THE IDOLM@STER  二つの星   作:IMBEL

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書いては消し、書いては消し…そんなことを繰り返していくに2019年!?!?
約2年経っちまったよ!?
…ということで、長らくお待たせいたしました。
今回はアニメの3話目Aパートくらいのお話です。
もうこの小説需要あんのかよって感じですが…どうぞ。


第29話 理想は遠く、されど現実は厳しく

「…と、いうことはこれくらいの間隔を維持しながら、いつもステージに立っているんですね」

「うん。曲や人数の構成でそこの所は変わっちゃうけど…今回5人で歌う『GO MY WAY!!』の場合は大体このくらいかな? もっと人数が増える曲…それこそ全員で踊る曲とかはこれよりも…」

「なるほどですね」

夕闇が照らす中、屋上の床に学校からくすねた短いチョークで描かれた赤色の円をとんとんと叩く春香を見ながら、朱里はノートへとメモを刻んでいく。

「…となると、この場合は?」

「あ、大きく動く時はね、こういうふうにしてね…」

ぐおんぐおん、と屋上に設置してある室外機の音が響く中での2人の会話は続いていく。

朱里の質問に春香は床に転がっていた別の色のチョークを掴むと、一回り大きい円と小さい円を描いて、説明を続ける。

「基本は大体…合同レッスンの時と同じくらいの間隔で良いと思うよ。でもステージの大きさや欠員なんかで多少変わる時もあるから…」

「最終的には現地に行って動きを調節することもある…と?」

「うん。だからリハーサルとかでこういう部分も見ながら細かく調節するの。狭すぎても駄目だし、逆に広すぎても駄目だしね」

複数のアイドルとステージに立った経験がない朱里にとって、765の中でも古株の春香のアドバイスは勉強になることが多すぎた。

ゴールデンウィークの時の自主トレで教わったことが身になったのと同じように、経験者のアドバイスや助言は非常にタメになることばかりだ。

(狭すぎると窮屈なステージになるし、かといって間隔を開けすぎると逆にだだっ広く見えてしまう。それは人が増えれば尚のこと、か…)

そういう細かな部分も計算されながら自分たちが歌って踊るステージというものは作られていると思うと、驚きを感じざるを得ない。

そうなるとリハーサルって凄い大事なんだな、とぼやきながらガリガリっとボールペンをノートに走らせる。

「……大体、私がいつも意識しているのはこのくらいかな。こ、これくらいしか言えないけど…参考になったかな?」

「なりましたよ。春香さんの教え方、凄く分かりやすいですし。じゃあ一回、動いてみますね」

ボールペンを引っ込めて満足げにノートを閉じた朱里はトントンっと靴でリズムを取りながら、前回失敗したサビ前の大股に足を動かす動きに入る。

春香も事務所から借りてきたビデオカメラを録画モードにして、朱里を撮る構えをする。

(大股にはなるけど、ステップは広めすぎない。広めすぎると周りのメンバーの動きの邪魔にもなる…。けど、周りからも見られている意識を持って…)

頭に描くのはドシドシと力士が四股を踏むような大きな動きではなく、もっとスマートに軽やかに動くダンサーのように。タンタンっと心地よいリズムを刻みながら、よろめくことなく足はしっかりと地面を叩く。

「!」

転ぶことなくステップが上手くいって、見ていた春香はぱあっと明るい顔を浮かべる。それを横目でそれを確認した朱里は止まることなく、サビの動きへと入る。

(上手くいってるみたいだ。サビの時は腕を大きく使うから、腕がガチガチになりすぎないようにして…)

ノートに書き込んだ春香のアドバイスを脳内で反復させながら、両手の人差し指ではにかむ仕草で笑い、ぐるんと腕を広げ、指を前方へと向ける。

そして、右手の力こぶを作るように左手を添え、大股なステップを入れて、曲調に合わせて顔を決めて―――。

「…ど、どうですか?」

ここまでの一連の動きを終え、ようやく朱里は春香へと質問する。春香も録画を一旦止めて、顔を上げ―――。

「うん、ちゃんと出来てる! 動きもこの間のビデオよりも良いよ!」

「あ、やった…」

春香の笑顔に本当だったらここで「やったー!」と叫び、手を握るくらいのリアクションをしようかというところだが、現実は出来たという喜びでリアクションが上手くとれなかった。

