真剣で格闘士(グラップラー)に恋しなさいッッ! 作:バランスのいい山本
と思いつつ投稿。しかし、今回は出ません
それよりも早く木曜日を終わらせないとな
「………で? 結局、その1年とは連絡交換したのか?」
「いや、今日は流石に無理だったが今度、一緒に携帯を買いに行く約束だけしといた」
「早速後輩とデートの約束とは、お前さんも結構大胆だなオイ」
「デートって………ただの付き添いだぜ? そうでもしないと一向に連絡取れないだろ。それとも花山に行かせたほうがよかったか?」
「まぁ、それもそうだな。花山と2人で買い物とか、オジサンも遠慮したいぜ」
「俺的にはヒゲ先生と花山がその後、どんな買い物をするのか気になるけど……なッ」
「あ……そうきたかお前、さて、それじゃあオジサンの次の一手は………」
午後の授業をいつものように消化した放課後、帰り支度をして下校する生徒も多い中、いまだに琢磨は学園内にいた。放課後に残る生徒の大半は部活動をしている人が多くグラウンドやそれぞれ自分達部活で使用される部屋で日々己の技を磨き、体力を養っている
琢磨が現在いる場所は室内一面に畳が敷かれている第二茶道室。
だが、彼は茶道部に入っていない
ならば、彼は今何をしているのか?
将棋だ。堂々と茶道室の真ん中に陣取り、おっさんと将棋をしている
なら彼は将棋部の人間か?
違う、将棋部にも所属していない
じゃあここは一体何部の部屋なんだ? と聞かれれば、ここにいる2人は迷わずこう答えるだろう
『だらけ部』と
そう、ここは学園非公式部活動。現在将棋を指している琢磨と2-S組の担任教師『宇佐美 巨人』そしてあともう1人の男子生徒でダラダラとした時間を過ごす聖域なのである
「ああ、そういえばさ」
将棋盤を舐めるように眺めながら次の一手を考えてた巨人が顔を上げる
「鉄、今日の人間力測定の件なんだけどよ……」
「それ以上何も言うな。反省はしているが後悔はしていない」
「違う違う、まぁ最後までオジサンの話を聞けや」
自分の担任から切り出された話題に深いため息をつくと、琢磨はそのまま後ろへと寝ころぶ。その言葉通り、彼は自分のベストを出し尽くした上での結果なので気にしてないのだが、何度も同じような話をクラスメイトや友達から聞かれていたのでうんざりしているのだ
「なんでも学長がその時のお前の様子を見てたらしくてよ、あの記録に対して学長が自ら評価して下さるとさ」
「な、なにィ! あの鉄心さんがか!? どういう事だヒゲおい!?」
畳から勢いよく跳ね起きた琢磨が巨人に詰め寄る
「お、落ち着けって……く、首が……締まるから」
「す、スイマセン。で、なんでまた学園長が?」
「そりゃお前あの人の事だからな。能力がある人間がそれ相応の力を発揮したのに評価されないじゃ、川神院の総代としてのメンツとかあるだろうよ」
「川神院の総代たる者が生徒の力量を見誤っている……的な?」
「どうだろうな。オジサンそっちの方に関してはとやかく言える訳でもないが、あの人の孫が孫なだけにそういうのもアリなんだろ多分」
「まぁ、確かにあそこは何でもアリなところだからな……」
「あそこだけじゃなくて、この街全体にいえる事だとオジサンは思うけどな。あぁ、それと表上は記録なしだけど、評価としてはしっかり入ってると思ってていいぞ」
「そうですか……なんか、ホント色々迷惑かけてすいませんヒゲ先生」
「気にすんな。先生はお前以上に面倒な生徒を何人も抱えてんだ、大したことねぇよ。それに時々代行業を手伝ってもらってるしな、むしろお前さんには色々と感謝してるぜ」
「せ、先生……………はい、王手」
会話をしつつも将棋を指す手を止めていなかった2人
次に琢磨が動かした駒によって巨人はあっさり詰んだ
「げ、マジかよ………その一手待ってくれ。オジサンに感謝してるならさ、頼む」
巨人は慌てて拝むように琢磨に頼みこむ
将棋一つで簡単に生徒に頭を下げてしまう教師もどうかと思うが・・・
だがこの宇佐美巨人という男、こうしてだらけ部に入り浸っている事から分かるように教師としては厳格であるとは言えず、どちらかというと不真面目な態度が目立つ
しかし、教師の職業とは別に『宇佐美代行センター』で代行業を営んでいる彼は
様々な経験を豊富に積んでおり、彼が行う授業自体は評判が良いいのだ
そんな巨人との、こうしただらけ関係は琢磨が入学し、しばらくして出会ってから今日に至るまで続いている。途中新入部員が入るというイベントもあったが、それ以外は特に何事も起こることなく休憩時間になれはこの部屋に足を運び、3人して部活動(だらけること)に費やしている
