真剣で格闘士(グラップラー)に恋しなさいッッ! 作:バランスのいい山本
1人は空手家、もう1人は拳法家ですッ
『なんでコイツ!?』と思うでしょうが・・・優しい目で見てやって下さいッッ
太陽が姿をまだ見せない明朝、人々がいまだ寝静まる時間帯
青年は待った・・・・・
ただひたすらに待っていた・・・・・
待ち合わせ場所は自宅の地下室、ガランとした薄暗い殺風景な部屋だ
黒いコスチュームに身を包み青年は部屋のコンクリート壁をじっと見続けている
青年は身体から流れ続ける瀧の汗に目もくれず、身じろぎ1つしない
いったいどれだけの時間待ち続けているのだろう・・・・・
空一面うっすらと星が見渡せる瑠璃色の夜明けから始まり、すでに1時間は経過している
それでも、青年は待ち続けた
そこにいるハズもない――――――――――――それが
(…………ッ! 来るッ)
青年に待ち焦がれた瞬間が・・・感覚が呼び戻った
(ほら…………ほらァ…………俺はここにいるぜェ)
見つめ続けていた壁と己の間にある空間が揺らぎ、やがてその実体がより鮮明になる
そこにありもしないものをイメージ―――――――――具現化する
「悪ィな…………お前は俺の目標なんだ」
そこに存在しないものを―――――――――
「ほんの暫く付き合ってもらうぜ………………百代ォ」
この青年、鉄 琢磨の非凡性は――――――――――まさにこの想像力にこそあったッッ
(違う、お前はこんなモンじゃない………そうだろ?)
かつ、琢磨の想像力に驚かされるのはこれだけではない
(もっと強靭く)
(もっと迅く)
(もっと恐く)
(もっと欲深く)
自分自身に対する
(もっと…………美しく………だな?)
対戦者を自分の都合の良いのように思い描き
実戦で出来るはずもない大技を用いて相手を圧倒する
(そして、本物より………強くッッ)
そんなタイプとは―――――――――――――――真逆にいたッ
「キャオラァァッッ」
この日の早朝、神奈川県川神市の一部地域でのみ数度にわたって震度2の地震を観測。だが気象庁は『またKAWAKAMIか………』の一言で片付け、公表する事はなかった
しかし彼等は知らない。この震源地が親不孝通りにある一軒の地下である事を
そして、1人の青年による独闘が地震の原因であった事も・・・・
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窓から朝の光が射しこみ、その刺激に気付いた琢磨がゆっくりと瞼を開ける
視界に広がるは知らない・・・・いや、いつもの見慣れた天井だった
「おはようございます、琢磨」
その声と共に上から覗き込み、優しい笑みを見せる顔に琢磨は朝の挨拶を返す
「おはようクッキー。 今、何時だ?」
「ちょうど6時30分になったところです。お体の具合はいかがですか?」
「骨に異常はなし、多少あざが残ってはいるが全身の痛みもほぼ引いてる。問題ないな」
琢磨は頭に置かれていた氷水の袋をよけ、膝枕をしてくれていた女の子から上半身を起こす
着ている服はいたるところがズタズタに破れ、血で染まってたりしているが特に激しい痛みは襲ってこない。琢磨はそのまま立ち上がり両手を顔の前に出し、拳を握っては開きを数度繰り返しながらそう答えた
「それは良かった。では朝食にいたしましょう。食事の用意をしますので、琢磨はシャワーを浴びてから制服に着替えてお待ちになって下さい」
彼女はスッと立ちあがり食事の準備へと台所へ向う
琢磨はすぐさま浴室で体を洗い、パリッと整い綺麗に畳まれている自分の制服に着替えて居間へと戻った
「食事の用意が出来ました。味噌汁は少し熱いので火傷をなさらないようにして下さい」
すでに居間のちゃぶ台には彼女が作ってくれた料理が並べられていた
白いご飯に豆腐とワカメのみそ汁。アジの開き、沢庵、納豆・・・そしてサーロインステーキ
料理から漂う香りは琢磨の食欲をより一層かきたてる
