THE IDOLM@STER  二つの星   作:IMBEL

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この小説では、まだ美希はアイドルではありません。あしからず。


第1話 三女の苦悩

3月某日、時刻は午前9時。この時間に設定した携帯のアラームで目を覚ました。

布団から手を出して、携帯のアラームを止める。

(…眠い)

あふぅとあくびを一つし、布団からのそのそと出る。おぼつかない足取りで階段を下り、洗面所へと歩く。

そして洗面所のドアを開け、目の前にある鏡を見て、「ああ、やっぱりな」と落胆する。

その鏡に映っていたのは茶髪のセミロングに中学生にしては大きいバスト、そして少女の顔が映し出されていた。

星井朱里13歳。前世はしがない一般男性、そして今年の春から中学2年生になる星井家の三女である。

 

 

 

 

 

 

「はあ…」

「どうしたの、朱里?ため息なんてついちゃって」

「…ん、いや何でもないよ、菜緒姉さん」

あれから洗顔と歯磨きを済ませた朱里は、不思議そうに顔を覗いてくる長女、星井菜緒に相槌を打ちながらテレビのワイドショーを見ていた。

『続いては芸能の話題に移りたいと思います』

ニュース関連の話題が終わり、別のコーナーが始まる。

朱里は一旦テレビから目線を外し、壁に掛けてある時計を見ると、時刻は11時を少しまわっていた。

うわ、結構のんびりしていたのか。そろそろ準備をしなければまずい。

慌てて立ち上がり、そのまま部屋へと戻ろうとするが、菜緒は「ちょっと待って」と朱里を呼び止める。

「何?菜緒姉さん」

「今日はお昼いる?いるんなら私が適当に作るけど」

「…いや、今日は出かけるから外で食べてくる。お昼はいらないよ」

それだけを言い、自分の部屋へと戻る。これ以上家にいたら菜緒に絡まれて面倒なことになりかねない。

(さっさと着替えてさっさと出よう)

クローゼットから適当な服とジーンズを引っ張り出し、さっさと着替える。ポケットに財布と携帯が入っているのを確認した後、部屋を出ようとドアを開ける。が、廊下で思わぬ人物と遭遇することになる。

「あ、朱里。おはようなの。どこか行くの?」

自分の1つ上の姉、美希が廊下に立っていた。…タイミングが悪かった。よりによって外出する直前で美希と鉢合わせになるなんて。

「お、おはよう、姉さん」

「もう!姉さんって言っちゃだめなの!!」

美希は金髪の髪を揺らしながら、プクッと頬を膨らませて怒る。

「ごめん、美希…姉さん」

たどたどしくだが、朱里は言い方を直す。美希は少し納得がいかない様子であったが、とりあえず名前を呼んでくれたことで少し機嫌をよくする。

と、美希は朱里を上から下へジロジロと眺めてから言った。

「ねぇ、朱里。それ、朱里が考えたファッションかもしれないけど、あんまり似合ってないの」

「…似合わないかぁ?」

一応、前世で自分が着ていた服装をチョイスしたつもりなのだが、自分には似合っていないらしい。性別の壁ってここまで厚いのか。普段、あまりオシャレをしない朱里にはよく分からない。

「時間があるなら、今から美希がコーディネイトしてあげるの!お化粧だってしちゃうし、なんなら美希の服も貸して…」

「いや、いいよ。今日は誰とも会う訳でもないし、好きな服装で外出したい気分なんだ」

朱里は曖昧に笑うと、美希の脇をすり抜け、階段を降りる。途中、美希は寂しそうな顔をしていたが、自分は見ないふりをする。

「それじゃ、行ってくるね。美希姉さん」

「…行ってらっしゃいなの」

なんせ今日は…1周目の自分の命日なのだから。

 

 

 

 

 

 

「うー、寒い」

外にでた朱里は特に目的もなくブラブラと歩いていた。いつも行く本屋で適当に立ち読みした後、近場のファミレスで遅めの昼食を食べる。そして今はどこかゆっくり休める場所を探して歩いていた。

