世界の全部が好きな子の物語   作:まなぶおじさん

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アリス『最近、ボコ好きの人とミュージアムで会ったんだ』
ユッキー『良かったね!(^▽^)』
アリス『うん。名前、聞いておけばよかったなぁ』
モノウ『また会えるよ』
アリス『うん、そうだといいね……あ、そうだ、交際おめでとう(≧▽≦)』
ユッキー『改めて言われると恥ずかしいよお(´・_・`)』
アリス『今度は、おじさんおばさんに報告しなきゃね』
モノウ『やだなー』
ユッキー『あはは……でも、あの人たちにはすぐばれちゃいそうだけどね』
アリス『そうだね。あーあ、私も彼氏とか欲しいなあ』
ユッキー『アリスちゃんは可愛いから、モテるよ』
アリス『ありがとう』

間。

アリス『明日、だね』
ユッキー『うん』
アリス『なんというのか、その、どうしてこんなことになっちゃったんだろう』
ユッキー『うん……』
アリス『……ユッキーのこと、友達だと思ってる。ぬいぐるみ仲間だと思ってる』
ユッキー『私も、アリスちゃんのことは友達だと思ってるよ』
アリス『ありがとう。……えと、明日、どうしたらいいのかな』

間。

モノウ『いつものアリスさんでいいと思うよ』
アリス『え?』
ユッキー『アリスちゃんの戦車道、見せて欲しい』
アリス『ユッキー』
ユッキー『全力で戦って、それでもだめなら、私は納得して学園艦を降りるよ。あ、でも、後から泣いちゃったりするかも(笑)』
アリス『泣かないで』
モノウ『ユッキーの出した結果なら、俺は受け入れるよ』
アリス『ユッキー、モノウ……』
ユッキー『だからアリスちゃん。明日は全力で試合しよう! ぐっどらっく!』
アリス『……うん!』


愛してる

 しかし、不安なものは不安なのだ。

 

 先ほど、優季からメールが届いた。緊張してて眠れないから、話を聞いて欲しいと。

 もちろん、桃生は即決した。既に真夜中だったが、優季から呼び出されれば朝も昼も夜も関係ない――買い物袋を片手に、桃生は、退艦ついでに手に入れた仮設住宅からこっそり抜け出した。

 完全に悪い子の行動だったが、これも仕方がないことだ。

 世間体と、助けを求める女の子。どっちを選ぶかといえば、そりゃあ。

 

「ごめんなさい、こんな時間に呼び出してしまって……」

「大丈夫大丈夫、寝てただけだし」

 

 男の夢とは、好きな女の子を助け出す事だ。

 だから、夜の公園のベンチで二人きりになるのも仕方がないことなのだ。内心「凄いことするようになったなぁ」とか思ったが、そもそも優季に恋した時点で、桃生は随分変わり果てた。

 言動も、行動力も、恋に対する意識も――ぬいぐるみに関しては、何も変わってない。それでいいのだと思う。

 

「その……やっぱり、怖いんです。やっぱり眠れなくて……」

「わかるよ。何で、女の子に廃艦だの何だの背負わせるんだろうね」

 

 優季はしょんぼりとしたままで、けれど憎悪などはまるで感じられない。

 

「しかも、相手は……」

「島田さん、だもんね」

 

 「やだねえ」と言いかかって、桃生は口を止めた。

 戦車道とは、争いや戦闘の為に行われるものではない。対戦相手に警戒や対策はすれど、拒絶なんてあってはならないのだ。

 

「……けど、同じ戦車同士で戦うんだよね」

「う、うん」

「じゃあ、攻撃を当てさえすれば、島田さんは勝つかもしれないし負けるかもしれないわけだ」

 

 所々に設置された街灯が、桃生と優季をはっきり照らしている。もう暗いからこそ、優季の横顔をよく映し出していた。

 もう夏になって、虫の音が他人事のように響き渡る。どこか遠くで車が走り去り、静かに反響した。

 

「同じ戦車なんだから、勝機はあるよ」

「うん……けど、数の差が……」

 

 そう――

 戦車道に疎い自分でも、戦力差のやばさくらいは把握できる。試合の詳細を知った時は、「ハア?」と思ったものだ。

 

「そうなんだよね……」

 

 うんざりするように、桃生が両肩をすくめた。優季も、諦めるように長くため息をつく。

 

「だから、えっと、俺も力になれるように、さ」

 

 優季が、「え」と視線を向ける。買い物袋を優季に差し出し、開けてみてと目で促す。

 