古株の春香の目から見ても落第点よりは上の出来にはなっているらしい。

とりあえず、踊れなくてステージに立てないという最悪の状況は何とか避けられたようだ。

「ここ数日、自主練に付き合ってくれてありがとうございました。春香さん家も遠いのに遅くまで付き合ってくれて…呑み込みが悪くて、何度も何度も同じことを…。本当にありがとうございます」

「うわ、あ、頭下げなくてもいいよ!」

ペコリと頭を下げようとする朱里に慌てる春香。『765プロでは先輩後輩関係ないんだから~!』とあわあわ喋りながら朱里を止める彼女がなんだか可愛らしくて、思わず笑みを浮かべてしまう。

本人は至って真面目なのだろうが、どこか愛くるしいその姿はなんだか愛玩動物を見ているみたいだ。春香の方が先輩なはずなのに、後輩みたいな錯覚を覚えてしまう。

「それにしても意外だったなぁ。私、朱里ちゃんはこういう質問とかはお姉ちゃんの美希にしているイメージがあったから。一緒に住んでいるんだし」

「いや、むしろ姉さんにする方がほとんどないですよ。姉さんは感覚で何でも理解しちゃうタイプなんで、自分では分かっても他人には伝えられない事多いですから」

「そうなの?」

「ええ」

ちらりと、手元のノートを見る。

つい数か月前に買ったばかりなのに、もう表紙やページがボロボロだ。あらゆることを書き殴っているせいで、もうノートの残りページも僅かだ。そろそろ新しいものを買わなければならないだろう。

勿論、『GO MY WAY!!』の事もノートの数ページに渡って刻まれている。自分が失敗しやすいポイント、春香たちが気を付けていることなどがズラリと書かれている。

朱里の手痛い失敗から過ちを繰り返さないとばかりに、今日まで徹底的な対策が施された。

全員の動きをビデオで再確認し、『GO MY WAY!!』の動きも改めてレッスンなどで対策。

上手くいかない不調気味のコンディションを吹き飛ばすかの如く、駆けずり回った。

そして、今回の『GO MY WAY!!』でセンターに立つ春香のアドバイスは大きな収穫になった。今回のステージの中心に立つポジションを任されている春香に自主練のコーチ役を頼み込んで正解だった。

「一度姉さんに分からない事を聞いたことはあるんですけどね…話を進めていく内に逆に分かんなくなっちゃって…。私達は姉妹ですけど、こういう所は違いますから」

朱里は普段のレッスンや周りの体験などの通して得た経験を丁寧に積み重ねて、それを本番で発揮していくタイプのアイドルであり、感覚だけで臨機応変にやれる美希とは壊滅的に噛み合わない。

だから美希独特の説明を受けても余計混乱してしまう。美希の感覚は朱里には理解できない域に達してしまっているからだ。

その為、朱里は美希を筆頭に『独自の感覚で理解している』面子にアドバイスを求めることはまずない。レッスンのアドバイスを求めるのは1から10まできちんと説明してくれる律子やトレーナー、春香や真など自分と同じように経験を積み重ねたことを丁寧に発揮するアイドルたちだけだ。

響や貴音などと絡んだゴールデンウィークのあれは、朱里にとっても数少ない例外なのだ。

「わざわざオフにまで付き合わせてしまってすみません。春香さんもやることあるはずなのに…」

「そんなことないよ! 私も頼られて凄く嬉しかったし、朱里ちゃんには宣材写真のリベンジが出来たしね! ようやく私もアイドルらしいことを出来たって感じで!」

「リベンジ…ああ、あの転びぶりは笑っちゃいましたよ」

「あー、酷い! 朱里ちゃんだってこの間のレッスンで凄い転んだって聞いたよー?」

「…う、それは言わないでください」

痛い所を突かれた朱里は、ぐぬぬと顔をしかめる。あははと笑った春香は「一旦休憩しよっか」とチョークを置くと屋上の端に座り込んだ。そして、はいと持っていたビデオを朱里に手渡す。

「あ、ありがとうございます」

―――やっぱり春香さんはこういう所が凄いよなぁ、と早速、録画を見ながらしみじみ思う。

相手の警戒心を素通りしていつの間にか懐に入ってくる気安さ。相手に不快感を与えない絶妙な距離感を瞬時に把握する洞察力。相手を飽きさせる事のない巧みな話術…話題好きな女の子の見本みたいなスキルの数々は、口下手な自分には絶対に出来ない芸当だ。