「悪いな先生、いくら将棋といえどこれも勝負。戦いである以上、手を抜かないのが俺の主義なんだよ」
「とか言いつつも、飛車と角なしのハンデはつけてくれるんだよなお前は………」
「そうでもしないとアンタ俺に勝てないでしょうが! ホラ、さっさと白旗あげな」
「ま、待て! まだだ………まだ終わらんよッ」
それまで唸っていた巨人がようやく次の一手を指す
琢磨もそれを見て、すかさず自分の駒を動かした。・・・・またしても王手である
「な、なん……………だと」
「戦いとは常に二手、三手先を読むものだよ。決着だな、ヒゲ先生」
「認めたくないものだな……自分自身の……若さ故の過ちというものを」
「35になるオッサンが何言ってんだ! 早く片付けろや」
琢磨にいびられ巨人は渋々将棋の駒を戻し始める
これでも一応、琢磨と巨人は生徒とそのクラスの担任教師の間柄だが
こうして一目があまりない場所では敬語抜きのフランクな口調で会話している
2人はそれぐらい気安く話し合える関係だった
「あ、そうだ。 なぁ先生、明日F組に転入生が来るらしいじゃねぇか。一体どんなヤツなんだよ?」
ふいにクラスメイトとの会話の中で出てきた話題を思い出した琢磨が巨人から情報を聞き出す
なんでも明日の金曜日、ドイツから留学生がS組の隣のクラス2-Fへやってくるらしいとのこと
「ん、確かドイツのリューベックからか。クラスは違うが仲良くしてやれよ。そうやって育んでいく思い出が大切なんだ。そういうのがないと、オジサンみたいになるからな………」
「そりゃ大変だ。日本中が先生のレベルに落ちたらこの世の終わりだぞ」
「ッッ………言ってくれるなお前、愛で斬ってないから余計に痛いぜ」
「じゃなくて、転入生に関するもっと詳しい情報はないのかよ?」
「特にこっちにはそう言った情報は来てないな。 ただクラスの女子連中は男だって話してるのを聞いたぜ」
「あれはアテにならん。おそらく誰かが流した虚報だ。だから逆の女だとは見当がつく」
「虚報? 何の為に………ってあぁ、なるほどね。それは多分、男か女で賭け事してるFクラスの仕業だな」
「となると、流した奴も察しが付く。………相変わらず姑息な手を使う野郎だ」
琢磨は腕を組み、僅かに苛立ちをみせる
彼自身、どちらかというと自分の力で解決するタイプだ
仲間内にも頭の冴える軍師のような人物はいるが、あくまで自分を含めた仲間の行動に伴う効率や効果を補助する役目として認めている。だが琢磨はこういった裏工作などで自分の利をより大きく得ようとする狡猾な人間はあまり好感をもてないのだ
「ま、どちらにせよ明日には分かる話だ。家に帰って寝てればすぐ明日が来るし、それまでのお楽しみって事にしとけや」
「それもそうか………んじゃ、今日はそろそろ帰るわ」
「オイオイ、オジサンせっかく準備したんだから、もう一局どうだ?」
「悪いが、さっき仲間から下校するってメール来たからな。俺も帰らないと、それじゃ後片付けヨロシクッ」
そう言って琢磨は颯爽と茶道室を飛び出していった
1人残された巨人はため息をつくと将棋の駒や将棋盤を元あった位置へ戻し始める
「やれやれ、やっぱりこう急に1人になると寂しいもんだな。あぁ~、小島先生と結婚して~」
ダメ中年の呟きに答える人はなく、傾きつつある日が差し込んだ室内にいる巨人の背中はより一層哀愁が漂っていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
空が赤みを帯びてる頃、多馬川の河川敷を仲良く歩いている人影が3つ。琢磨、準、小雪の3人である。多馬川は落日の陽光を赤く照り返しながら流れ、揺れる川面にいくつもの輝きを灯す美しい光景だった。その川沿いをフワフワと羽ばたく蝶を追いかける小雪、そしてその後を琢磨と準がゆっくりと後を追う
いつもの見なれた道のりであるのに、空模様の色が1つ違うだけで何処となく郷愁を感じる。それは生まれが東京の琢磨も同じこと。初めてこの地に訪れたのが小学5年生の時。仲間と出会い、師と出会い、自分の生き方を決定したこの街
琢磨の心の中では、もう川神が彼の故郷として深く、太く、根付いていた
守りたい景色がある・・・・・守るべき仲間がいる
そう再認識させれるこの風景を見て、琢磨は心の中でもう一度気を引き締める
この茜色は大気による光の屈折現象であることに過ぎない
頭では理解出来ていても、そこにこうして感傷を抱くのは一体なぜだろう・・・
そんなことを考えながら河川敷を歩き続けてしばらく、3人は目的地に辿り着く
準や小雪達が現在住んでいる『渋川寮』である
「ほらユキ、到着したぞ。そろそろ降りろ」
