THE IDOLM@STER  二つの星   作:IMBEL

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更新が不定期になりがちで申し訳ありません。頭の中ではおおまかなシナリオは出来ているのに、文字に表わすことが難しい…。
更新ペースが速い人の腕前がうらやましいです。


第20話 動き出すこと

朱里のデビューオーディションである『シンデレラガールズ』を劇的な勝利で収めてから5日が過ぎ、5月も終わりに差し掛かった頃。

『シンデレラガールズ』が終わり、朱里はようやく長く続いた緊張感から解放された気分であったが、まだもう一つ重要な課題が残されていた。それはある意味、オーディションよりも重要な課題であり、本文ともいえる物…中間試験が残っていたのだ。

(…ま、元々手を抜く気はないんだけどさ)

少なくとも、朱里はこの中間試験は手を抜くということは全く考えてはいなかった。

ここで少しでも成績を落としてしまえば、せっかく勝利で収めた『シンデレラガールズ』に画竜点睛を欠いてしまうといった思いに捉われていたからだ。普段から上位の成績を収めている朱里は多少成績が下がっても痛くはないのだが、下がってしまったことの理由に「アイドルのオーディションで忙しかったから」という言い訳をしたくはなかった。『シンデレラガールズ』で劇的な勝利を収めたからこそ、締めに控えている中間試験もしっかりと終わらせる義務がある、と感じたのだ。

それにここで成績を落としてしまったら、ゴールデンウィーク中に双子に説教したセリフが途端に胡散臭くなってしまう。オーディションの締めるという意味でも自分の発言に責任を持たせるという意味でも気は抜けなかった。

試験の前半は曇天や雨が続いて、ただでさえ鬱陶しい気分を増幅させてくれたが、打ち上げとなる最終日は全ての厄介ごとからの解放を祝うかの如く晴天だった。

「…うわぁ、ここ間違っている」

隣の席の名瀬は最後の科目の答えを教科書でチェックしながら、しきりに悲鳴を上げていた。…とは言っても、名瀬の成績は基本的に平均点以上がほとんどであり、名瀬本人も少し悲観主義的な所があるので、どこまで信用できるが分からない。今は悲観的な態度をとっているけれども、いざ帰ってきたら成績はそれなりにいいという光景を朱里は何度も見てきた。

(…多分、出来は良いと思うんだけど)

そんな名瀬を眺めながら、朱里は自分のテストの出来を思い出していた。

少なくとも、どれかが絶望的に悪いという訳ではなかった。普段から授業は真面目に聞き取っている為、少ない勉強時間の中でも復習も効率的に進められたし、出題範囲の要点は掴んでいる。

少なくとも、まだ義務教育が終わっていない中学校の試験はコツさえ掴んでしまえばちゃんと良い点が取れてしまうように出来ているものなのだ。これも2周目の人生を経験しているが故に知っている情報だった。

「朱里さんは今回もバッチリなんでしょう?」

と、ここで名瀬が恨めしそうな顔でこっちを見てきた。…多分、朱里の余裕そうな表情に反応してしまったのだろう。

「…まあ、まあまあかな?」

「嘘ばっかり。試験中、ずっとにやけていたのに?」

「…それは思い出し笑いだよ」

「本当?」

名瀬はジト目でこっちを睨んできた。

「…本当のことだよ。ここ最近、嬉しいことがあったからね」

一応、本当のことだ。

『シンデレラガールズ』から一週間、朱里はどこか自分でも感じたことのないくらい精神が昂っているのを自覚していた。

勿論、油断してはいけないのは分かってはいる。自分は候補生からアイドルへ上がっただけ。まだスタートラインに立ったばかり、頑張らなきゃいけないのはここからだ。

それでも、ようやく事務所のメンバーと同じ位置に来たということ、美希よりも難易度が上がったオーディションに勝利したという事実は朱里に確かな自信をもたらしていた。少なくともこれくらいは喜んでいても罰は当たらないだろう。

「ふうん…じゃあ嬉しいことって何?」

「え? ああ…」

朱里は『アイドルになったんだ』と名瀬に言いそうになったが、慌てて口を閉ざした。一瞬、ここで話してもいいのか? という思いに駆られたからだ。

この一週間、自分がアイドルになったということは事務所のみんなと身内以外には誰にも話してはいない。まあ、自分には話す話さない以前に、話せる友達があまりにも少ないんだけれども…。交友関係の狭さに何だか無性に悲しくなってくる。

朱里はチラリと名瀬を見た。名瀬は急に黙ってしまった朱里に怪訝そうな表情をしている。

(…話しても…いいのか? いや、名瀬さんには言っても良いと思うんだけれども…)

