THE IDOLM@STER  二つの星   作:IMBEL

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起きて早々『新サクラ大戦』のPVを見て、興奮が冷めないIMBELです。
やはり好きな作品の最新作は不安もありつつ、ワクワクの方が勝ってしまう不思議さ。
PV見ながら声を上げたのは久しぶりな気がします。というかサクラ大戦が好きな平成生まれの20代…職場で誰も知らず、この会話が出来ない悲しさよ…。

今回は久しぶりとなる学校メインでのお話。XENOGLOSSIAのトリオの最後の一人も遂に…?


第33話 カワイイは戸惑い?

―――最低限のメイクは自分でも出来るようにする。スタイリストが現場にいない場合もあるので、曲やパフォーマンスに沿ったメイクは適切に。衣装が無いなどの最悪のケースに備え、最低でも動ける格好での会場入りが好ましく…。

(あ、インク切れちゃった…)

昼休み、教室の自分の席でこの間行った故郷村での仕事の反省点、課題などをノートに纏めていたが、書いている途中でインクが途切れ、カスカスの文字がノートへと刻まれてしまう。

ガシガシとノートの隅っこでペンを擦ってみるが結果は同じ。諦めてインクが切れた赤ペンを机の上に放り投げた。

しばらくはまだ持つと思っていたのだが、もうインクが空になってしまったのか…。空っぽになったボールペンの芯を覗き込みながら、思う。

ここ数か月、授業以外でもレッスンや自主練でペンを使用する機会が多い為、インクの使用量がえげつないことになっている。それだけ自分は書き込むことが多いという証拠でもあるのだが。

今回の仕事は色々な意味で反省点や課題が多すぎた。結果オーライで終わったから良し、という問題ではすまないようなことばかりであり、それを忘れないためにもこうやって記録していたのだが。

(ノートも残り枚数少ないし…購買部に行って、新しいペンとノート買ってくるか)

パラパラと残り数ページになってしまったノートを捲りながら思う。

昼休みはまだ時間あるし行って帰ってくるくらいは余裕あるし、と朱里は財布を取り出そうと机の側面にかけてある通学カバンに手をかけた瞬間だった。

「ねぇ、星井さんちょっといい?」

聞き慣れない相手の声を聞き、ピクッと朱里の手は止まった。

「…?」

下に向けていた視線を上にあげ、声が聞こえた隣の席の机まで動かす。ふわりとした癖っ毛に勝気そうな目と遠慮を知らなそうな声色、所謂肉食系カテゴリーに分類されそうな女子に、朱里はあっ、となった。

「えっと…空羽さん?」

「おっ、私の名前、知っててくれたんだ! まあ、名瀬のおまけみたいな覚え方かもしれないけど」

「まあ…私達、あまり話したことはないですしね」

「そーいえばそうだった! こうやって話すの今年になって初めてかも!」

あははと机の上で嬉しそうに話すのは、いつも名瀬と親しくしているクラスメイトの鈴木空羽だった。朱里と唯一親しいといってもいい名瀬の友達だった為、辛うじて朱里も覚えている。

「ほ、ほら星井さん困ってるじゃない。ごめんね、急に話しかけちゃったりして。予習かなにかしてたよね?」

「あ、私は別に…大したことやってないし、大丈夫だよ」

机の上に広げられていたノートを慌ててしまい、申し訳なさそうにしている名瀬に何でもないように振る舞う。自分のやっていることに後ろめたさや罪悪感などはないのだが、やはりいざこれをじろじろ見られるのはあまりいい気がしなかった。

「で、何か私に用ですか? と、いうか何かやっちゃいました?」

朱里は名瀬ならともかく、空羽がどうして自分に関わって来るのかが不思議だった。この人は一体何しに近づいて来たのだろうと怪訝そうな目で空羽を見つめた。友達の友達に絡まれる程、厄介なことはない。身に覚えのない言いがかりを言われるのかと身構えてしまう。

「あ、そうそう! ちょっと星井さんに聞きたいことがね」

「…空羽、あんた本当に聞く気? 私止めたからね…?」

「いーじゃん、減るもんじゃないし!」

空羽はこそっと朱里に近づき、ごにょごにょと耳打ちしてきた。

「…ねえ、星井さんに彼氏出来たって噂、本当なの?」

「はぁ!?」

「声大きい!」

思わず大声を出した朱里の口を、空羽の手が塞ぐ。もがもがと不明瞭な音を発する朱里に、空羽は妙に神妙そうな顔で聞いた。大声にクラスの内の何人かがこちら側を振り返ってきたが、すぐに興味を失ったのか元に戻っていった。

