真剣で格闘士(グラップラー)に恋しなさいッッ! 作:バランスのいい山本
『川神市』
関東地方の南に位置する政令指定都市
他の政令指定都市に比べ最も面積が小さいのにも関わらず人口は全国第9位
東京との近さからここ数十年で一気に近代化し、若者の街とまで言われるようになった
その証拠に駅前周辺では昼夜問わず人々が多く、小さいながらも立派な大都市として全国に名乗りを上げた
そんな川神市で今宵、不思議な現象を多くの人が目撃する
場所は川神駅の構内
東京から各駅停車の電車が到着した直後だった
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
「・・・・・・・・ん?」
「・・・な、何この音?」
それは日常生活ではあまりにも聞き慣れない音・・いや振動というべきか
小さく、かつかなり早いテンポで鳴り響く謎の地鳴り。それは電車が通過した時のものとは異なり、第一電車は停車したばかりである
1人、2人と気付き始め最後にはその場にいた通行人全員が足を止め互いに顔を見合わせてしまっていた
しかし、その原因を知る者はこの場にいなかった。そう・・・・・その時までは
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!
「オワッ」
「キャアァァ」
「ひィィッ」
最初に気付いたのは駅構内の排水溝近くにいた人である
黒い物体が狭い排水溝から突如として溢れ出し、あっという間に床を黒く染め上げてしまった
ネズミだ。何百、何千ものネズミが突然大量発生し排水溝から一斉に現れたのだ
人々は理解した。先ほどの地鳴りはコイツ等の足音だったのだと
ネズミ達は決して立ち止まることなく構内を走り抜け、出口を通過し川神の夜へと消えていった
その時間、最初のネズミが出てきてからわずか1分の出来事である
「・・・・・・」
静かだった。構内のアナウンスは声色一つ変えることなく、いつも通りに流れている。だが、あまりの衝撃に誰1人として声が出せず、また歩き出せずにいた
今のは一体なんだったのか?
どれだけの数のネズミがいただろうか?
なぜ、あのネズミ達は地下から出てきたのだろうか?
あのネズミ達は一体どこへ行ったのだろうか?
いや、そもそもこれは現実なのか?夢なのか?
様々な疑問が頭をよぎるが、またしてもどれ1つとして答えがでなかった
彼が現れたのは、そんな時だった
それはまたしても不思議な光景であった
改札口から出てきたのは、1人の若い青年である
身長は170後半。おそらく学生だろうか服装は市内にある川神学園の制服だ
先程、ここで起こった出来事を知らないごく普通の青年はスポーツバックを肩に掛け、何食わぬ顔で歩いているだけである
なのにその場にいた者達は老若男女問わず、一様に視線を彼に向けていた
ただ歩いているだけなのに・・・・・・
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例えば、広大なサバンナでまだ幼いインパラが一頭で行動していたとする
そんな彼が不運にも出くわしたのは・・・・若きチーター
最高速度時速110キロ
単独で行うにも関わらず、狩りの成功率はじつに5割!
サバンナにおける地上最速の肉食獣である
さァ、逃げるんだインパラ君!
お得意のジグザグ走行でこの窮地を脱するんだッッ
だが・・・・インパラは
我が身に起こった悲運、絶望的状況に全身がすくみ一歩も動けなくなるのだ
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今、
一見、普通の高校生に見える青年の持つ一般人とは比較にならない・・・・桁違いな何か
戦闘力?
精神力?
身体能力?
存在感?
あるいはそれら全て?
見ず知らずの青年に人々は皆、動きを奪われていた
名も知らない・・・・今、初めて出逢う通り過ぎただけの青年
青年に関する情報を1つも持たないまま、知識よりも先に60兆の細胞が即座に反応した。それと同時にそこにいる誰もが確信した
(この子だ!!!)
地震や津波など大きな自然災害の前触れに家のネズミが逃げ出すことがあるという。まさか、彼等が逃げ出した原因って・・・・・
(この子なら納得だ・・・!)
皆の答えが合致した頃、青年はすでに川神の闇夜に消えていった
翌日の4月23日、朝刊の新聞は『川神駅構内にネズミが大量発生』と小さく報道した。だが、その直後に同じ場所を通った1人の青年がその原因であった事はその新聞記者達は知らない