朱里は何ともない風に装いながら、頭をフル回転させる。…これは少々、困ったことになってしまった。

別に彼女には話しても構わないとも思うのだ。

(…でもなぁ)

ただ、それによる問題も多かった。今の朱里はアイドルとしてデビューしたとはいえ、ほぼ無名の状態。人気なんてあるわけないしファンだっている訳じゃなかった。そんな状態で『アイドルやってます』なんて言っても、本当にアイドルをやっているのかという冷やかしが飛んでくる恐れもあった。…自分は元々、姉と違って可愛くはないし、去年までの校内での行動もあるし。怪しまれるのは致し方ないものな。

それに名瀬がいくら信用できる人間だからと言っても、どこから話が漏れるかは分からない。変に話が広まって周りの変な注目は浴びたくはないし、自分には百合疑惑という噂が広まったという前科があるからこそ、そういう噂ごとの厄介さは身に染みて分かってはいる。

(…駄目だ、やっぱり今は言うべきじゃない。もう少し時間が経った後で話そう)

そう結論付けた朱里は、次にこの状況をどう切り抜けるか考えようとした時だった。

「朱里! いっしょに帰ろ!」

朱里の心の声に応えるかのように、教室の出入り口から大きな声が上がった。多くの生徒がその声につられて、視線や顔を向ける。名瀬もその一人だった。

「…あ、姉さん」

朱里は思わず声が出た。教室の出入り口には中学校ではやけに目立つ金髪の髪の少女…我が姉である美希が立っていたからだ。絶好のタイミングで来てくれたことに朱里は美希に感謝したい気持ちだった。

「もう…朱里、遅いの! 美希、待ちくたびれちゃったの!!」

「あはは、ごめんごめん。ちょっと話し込んじゃってさ」

軽く笑いながら、朱里は不機嫌そうに腰に手を当てている美希をなだめた。…よし、抜け出すならこのタイミングしかない。

「あーごめん、このことはまた何時か話すよ」

朱里は名瀬に申し訳なさそうな顔をして、適当に話を濁した。そして荷物を抱えて、彼女の脇を小走りで抜ける。

「じゃあね、名瀬さん」

「う、うん」

去り際にこちらを見た名瀬は明らかに怪訝そうな顔をしており、ちょっとだけ罪悪感を感じたが何とかこの場は逃げ出すことが出来た。

「じゃ、行こうか姉さん」

そして朱里はそのまま教室を出て、美希の隣へと歩み寄った。

 

 

 

 

 

 

朱里が去った後も、しばらくはクラス内の生徒によるざわめきは止まらなかった。ほとんどが男子たちは学校のマドンナである美希を近くで見れたことによる驚きや歓声だったが、ごく一部はそうではなかった。

「なんで妹のあいつが美希さんと…?」

「あの2人仲悪かったんじゃないのか?」

どうやら名瀬が思っている疑問を周りも感じているらしかった。…やっぱり朱里さんの変わりようは自分の見間違いじゃなかったのか。名瀬はどこかほっとしていた。

「…なーんか凄い人だね、あのお姉さん」

「あ…空羽」

「よっ」

名瀬の後ろにはクラスメイト兼同じ部活の仲間である親友、鈴木空羽が立っていた。どうやら空羽も周りの子と同じく、突然現れた美希に興味を惹かれた一人らしい。

「相変わらず凄いスタイルだよねぇ、あのお姉さんは。真面目にダイエットするのがバカらしくなっちゃうよ」

空羽は頭の中で自分の体と美希の体を比べているのか、悔しそうな顔を浮かべていた。…まあ、確かにそう思うのも無理はないと思う。この学校のマドンナである美希は中学生として認識してもらえないほど、年齢に合わない外見をしている。同性である自分たちと比べても体のラインが凄いことになっているし、何か特別なことでもしているのだろうか? 今度、朱里さんに聞いてみようかな? 彼女もお姉さんと同じでスタイルが良いし…。

「…にしても、あいつ、変わったよねぇ」

空羽のあいつと呼んだ人物が朱里を指していることに、名瀬はすぐに気付いた。

「やっぱり空羽もそう思う?」

空羽は近くの机に腰をもたせかけて、名瀬と話を続ける。…やっぱり気になる人は気になっているんだ。

「…空羽、何か知らない?」

名瀬は聞くだけ無駄だとは思いつつも、空羽に質問してみることにした。当てにはならないが、それでも聞いておいて損はないだろう。

「そんなの私に分かる訳が…いや、ちょっと待って」

空羽は顎の手を乗せて、何かを思い出しそうにうーんと唸る。そして数秒後、何かを思い出したように大きな声を上げた。

「…男、かな? そうよ男よ男!」

「…男ぉ!?」

名瀬はまさかといった様子で声を上げた。

「いや、どっかの噂で聞いた覚えがあったのよ。新学期が始まった辺りであいつが男子からラブレターを貰ったって噂」

「ええ? じゃあ彼氏いるの、朱里さん?」

全くの初耳の情報で驚く名瀬。まさかの朱里さんが彼氏持ち?

