THE IDOLM@STER  二つの星   作:IMBEL

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このエピソードは前回説明しなかった部分の補完回へとなります。


第2話 2つの世界

星井美希が自分の妹、星井朱里が周りとどこか違うと感じたのは、いつのことだろう。

…最初に違和感を感じたのは、小学校に上がってからすぐのころだと思う。

入学してからすぐ、朱里はクラスの人気者になった。なんせ、勉強しなくたってテストはいつも100点。礼儀もしっかりしてるし、保護者からの人気も凄いらしい。

「朱里のお姉ちゃんで美希は鼻が高いの!」

「…うん」

でも朱里はいつも悲しそうに笑うだけだった。まるで齢をとった老人みたいに笑う。

「朱里―、一緒に学校に行こうなの」

「大丈夫だよ。子供じゃないから一人で学校に行けるって。そろそろ姉さんも妹離れしないとダメだよ」

「…」

何が大丈夫なんだろう?いつもそんな悲しい顔して。本当に大丈夫なら絶対にそんな顔はしない。

(美希は朱里のお姉ちゃんなんだから、もっと頼って欲しいの、甘えて欲しいの…)

しかし美希の願いとは裏腹に、時間が経つにつれ、どんどん朱里と接する機会が減っていく。

「ねーねー、お姉ちゃん。朱里と仲良くするためにはどうすればいいのかな?」

春休み。中学生に入ってからますます朱里との距離が遠ざかった気がして、美希は菜緒に相談することにした。

「そりゃあ、何か一緒のことをやる…とか?」

「…美希それ知ってるの!吊り橋効果って奴なの!!」

「いや、全然意味が違う…いや、あってるのかな?」

思い立ったら即行動。美希は自分の部屋で作戦を練っていた。

(どうせなら、うんと難しいことの方がいいよね)

あの朱里と協力するためには、生半可なことじゃダメだ。朱里が絶対にしなさそうなことで自分に頼ってくれそうなこと…。

(アイドル…とかはどうかな?)

そうだ、アイドルだ。美希はついこの前、とある芸能事務所の募集広告を貰っている。元々、こういうことに興味を持っているので、近いうちにオーディションを受けに行こうと思っていたのだ。そこに朱里と一緒に受けるというのはどうだろうか。

それに朱里はオシャレを全くしない。これを機にメイクやらオシャレに興味を持ってくれれば、一緒に関わる時間も増えるかもしれない。

「…でもこんなこと朱里に言ったら絶対怒っちゃうの。…そうだ、こっそり応募してやればいいの」

…勿論、怒られちゃうかもしれないけど、仲良くなるきっかけにでもなれば別にかまわないか。

(それに朱里はいつも自分を「かわいくない」って言うけど、そんなことないの。美希がきちんとメイクを教えてやれば、すっごくキラキラできるの!)

早速、準備開始だ。まずは美希と朱里、二人分の履歴書を作らなくては。

 

 

 

 

 

 

が、予想に反して、朱里が美希に頼ってくることはなかった。というか、現在進行形で美希は朱里にしごかれている。

「そうじゃない!面接官に座っていいと言われるまで座るな!それに声が小さい!!」

「は、はいなの!」

「声が小さいのが一番印象を悪くするんだ。それと立っている時も指先も丸めないでしっかり伸ばして。だらしない奴だって思われるぞ」

まず、朱里は美希に最低限の礼儀作法を確認することから始めたのだが…やって正解だった。なんせ、美希は礼儀のれの字も知らなかったのだから。多少のことは大目に見るつもりだったけど、いくらなんでもこれは酷すぎる。

もう面接まで一週間を切っている。そのため、付け焼刃でもいいから一気に叩き込む必要があった。

「で、でも少しくらいは大丈夫じゃないの?ここまで細かくは見ないと思うし…」

「いや、あっちは一足一手から情報を引き出すから、直せる所はとことん直していったほうがいいんだ。そしてこれは絶対に直せるポイントだ」

朱里は前世の就活で骨の髄まで染み込んだ動きを美希へと叩き込む。

「…まったくどっちが姉なんだか」

その光景を見ていた菜緒が呆れたようにポツリと呟き、まったくだと朱里は思う。

「…それでさ、朱里はどこでそんなこと習ったの?随分と本格的だけど…」

「…一度生徒会に立候補させられてね。その時に一通り教えてもらったんだ」

朱里は姉の疑問にでっち上げの嘘をつく。幸いなことに菜緒はその話題に興味は持たなかったのか、それ以上追及はしてこなかった。

(嘘つくの、慣れたよなぁ…。慣れちゃ不味いんだろうけどさ)

