真剣で格闘士(グラップラー)に恋しなさいッッ!   作:バランスのいい山本

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謹賀新年ッッ
今年も頑張って更新していこうと思います‼︎

そしてようやく新しいバキキャラが登場ッ
……といってもホンの少しですけど(泣)

さらに新たなまじこいキャラも何気に登場します‼︎

では、今年もよろしくお願いしますッ




〜格闘士のとある休日〜

太陽の光がゆっくりと東の空を青く照らし

どこか遠くの方でホーホケキョと(ウグイス)の囀りが聞こえるような時間。日曜日のこんな朝の時間帯に起きている人など、生放送の報道番組に出演するニュースキャスターや川神院の修行僧ぐらいなものであろう

 

昨日、神心会の鍛練に1日参加した琢磨もそれは例外ではない。小さな寝息を立てながら、彼は現在も布団の中にいた

 

日曜日は琢磨にとって身体を労わる大事な日であり、今日一日は激しいトレーニングを控え、先週の日曜から今日まで酷使し、傷ついた筋組織の修復に徹底している。因みに平日のこの時間の琢磨であれば既に起床し、鍛練を始めて汗を流している時間だ

 

無論、格闘士であり武道家でもある彼の常日頃が実戦である事に変わりはなく、仮に今この瞬間を襲撃されて負けるような事があったとしても、全ての責任は琢磨個人にあり言い分など通用しない

 

かと言って、この寮がそう簡単に侵入出来るようでは他の学生達にも危険が及びかねない。当然、木造建築ではあるが最新の防犯セキュリティーシステムによって不審者を発見次第、直ぐに情報と映像が警察に送られるようになっている

 

このような監視設備が施されているのも、一概に寮主が警視庁で逮捕術を指導しているからといえよう

 

 

だが…………

 

 

「ハイイイィィッッッ」

 

「オワッッ⁉︎」

 

 

誰もその寮主本人がまさか襲撃を決行するとは思いもしないだろう……

 

琢磨は持ち前の反射神経で掛け布団を跳ね除け、身を翻して足刀を躱す。全体重を掛けて頭の真上から蹴り落とされた足が枕を突き破り、中から詰めてあった小豆が室内にバラバラと散乱する

 

 

「ホ〜〜ホッホッ、かろうじて間に合ったようじゃな」

 

 

琢磨が安堵するなか、目の前には鼈甲(べっこう)の眼鏡をかけた老人がどこか満足気に笑っていた

 

その顔には幾つもの深いシワが出来ており、頭髪も天辺の黒髪を残して横周りには白髪が生えている

和服に袴を穿いた老人の体格は女の娘並と言って差し支えがないであろう

実際の身長は155センチ 体重は47キロ 齢75歳ともなればごく一般的な老体だ。事実、冬馬や準は元より小雪と比べてもなお小柄で痩せ細っている

 

だが、この少年のように小さな老人から感じるものは全くの別物。分かりやすく言うとかなりヤバイ………それもとんでもなく

 

弱々しい皮に包まれてるがそれは外見だけ

1枚めくれば其処にあるのは凶暴な武の塊

才能は無論、現状の強さも常人を遥かに凌駕する絶対強者がここに存在している

 

老人の隙は皆無。素人が迂闊に間合いに入ろうものなら間違いなく地に伏されるだろう。見た目とは裏腹の攻撃性こそがこの老人の本懐だ

 

 

 

その正体は現代に生きる伝説の達人

 

 

 

名を『渋川剛気』

 

曰くーーーー小さな巨人

曰くーーーー実力No.1

曰くーーーー武の体現

 

渋川流柔術の開祖にして合気を完全に極め、『近代武道の最高峰』と称えられた人物であった

 

 

 

「起こすならもっとマシな起こし方して下さいよ………剛気さん」

 

「なァ〜に若いモンが言っとる、よく目が覚めたじゃろ?」

 

「まぁ、確かに覚めましたけどね………まぁいいです。で、何か用ですか? こんな朝早くから」

 