「さあ? でもさ、変わる動機としては十分すぎると思わない? ほら、少女マンガでもよくあるパターンじゃん。今まで何の興味がなかった子がさ、異性を意識するようになって、段々可愛くなっていくって奴」

空羽は朱里本人がいないことを良い事に、好き勝手あれこれ言っていたが、名瀬は聞く耳を持たずにいた。

(…本当に変わった理由は彼氏が出来たから…なのかなぁ?)

確かに理由としてはありえるかもしれないけども…どうも違う気がする。だって、一時期は百合疑惑が出るほど男に素っ気なかった朱里に彼氏? …それがどうも信じられないのだ。

それに仮に彼氏が出来たからといって、それとお姉さんとの蟠りが消えた理由に結びつかない。…きっと何か別の理由があるのだろう。

(やっぱり別の何かがあるんだよね。きっと私にも言えないような何かが)

さっきの朱里の反応を見る限り、きっとそれは自分には言いにくい何かなのだろう。何だか明らかに口ごもっていたし。

(…結局、変わった理由は分からないってことか)

目立った成果は上げられず、結局、新たな疑問だけが増えてしまった名瀬であった。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

「おはようなの!」

事務所に着いた朱里と美希は、いつものようにドアを開けて中へと入ったのだが、入って数秒で何か違和感に気付いた。

事務所の仲は変に静まり返っているのだ。普段は会話で賑わうはずの事務所は気持ち悪いほど静まり返っており、あの双子ですら借りてきた猫のように大人しくなっていた。

「…どうしたんだよ、これ?」

朱里はちょうど近くにいた亜美に小声で聞いてみた。朱里は最初、双子の新手の悪戯を始めたのだと予想していたのだが、どうやら違うみたいだった。

「…律ちゃんが、ほら」

ちょいちょいと亜美が指差した方向には、律子が受話器を片手に誰かと電話をしている光景があった。彼女の敬語まじりの言葉づかいから、仕事関係の電話なのだと予想できる。

(ああ…電話ね)

そういえば朱里と美希が事務所に所属する前に、電話の最中にあまりにもみんなが騒ぎ過ぎて律子に怒られたというエピソードがあったらしい。それがトラウマになっているのか、電話の最中はみんなで大人しくなっているんだとか。

…なんていうのか、765プロらしいエピソードだなと思った。この事務所は普通はありがちな先輩後輩などという上下関係や堅苦しさは存在しない。生まれた年の数年の違いを気にするものは誰もいない、お互いに言いたいことを言いあっている。だからこそ、大いに騒いで怒られるのかもしれないけども…まあ、変に気を遣っていない証拠なのかもしれない。

(…ここで良かった)

最初は不安だったけれども、ここにいることで大いに変われた。多くの人と関わって、少しは成長できた気がする。…まあ、ここで満足はしない。とりあえずはもっと上まで目指そう、姉さんを追い越せるくらいにまでは。

「…はい、えっ? 確かに星井朱里は、当プロダクションに所属しているアイドルですが…」

律子の声に、途端に全員の視線が朱里へと集まった。…いったい、何だ? 不意打ち気味で呼ばれた朱里は何だか急に不安になった。

「…えっ、美希も一緒にですか?」

律子が電話越しで答えていく内に、朱里と美希、2人の頬が緩んでいく。…つまりはそういうことなんだろう。

「…はい。ではまた折り返し連絡します」

律子は受話器を置くと、椅子だけを動かしてこっちの方を見た。

「…来たわよ、あなたたちの初仕事。しかも2人揃って」

律子は嬉しそうな声で2人にそう言った。




現在の美希と朱里の世間の評価はゲームで例えるとEランク辺りだと考えてください。…というか、アニマスの世界はゲームのようにランクとかはっきりしているんでしょうかね?
さて、今回新たに出てきたキャラ、鈴木空羽(すずきそれわ)。彼女もまた「ゼノグラ」に登場したキャラです。名瀬と同じく彼女もゼノグラでは成人していたキャラでしたが、この小説内では朱里のクラスメイトという設定になっています。同年代と設定な為、口調もゼノグラよりも砕けたものになっています。
ここまで来ちゃったら海好きのあいつもだそうかなぁ…なぜ、ならば、それは!! でもあいつキャラ濃いんだよなぁ…。

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