「……! これって」

「うん。ウサギさんチームの、シンボルマークのぬいぐるみだよ」

 

 文化祭の時に渡しそびれた、世界で三番目に大切なものだ。

 優季は、買い物袋からウサギさんを取り出し、震える手でウサギさんと見つめあっている。

 

「優季には友達がいるから、余計かもしれないけれど……これを俺だと思って、受け取って欲しい」

 

 優季は、すぐには答えられなかった。

 いつまでも待とうと、桃生は思った。

 

「桃生君……」

 

 優季の目が濡れている。口元が、聖母のように緩んでいた。

 これを渡せたことを、本当に誇りに思う。文化祭の時、渡しそびれたことが正しかった。

 

「明日ね、」

 

 優季が、両目をつむる。

 

「絶対に勝つよッ!」

 

 ウサギさんを、ぎゅっと抱きしめる。

 

 ウサギさんの攻撃的な目つきが、桃生の視線と一致する。「まかせとけ」と言われた気がした。

 

―――

 

 選手宣誓が開始され、否応なく優季と愛里寿の目が合う。

 一瞬、気まずくなって互いに目を逸らす。しかし、先日は「全力でかかってきて」とタンカを切り、愛里寿もそれを了承したのだ。

 だから、優季と愛里寿の視線が再び重なる。戦車道を違わぬよう言葉を交わしあい、頭を下げ、振り向かぬように戦車へ乗り込んでいく。

 

 緊張していたはずなのに、狭い戦車の中へ入ると、いつものように心が静まっていった。戦車は、今も「戦友」でいてくれるらしい。

 優季が深呼吸する。

 

「行くよ」

 

 澤梓が命じる。

 

「うん」

 

 大野あやが応える。

 

「やるぞ」

 

 阪口桂里奈が鼓舞する。

 

「勝つ」

 

 山郷あゆみが決意する。

 

「――」

 

 丸山沙希が頷く。

 

「……ッ」

 

 優季が息を吸う。横に置いたぬいぐるみ「二体」を見つめ、すぐに正面を据える。

 叫ぶ――

 

「パンツァー・フォーッ!」

 

 全てが始まる。

 

―――

 

 忌々しいほどの晴天の下で、桃生は特設モニターをじっくり凝視していた。

 大学選抜チームとの試合が始まり、もう数十分が経過した。

 最初は絶望的だった戦力差も、他校の協力で何とかなりすぎた。大学選抜チームの戦車も、巨大兵器も、時間と共に消耗していく。

 これだけなら良い話なのだが、愛里寿率いる大学選抜チームも十分強い。大洗側も容赦なく数が減っていき、いつの間にか一ケタ台だ。

 

 また大洗側の戦車が吹っ飛ぶ、何とも言えずに息をつく。

 またしても大洗側の戦車が煙を吐いた。手と手を合わせる。

 

 神よ、大洗に勝利を与えてください――訂正する。優季に勝利を授けてください。

 屁理屈、になっちゃいますけど。

 神が人類に干渉しないのであれば、悪魔でも構いません。代償は俺の――何にしよう。

 

 モニター画面が、ウサギさんチームの戦車を捉える。モニターの右下に、解説とともにウサギのシンボルマークが映し出された。

 ――その獰猛な目つきは、桃生の両目を射抜く。

 

 てめえ、悪魔に魂を売るのか。人と人との戦車道に、人外の力を持ち出すのか。

 優季は、そんなバカタレを好きになってしまったのか。優季と愛里寿は、堂々と戦うことを誓ったんだぞ。

 

 手と手を離す。

 桃生の目で、男の目つきで、桃生は試合を見守る。 

 

―――

 

「大洗チーム、一両大破! 大洗チームの全車両、残り、一!」

 

 聞こえなかったが、西住みほから「後はお願いします」と託された気がした。

 大学選抜チームの命運は愛里寿にのしかかり、大洗学園艦の運命はウサギさんチームに背負わされた。

 車内でどよめきが走る、私達なんかが勝てるはずないと嘆く。逃げるようにして愛里寿から退くが、愛里寿は絶対的な決意を持ってして、遊園地の中でウサギさんチームを追跡する。