「ほら、星井さんって最近色気づいてきた感じがするじゃない。男がきっかけで変わったんじゃないかって、ラブレター貰ったからとかそんな噂、広まっているのよ」

「最近やけに女の子らしい印象があって、お姉さんから男を紹介されたとか…あっ! 私は星井さんがそんなふしだらなことする人だなんて思っていないけど!!」

口々に話す空羽と顔を赤くしながら名瀬に、誰にも話したことないのになんでこんな変なことが広まっているんだ…と朱里は頭が痛くなってきた。モゴモゴと動き、空羽の手の隙間から口を出して朱里は唸る。

「…どっから聞いたんですか? そんな話」

「おっ? その反応を見るにやっぱり本当? こーいうのはほら…自然と広まっちゃうものよ。だって私達、華の女子中学生よ?」

確かにクラスの中で誰それと誰それが付き合っているらしい、という話はよく聞く。やはり中学生ともなればそういう話に興味が湧いたり、聞き耳を立ててしまいがちな年代だ。

それがある故に、こーやって変な噂や根も葉もない話が飛び回るのだが…。

「でさ、真偽の方はどうなのよ?」

うりうりと迫る空羽にうっとおしく思いつつも、これ以上変な噂が飛び回るのが嫌だった為、正直に応える。

「……まぁ、ラブレターは貰いましたけど」

「うわーっ、まさかの真実!? まさかクラスメイトに先をこされるなんて…」

ショックを隠し切れず、オーバーリアクションをする空羽。

「で、内容は? その結果は?」

「名瀬さん、意外に食いつき良いですね…?」

興奮気味に近づいてくる名瀬に最初のストッパー役に徹していたあの姿はどこいった…と思いつつ、別に隠すようなことじゃないので別にいいかと正直に話し始める。あれはもう終わった話なのだから。

あれは宣材写真の撮影が終わった辺りの桜のシーズンも終わりを迎える頃の4月下旬。朱里はラブレターの一件にも決着をつけるべく、ラブレターの書き主を校舎裏へと呼びだした。

ラブレターの送り主は隣のクラスの男子生徒だった。運動部に所属してはいるが、特に目立つような活躍もしていない。成績も中の中…悪い言い方をすれば特徴のない男の子と云えばいいのか。朱里も話したことのないような生徒だった。

所謂、一種の罰ゲームじみた要素もあったのだろう。

近くの木陰には部活の仲間と思われる数人の男子生徒が面白そうな顔をして隠れているのを朱里は見逃さなかった。その男子生徒も乗り気ではないのが態度からも見て取れた。まあ、あの頃はおしゃれのおの字に目覚めたばかりで、それ以前の噂や容姿が酷すぎたということもあり、罰ゲームの対象になってしまうのも無理はなかったのだろう。

女としての魅力がゼロどころかマイナスに振り切っていたあの時代を思い出し、渋い顔をしてしまう。

「…で、何て言ったの?」

「私にはやりたいことが出来てそれに集中したいため、それと並行してお付き合いするわけにはいきませんってきっぱり断りました。それにお付き合いするのなら、もっとお互い親しい仲になってからにした方が良いと思います、って言って…それでおしまいです」

「うわ、もったいない!」

「でも、相手のことも知らないのにいきなり付き合うっていうのはハードル高いってもんじゃないって思うけど…」

そりゃそうだ。どんなバグが起きればこの状況でお付き合いしましょうなんて流れになるのだろうか。そもそも男と付き合うなんて今の自分では天地がひっくり返ってもあり得ない展開だ。たとえ向こうが惚れていようがいまいがキッパリと断っていたことだろう。

