真剣で格闘士(グラップラー)に恋しなさいッッ! 作:バランスのいい山本
ゆっくりではありますが、再開させていただきますッ
なお、スマホからの投稿なので見づらい人もいると思いますがご了承下さいッ
門下生が見守る中、中央に引かれた2本の開始線に立つ2人の男
鉄 琢磨と加藤清澄の模範試合が行われようとしていた
神心会では今回のように他の流派の選手と手合わせをする事自体は大して珍しくない。実際、神心会が主催で開かれる大会では空手家だけでなくムエタイやテコンドー、日本拳法の選手達が出場した事が過去に何度もあり、その度に神心会は彼等をことごとく打ち破ってきた
それは加藤にしてみても、同じことが言える
愚地独歩の強さに憧れて神心会に入門。長く、苛酷な稽古に堪え、着実に実力を身につけていった彼も今では神心会を代表する空手家へと成長を遂げた
ここ数年は更なる強さを求め本部を離れ、日本各地を転戦
あらゆる格闘技との戦いで己の空手に磨きをかけ続ける日々
そんな彼の耳に『地下闘技場』に君臨する最年少格闘王者の噂が入ってくるのは、もはや必然であったと言えよう
「フ……フフッ」
今、『狂犬』加藤は歓喜していた
あっという間に最年少チャンプとの一戦を実現させてしまった自身の幸運
そしておそらくはーーーー否
間違いなく彼から最強の称号を手に入れるであろう自分に
だが、加藤はこの後思い知らされることになる
独歩の言わんとしていた事の本当の意味を……
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”開始直後からだったよ……悪い予感がしたんだ”
川神支部に所属している鈴木健太(21)氏
後日、彼は友人との飲みの席でこう述べている
無造作に降ろされた両腕
肩幅程度に広げられた両脚
普通ならどう見たって隙だらけだろ?
でもな、違うんだよなこれが
ホラ、俺らみたいな選手はさ
ここで蹴りを当てて怯んだところに拳を……って
多少頭の中でぼんやりとシュミレーションすると思うんだよ
そりゃ何も考えずに突っ込んでいく馬鹿は
けどよ、あの琢磨とかいうヤツは違ったんだ
何がって………出来ないんだよ。イメージが
どこからどう攻めようと模索しても
アイツの身体に当てるイメージそのものがッッ
多分、他の連中も同じ事を思ってたと思うぜ
え、加藤センパイ?
あの人も出られなかったよ……前に
琢磨?
動かなかったな……そう、一歩もだ
加藤センパイ困っただろうな
後輩だけじゃなく館長も見てるんだぜ?
当然、こっちから仕掛けるしかないでしょう
「チェイやッッッ」
だいたい1分半位かな
加藤センパイが立てた戦略
……いや、流石だったよ
【後廻し蹴り】
ありゃ完全に一撃で決めにいってたね
素人じゃとてもじゃないが避けられないからな
俺も出来るならそうしてた筈さ
「ヘッ……」
まぁ………その通りなんだがな
止めない俺達も悪かったと思うぜ
けど、そもそも売るべきじゃなかったんだよ
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「随分とエゲツねェじゃないか……琢磨」
加藤との試合後、川神支部のビル内にある応接室に呼び出した琢磨に対し、独歩の告げた第一声がそれだった
「エゲツないって……独歩さんもあぁなる事ぐらいだいたい予想はついたでしょう?」
「そうじゃねェ……問題はそこじゃねェ。今更、加藤相手に腕を振るうレベルじゃないハズだろオマエさんは。タチが悪ィにもほどがあるだろよ」