3月とはいえ、まだ少し寒い。もうちょっと厚着でも良かったかもしれない。どこかひなたぼっこができる場所でゆっくり休みたい。

それから数分後…良い場所が見つかった。近所で一番大きな公園だった。青い芝生の広場があり、春休みの為か、多くの親子連れがくつろいでいて、賑わいを見せている。

朱里はその公園の適当なベンチに腰掛けながら、ふと思う。

(もう13年…か。早いよなぁ)

13年。自分がこの姿になってから、もう13年も経ってしまった。

既に女特有の月一で来る「アレ」も体験しており、嫌でも自分が女になったという現実を突きつけられる。「アレ」の初めて起こった時はショックで泣いてしまったほどだ。ああ、自分は本当に女になってしまったんだな、と。

「…やっぱり辛いよ、誰にも言えないってのはさ」

思わず、自分の独り言が漏れる。死ぬ直前でのあっち(1周目)での年齢は23。こっちでの年齢である13を加算すれば、精神年齢は36歳。もう立派なおっさんの年齢だ。

その年齢のせいで、どこか周りとの壁を感じてしまう。持ち越した前世の記憶の所為で精神年齢が合わず、学校で孤立しかけたことも少なくはない。今は不審がられない程度には話を合わせることくらいはできるが、周りとのズレを感じることはそう珍しいことではなかった。

家族とだってそうだ。1周目の家族を知っている故に、どうしても「お世話になっている」という感覚が抜けない。いくら血が繋がっているとはいえ、自分には1周目の家族のほうが「本当の家族」という感覚がどうしても強い。だから1つしか年が違わない美希にも「姉さん」なんて堅苦しい言葉を使ってしまう。

周りのみんなは「もっと頼ったっていいじゃない」とよく言うが、こんな事を話せば頭がおかしくなったと思われてしまうのが目に見えている。そもそも話すとしたってどうやって説明する?

「話せる訳ないもんなぁ、こんなこと」

だからこそ自分は未だに1周目の世界への未練を断ち切ることができない。毎年、1周目の自分の命日にこうやって一人きりになって自問自答を繰り返す。

あっち側は自分が死んでからどうなったんだろう?両親は?友達は?一目でいいから見てみたい、会ってみたい。…たとえそれがどれだけ願っても叶わない夢幻だとしても。

朱里は指を伸ばし、自分の髪を摘みながら、そっと呟いた。

「出来ることなら何も知らないままで生まれ変わりたかった」

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

外は既に日が暮れており、朱里が家に着いたのは夜7時。少し遅めの帰宅になっていた。

朱里の声が聞こえたのか、バタバタと母が玄関へとやってくる。

「お帰りなさい、朱里」

「うん…お、母さん、ただいま」

どこかぎこちなく朱里は母と言葉を交わす。…まただ、またお世話になってるって感じがする。

「そうそう、朱里に何か手紙が来ていたわよ」

「手紙?」

テーブルの上に置いておいたからね、それだけを言うと母はキッチンへと戻っていく。

自分宛の手紙なんて…いったい誰からだ?早速、テーブルに置いてある封筒を見る。

「芸能プロダクション…765プロダクション?」

全く身に覚えがない手紙に思わず警戒してしまう。新手の詐欺か何かか?とりあえず封を開け、中の手紙を読み始める。

「星井朱里様へ。アイドルマスターオーディション書類審査通過のお知らせ…?指定の日時、事務所での面接を行いたいと…」

手紙を読み進めていくうちにワナワナと震えてくるのが分かった。つまり手紙を要約するとこうなる。自分はこの765プロという芸能事務所にアイドル候補生として書類を送ったらしい。…自分の全く知らないうちに。それが何故か合格し、こうして書類選考通過の知らせが届いた。

(自分が…アイドル!?)

ステージの上で精神年齢36歳の自分が大勢の観客の前で歌って踊る…考えたくない光景が頭に浮かぶ。

(こんなの応募した記憶ないぞ?誰が送ったんだ?)