「ちなみにやりたいことって?」

「…まぁ、色々ですよ。おしゃれとかメイクとか。あの一件は色々と学ぶことが多かったですし」

確かにあのラブレターが下駄箱に入っていたことがきっかけで、自分が女であることを改めて意識された出来事であるため、一概に恨むことが出来ない事件でもあるのだが。

「まあ、向こうも気乗りしていない感じでしたし。性質の悪いドッキリに引っかかったものですよ、というか私にあんな物が来ること自体、おかしいんですって」

「そう? 星井さんは元が良いんだから、もっと自信持ちなよ。最近結構、可愛いって人気あるみたいだよ?」

「うん、春頃から何か変わったって皆で噂しているし。髪だって毎日整えてくるようになったし、制服の着こなしとか態度とか…その、お姉さんみたいだって」

「美希姉さんみたい…?」

まあ…あの一件で自分を見つめ直すきっかけの一つにはなったのは事実だ。女の自分を受け入れ始めて、おしゃれや身だしなみにも気を遣い始めて…それが周りにも気づかれているってことなのか。

「あーあー、あたしももっと出会いが欲しいなあ。あたし達の青春には男っけが足りないっていうのか」

婚期を逃したようなOLの言い方をする空羽に若干引きつつも朱里はあれ? と思った。確か2人にはクラスは違うが、よくつるんでいる男子がいたような気がするのだが。ついこの間の中間テスト間近の時期にノート見せてーとかでクラスに来ていたような…。

「…というか、2人にも仲が良い男子がいるじゃないですか。ほら、隣のクラスの」

「あー、楢馬(ならば)のこと? 駄目よあいつは。年がら年中海のことばっかり。色気なんか芽生えていないもの」

楢葉…そうだ、確かフルネームは大道楢馬(だいどうならば)だったか。

今こそクラスは違うが、去年同じクラスだったせいで名前だけはどこかで覚えていた。運動部には所属していないが、日焼けしてやけに身体つきが良く、クラスでは男子とつるんでバカ騒ぎをしている典型的な男子中学生、というのが朱里の印象だった。

「私たち昔からの知り合いだから分かるんだけど…楢葉君、趣味が釣りなのよ」

名瀬がそう言うと、

「そう、幼稚園からの幼馴染。親の影響で昔っから釣りばっかりやっている根っからの釣り馬鹿男子。昔からの腐れ縁だけど、あたしらが海でスイカ割りやっている間も一人で釣竿振り回してるくらいだもの」

と、空羽が呆れたような口調でそう言った。

「釣り、ですか」

彼のやけに黒い肌と身体の良さは釣りで養われたのか、と朱里は一人納得した。揺れる船の上で重い釣竿を上げ下げしていれば、身体も鍛え上げられるか。数年経てば、この間の故郷村のランニング兄ちゃんといい勝負ができるかもしれない。

「女よりも魚追いかけるのが趣味なのよ。あたし達のお父さん同士と釣り仲間で仲も良くてね。あいつは海釣り用の竿がどーだとか次は船に乗ってどこに行くだとか、あたし達の親もあいつの釣ってきた魚がデカかったの魚拓をやっただの……そんな話につき合わされるこっちの身にもなってほしいわよ」

ゲンナリする空羽に朱里はあはは…と愛想笑いするしか出来なかった。何というのか、ご愁傷様という感想しか出てこない。

「ま、まあそれだけ一つのことに熱中できるのが楢葉君の良い所だしね。もうちょっと勉強とかにも熱意を持ってほしいっていうのが」

「というか、あんな釣り馬鹿のことはもういいわよ。それよりもさ、今年の夏のテーマ決めない? 星井さんもアイデア出して!」

近くの席に腰を掛けた空羽がこちらに椅子を近づけて、ニコニコ顔で寄ってきた。

「テーマ…自由研究?」

朱里が小首を傾げながら尋ねると、空羽は真面目だなぁ、とぼやきながら身を乗り出してきた。

「違う違う! 今年の夏休みにやるべきことよ!! 夏と言えば男! スイカと花火に男よ! 水着着て、いい男を逆ナンパするのよ!」

「私はスイカと花火だけでいいよ。部活あるし、夏休みに合宿もあるし、そんなことしている暇なんて無いし。第一、私達に男なんてねぇ」

「薄っぺらい人生ねぇ名瀬。せっかくの中二の夏なのよ!?」

「薄っぺらくても味気なくてもいいわよ。大体去年の夏休みだってさ、空羽がそんなこと言って暴走したせいで、恥かいたじゃない。ナンパなんてしたことないのに無理して…」

「うわーっ! 言わないで去年のことは!!」

「大体まだ中学生の私達がそんなことするのが間違っているのよ。身体つきだって女って感じしないし…色気がないのよ」

「「色気…」」

ジロッとこっちを見るのはやめて貰えないだろうか。特に胸元を見るのは止めてくれ。異性だけでなく同性にそんな目線をされたら、どうすればいいのか分からなくなってしまう。