「いやなに、儂はただクッキーに頼まれて起こしに来ただけじゃ。お主に頼み事があるみたいじゃが……ま、詳しいことは本人に聞くことじゃな」

 

 

では儂はもう行くぞ、と寝込みを襲ったにも関わらず日課である朝の散歩に出掛ける為、何食わぬ顔でトコトコと部屋を後にした渋川。散らかすだけ散らかして立ち去る彼への言葉を押し殺し、琢磨は小豆をかき集める

 

 

「あ、渋川さん。散歩から戻ってくる頃には朝食の準備が出来ると思うから、渋川さんも一緒にいかがですか?」

 

「ほォ、そうかい……なら遠慮なくお邪魔させてもらおうかの。礼を言うぞクッキーや」

 

 

廊下で渋川と入れ違いになるように、今度は大きな卵のような形をした第一形態のクッキーが琢磨の部屋に顔を出す

 

 

「やぁ、おはようマイスター。この部屋の惨状を見る限り、またやられたみたいだね」

「と言うか、剛気さんが俺をまともに起こした事なんて一度もないっての。んで、日曜の朝からクッキーは俺に何を頼みたいんだ?」

 

「おっと、そうだったね。実は冷蔵庫の中の野菜類がちょっと不足気味でさ、朝食の分の野菜だけでもいいから買ってきてくれないかな?」

 

「……あー、なるほど。昨日は九鬼でのメンテナンスが1日中あったから、買い出しに行けなかったのかお前。なら仕方ないな……ランニングがてら俺がひとっ走り朝市で買ってきてやるよ」

 

「ホントにいいの? ありがとうマイスター!」

 

「なぁに、いつも人一倍俺達の食事に気を遣ってくれているクッキーの他でもない頼みだ。断る訳ないだろ? 1人でやるのが大変な時は俺達に任せておけって」

 

「マイスターは優しいねぇ……よーし、今日の朝はより一層腕に寄りをかけて皆に振る舞うよ!」

 

 

気分が高揚したのか、そう言うとクッキーはガシャンガシャンと音を立てながら丸いフォルムから人型の第二形態の姿に変形し、内臓されてあるビームサーベルを取り出した

 

 

「フフフ、腕の見せ所だな。マイスターが買ってきた新鮮な野菜を私の剣捌きでフレッシュサラダにして馳走するとしよう」

 

「まな板まで切りそうな勢いだな……捌くのは剣じゃなくて包丁だからな? んじゃ、遅くならないうちに行ってくるぞ」

 

「ではよろしく頼む。部屋と布団は私が全力で片付けておこう」

 

 

着替えを終えた琢磨は両脇に段ボールの箱を抱え、颯爽と閑静な川神の朝へと繰り出した

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

暑過ぎず寒過ぎもしない、程よい心地よさ

多馬川の土手を爽やかな風が吹き抜ける

 

 

「寮までの道のりも後少し……朝食の時間には間に合いそうだな」

 

 

沢山の野菜が入っている段ボールの箱を両肩の上に抱えながら、琢磨はそんな場所を走っていた。せっかくなら美味しい野菜をと走り回った結果、彼は鎌倉野菜の朝市にまで足を運んでいたのだ。しかし走り続けているその顔に疲れの表情は一切見られない

 

 

「それにしても……朝の多馬川に吹く風は気持ちいいな〜」

 

 

軽い足取りで渋川寮を目指す琢磨。だがその道中、ジャガイモが1つ段ボールからこぼれ落ち、コロコロと芝生の坂を転がってしまった。舗装されていない河川敷を走った事で僅かに揺れが生じたのだろう

 

ーーー時間的に余裕がある訳じゃないが、農家の人が丹精込めて作った野菜を粗末には出来ないな

 

焦る気持ちを抑え、一度段ボールをその場に降ろし、ジャガイモを拾いに河原へと降りる。周囲を見渡すも一目でジャガイモを見つける事が出来なかった。が、代わりに1人の女性が寝ていることに気付いた

 

 

「ん? あの人は確か………」

 

 