 愛里寿の強さは、十二の目に嫌という程焼き付いている。しかし、それでも、ウサギさんチームは「実力」でここまで生き残った。

 梓が荒く呼吸する、桂利奈が唸る、あやが焦る、あゆみが声を上げる、沙希は何も答えない。

 優季は、少しだけ泣きそうになった。

 けれど、だからこそ思い出す。

 大洗学園艦で、友達と出会えた事。大洗学園艦で、出会いを果たした事。それが巡って、愛里寿とぬいぐるみ友達になれた事――

 大洗学園艦は、優季に新しいものをくれた。大洗学園艦という世界は、優季に愛をくれた。その愛の世界を、滅ぼされてたまるか。

 

 優季は、五人の友達の背中を軽く叩く。視線が一斉に優季へ集中し、優季はいつものように、いつもより少し強く笑う。

 

「やろう」

 

 ウサギのシンボルマークのように、包丁を二本持つジェスチャーをする。

 

隊長機(フラッグ)キラーに、なろう」

 

 殲滅戦だけどね。

 五人は――たまらなくなって、ウサギさんのように獰猛な笑みを浮かばせた。

 各自は持ち場につき、無言で戦いの意志を示す。

 

 

 ぬいぐるみを二体抱き、優季がハッチをぶち開ける。愛里寿と目が合い、一瞬にして強く結ばれた。

 そして――様々なコースを巡り、いつしか戦車と戦車が真正面から向き合う。僅かに優季の戦車の主砲が定まらず、優季が「だめかなぁ」と諦め、

 

 戦車と戦車の間に、遊園地のものであろう、熊の乗り物がのんびりと歩んでいた。

 

 優季は狼狽した、愛里寿も同じだと思う。主砲の照準が愛里寿の戦車へ向けられ、決めるは西部劇よろしく早撃ち勝負だ。

 愛里寿は両肩で呼吸する、優季はぬいぐるみをぎゅっと抱く。

 愛里寿は、自分と同じくらい可愛いものが好きだろう。愛里寿は、自分以上に戦車道の事が好きだろう。自分も愛里寿も、ボコのファンであり続けるだろう。

 愛里寿は自分のことを好きでいてくれて、優季も愛里寿のことが好きだ。ああ、ちょっと負けてるなあ。

 確かに、戦車道に対する熱意は愛里寿より下かもしれない。けれど自分は、友達と乗るこの戦車の事が好きだ。かつて恋人と言い張ったぐらい、この戦車のことが大好きだ。

 

 熊の乗り物が、優季と愛里寿の間を通り抜けようとしていく。

 

 撃たない。優季は我慢する。

 今の私には、梓とあやとあゆみと桂利奈と紗希がいる。桃生君がいる。桃生君がくれたぬいぐるみが力を与えてくれる。そして、愛里寿が作ってくれた――

 

 熊の乗り物が、「攻撃範囲」を突破し、

 

「撃ってッ!!」

 

 

 

 

 シュポンッ

 

 

 

 熊の乗り物が、何事も無く通り過ぎていく。どこも傷などついていない、可愛らしい熊の乗り物が通り過ぎていく。

 

「大学選抜チーム、一両大破! 残存、無し! 大洗チームの勝利ですッ!」

 

 審判が何と言ったかを理解するのに、数秒はかかった。

 ああ、そうか、勝ったんだ。勝った。

 可愛いものを守りたいという気持ちも、勝ったんだ。

 

「……勝っちゃったね……」

 

 梓が、心底疲れたように呟く。優季が、「うん」と頷く。

 

「……終わったんだ……」

 

 あやが、脱力めいた声で言う。優季が、「うん」と頷く。

 

「……すげーなあ……」

 

 桂利奈が、第三者っぽく言う。優季が、「うん」と頷く。

 

「……長かったね……」

 

 あゆみが、すべてをまとめた。優季が、「うん」と頷く。

 

「……勝ち」

 

 紗希が、現実をそのまま言う。優季が、「うん」と頷く。

 

 愛里寿の戦車からは、黒煙が上っている。白旗もなびいている。

 優季は、戦車を一瞥する――白旗らしいものは上がっていない。

 

 愛里寿は、じっと優季を見つめていた。先ほどまでの攻撃的な視線は消えて、今はただ、何かを求めるように優季を見据えている。

 優季は、ぬいぐるみ二体を愛おしそうに抱いた。優季に力を与えてくれた、桃生と愛里寿のぬいぐるみを。

 

 ――あのね、愛里寿ちゃん。

 私はね、愛里寿ちゃんのぬいぐるみ、とっても好きだよ――

 

―――

 

 試合が終了し、大洗チームと大学選抜チームが一礼する。

 まだ実感が沸かないが、とりあえず、大洗学園艦は明日も海に浮いていられるらしい。

 強い相手に勝てて、確かに嬉しいが――今度は、純粋に勝負したいなあと優季は思った。

 