あのとっつきにくて無口代表みたいな千早も、春香の前では自分と同じようになってしまうのだから。

『ねえ兄ちゃーん、衣装って赤いのでいいんだよねー?』

『ああ、そうそれだ。赤い箱だ、赤い箱』

『りょーかい、ここに置いとくねー』

ふと、下の階からプロデューサーと亜美の会話が聞こえてくる。そういえば上の階に上がる前、仕事用の荷物を一つにまとめておくみたいな会話があったようななかったような。

亜美も一緒になって衣装ケースを運び込んでいるみたいだ。

「春香さん、故郷村までって車で移動でしたっけ?」

「うん、プロデューサーが皆乗せて移動するんだって。皆が乗れる大きめの車を借りるみたい」

へえ、プロデューサーって中型クラス以上の免許持っているんだ…というどうでもいい情報を頭に入れる。律子は免許こそ持ってはいるが普通車限定のものだったし、やはり大人数を乗せられる車を動かせる人がいるのはありがたい。

場所的な縛りがなくなるというのは仕事を選ぶ幅も増えるだろうし、今回みたいな参加人数が多いイベントにも足を運びやすくなる。

仕事を選り好みできる身分ではない765プロにとっては良いこと尽くめだ。

今回の会場となる故郷村は山を数個跨いだ先にある、牧歌的な村で行われる。

その名前の通り相当な田舎らしく、電車は一日10にも満たないローカル線オンリーで車の移動を余儀なくされる位置にある集落らしい。

数分に1本電車が来るのが当たり前だと思っている朱里にとって、故郷村は現代に残された秘境のような何かを感じてしまう。

すっかり朱里も2周目の人生を過ごす中で都会っ子に染まってしまったようだ。

「…虫刺されとか日焼けが怖そうですね。翌日は晴天みたいですし、虫よけスプレーとか持っていった方がいいかもしれませんね」

「私服で踊る訳じゃないけど、動きやすい方がいいかも。スカートで地方の仕事行った時なんか大変でね」

「へえ」

「虫刺されで太ももとか刺されちゃったときなんか、もう…」

えへへと、話す春香の表情はどこか楽しげだ。やっぱりアイドルしている時の春香は、普段よりも輝いて見える。歌ったり踊ったり、誰かに撮られたりしている時も何かを演じたりする時も…アイドルを通しての活動全部を全力で楽しんでいる。

「楽しみですよね、全員での仕事」

朱里や美希にとっては初めての全員参加の仕事だ。ステージに上がる皆の姿を見るのも初めてだし、他のアイドルのステージ姿は生では見たことがない。普段レッスンしている皆がどんな姿でステージに上がるのか…やはり朱里も気になっていた。

「うん。全員参加の仕事なんて本当に久しぶりだから、私も楽しみ」

「…やっぱり、仕事って少なかったんですか?」

「うん、プロデューサーさんや朱里ちゃんが来るまでは本当に仕事なかった時期、あったから。場所が場所なら諦めることもあったしね」

そう言って遠くを見つめてそう語る春香を、朱里は黙って見つめるしかできなかった。

今ですらまだまだ仕事が少ないと感じるのに、これ以上に少ないとなるとどれほどだったのか。

噂程度にしか聞いていないがスケジュールが書かれているホワイトボードが真っ白だった期間がかなり多かった。デビューしたのに仕事が無くて、事務所とレッスンスタジオだけを行き来する日々も珍しくなかった、なんて話も聞いている。

「だからね、朱里ちゃん。私今回の仕事、凄い楽しみなんだ。一杯レッスンやって、せっかく上手くなったのに、歌いたいのに歌えないのって凄く辛いから。だからみんなでそれが出来るって凄く嬉しいの。たとえそれがどんなに小さなステージでも…一人でも聞いてくれる人がいるだけでも…」

「………」

春香の言葉になんとも言えない気持ちになる。もし自分が、本当にやりたいことが出来ないまま、月日だけが流れていったら…と想像してみると、恐ろしい気分だ。

ただでさえ、春香は他のメンバーよりも長く、そしてアイドルに対しての憧れがとても大きい子だ。熱意はあるのに何もできないその怖さや無念さも人一倍に感じているのだろう。

