吐きそうになるまで動いたもんなぁ。でもここまで痛むものなのかよ!!)

一応昨夜、全身を入念にマッサージをしてから眠りについたのだが、それでも筋肉痛は止めるまでの効果はなかったらしい。というか、マッサージの意味は本当にあったんだろうか?

朱里は携帯を操作してアラームを止める。携帯のボタンを押すだけという小さな動きだけでも小さな痛みが体を駆け抜ける。

「…っ!!」

ベッドから体を起こし、立ち上がるだけで、体が悲鳴を上げる。この様子じゃ恐らくは歩くだけでも一苦労しそうだ。

(…こんな状態でちゃんとボーカルレッスンなんてできんのか?)

そんな不安を抱きながら、朱里は起床することにした。

 

 

 

 

 

 

(体、痛ってえ…)

時刻は午前9時。集合場所は昨日と変わらず神社となっていた。朱里は筋肉痛で痛む体を引きずりながら、神社を訪れた。

「おーい!」

声のする方へ視線を向けると、響は神社の段差に座りながら、元気に手を振っていた。

朱里も手を振って、挨拶する。

真の姿が見えないので、どうやら響が一番乗りらしい。

「はいさーい!元気か、朱里?」

「お、おはようございます…」

「うーん、あんまり元気ないみたいだな?自分みたいにしっかりしなきゃだめだぞ?な、ハム蔵!」

「ジュイ!!」

響は自分の肩にちょこんと乗っているハムスター…ペットのハム蔵にそう語りかけると、ハム蔵とのじゃれ合いを始めた。

「こら待て―!!」

「ジュイジュイー!!」

…その行動に朱里は絶句しかけてしまった。昨日、あれだけ激しく動きまわっていたはずなのに、響からは疲れを微塵も感じられない。ハム蔵との対応から見ても演技しているとは思えない。

改めて、響のスタミナの量の凄さを知ると、驚いてしまう。

(鍛えりゃ平気になるのか?…そりゃそうか、響さん、努力してるもんな)

ハム蔵とのじゃれ合いを終えた響に、朱里はとりあえず今日の予定を聞くことにした。

「…で、今日はどこで自主練やるんですか?スタジオ借りるとか…?」

「まさか。自分、そんなお金持ってないぞ」

「ですよね…」

響はケロリと答える。あまりにも早い返答に思わず朱里もそう返してしまった。

朱里も一応、いつもより財布には多めに金は入れてあるが、せいぜい三千円程度。この金額で借りれるスタジオなんてあるのだろうか?

(まさかこの神社で歌うとか…?そりゃないか、近所迷惑になっちゃうしな)

「それにスタジオなんて借りなくたって歌える場所があるからな!」

…?朱里は思考を巡らすが、そんな都合のいい場所、自分の近所にはたして存在しただろうか。こういうことに疎いのも、今まで自分が日常をどれだけ無気力に過ごして来たか思い知らされるような気がする。

「それに今日は助っ人も呼んでいるからな」

「…助っ人?」

「うん、歌が上手い2人を呼んだんだ。今日はその2人が先生になって教えてくれるんだぞ」

歌が上手い2人。そう言われても朱里はピンとこない。765プロに入って1カ月の朱里の周りには、自分より歌が上手い人のほうがほとんどだし、その誰かを特定することが出来ない。

「今、真が迎えに行っているはずだから、上手くいけばもうすぐ着くはずだぞ」

「…上手くいけば?」

どこか気になる言葉を発した響に、眉をひそめる朱里。…どういう意味だ?