「ン~………Zzz………Zzz」
ここまでに来る途中、小雪からおんぶをせがまれ、運んできた琢磨は背中にいる彼女に声をかける
が、小雪は揺りかごに眠る赤子のようにスヤスヤと寝息をたてていた
「まったく………準、このままユキを部屋まで運ぶから2階に上がる許可くれ」
「了解、その間にリビングで茶でも淹れとくから一服していけよ」
「悪いな、それじゃお言葉に甘えさせてもらおうとするか」
そのまま2人は寮に入り、琢磨は小雪の部屋がある2階へ上がり、準はそのままリビングに直行する。リビングに置いてある机では、1人の青年がコーヒーを飲みながらパソコンを広げていた
「お、なんだ若。先に帰ってきたのか」
「おかえりなさい準。ええ、今日は早めに切り上げることが出来たものですから」
ニッコリと微笑む眼鏡をかけた優男の名は『葵 冬馬』
川神市内にある大病院の院長の息子であり、次期跡取りになる人物
準の父親が副院長なこともあり、2人はメンバーの中で最も付き合いが長い古くからの親友だ
両親とも病院での仕事が忙しく家を空ける事が多かった為、川神学園への入学を機に寮生活をすることに
因みに小雪の里親もその病院の看護婦で、同じ事を理由に小雪を冬馬達と同じ寮へ入れさせている
「珍しくユキの姿が見えないようですが、部屋にでも行きましたか?」
「ここに来るまでにボスの背中で寝ちまってな、ボスが部屋に運んでる最中なわけよ」
「フフッ、そうですか。相変わらずユキは甘えん坊ですね」
冬馬の問いかけにそう答えつつ、慣れた手つきで湯呑みにお茶を入れる準
そこへ小雪を運び終えた琢磨がリビングへとやってきた
「おう冬馬、今日もお仕事お疲れさん。そっちは順調か?」
「まずまずといったところです。流石に学校の授業のようにはいきませんね。今もこうして覚えたことをパソコンに整理しているところでした」
冬馬がパソコンを見やすくなるよう傾け、琢磨がその画面を覗き込む。が、すぐにその場から離れてしまった
「ウッ………すまん、少し酔った。早くお茶をくれ準」
「ものの数秒でデジタル酔いかよ……ホント機械に弱いんだなボスは」
「まぁいいじゃないですか準。そのほうが逆に可愛げがあるというものですよ。ねぇ琢磨?」
「………プハッ。別に俺は可愛げなんて要らないんだがなぁ」
熱いお茶を一気に飲み干した琢磨が険しい顔をする
「そうそう、流石にボスには似合わねぇな。可愛いってのは小さい女の子にこそ相応しい言葉だぜ。あぁ……委員長可愛いよ委員長」
「携帯の画面見ながら何ニヤニヤしてんだハゲコラァッ!」
「イデデデデデッ! ま、待ってくれ! それホントに洒落にならないってボスッ!」
おそらく2-Fの委員長のことを言っているのだろう
毛のない頭をツルリと撫でながら携帯の画面を眺める準に琢磨はアイアンクローをお見舞いする
が、携帯の着信音が鳴った事により琢磨から準への制裁は未遂で終了した
「クッキーからだ………ふむ……なるほどね。了解……っと」
「なにか急ぎの用件でもありましたか?」
「いやなに、ちょっと買い物を頼まれただけだ。今ちょうど夕飯の支度してるから手が離せないんだと」
「まるで新婚夫婦のやりとりですね。琢磨を独り占めですか……フフッ、少し妬けます」
「帰るのが夜遅くなった夫をビームサーベルや電撃で出迎える新妻がいるか? まぁ俺としてはそれもいい経験になるからいいけどな。………と、こうしちゃいられないな」
慌てて琢磨は荷物をまとめ玄関へと急ぐ
このままのんびりしていたら本当に襲われかねない
冬馬と準に別れを告げ、琢磨は渋川寮を後にした
作者コメント
宇佐美 巨人
まじこいプレイしてて、学生時代に会えたら真剣で最高だよな~と思った先生
人間学とか数学や理科よりも社会で役に立ちそうじゃね?
だらけ部もいいね。あそこに弁慶がいればもう言う事なしッッ
葵 冬馬
バイでサドでマゾな参謀役。小雪と同様に琢磨に救われた人間
父親の病院は継がず不正を告発して潰した後、自分の病院を建てようと
現在は勉強&密かに不正の証拠集めをしている
因みに琢磨や英雄は仲間なので彼の中では射程外
渋川寮
川神学園の寮の1つ
この名字から分かるようにあの達人が寮として学園に提供した家
寮の造りは殆ど島津家と同じだが、こっちのほうが敷地面積が広く
敷地内には道場や露天風呂もある
家主も今回登場させたかったが、諸事情により別の機会にしました
部屋割
1階
101 葵 冬馬
102 井上 準
103 空き部屋(鉄 琢磨の宿泊用)
2階
201 榊原小雪
202 空き部屋(後に???)
203 空き部屋(後に???)