真剣で格闘士(グラップラー)に恋しなさいッッ!   作:バランスのいい山本

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1 格闘士の日常編
~人間力測定~


4月23日(木)

 

外は暖かな陽気、春の息吹に緑が鮮やかに色づき始め、桜前線が通り過ぎた4月の下旬。川神学園のグラウンドに体操着とジャージを着た2-S組の男子生徒達が集められ、生徒達の前には体育教師のルー・イーが立っている

 

「これよりS組男子の人間力測定を実施するヨ! あとが控えているから速やかに行うようにネ」

 

グラウンドの隅々届くようなルーの声にS組男子陣は威勢のいい声を上げ、最初の種目場所へと向かって行く

 

 

「アー、その前に鉄 琢磨はここにいるかイ?」

 

「………あ、俺です」

 

「少しいいかナ? 他のみんなはしっかり準備体操をしてから始めるようニ」

 

 

琢磨を残し他の生徒は各自ストレッチを開始し、琢磨は掛け足でルーのもとへ向かう

 

 

「わざわざ呼び出してすまないネ」

 

「いえ……で、どうかしましたか?」

 

「実は各クラスの過去の測定記録を見てたんだけド、どうやら君だけ過去2回とも受けてないみたいだネ。去年が盲腸で一昨年はインフルエンザ………特に去年は体調不良が多かったようだから、少し心配してたんだヨ。で、今日は大丈夫かナ?」

 

「はい、調子は良好気分は上々。今日は最高のコンディションで臨む事ができます。過去2回分の記録も出す気持ちでいきますから」

 

「オーーそれは何よりダ。それじゃあ、いい結果を期待してるヨ!」

 

ルーは琢磨の肩をポンポンと叩くとその場を後にした

 

琢磨も皆がいる場所へ戻る。と、ふとある事に気付いた

 

 

 

 

(考えてみたら…………体力測定とかって、生まれて初めてなんだよなァ)

 

 

~短距離走~

 

出走順が自分に回ってきた琢磨は着ていたジャージを脱ぎ、他の出走者と共にスタートラインに立つ。その姿に一部生徒達がざわつき始める

 

(な、なんだよあの身体?)

(クスリでもやってんじゃネェのか?)

(つか、全身キズだらけじゃん!3年のアイツとソックリだぜ)

 

(ッッ………これが体調不良を理由に欠席していた人間の身体だというのかネ)

 

それは、武術の総本山『川神院』で師範代を務めるルーでさえも目を見張るものだった

 

腕や脚、首に掛けての身体の各部位の筋肉が大きく、太く発達している。それだけならこの学園にもそういう体格の生徒は何名かいる。だが体操着の半そでや短パンから伸びる手足には夥しいほどの傷、疵、創。一言で言うなら『異質』であった

 

ルーにはすぐに分かった

 

 

(この琢磨という子、とても強イッッ。総代がおっしゃっていたことは紛れもない事実でしたカ )

 

 

かつて、半世紀前の大戦時、存亡の危機に陥った国家を我が身1つで守り抜き、もしも攻勢に転じていれば世界に日の丸の旗を掲げたであろうと称された現代に生きる伝説の漢の実孫

 

それでいて彼は虚勢を張らず、威圧をせず、かと言って自惚れることもない。今持つ己の度量、実力をそのまま身体へ出るにまかせている。その自然体のあるがままな姿は、逆に個性豊かな生徒達の中に混じってしまうと結果的に彼がこの学園で目立たなくなっている。今までルー自身琢磨の事をそれ程気にも留めていなかった一番の理由はそこにあった

 

琢磨に対する評価を改めたルーは自らの身体の奥底から込み上がる武人としての心を必死に抑えていた

 

(やはり彼が鉄の血を引く人間というのも納得だネ。これは世界新記録も夢じゃないヨッッ)

 

周りが密かに騒然となっている中、渦中の男である琢磨は遠く先にあるゴールラインを見据えている

 

(それじゃあ見せてもらおうかな、鉄家の一族の性能とやらヲッッ)

 

手足をグリグリと回し完全にリラックスしている彼を見てルーも冷静さを取り戻し、自分の職務に専念することにした

 

 

「準備はいいかイ? 位置について、ヨーイ………ドン!!」

 

 

 

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グラウンド、体育館でそれぞれ人間力測定を終えた生徒達は速やかに教室へ戻り、全員が終わるまでの間は教室で自習という名の自由時間になる。ここS組でもそれは例外ではない。むしろ彼等にとってはこちらの時間のほうが貴重である

 

S組は成績優秀者で編成されたいわばエリートクラス。学力成績の順位が50位を下回ると即刻他のクラスに移ってしまうというかなりシビアな環境である。因みにS組の在籍資格を失い脱落することをこの学園では俗にS落ちと呼ぶ

 