「私が加わった所で結果は変わりませんよ。というか、未成年で中学生の私達がナンパすること自体、男性には引かれる案件ではないでしょうか? 最近は草食系どころか絶食系と呼ばれる男性がいる世の中ですし、そもそもグイグイ押していく女性自体の需要が現代社会でどれほどの…」

言えば言う程、空羽の顔色が悪くなっているのを見て、流石にこれ以上はやめた方がよさそうだった。慌てて会話を打ち切る。

「ま、まあナンパは無理でも、夏休みの遊びくらいなら事前に連絡を入れてくれれば一緒に行けますよ。身なりとかに時間はかかってしまいますが」

「身なりと言えば…このブランドね、サマーシーズンに向けて新しい水着出したって…」

立ち直った空羽はどこからともかくファッション雑誌を取りだすと、ほらここと机に置いて指を指す。

「あ、これ知っています。結構有名なブランドじゃないですか。着ているアイドルも最近人気の『新幹少女』のひかりさんですし」

アイドル関連の情報を最近収集している朱里は、雑誌に載っているアイドルやブランド名に過敏に反応してしまう。

「おっ、星井さん結構イケる口!? じゃあこっちのブランドも中々…」

その後はチャイムが鳴るギリギリまで2人と話をしていた。

ファッションだの流行の音楽だの最近この男性アイドルグループに興味があるだの―――思春期の女の子が好きそうな話題で花を咲かせた。会話というよりは一方的に空羽が話すのを名瀬がフォローし、それを朱里が聞き手になる…というぎこちないものではあったが。

でも、そんなどこにでもあるような学校の昼休みの光景の一端に加わり、朱里はぎこちなく笑いながらも。

「ふふっ…」

この一時が純粋に楽しい自分に気付いた。思えば、クラスメイトとそんな会話をしたのは随分久しぶりだったのだ。

 

 

 

 

 

 

「あ、袋一緒でいいです」

カウンターへ小銭を置き、購入したものが収められている袋を店員から受け取る。ありがとうございましたというマニュアル対応の声を背に受けながら朱里はレジを離れた。

女の噂と話は長いもので、昼休みが終わった後もあーだこーだと話を続けられ、ようやく放課後になって朱里は解放され、逃げるように学校から飛び出した。楽しいは楽しいのだが、あの様子だと夜になるまで会話は続きそうな空気だったので、早めに抜け出せたのは幸いだった。

飛び出した後で、話に夢中で目的の物を買い忘れていたことを思い出し、真っ直ぐ家に帰る前に文具や本を取り扱っている近所の大型書店へと寄り道することにした。

ようやくお目当ての物を買えたのだが、朱里は別のことで頭を捻っていた。

―――可愛いって人気あるみたいよ、か。

空羽の言葉を胸の内で繰り返す。

可愛い。

その言葉に朱里は腕を組みながら、うーんと唸ってしまう。普段は寄り付かない辞書コーナーに立ち寄って、適当な辞書を手に持って意味を引いて確認してみる。

『可愛い。日本語の形容詞で、いとおしさ、趣き深さなど、何らかの意味で「愛すべし」と感じられる場合に用いられ―――』

「…私って、可愛い、のか?」

一歩間違えればナルシストじみた独り言をポツリと呟く。そもそも愛すべき、いとおしい、という言葉にピンとこないので、頭を捻ってしまう。この前共演した幸子だったら、自信満々に言っているのだろうが。

綺麗、という言葉には喜べるし、納得はできる。宣材写真で前面に押し出した『大人っぽい自分』がきちんと評価されている言葉だからだ。自分の個性を褒められているので素直に受け止められる。

でも可愛いっていうのは春香ややよい、伊織といった少女さが良い意味で抜けていない女の子に対しての褒め言葉のような気がして自分には合わない言葉なんじゃないのかなぁ…という気がしてならない。中身が元男という点も含めてそう言われるのは違和感がある。

(可愛いっていうのは…ああいう子に言うべき言葉なんじゃないのかなぁ?)