と、ここで、聞き覚えのある声が耳に入って来た。

「あずささん!どうして僕とはぐれて他の道に行っちゃうんですか!?」

「ご、ごめんなさいね~」

「貴音も!僕に黙ってコンビニに寄らないで!」

「それは…誠に申し訳ございません…もぐ」

「肉まんを食べながらじゃ説得力がないよ!」

朱里の視線の先には青味がかかった黒髪と鮮やかな銀髪。そしてどこかのんびりとするこの声色…間違えるはずがない、あの2人だ。

「あらあら~、朱里ちゃんじゃない!おはよう!!」

「ふふ、星井朱里、今日は宜しくお願いします」

朱里は思わず、顔を引きつらせるのをやっとのことで堪える。

「お、おはようございます…あずささん、貴音さん」

(よ、よりによってこの2人!?確かに歌は上手いけど…)

青味のかかった黒髪の少女の名は三浦あずさ。腰まで届くのではと思うくらいのロングヘアと見る者を虜にするほどの抜群のスタイルを持っており、765プロのアイドルでは最年長且つ唯一成人している女性である。

そして銀髪の少女の名は四条貴音。どこか穏やかながらも威圧感のある物腰とあずさに匹敵するほどのスタイル、どこか時代がかった古風な物言いをする少女であった。

どちらも朱里が(響とは違う意味で)苦手とする人物だった…。

 

 

 

 

 

 

(カラオケね…なるほど)

全員集合した朱里たちが訪れたのは、近所にある大型のカラオケ店だった。なるほど、確かにここなら大騒ぎしても誰にも迷惑をかけないし、ボーカルレッスンには最適な場所だ。

ゴールデンウィーク中なので平日でも人が多く、部屋を借りれるかどうか心配だったが、無事に完了できた。

受付を済ませた5人は、自分たちが使う部屋へと移動した。

「おー!自分、久しぶりに来たぞ!!」

「僕も…最後に来たの、いつだろう?」

「朱里ちゃん、今日はいっぱい楽しみましょうね」

「今日は是非、あなたと親睦を深めたいと思います」

「あ…ははは…どうも…」

朱里はこの2人が苦手だった。…響とは違い、自信家でもないのにも関わらずだ。

では何がやっかいかというと…この2人はいわゆる天然であり、かなり掴みにくい性格をしているのだ。我が道をゆくとでもいうだろうか、かなり独特の性格と行動をするため、朱里はどこか苦手なのだ。

あずさは短大を卒業した身でありながらアイドルをやっているというかなり珍しい人物だ。…過去の自分と同じく、就職できなかったんだろうか?こっち側も現在、不景気で就職難らしいからな。

そもそもアイドルになった志望動機が『自分の運命の人を見つける』という珍しいのかぶっ飛んでいるのか良く分からない動機で、たくさんの人に自分を見てもらえばどこかにいる自分の『運命の人』が見つかると思っているらしいが…アイドルってそういう恋愛ごとはNGなはずじゃないのか?

貴音に至っては、アイドルの志望動機やその目的なども一切分からず、事務所一謎の多い人物となっている。何か聞かれては困ることを言われると「トップシークレットですから」と言って話をはぐらかしてしまう。自分にも他人にばれたらまずい秘密を抱えているから、なんとなく触れられたくない事だというのは分かるのだが…。

意思疎通があずさ以上に難しく、一時期は「あの人、電波じゃないのか?」と思うほどだった。

「それでは早速れっすんを始めましょうか」

そう言うと、貴音はレッスンで使う楽譜をどこからか取りだした。

朱里もそれに習って、楽譜を取りだした。

 

 

 

 

 

 

…しかし2時間後、事態は大きく変わっていった。

「じゃあ、歌いま~す!」

「「「イエ―イ!!」」」

…どうしてこうなったんだろう?自分たちはレッスンに来ていたはずなのに、いつの間にかカラオケ大会が開催されていた。…わけが分からない。

「~♪」

あずさはウキウキしながら『う・ふ・ふ・ふ』を歌い始めた。あずさは主に落ち着いた曲を歌うだが、こういうポップな曲も味があっていい。

(あずささん、よく歌うな…)

最初の1時間はいつもやる基礎レッスンをやったのだが…何故かレッスンはそこで終了。2次会のようなノリでカラオケ大会が開催されたのだった。

(そりゃこうなるんじゃないかなとは思ったよ。でもいくらなんでも早すぎじゃないか?)