「あの、このボコのぬいぐるみ、あげるっ」

 

 どうやら、新しいボコ仲間とはみほのことだったらしい。意外だなあと思うと同時に、今度、ボコの話をしてみようかなと考えた。

 さて、

 帰ろう――優季が振り向き、

 

「待って!」

 

 高らかに、愛里寿の声が響く。一体誰に向けられたのか、背に視線を受けながら優季は振り向いた。

 

「優季……」

 

 いつもの恥じらい顔で、瞳を濡らして。けれども、間違いなく優季を見つめていて。

 

「あの、その……」

「うん」

 

 試合直後だからか、次の言葉が予想出来ないからか、優季は無表情のままだ。

 けれど愛里寿は恐れずに、その瞳に優季の姿を映していた。

 

「試合中の優季、凄かった。とても、かっこよかった」

「それは愛里寿ちゃんも同じだよ」

「――優季」

 

 少しずつだけれど、確実に、愛里寿は優季へ近づいていく。

 

「えっと、次は、絶対に負けないよ」

「うん。私もがんばるよ」

 

 くすりと、笑えたと思う。

 

「だから、その、これからも――」

「うん」

「これからも、私と友達でいて」

「うんっ」

 

 笑えたと思う。

 

「あと、その……」

「うん」

 

 愛里寿が、優季の胸元に指をさす。

 

「私の作ったぬいぐるみ……良かったら、その、返してほしいっ」

「――うんっ!」

 

 笑った。

 

 愛里寿が作ったボコのぬいぐるみは、本当の持ち主の元へ帰っていった。

 ――またね。

 

―――

 

 撤収作業も終了し、後は懐かしの大洗学園艦へ戻るだけだ。あれだけいた他校生も、いつの間にか解散して見る影もない。

 なんだか、らしいなあと、優季は思った。

 ――見上げる。

 一生続くと思っていたこの一日も、いつの間にか夕暮れ時に差し掛かっている。カラスの鳴き声が遠くから聞こえてきて、ますます実感した。

 本当にあっという間だった気がする。大洗学園艦が廃艦寸前だったという事実が、それを自分達で止めたという現実が、未だに嘘のよう。

 たぶん、明日になったら質問責めなんだろうなあ――優季は、おかしくなって苦笑する。

 

「じゃ、そろそろ行こう?」

「そだね――あ、優季はそこにいて。私たちは退散しまーす」

 

 あゆみが、おちょくり声でそんなことを言う。優季が「へ?」と声を出せば、紗希が、真正面に指を差した。

 一体なんだろうと振り返ってみれば――

 

「あ、」

 

 自分に力を貸してくれた人が、たった数メートル先に居る。

 自分の事を一番愛してくれる男が、すぐそばにいる。

 

「おしあわせにー」

 

 あやが、おどけるように走り去る。優季は、内心で「もうっ」と毒づきつつ、

 

「……桃生君!」

 

 ウサギのぬいぐるみを抱いたままで、優季は桃生へ駆け寄った。たまらず飛び込み、桃生はよろけながらも優季を受け止めた。

 

「優季、優季……! もう、もう、大好きだよ!」

 

 そのまま、抱きしめてくれた。

 このまま、抱きしめてくれた。

 

「桃生君……私は、私も……ッ」

「うん……」

 

 すっと、体と体が離れる。

 次にすることなんて、もう決まっていた。これしかなかった。

 優季と桃生は――

 

―――

 

 その後は、特にセンセーショナルな出来事が起こることもなく、桃生と優季の日常は続いていった。文部省は悪魔に気に入られた。

 普通に高校生活を満喫して、優季とデートを重ね、愛里寿と優季の友達から「どうだったー?」とからかわれるのがお決まりだ。

 そんな風にして、いつの間にか高校三年を通り過ぎていた。そうこうしているうちに、背も伸びきった。

 ――大人になってちょっと経ってから、一回だけデカいことを言った。

 

「俺と、結婚してくださいッ!」

「――喜んで」

 

 

 それから数年が経過しても、桃生と優季はいつものように公民館へお邪魔する。二階まで上がり、慣れた手つきでドアを開ければ、おじさんとおばさんと沢山のぬいぐるみが迎えてくれるのだ。

 

「やあ、桃生君、優季ちゃん。会えて嬉しいよ」

「いやあ、どうもどうも」

 