繰り出した後廻し蹴りをスレスレで交わしながら放った琢磨のカウンター気味の拳は顔面を的確に捉え、その勢いのまま床に叩きつけられた加藤。試合はそのまま決着となり、加藤は担架で医務室へと直行した
「眼の前にいる相手の戦力を瞬時に見抜く才能ーーーーあの時の加藤さんにはそれがなかった。だから身をもって教えてあげたのさ……それは時として力の強さ以上に重要な事ですから」
違いますか?と尋ねた琢磨の言葉に独歩が頭を掻く
「間違っちゃあいねェな………『驕れる神心会久しからずや』ってか」
やれやれと肩を落としながら独歩は道着のまま机に腰掛ける
「まァいずれにしても、加藤の一件だけでここに用があった訳じゃあるめェ……本当の目的は俺だろ?」
「………何でもお見通しだもんな〜独歩さんは」
そう言いながら、琢磨も近くのソファーに座る
「長期間、第一線を退いていた貴方が現役復帰……忠勝から聞きました。ホント、お元気そうで何よりです」
「ったくよォ……お前さんも忠勝も俺を年寄り扱いし過ぎだ。まだまだ自分のケツは自分で拭くってェのによ」
「独歩さんなら確かに拭くでしょうね」
頭の中で想像してしまった琢磨は思わず苦笑してしまう
「けど、復帰して早々
「オウよ、こちとら目ン玉1つ奪われちまってんだ……このまま引き下がれるかよ」
「大丈夫なんですか? 流石に数年のブランクは大きいと思いますし、一応言っときますけど……既にあの人、師範代を剥奪されて川神院にいませんよ?」
1度闘いが始まれば誰にも止める事が出来ず、下手をすればかなり危険な命のやり取りになる……と独歩ならその意味を汲み取るだろうと琢磨はあえて自ら口にしなかった
「んなこたァ知ってるぜとっくに。いいじゃねぇか……それが本来の実戦ってもんだろ。オイラの事も心配いらねェ」
なんならよォ……と独歩が腰掛けながら琢磨に向けて人差し指をクイクイっと動かす
「せっかく会いに来てくれたんだ……オイラとチョットだけ手合わせしてみるか?」
さっきまでの雰囲気とは一変し、独歩がカエルを睨み付けるような蛇の視線で琢磨を真っ直ぐ睨み付ける。琢磨は知っている。愚地独歩という男は決して冗談半分で勝負を吹っ掛けるような人ではないという事を……
「よく考えたらよォ、おかしな事だぜ。知り合ってからけっこう経ってるのに……お互い最強を目指す者同士なのに……1度も立ち合った事がない」
「勝てる相手としか喧嘩はしない……これも武道家にとっては大切なことです。昔の自分は正にそれですよ」
「なら、今はどうでェ? な?チョットだけ……」
琢磨も独歩から視線を逸らさなかった。いや、逸らせなかった
その瞬間、間違いなく独歩の蹴りが飛んでくるだろう
突然の
「まったく……独歩さん、あんたズルいよ。滅多に使わないであろう応接室にわざわざ呼び出して……今の俺の立場を知っていながらそんな事を言うなんて……」
「あ〜悪ィ悪ィ、困らせちまったな。ここでオイラに手ェ出したら
ーーーー断れるハズないでしょうッッ
刹那、背中から腕にかけての筋肉の駆動、加速を終えた琢磨の右の打拳が独歩の顔目掛けて疾る。加藤を屠ったあの拳よりも何倍も早く、鋭いまさに渾身の一撃
さぁ、この拳ーーーーー
どう捌く愚地独歩ッッ
!!!
動かない⁉︎
俺の拳が真ッ直ぐ入ッッ……
空を切ーーー
なッ‼︎?
伝わるはずの手応えを感じられない琢磨の視界に独歩の顔が接近する
顔近ッ……ていうか
スカされたッッ
まずい、反撃がーーー来るッ
後ろへ……跳ッ
ーーージャリ
直後、振り上げた独歩の掌底が琢磨の左頬を僅かに削り取った
クッ、右の掌底か……
頬の薄皮一枚分ッ
鼻や耳であれば
確実に削ぎ落とされる‼︎
何はともあれ
間合いを開けーーー
ッッ!