「ご、ごめんね! なんか湿っぽい話になっちゃって! 私、そんなつもりで言ったんじゃなくて…」

「大丈夫ですよ、全然気にしてませんから」

朱里はキュルルルと一通り見た録画データを巻き戻し、ビデオカメラを春香へと返すとガバッと立ち上がった。

「さっきの動き、もう一回撮ってくれますか? 今度は最初から通してやってみますので」

「え、でも…」

「忘れない内にもう一回やっておきたいんですよ。まだ付き合ってくれますよね?」

そう言うと、朱里は屈伸をして軽めの準備運動をしながら春香の返事を待つ。

朱里の圧力に押されたのか、春香はわたわたとビデオを構えて、撮る準備をしてくれた。

「朱里ちゃん、いつでもいけるよー!」

「はい! あ、そうだ春香さん!」

「?」

突然呼び止められた春香は頭に?マークを浮かべながら、こちらを見た。朱里は笑いながら、春香を見つめる。

「絶対、次の仕事、成功させましょうね!! 一緒のステージに立つんですから!!」

「…うん!」

そんな朱里につられるように、春香も笑う。そしてひとしきり笑った後で、朱里は頭の中で『GO MY WAY!!』のメロディを流しながらステップを踏み出した。

 

 

 

 

 

 

煌めく太陽、木々を吹き抜ける爽やかな風。まるでドラマの舞台となるような素敵な村。

訛りはあるものの温かい雰囲気の村の大歓迎を受け、ご馳走を振る舞われた765プロは大歓声の中、ステージを決行するのだった…。

「と、思っていたのに」

「なんで現実はこうなわけ…?」

面食らう亜美とふくれっ面の真美は目の前の光景に愕然としていた。

そりゃ売れていない私たちの知名度が低いからに決まってんだろ、そんな歓迎なんてテレビに出るスーパースターで初めて行われるものなのに…とは朱里も言えずにいた。

「ここ本当に日本なんですか…?」

隣にいる雪歩とひそひそ会話する朱里自身も想像していた事態を遥かに上回る目の前の光景に面食らっていた。

会場となる学校の校舎は今や見るのも珍しい木造建築。壁やら廊下の年季は相当なもので、コンクリートの校舎しか見たことがない朱里は、失礼だが踏んだり触ったりしただけで崩れてしまうのでは…? というあらぬ妄想まで掻き立ててしまう。

目の前には無駄に広い校庭とのそのそと動きまわる牛の姿、出迎えの人はおろか、自分たち以外の人の影すら見えない。

学校のグラウンドに犬が入ってくるという話はよく聞くが、グラウンドで牛が我が物顔で歩く話は見たこともなければ聞いたこともない。

グラウンドの端では今日行われるステージの足場が、その向こうには見渡す限りの畑と山ばかりで、コンビニどころか自販機の一つも見かけない。

道路には車どころか人も行き来する姿が見えない。まさに現代の陸の孤島だ。

周りを見てみれば亜美真美程では無いにしろ、各々が久しぶりの仕事への夢想を広げていたらしく、同じようなリアクションがチラホラ見られた。…実を言うと朱里自身もちょっと期待していたのは秘密だ。

「あんたらの想像は陳腐すぎるのよ」

伊織は手元でシャルルの耳を弄りながら呆れた顔で言った。

「私はこんなオチだと思っていたわ…」

そう言いつつも伊織の顔にも落胆の色が見えた。やはり伊織にも多少の期待はあったらしい。

「ほら美希、早く起きなよ…もう着いたんだから」

「うーん、まだ眠いの…」

荷物を胸に抱えながらウトウトする美希の肩を真がゆする。車でただ一人最初から最後まで爆睡していた美希はまだ意識は夢の中なのか、聞く耳を持たない。自分が期待と不安が入り混じりながらの移動をしていたというのに…。