どっちかといえばカラオケよりレッスン目当てで来たのに、それをあまりやらないことに朱里は少し不満があったが、同時に得られるものもあった。

朱里はあずさや貴音の歌う時の姿勢や声色、息継ぎのタイミングなどの技術を一足一手を注意深く観察し、それらを見られないようにこっそりとメモを取っていった。特に歌が上手いあずさは周りと比べて、かなりのペースで歌っている為、非常に参考になった。

(こればかりはレッスンでは分かんないからなぁ。他人の姿勢なんかあんまり見れないし)

約1時間、あずさたちの観察を続けた結果、歌う時のコツはかなり掴めた気がする。もしこれが来月に控えてある期末テストの範囲ならば、かなりの高得点が期待できるはずだ。

『観察眼』。これも2周目の生活の中で自然と磨き上げられた技術だ。美希のように自然には出来なくとも、それを見て、時間はかかるが再現することは十分に可能だった。…勿論、これはあくまでも仕草だけの話であり、歌い方までは再現できるかどうかは分からないけど。

「星井朱里」

「…!?」

朱里は貴音に呼ばれると、慌ててメモを自分の後ろへと隠す。

「は、はい?」

「あなたは…何故歌わないのですか?」

…まあ、そう思うのも無理はない、朱里はこの数時間、周りの動きを見るだけであり、一回も歌っていないのだから。

「あ、いや…。歌いたいのは山々なんですけど…何を歌ったらいいのか…」

朱里はそれをある意味もっともらしい言い訳で返した。というのも、朱里が最後にカラオケに来たのなんて何年も前の話だし、その理由もあながち間違いではない。それに曲のラインアップも少ないし。

「…歌うということは決して恥ずかしいことではありませんよ?」

貴音はそう言うとニッコリと笑い、盛り上がっている響と真の方へと向かっていった。

…どうやら貴音は、朱里は恥ずかしがっているため、曲を歌わないのだと思っているらしい。

「響、次は私が歌ってもよろしいでしょうか?」

「お、貴音!別にいいぞー。で、何歌うんだ?」

「ふむ…では『キューティーハニー』でも歌いましょうか」

「貴音がアニソン!?何か意外…」

真が意外そうな声を出す。…勿論、朱里も結構驚いていた。

今まで比較的古めかしい曲を歌うことが多かった貴音にしてはやけにハイカラな曲だ。しかも貴音と年代がかなりずれている気がするのは気のせいか?…いや、確かつい最近リメイクされたからもしかしたらそれ経由で知っているのかも。

「それに星井朱里も私の次に歌いたい、と」

「!ちょ…!?」

「おー!朱里が遂に歌うのか!!」

「何を歌うの?」

響と真が期待を込めた目でこちらを見てくる。貴音はふふっと小さく笑っていた。現在、歌っているあずさもそれを聞いてこっちを見ていた。

(嘘だろ…?)

…ダメだ、逃げ道がない。もう完全に自分が歌うという空気が出来上がってしまっている。

「~!!」

覚悟を決め、テーブルにあるタッチパネルの端末を取ると、朱里は操作を始める。

(…これならよく聞いているから歌詞は分かる。流石に歌い方はまでは保障できないけど…)

そして選んだ曲を送信すると、困ったように自分の髪の毛を弄る。

(ROCKY CHACKの『リトルグッバイ』。チョイスとしては無難…かな)

そして、いつの間にか貴音の曲が終わり、貴音からマイクを手渡された。周りを見てみると、みんながみんな期待している目をしていた。

(そんなに期待されても困るんだけどなぁ…)

朱里はスッと立ち上がり…マイクを構えた。

 

 

 

 

 

 

『リトルグッバイ』のイントロが流れ始める。この曲はイントロが30秒弱と結構長い為、思考を巡らす時間は十分にある。

(背筋を曲げずに姿勢はまっすぐ、声は腹から、高音を発声する時には顎を上げない、マイクは口から離す…)

レッスンで得た知識とあずさたちを観察して得た知識を総動員させる。…歌う時にはたしてこれらをしっかりと生かせるかどうかは分からないけども。

約1時間、あずさたちの観察を続けた結果、歌う時のコツはかなり掴めた気がする。もしこれが来月に控えている期末テストの範囲ならば、かなりの高得点が期待できるはずだ。

「~♪」

この曲のテーマは「繰り返す」。CDでは幾重にも重ねたコーラスが輪唱のように追いかけてくるので、その部分は朱里がかなり気に入っている。間奏部分では弦楽器演奏のストリングスが程よい疾走感で駆け抜けていくので最高に気持ちいい。