彼女は琢磨が鍛錬で多馬川にいる時によく見かける見覚えのある顔であった

自分よりも少し大きな背丈であるが、可愛さもある綺麗な顔立ちで身体も身長に見合った抜群のプロポーション。青い長髪が風で揺れながらスヤスヤと彼女は眠っている

 

そして琢磨はもう1つ大事なことに気付く

探していたジャガイモがちょうど彼女の懐にある事を

 

 

「むぅ……さて、これはどうしたものか」

 

 

顔を知っているとはいえ殆ど赤の他人である2人

ジャガイモ1つ取る為に気持ち良さそうに寝ている彼女を起こすのは忍びない。かと言って彼女が起きるのを待っている猶予もない。クッキーや寮の皆が帰りを待っているだろう

 

 

「(仕方ない……ま、ただジャガイモを取るだけの簡単なお仕事だ)」

 

 

いけない事をしているような気が引ける思いを振り払い、琢磨はそっと手を伸ばす。彼女の体や腕に触らないように身を乗り出しジャガイモを手に取り、腕を引こうとする…………が

 

 

「すぅ……すぅ……ン」

 

「……え? うおッ!?」

 

 

彼女の腕が自分の服を掴んでいる事に気付いた時には既に身体を捕られ、琢磨は寝返りと同時に隣に寝転ぶように倒れてしまった

 

 

「(な、なんて引きの強さだ……柔道かレスリングでもやっているのかこの人は?)」

 

「Zzz……Zzz……」

 

 

彼女の力に驚く琢磨を他所に本人は相変わらず起きる様子がない。よほど寝るのが好きなのだろう。今では抱き枕にするかのように琢磨と身体が密着している。

 

離れようと琢磨は動くものの、彼女のホールドは想像以上に強固でなかなか外れない。それに加え、彼女から伝わる包容力と安心感に思わず身体から力が抜けてしまう。そこにあるのは恥ずかしさよりも、どこか懐かしく忘れていた感覚であった

 

 

「Zzz……ん……んん……んー」

 

「(あ、目が覚めた)」

 

 

暫くしてうっすらと瞼が開き、ゆっくりと目元をこする彼女。その行動一つ一つもスローペースであった

 

 

「………や」

 

「ど、どうも」

 

「急に抱き枕が出来たかと思ったら君だったんだ〜」

 

 

起きた後も彼女は怒る事なく琢磨に笑みをこぼす

 

 

「君は時々ここで見かけるけど……今日は私とお昼寝しにきたの?」

 

「いや、俺はそこにあるジャガイモを拾いに来ただけでして……」

 

「ジャガイモ?……あぁ、これだね。ハイどうぞ」

 

「ありがとう……それにしても、どうしてこんな朝早くからここで昼寝を?」

 

「昨日はバイトが夜勤でさ〜、眠くて眠くて家に帰るまで我慢出来なかったんだ」

 

「まだ朝は冷え込むからこんな時間に外で寝てたら風邪引くって。俺はもう行くけど……そろそろ帰らないと家の人が心配するぞ?」

 

「ん、そうだね……みんなの朝ご飯作らないといけないし、私もそうするよ」

 

 

彼女はその場に立ち上がり、大きく背伸びをした

琢磨も身体に付いた芝生を払い荷物を抱え直し、寮を目指し再び走り出す

 

 

「あ、そうだ……ちょっと待って〜」

 

「っとと……な、何か?」

 

「君の名前、まだ聞いてなかったよね。なんて呼べばいいかな?」

 

「……琢磨、鉄 琢磨だ」

 

「琢磨クンかぁ〜。私の名前は板垣辰子、また一緒にお昼寝しようね」

 

 

そう言いながら手を振った辰子は多馬川の土手をゆっくりと歩いて行った

 

 

「板垣……辰子? 確か親不孝通りで有名な不良も同じ板垣だったような………いや、たまたま同じ苗字なだけか」

 

 

そんな疑問を頭の片隅に追いやった琢磨は大急ぎで寮へと向かった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時は進み、現在、時計の針は午後2時半を指している

久しぶりに外出用の服に着替えた琢磨が川神駅前に向かいながら腕時計で時刻を再度確認した

 