ちらり、と向かい側にある新刊コーナーであれこれ本を見ている一人の女の子に朱里はロックオンする。

青色のセミロングの髪を揺らしながら新刊コーナーにあるあらゆるジャンルの本を、目を輝かせながら見ている同年代そうな女の子。背は朱里よりも少し小さく、あいくるしさがある顔があって、何よりも大好きそうな本に触れ合えるこの時を楽しんでいる様子だった。

ああいう子に使うのがそもそも正しいのであって…。

「…おっ、最新号出ている」

ロックオンしながら、グルグル書店を回っている内に、アイドル雑誌関連のコーナーへと足を踏み入れていた。思わず、春香が愛読している雑誌の最新号の表紙を見て、声を出してしまう。

この書店はこういう本でも立ち読みができる為、朱里は気に入っている。最近は週刊誌でも容赦なくビニールでパックされている所が多いので、ありがたい。後で事務所で春香にでも借りてじっくり読むとして、目次やピックアップされているアイドル達を流し読みで眺めていく。

(…やっぱりこういう雑誌に載っているアイドルも、可愛いに当てはまるのは同じ子だよなぁ…)

パラパラとページを捲ってみるがやはりピンとこない。有名所やマイナー所も見てみたが、やっぱり女の子らしい女の子に使う形容詞の気がするのだが…。

―――これ以上深く考えると、頭が痛くなってくるから、もうこの事について考えるのはやめよう。

朱里は雑誌を元の場所に戻すと、頭を擦りながら、書店を出た。勉強や仕事以外で頭使ってどうするんだ、というツッコミを己に入れながらテクテクと歩いていく。

まあ空羽さんも、元が酷すぎたせいでそんなことを言ったのだろうなと朱里は一人納得する。所謂、不良が子犬を助けたらいい人っぽく見えるというあれだ。

空羽も名瀬もきっとお世辞で言ったのであって、本心で言ったのではないはず。

これはあれだ、今後、仕事をする上でもそういったお世辞にまともにかかっていてはいけないという教訓だな。真面目に受け取るだけでなく、時には受け流して聞くことも大事ってことなのだろう。

可愛いという言葉に踊らされ過ぎだ。普段言われ慣れていない言葉に不覚にも舞い上がってしまった。学校では成績以外で褒められることが皆無だったせいで過敏に反応してしまったのだろう。

(…腹減ったな。今日の晩ご飯は何だっけ?)

無駄に頭を使ったせいでお腹が減り、脳がエネルギーを欲しているような感覚がする。手っ取り早く糖分を摂取できる炭水化物でガツンときめたいなと思いながら、朱里は帰路に就くのだった。

―――ちなみに、朱里自身は全く気づいていないが、大人しく自己主張をあまりしない朱里が授業中や休み時間内にふと笑う光景は一部のクラスメイトに好評になっている。

今まで全く笑わないでいた朱里の最近見せるそんな一面にギャップを覚える生徒は少なくない。今日の教室での一幕も最初こそ見ていないものの、3人で話している所辺りから朱里たちに注目しているクラスメイトもいたくらいだ。

ここ数カ月で身だしなみや身に纏う雰囲気が女らしくなったことと中学生離れしたそのスタイルが生み出す「大人しい星井の妹にもそのような一面がある」「普段は静かなのに時折見せる可愛らしい大胆さ」という要素は、そういう隠れファンを増やしていく要因になっているのだが―――本人がそれに気付くのはしばらくしてからだった。




朱里、クラスメイトに可愛いと言われて戸惑うの巻。こういう声にまだ慣れない初心な様子を描いてみました。
何年ぶりになるラブレターの話題の回収。作者自身もすっかり忘れていました。
今回、書店でちょろっと描写した女の子…どこの風の戦士なのか!?(すっとぼけ)

今回会話の中だけですが登場した大道楢葉も「ゼノグラ」に登場したキャラです。
名瀬や空羽と同じでゼノグラでは成人していたキャラでしたが、この小説内では朱里の同年代という設定になっています。
海がこよなく好きな男で、なんと素潜りでカジキマグロを仕留める程の腕前。
あの作品は人間やめているキャラが多めですが、彼も軽く人間やめています。

次回は…誰がメインになるのかしら? 次回もお楽しみに!

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