この嘘をつく癖も、2周目での生活で知らぬ間に磨き上げられてしまったものだ。…あまり嬉しくないが。

少なくとも…自分は落ちても構わないが、美希だけは合格させたかった。

自分は『星井朱里』じゃない。血は繋がっているけど、心は全くの別物だ。

でも…たとえ、本当の姉妹じゃないとしても。姉の夢くらいは叶えてあげたい。自分にできることはそれくらいだから。

「それじゃあ、最初からもう一度やるよ」

「うわーん!朱里は鬼なの!!」

「鬼で結構」

 

 

 

 

 

 

「ここが765プロ…か」

それからあっという間に時が過ぎて、遂に面接前日。朱里は明日に備えて面接会場である765プロの下見へと来ていた。

まず、見た目からの第一印象は「ボロい」ということだった。窓ガラスにガムテープで“765”と貼ってあり、建物の年期も凄い。貸しビルの一角を事務所として使っているらしく、事務所もあまり広くはなさそうだ。

(まだ出来て間もない事務所なのかな?)

…段々明日の面接が心配になってきた。本当にここを受けて大丈夫なのかな?

「…いかんいかん。明日の面接に変なこと考えちゃダメだ」

とりあえずは帰ろう。道順はしっかりと覚えたし、明日は早い。今日はゆっくりと休まなければ。

帰る途中、歩道橋の上で立ち止まり、辺りの風景を見渡す。

「…変わんないな、本当に」

街は煌びやかな光を放っている。下の道路は車も走っており、電光掲示板にはニュース映像が流れている。

「…本当に、1周目と変わんない世界だ、ここは」

始めにここが違う世界だと気づいたのは、保育園に入って少し経った頃だった。

両親が共働きしているため、朱里は幼稚園に入るまで保育所に預けられていた。

その時、ふと小さな違和感を感じた。テレビでやっている番組が違う、番組名は同じでもスポンサーやメーカーの名前が違う。売っている商品は同じでも、細かな違いが見え隠れしていた。

…そして、ある日。父の書斎にあるパソコンをこっそり起動させ、この時代背景を調べてみることにした。ついでに自分の生まれた街や通っていた学校などもあるのかどうかも。

そして2つのことを知ってしまった。1つはここは自分がいた世界とはどこか違う世界、並行世界だということを。もう1つは自分の生まれた街や通っていた学校はこの世界には存在しなかったことだ。

まず、この世界の近年の有名人を調べてみたが、自分の知っている人物の名前は誰一人として一致しなかった。代わりに自分の知らない人物がぞろぞろと出てきた。大体の歴史の流れは1周目とは変わっていなかったが、それでもあちらこちらで細かな違いが確認できた。

例えば、この世界での日本を代表する超有名スターは日高舞という自分が見たことも聞いたこともない女性アイドルだったりなど。

そして2つ目は…これだけは本当に信じたくはなかった。迷惑にはなるかもしれないが、自分は周りのありとあらゆる知り合いに電話を掛けた。だれでもいい、それこそ藁にもすがる思いで。

…結果は全て音信不通。固定電話も携帯も全滅だった。

途端に怖くなった朱里は自分の実家や祖父母など、身内宛に手紙を書き、こっそり送った。それぞれの住所を一文字一句間違えずにしっかりと書いて。

…数日後、手紙は戻ってきた。全て宛先不明というハンコを押された手紙だけが。

それを見た瞬間、膝から崩れ落ちた事を朱里は一生忘れないだろう。…この世界に、自分の行き場はどこにもないことを突きつけられたのだから。

「…」

朱里は首を振って、考えることをやめた。それは自分にとってあまり思い出したくない記憶だったからだ。

「…明日のオーディションはどうなるのかな」

一応はやれることはやったけど…やはり不安だ。オーディションなんて何をやるか分からないから余計に怖くなる。

「ま、明日になんなきゃ分からないか」

そう呟くと、朱里は止めていた足を動かし始める。

そう、全ては明日だ。




次回のオーディションの部分は、矛盾があったり、こんなのありえねぇよ、っていうのがあるかもしれません。

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