このオーディションの書類選考を通過したということは誰かが勝手に送ったと考えられる。詳しいことは分からないが就活と同じ要領で考えると、書類選考を通るには必ず履歴書が必要になってくる。

履歴書には印鑑や個人情報、志望動機などを詳しく書かなければならないため、友人が勝手に送ったという線は消える。自分の個人情報まで詳しく知っている友人は残念ながらいないからだ。

そうなると犯人は必然的に身内に絞られることになるが、真面目な菜緒姉さんはこんなことはしない。両親も言わずもがなだ。自分が受けたいと言えば受けさせてくれるかもしれないが、無断でこんなことをする事はない。

(と、なると…)

結論。こんなことしでかす奴は星井家であいつしかいない。

「美希ぃ!!」

バン!と勢いよくドアを開け、美希の部屋へと入る。いつもなら必ず姉さんというのに、今回ばかりはそれを忘れていた。

「んん~?あふぅ…何だ、朱里だったの。お帰りなさいなの」

相変わらず気の抜けそうな声で話す美希に脱力しかけるも、今はそれどころじゃない。

「なんだよこれ!」

ダン!と机に例の手紙を叩きつける。美希は数秒それを見た後「あはっ」と笑う。

「あ、合格したの。おめでとうなのー!」

「なのー、じゃねえよ!やっぱり姉さんか!!勝手にこんなのに応募しやがって…!!」

今度ばかりは流石にぶん殴りたいという衝動を抑えられない。ここまでめちゃくちゃをやる姉だったとは。

「大丈夫大丈夫。美希も一緒に応募して受かったから。一緒に面接行けるよ?」

ほら、と美希も朱里と同じ書類選考通過の知らせを笑顔で見せる。

「~!そういう問題じゃないんだよ!!」

ああ、そうだ。美希はこういうところがあるんだった。下手に両親に甘やかされて育った為、世間知らずでマイペース。そのため周囲にとんでもないトラブルをたびたび引き起こす。自分がその被害に合うことも多いんだった…。

「…どうすんだよ、これ」

さて、本当にこれからどうしよう。書類選考通過の知らせを見ながら、朱里は泣き出しそうになる。

ぶっちゃけ、朱里はアイドルにそこまで興味を持っていない。アイドルそのものに憧れを抱いている訳でもないし、お気に入りの誰かを追っかけている訳でもない。朱里にとってのアイドルとは、どこか遠くの、自分には関係のない世界の住人。それくらいしか認識がなかった。

だから事務所に連絡を入れて今回の件について断ってもいいのだ。事情さえしっかり説明すれば、あっちだって分かってくれるとは思うし。

でもそれで生じるデメリットも多い。自分が辞退したことによって美希のモチベーションが下がるかもしれないし、事務所側も勝手な行動をした美希に対してマイナスのイメージを抱いてしまう可能性もありえなくはない。

(…とりあえずは受けるしかないか。このまま断ったら美希に及ぶデメリットの方が多いし)

それに落ちたら美希だってこの件については諦めてくれるはずだ。勝手に応募した件について怒るのはその後でもいい。

「…分かったよ、とりあえずは面接には行く」

「!!やったーなの!!」

「あくまで一緒に行くだけだからな。それに受かるって決まった訳じゃないだろ」

そう、自分が行くのはバイトの面接じゃない、アイドルのオーディションなのだ。恐らく受ける人数だって多いし、倍率だってかなり高いはず。

要するに前世で幾度となくやった就活と同じだ。いくら書類選考を通過したって面接で落とされる奴の方がほとんど。そもそも自分より美人な美希が一緒に受けるのだから、絶対に事務所側は美希を選ぶに決まっている。

「美希的には、たぶん二人一緒に合格すると思うな!!」

「いーや、私は絶対落ちるね。私を欲しがる芸能事務所なんてこの世にあるもんか」

…もっとも。この時の自分自身は思ってもみなかったことなんだけれども。

これが自分の…波乱に満ちた日々の始まりとは、この時はこれっぽっちも思っていなかったのだ。




普通の人間がいきなり別人に転生してしまったらこうなってしまうのでは?という感じで書いてみました。
次回は面接、ここから徐々に765プロとの絡みも増えていきます。

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