(歌詞も…自分とどこか似ているんだよな)

「繰り返す」がテーマのこの曲は、そのテーマに重なる部分の歌詞も切なく、まるで2周目の人生を過ごしている自分の境遇と同じように感じてしまう。そのため、歌詞に自分の思いをぶつけられていた。…そして、6分弱の曲があっという間に終わった。

「…ふう」

曲が終わり、マイクを下すと…自分以外の全員が茫然としていた。

「…あ、その…駄目でしたか?」

思わず、何か失態を犯してしまったのではと心配になる。…が、1拍置いて、ドッと歓声が上がった。

「全っ然駄目じゃないよ!今のもう一回聞きたいくらい!!」

「…美しい曲でした。そしてそれを透き通るほどの声で歌うあなたもまた…!」

「あ、朱里!!なんか他に曲はないのか?自分、もっと聞きたいぞ!!」

…そう言われても困る。あまりラインナップがないのに。それにいくらなんでもほめ過ぎじゃないか?

「じゃあ、朱里ちゃんと私でデュオを組むわ~」

あずさはガバッと朱里に抱きつき、ギュッと体を密着させる。

(む、胸!あずささん、胸が当っています!!)

朱里は声にならない悲鳴を上げながら、あずさから離れようとするが…逃げられない。

「ず、ずるいぞあずさ!!」

「こういうのは早い物勝ちよ。え~と、曲は…」

…そんなこんなをしながら、時間が過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた…」

「ごめんなさいね、朱里ちゃん」

あれから結局、時間ギリギリまで歌い、心身ともにくたびれた朱里はあずさと帰路につくことにした。

「…いえ、中々楽しかったですから、いい経験になりました」

「それはよかったわ。それと…コツはちゃんと掴めたかしら?」

「ええ、まあ…」

「よかった」

今回の件で分かったことは、レッスンにも一長一短があるということだった。

朱里はレッスンで『発声練習』は行ってはいたが『歌う』という経験がなかった。あずさと貴音はあえてカラオケで多くの曲を歌わせるということで『歌うことの経験』を行わせたのではないか…と朱里は考えている。

その結果、息継ぎや姿勢など、普段やるレッスンでは見えずらいポイントまで意識することが出来た。

デュオを組ませたのも、息継ぎのタイミングなどを相手と合わせやすくする為だったのかもしれない。…それが意図的なのか偶然なのかは分からないけど。

あずさと貴音…この2人が起爆剤となった今回のレッスン。朱里は勿論、真や響も得られるものは非常に大きいレッスンになったではないだろうか。

「…あら?」

と、ここでのんびりするような声を出して、あずさは足を止める。

「…どうしたんですか?」

思わず、朱里は声に出した。あずさはどこか困った顔をしていた。

「…ここ、どこなのかしら?」

「何言ってるんですか…ってあれ?」

朱里はふと辺りを見渡すと、自分たちが全く知らない住宅街に迷い込んでいるのに気がついた。あずさの話に夢中で、今の今までそのことに気付けなかったのだ。

そう、朱里はあずさの最大の弱点を知らなかったのだ。それは彼女が超ド級の方向オンチであるということを。そしてそれを知らないが故に、あずさに道案内をさせてしまったという失態も気づけなかった。

「ここ…どこ?」

「あ、あらあら~」

「あらあら~じゃないですよ!!マジでどこなんですかここ!?」

…数時間後、なんとか元来た道に戻れたが、その時は思わず泣いてしまいそうだった。

騒がしくも楽しかったゴールデンウィーク2日目はこうして終わりを迎えるのだった。




あずささんはまだ少女ですよね?成人しても少女って呼ぶのでしょうかね?
後、今回の朱里が歌った曲は完全に自分の趣味です。
この曲がEDであるゼーガペインは、自分をこの道に引きずり込んだアニメだから本当に印象深いです。
では、また次回。

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