 椅子に腰かけ、手土産である学園艦ぬいぐるみをテーブルの上に置く。おじさんとおばさんが「おおっ」と注目する。

 

「上達したね……もう、教えることはなにもないよ」

「そんなことないですよー」

「いやいや、桃生君はぬいぐるみ道を極めたよ」

 

 かつて、学園艦ぬいぐるみを披露したおじさんが、両腕を組んでうんうん頷いていた。

 

「あ、私も作ってきましたぁ」

 

 優季が、テーブルの上に戦車のぬいぐるみを置く。ウサギさんマークが縫い付けられた、「かつて」の愛車だ。

 

「おお、優季ちゃん……戦車道は詳しくないけどね、これは知ってるよ。いやあ、上手いねえ」

 

 優季が、恥ずかしそうに「えへへ」と笑う。

 

「優季ちゃんの活躍は、全部録画してあるわよぉ。凄いわねえ、プロになるなんて」

 

 優季の表情が真っ赤になる。おじさん達も「優季ちゃんが出る試合は、かかさず見てるぜ!」とアピールするのだった。

 ――優季の友達は、自分達の意志で、戦車道とは違う道を歩んだ。けれど優季はプロになると誓い、こうして実現させたのだ。

 なぜなら優季は、戦車道のことが好きだから。

 今も、装填手として頑張っている。

 

「けど、今は、ね?」

 

 おばさんがおじさん達に苦笑しつつ、優季のお腹を柔らかく見つめる。

 

「ええ。今はお休み中です」

 

 優しく微笑み、愛おしそうにお腹を撫でる。それが、今の優季の全てだった。

 

「今度、子供服作らなきゃ」

「おっ、本職が作るってんなら不安はないね」

 

 自分も、自分らしく夢を叶えたつもりだ。それは、優季がいなければきっと成しえなかったと思う。

 

「……なんだかなぁ」

 

 桃生が、学園艦ぬいぐるみを指先でいじりながら、

 

「……なんだか、全部叶えちゃった気がするね。ぬいぐるみも、夢も、何もかも」

「そうですねぇ。熱帯魚も、最近になって飼い始めて」

「そうそう」

 

 大人たちが、「へえー」と感心の目を向ける。可愛いもの好きが集まるサークルだから、熱帯魚にも興味津々だ。

 

「ペットねえ……私には自信がないわぁ」

「大丈夫、初心者向けもありますから」

「そうですよぉ。おばさんなら飼えますっ」

 

 優季が、「うんっ」と力強く頷いた。おばさんは、「ありがとう」と微笑んだ。

 

「……優季ちゃん」

 

 おじさん特有の、安心出来る笑み。

 

「とても、幸せそうだね」

「――はいっ!」

 

 優季の、みんなを幸せにする笑顔がそこにある。

 これからも俺は、この手で、この愛で、優季を守ろう。世界の全部が好きな、この子のことを。

 

 出入り口から、ノック音がする。おばさんが「はーい」と声をかければ、ドアが静かに開き、

 

「こんにちは、皆さん。今日は、よろしくお願いします」

 

 優季と同じく、戦車道のプロリーグ選手として活躍中の女性――島田愛里寿が、このサークルの仲間入りをした。

 おじさんとおばさんが、「いらっしゃい! 愛里寿ちゃん!」と歓迎する。

 

「愛里寿ちゃん、お久しぶり」

「うん。今日はよろしくね、優季」

 

 自作のボコのぬいぐるみをテーブルの上に置き、大人たちが「これは!」とボコのぬいぐるみを注目する。桃生も優季も、「おおっ」と声を上げてまじまじと観察し始める。

 愛里寿は小さく笑いながら、「見てください」と優しく呟くのだ。

 

 ――今の愛里寿は、自作のぬいぐるみを誰かにあげたりはしなくなった。それが、とても嬉しい。

 




これで、世界の全部が好きな子の物語は終了です。
全五話でしたが、長かった気がします。完結させた瞬間、テンションが上がってメタルを聴いていました。エアギターもしました。

宇津木優季の物語は、これにて「完結」です。可愛いのに何でだろう……と思ったので、こうして創作してみました。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

活動報告にも書かせていただきましたが、このSSはもちろん、「ここはこうした方が良い」といった指摘や、「ここが弱点だと思う」といったご意見は、いつでも大歓迎です。お待ちしています。
最近は恋愛小説を読んで、恋愛の「過程」を勉強中です。

次はアンチョビかダージリンの恋愛小説を書こうと考えています。
次もメタルな恋愛を書けるように、頑張ります。
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