 

「約束の時間まで30分……これなら待たせずに済むか」

 

 

冬馬の助言を聞き、早めに寮を出た琢磨

今日は前に約束していた黛と一緒に携帯電話を購入する日である

 

友達になりはしたが黛が携帯を持っていなかったので、未だに連絡交換が出来ていない。当然、名刺を渡した花山にも連絡は来ていない

 

黛の友達100人計画を遂行する上で今のご時世、携帯は必要不可欠なキーアイテムである。しかし、対人とのコミュニケーションが取れない黛が1人で買いに行ける訳もなく、今回は琢磨が同行する事になったのだ

 

 

「少し時間もあるし、自販機で何か買って……」

 

 

待ち合わせ場所に着き、そう言いかけた琢磨はすでにその場にいた黛の姿を見て、自分の失態に苦い表情を浮かべる。慌てて黛と合流した琢磨はすぐに頭を下げた

 

 

「悪い、待たせたようだな」

 

「そ、そんな……まだ約束の時間じゃないですから顔を上げて下さい」

 

「いや、それでも黛を待たせた事実に変わりはないだろ」

 

 

食堂の時も席に座らずに待っていた黛の事。間違いなく予定の時間より早く来るとは考え、冬馬からも待ち合わせの時間には注意するようにと言われていた琢磨だったが、その見積りが甘かったらしい

 

 

「一応聞くが、いつからここで待っていたんだ?」

 

「え、えーとですね……その……1時間前……です」

 

「……本当にすまない、俺が逆に30分も待たせるなんて」

 

「そ、そんな、先輩は約束の時間を守っている訳ですし、ただ私が早く来てしまっただけですので……」

 

「まゆっちの言う通りだぜセンパイ。まゆっちてば昨日の夜から緊張して全然寝付けなくてさ〜、今朝だって服選びや髪型のセッティングに何時も以上の気合い入れようだったぜ? 今のまゆっちは謝られるよりもそういう所に気付いて欲しいお年頃だとオラはーーー」

 

「な、何を言い出すのですか松風⁉︎ 私はあくまで友達になって下さった鉄先輩に対して失礼のないよう身だしなみを整えただけです!」

 

 

自分で自分をからかい、そして真っ赤になって照れる黛。そのシュールな光景を眺める歩行者の視線をヒシヒシと感じた琢磨は、彼女の為にもこの件に関して話を延ばすのはやめる事にした

 

 

「落ち着け黛、ならこの話はここまでにしよう。お互い予定より早く着いたんだし、時間は有意義に使おうぜ?」

 

「わ、分かりました。ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

 

「エスコートは任せたぜ鉄先輩。まゆっちにどこまで男を見せるのかお手並み拝見だな」

 

 

黛は畏まって頭を下げる。彼女が意識して作ったであろう笑顔は、やはりどこか強張っていた

 

 

『いい顔してるぜアイツ……武道をやらせとくにゃ惜しい女だぜ』

 

 

彼女の笑顔を見て、花山が言っていた言葉の説得力を改めて実感した琢磨であった

 

 




〜作者コメント〜

渋川剛気

渋川寮の寮主にして琢磨が身に付けた柔術の師的存在
琢磨の祖父 陣内と深い親交があり、川神へ琢磨が預けられた時の家が渋川剛気の家だったという設定

武士道云々のまじこいで全く活躍しなかった柔術キャラ
(不死川は柔道で合気使わないし)
渋川烈火というモブキャラがいましたが、対した活躍もなく………
しかし、渋川さんは本物の達人‼︎彼の合気にかかれば、まじこいキャラなんて目じゃありませんッ
今回は短い登場でしたが闘いが本格化すればその実力も明らかになるでしょう‼︎


板垣辰子

覚醒状態は百代のパワーに匹敵する実力を持つ、最も怒らせたくないお姉さん。しかし、彼女の胸に抱かれて死ぬならそれも(ry
一途に大和を愛していた彼女もなかなか報われないので琢磨のヒロインにする予定ですッッ
あ、もちろん戦闘はしっかり書くつもりですよ

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