制服に着替え終えたS組生徒達は机に座り早速参考書をカバンから取り出し黙々と自習に入る

琢磨も同様に机に座ったものの、椅子に背中を持たれ掛けながら天井を見上げてしまっていた。そんな彼に前の席で先に本を読んでいたスキンヘッドの親友『井上 準』が声を掛ける

 

「よっ、お疲れさんボス。で、あの後どうだったんだよ結果のほうは?」

 

「大丈夫だ、問題……ない」

 

「その様子だと、最後まで新記録更新しちまったみてーだなオイ」

 

「なぁ準、俺って運動音痴なのかな………」

 

「つか、ただヤル気が空回りし過ぎたって感じだけどな」

 

それにしてもなぁ、とつぶやきながら琢磨は机に突っ伏してしまう

琢磨の測定結果を簡潔に言い表してしまえば『散々な結果』に尽きる

身長や体重などの身体の測定記録は当然測れたが、運動方面になると準の言葉通り新記録のオンパレードであった

 

・・・・ただし、『最低』の2文字が最初に付くが

 

・短距離走

スタートの合図とほぼ同時にスターターが損壊するほどの破壊的ロケットスタートのままゴールするも、タイムを計っていた生徒には気付いてもらえず結果『記録なし』

 

・ソフトボール投げ

投げたはいいものの、学園敷地内を大幅に超えてしまい結果『記録なし』

 

・走り幅跳び

測る場所である砂場を飛び越えてしまい、着地地点を探すことができずに結果『記録なし』

 

・懸垂

数え始めた直後、鉄棒を壊してしまい同じく『記録なし』

 

 

その後も琢磨は過去2年の遅れを取り戻そうと各種目全力で取り組むも、そのどれもが同じ結果に終えてしまった。ルーはあまりの記録にいたたまれない気持ちになり、やり直しを琢磨に提案した。が、

 

「他のみんなが一度きりの測定を一瞬一瞬全力でやっているのだから自分がそれを理由にもう一度やり直すのは間違っている。このままで一向に構いませんッッ」

 

と一蹴し『男子の部全種目記録なし』という前代未聞の新記録を樹立したまま教室に戻り現在にいたる

 

「しかしボスも人がいいと言うか頑固というか、本当ならどれもギネスブック認定ものだぜアレ」

 

「かもな。けど俺が目指すのはトップアスリートじゃないし、逆にあれぐらいの事が出来なきゃ俺の目標なんざ夢のまた夢だ。ま、記録は残るに越したことはないかもしれないがな」

 

「相変わらず切り替えの早いことで。ボスの場合は記録よりも記憶に残ったケド」

 

そういいながら準はペラペラと本を読み進める。文庫本ではなく、よく見ればマンガの単行本だ

チラリと本のタイトルが見えた琢磨は思わずため息をついてしまう

 

「そういうお前も相変わらずの趣向じゃねえか。また性懲りもなくそんなもん堂々と読みやがって」

 

「失敬な!この『制圧!タコ少女』の魅力がボスには伝わらんのですかッッ」

 

 

「タイトルにタコが入っててヒロインの台詞の語尾がゲソじゃ魅力どころか説得力も皆無だ」

 

先程の物腰柔らかそうな雰囲気を一変させ琢磨に詰め寄る準

この男、小さく可愛い女の子を愛でることに生きがいを感じる紳士。ようするにロリコンである

 

 

「なんじゃなんじゃ、山猿共のクラスが騒々しいかと思ったらお主らの声であったか」

 

「ウェーイ。タクマ、疲れた僕の身体にマシュマロを補給するのだー」

 

 

そんな取り留めのない話をしている琢磨達のそばにやってきたのは、高価な着物を見事に着こなした日本三大名家に名を連ねる不死川家のご息女『不死川 心』と純白のロングヘアーにルビーのような赤い瞳が特徴的な琢磨の幼馴染『榊原小雪』の測定を終えて教室に戻ってきたばかりの2人だ

 

「お疲れユキ、不死川。今日のマシュマロはイチゴ味な」

 

「不死川もどうだ?こっちにペロペロキャンディーがあるけど」

 

琢磨はおもむろに机の中からマシュマロを取り出し小雪に

準もどこからともなく大きなキャンディーを取り出し心に差し出す

 

「いらぬわ!というか本当に持ってるあたりドン引きなのじゃ……」

 

身長158センチと小柄な体型の心はロリコンの準にとってはギリ射程外らしい。彼曰く「あと2年早く会いたかったぜ………」と心底残念そうだった

 

琢磨の膝に座った小雪は心とは逆にマシュマロを素直に受け取ると美味しそうにマシュマロを頬張り始める

 

「それはそうと聞いたぞ鉄、お主此度の測定でことごとく失格だったそうではないか。常識外れというのも不便なものよのぅ。ニョホホ」

 

「げ、もう広まってるのかよ。やれやれ、とうとう常識が俺に追いついて来なくなる日が来るとはな・・・世知辛い世の中になったもんだなユキ」

 