「天気が良いのはいいのですが、少し暑いですね」

「日が暮れたら、少し冷え込むみたいですけど」

雲一つない晴天。拭き出てきた汗がシャツに張り付く。汗でブラ透けてなきゃいいんだけど…。

地球温暖化の影響は都会も田舎も関係ないみたいだ。ビルや建物がない分、こっちの方が余計に暑く感じてしまうのは気のせいではないかもしれない。

と、会場設営をやっていたランニングシャツ1枚でガタイのいい兄ちゃんがこちらに気付いたのか、作業を止めて、こちらへ近づいて来た。

「ようこそ故郷村へ!756(ナゴム)プロさん!」

「あ、その、名前が違いますね。765プロです…」

「今日は宜しくお願いします!」

堂々と事務所の名前を間違えられるというハプニングはあったものの、歓迎の挨拶に皆が頭を下げ、車から荷物を取り出して控え室になっている教室まで移動しようとしたその時。

「宜しくお願いしますね!」

明るくさわやかな笑顔でポン、とランニングの兄ちゃんの一人のゴワゴワした指が、雪歩の肩に触れた。

あ…、と皆が嫌な予感をするよりも早く、雪歩の顔面がみるみる蒼白と化し…。

「~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

声にならない悲鳴を上げながら、雪歩は全速力でその場から逃走してしまった。

「あーあ、やっちゃったぞ」

「先行きが不安だわ」

「…? なにか、悪い事しちゃいましたかね?」

「そ、その、女の子ですから! いきなり触られてたらビックリもしますよ!」

見慣れたメンバーはあっけらかんとしているが、逃げられた兄ちゃんは訳も分からず目を白黒させていた。悪気があってやったのではないことは百も承知だったが、声を出さずにはいられなかった。

田舎と都会の距離感は違うかもしれないが、不意打ちでいきなり見ず知らずの男性にボディタッチされるのは雪歩じゃなくても怖いだろう。男性恐怖症の雪歩にとってはとんでもないことだっただろう。

「と、とりあえず僕が追うから。僕と雪歩の荷物は先に控え室に持っていって」

「うん、分かった」

付き合いの長い真は荷物を春香に預けると雪歩が逃げていった方へダッシュで駆けていく。

(雪歩さん、大丈夫かな。せっかく調子戻していたのに…)

彼女は今日のステージで『GO MY WAY!!』の他に持ち歌をセンターで披露するのに。リハーサルでコンディション戻ればいいんだけど…。

そんな朱里が心配していた矢先、グラウンドの向こうで遊んでいたらしい男の子が玩具片手にトトト…とこちらに駆け寄って来た。雪歩の悲鳴が向こうに聞こえて、気になってきたのかもしれない。

「ねえねえ、姉ちゃんたち。もしかして、アイドルなの?」

「そうよ~、私達、アイドルなの。今日、お歌も歌うのよ~」

そう無邪気そうにやって来た子供に優しく話すあずさ。やはり最年長アイドル、こういう子供の扱いにも長けている。

…が、次に男の子が発した言葉があまりにもまずかった。

「ふーん…こいつらなんて見た事ねー!!」

「「「「「「!!!」」」」」」

大声で一刀両断をかまされた765プロの皆はビシリ! とフリーズする他なかった。

「お前ら本当にアイドルなのかよー。テレビで見たことねーぞー!」

「……っ。え、あ、あら~…お、お姉さんたち、最近デビューしたばかりだから…知らないのも無理ないかも…」

目の前の生意気な子供の態度に引きつった笑顔で皆が我慢する中、それでも優しく接するあずさ。流石は最年長、大人だ…と思いつつ、あずさの額から流れている冷や汗から動揺の色が隠せていない。プロデューサーに至ってはかけている眼鏡がずり落ちそうな程、動揺していた。

「何やってるの! 早くしないと置いてっちゃうわよ!」

と、慌てて子供たちの親御さんがやってきて、「御免なさいね」とこちらに頭を下げて子供の手を引いていく。

「知らねー知らねー!」

親御さんに手を引かれながらも、男の子は大音量で叫び続けていた。

「あ、はは……こ、子供の言う事、だから…な。はは…」

木霊のように響く「知らねー」に呆然と見送るしかない皆の気持ちを代弁するようなプロデューサーの言葉も耳には入っていかない。

雲一つない晴天の中、僅か数十メートル先で歩いている牛がグラウンドのど真ん中で糞を垂れ流している光景も、どうでもよかった。

子供の無邪気さが故の残酷さを嫌という程味わわされた気がした。そして、どれだけ自分たちが無名な存在なのかというオマケ付きで。




次の更新は…何時になるんだろう?
それは私自身にも分かんない。
せめて、せめて水着回を書くまでは頑張りたい…。

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