後ろへ下がった琢磨だったが、独歩との距離が一向に離れない
詰められたッッ
間合い……
完全に射程内ーーー
追撃の前蹴りッッ
狙いは水月ッッ
回避をッッ
右か⁉︎ 左か⁉︎
だ、駄目だ……
どっちに動いても
躱しきれんッッ
「ガハッ……‼︎」
両腕で腹をガードした琢磨の全身に独歩の丸太のような右足の衝撃が伝わる
すッ 凄いッッ
何という重たい一撃……
こ、これ以上は……
体勢をッ 右へッ
ッ⁉︎
先読み⁉︎
いや、ほぼ同時かーーー
なんて反応速度ッ
ここは1度、脚へ一撃を当てーー
琢磨が左足のローで独歩の動きを封じに掛かるが……
と、跳んだ⁉︎
100キロはあるであろうこの体格で……
こうも軽々とッッ
いや、これは逆に
如何なる武闘家でも、着地までは無防備
右のハイキック こめかみへッッ
ッ‼︎
腕を頭に
防御の構え
また読まれたかッッ
攻撃を中断し、独歩が着地する間に距離をとる
ーーーーーなんという怪物ッッ
恐るべし……愚地独歩ッッ
時間にしてみれば、ほんの数十秒に満たない間の攻防
琢磨の頬から血が顎へと伝わる
「ひでェじゃねえか琢磨……数年のブランクがあるオイラに不意打ちかよ?」
「武道家は日常臨戦態勢にあるべき……俺が昔から世話になってる人が掲げる信念だ。それに相手はかの『人喰い愚地』ーーーそんな貴方に不意打ちを仕掛ける事に、一切の罪悪感無しッッ」
「武の本質は鮮やかに敵を仕留めることじゃねェ、たとえみっともなくとも勝つこと……ナルホドねェ、上出来だ」
そう言うと独歩は唇を歪めて笑みの形を作る
会話を続けるものの、琢磨との闘いを収める気がないのは、彼の戦意と闘気を見れば一目瞭然だった
「まァ何れにしろ、このまま引き下がるワケにゃいかねぇな………」
「予定にはなかったんだけどなぁ。これはこれは………願ってもないッ」
2人の目に好戦的な光が宿り、互いに拳を構える
ドンッ‼︎ドンッ‼︎
そんな時、誰かが部屋のドアをノックする
「俺だ、入るぞ!」
ドアを開けて入ってきたのは忠勝だった
手には丼物の器と湯呑みを載せたお盆を持っている
「なんでェ忠勝。どうしたってんだ?」
「親父ィ、客人に茶ぐらい出してやれよ!」
「……あー、わざわざ用意してくれたのか。すまねェな」
「勘違いすんなよ、神心会がロクに客をもてなす事が出来ねェなんて思われるのが面倒なだけだ」
相変わらず安定のツンデレぶりを発揮する忠勝である
「あとはホラ、ちょうど昼飯時だ。蕎麦茹でたから食っとけ」
「おぉ! 蕎麦まで準備してくれたのか? サンキューなタツ!」
「お袋が送ってきてくれたが一人じゃ食い切れねェだけだ。別にお前の為に用意したつもりはねェ」
「いやー独歩さん、よく出来た息子さんですねぇ」
「だろォ? オイラと夏恵の自慢の息子よ」
「ハッ、何言ってんだ気色悪ィ……さっさと蕎麦が伸びないうちに食っちまえよ。もし、食い物を粗末にするような真似したら……テメーら2人まとめてブッ倒すからな!」
しかめっ面のまま、忠勝はそそくさと部屋から出て行った
「……………」
「……………」
机に置かれた2人前の蕎麦を見つめる独歩と琢磨
琢磨のキズは既にアドレナリンによって止血されている
しかし、忠勝の勢いに圧倒されて闘いを再開する気になれない
「……蕎麦、伸びちゃいますね」
「その前に冷めちまうぜ……冷める前に決着もしそうにねェな」
「蕎麦………食べますか」
「だな。不本意だが、こればかりは流石に…な」
独歩もどうやら同じ考えだったようだ
2人向かい合って座り、熱々の蕎麦を頂く事にする
「しかし、認めざる負えないですね。 神の拳……ここに復活といったところですか」
「完全とまでにはいかねェがな……ベストまでは7割ってところか」
ーーーーーハッタリじゃない……この人が言うのなら
ズズッ………ッ‼︎
「うンめェ〜〜〜ッ この蕎麦、メチャクチャ美味しいですね⁉︎」
「当たりめぇだ。誰が打った蕎麦だと思ってやがる」
こうして暫くの間、室内には男2人の蕎麦をすする音だけが響いていた