「んー?」

 

琢磨は目の前にある小雪の頭に手を置くと髪を乱さないよう優しく撫でる

マシュマロを口に運びながら膝の上で気持ち良さそうに目を細める小雪の姿は日溜まりでまどろむ子猫のようで、その様子を傍から見れば爆発しろ!と叫ばれても何の違和感がない美男美女のカップルなのだが、2人は別に付き合っている訳ではなく、これはスキンシップ。琢磨によるコミュニケーションの一環だ

 

「都合の良い解釈をするでないわ。全く、川神や九鬼と同じでお主の常識はずれも甚だしいのじゃ。蛮勇も過ぎればF組の山猿風情と大して変わらぬぞ」

 

「蛮勇か………良いねぇその響き、嫌いじゃない。つかよ、着物を着て牛車に乗りながら登校してくる奴に言われたくはないな」

 

「な、なんじゃと!?」

 

「まぁ学園に多額の寄付で許可をもらったとはいえな、英雄やあずみと大して変わらねぇぞお前も」

 

「そうそう。だから友達出来ないんだよねー」

 

「こらユキ、それは言わないお約束だろ。結構本人気にしてるんだから」

 

「そうだぞ、もし本人が聞いてたらどうすんだよ。なぁ不死川?」

 

「此方に振るでない!もうよいわ、このうつけが!」

 

そういって心はプンスカと怒りながら席に戻ってしまう。と同時に昼食と昼休みの時間を伝えるチャイムが学園全体に鳴り響く。自習していたクラスメイト達もそれぞれ昼食をとるために席を立ち始め、心も机から高級料亭に出てきそうな重箱を取り出す。しかし他の生徒が友達と一緒に食べてる中、周りには誰もおらず1人でいる心の背中は少し寂しそうに琢磨は思えた

 

「……なぁ準。お前今日弁当か?」

 

「おう、若には悪いが学校に来れなかった分ちょっと豪勢にしたぜ。もちろんユキの弁当もな」

 

「おおー、毎日欠かさないハゲにはそれなりに感謝するのだ」

 

「それなりって………まぁいんですけどね、俺紳士ですから」

 

「そうか、じゃあ悪ィけどさ」

 

「分かってるって。俺とユキにまかせろ。な、ユキ?」

 

「うん、タクマの為なら僕なんでもするよ!」

 

琢磨の視線を読み取った準と小雪がすかさず答える。長年の付き合いである彼らだからこそ最後まで言わずとも通じ合えるものがある。ここにいない残りの仲間3人にも当然言えることだ

 

「ヘイへーイ不死川、いつ見ても美味そうな弁当だなオイ。ちょっとこのエビフライと伊勢えび交換しようぜ?」

 

「あーズルイぞハゲ、僕もマシュマロと交換したいのだ」

 

「にょわわ!? 勝手に此方の弁当を漁るでない! 小雪に関してはもはやおかずではないのじゃ!」

 

ギャーギャーと一気に騒がしくなるも一緒に昼食を食べる相手ができて、どこか心の顔には笑顔が垣間見えるようになり琢磨は内心ホッとした。同じ学年になり心と会話をする機会が出てきた琢磨だが、一番気になっていたのが彼女のコミュニケーション能力の低さである。蝶よ花よと育てられたが為か彼女の選民思想はガッチガチで家柄で人を見下してしまいがちになり、それが友達のいない大きな要因となっている

 

そんな彼女の事を仲間達から聞き、ここ最近は積極的に心に話しかけるよう琢磨達は心掛けている。それが年上としての優しさ、思いやりから来るのかそれとも過去の自分を重ねた故の同情からくるのかは本人にも分からなかった

 

「(さっきイジリ過ぎた事もあるし、ここはユキ達に任せるとしよう。さて、弁当ナシの俺は昼飯どうすっかな~)」

 

購買で済ませるか食堂に行くかの選択肢に頭を切り替え、琢磨は教室を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者コメント

井上 準

ハゲでロリコンなのは原作通りだが、設定に神心会空手の有段者を追加。一子やクリスより強いかも
近くに幼女がいれば戦闘力は3倍。正直、一般人レベルでは最強クラス?
それでいて料理もできてスポーツ万能、本当に残念なロリコンである
風間ファミリーの島津ポジション

榊原小雪

ヒロイン候補の1人。まじこいSの小雪ルートの彼女は幸せそうでほんとよかった。ここでも琢磨のおかげで心は壊れる事はなく、天真爛漫な普通の女の子になりました。強さは原作と変わらず足技のみ壁超え。椎名京とは大の仲良しだが直江大和との接点はとくにナシ。風間ファミリーの京&一子ポジション

不死川 心

S組のヘタレクイーン。今作でもかませ犬のポジションは不動のものになるだろう。ヒロイン候補・・・になるかは今後の活躍次第かな?だが、あの性格は嫌いじゃない
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