「んじゃ……いたただきまーすッ」
「どうぞ召し上がれ」
琢磨は味噌汁のお椀を手に取ると息を吹きかけ冷ましながらゆっくりと口の中へ流しこんだ
現在、琢磨が暮らす家で彼の身の回りの世話をしている彼女の正体は人工知能搭載型ロボット『クッキー』―――――そうロボットである。傍からみればピッタリしたボディースーツにエプロンを身に付け、装甲のような金属パーツを身体の各部位に装備しているコスプレ美少女にしか見えない。だがれっきとしたロボットである
元々は九鬼財閥がとある人物が開発したロボットに対抗してクッキーを作り上げた
英雄はこのクッキーを想い人の誕生日プレゼントにする為、まず稼働テストとして想い人の誕生日が来るまでの間、琢磨に預かってもらうことに。それが琢磨とクッキーの出会いである
当初はご奉仕型の第1形態、警備・戦闘型の第2形態、交渉・翻訳型の第3形態までしか変形しなかったが琢磨と生活をするにつれ、人との絆をもっと深めたいというクッキーの思いが募り、ついには人間に対する好感度がMAXを振り切った。その結果、より人間に近い姿である現在の第4形態へと変形が可能となったのだ
その後、一度は九鬼に回収され想い人の誕生日に英雄がプレゼントしたのだが、当の本人が「いらなーい」と言った事により、クッキーは自分自身の意思で琢磨の元に帰り今も琢磨の世話を続けている
「お味の方はいかがですか琢磨?」
「うん、相変わらず美味いなクッキーの料理は。栄養バランスもバッチリだし、言う事なしだぜ」
「ありがとうございます。朝食を摂ることは生活の基本ですのでしっかり食べて下さいね」
「分かってるって。……む、この納豆はもしや?」
かき混ぜていた納豆が普段のものと違う事に気付いた琢磨
こう見えて食事の栄養管理には気を配っている為、こうした変化も見逃さない
「はい、最近西日本で話題になっている松永納豆です。ネットの通販で見かけたので購入しました」
「もぐもぐ…………香り、甘み、歯ごたえも良し。粘りも抜群で何より匂いが気にならない。こりゃ美味いな」
「お気に召したのであればまた注文いたしましょうか? 健康に良いとはいえ、これはパックなので色々入っているとは思いますが……」
「いいんだよ。栄養も毒も美味しく食べて血肉に変える度量こそが食には重要だ。また頼んどいてくれ」
「承知しました」
松永納豆を咀嚼しながら答える琢磨にクッキーは静かに頷いた
こうして毎朝、クッキーの朝食と共にゆったりとした時間を琢磨は過ごしている
「朝のニュースで何か気になるのはあったか?」
「それでは1つだけ………今月の初め、タンザニア連合共和国のサバンナで一頭のアフリカ象のハンティングに軍を導入したレンジャー部隊がその象によって壊滅したニュースが報じられました。そして昨日、その事件の唯一の生存者が退院し記者会見を行ったそうです」
「ほぅ、生存者が………で、その人は会見で何と?」
「『伝える事は2つ。我々は一発も弾薬を使用していない。それと……そのモンスターを倒したのは1人の若い日本男児である』との事です。しかし、事件が発生した日がエイプリルフールと重なる事からその生存者は世界中から非難を浴びています」
「とことん運が悪いなその人。そりゃ誰も信じないだろうな………」
朝食をとり終えた琢磨はそう呟きながら登校の準備にはいる
「あ、そうだクッキー。その生存者の名前とか分かるか?」
「確か………サマンという名前の男性です」
「サマンね。了解した。それじゃあ、行ってくるぞ」
いってらっしゃい、と後ろから聞こえるクッキーの声に手を振る事で答え、琢磨は家を出る
――――――――学校に行ったら英雄に相談するかァ
そして象を倒した張本人はそう心に決め、川神学園を目指して歩みを進めた
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多馬大橋に琢磨が足を踏み入れた時、ちょうどそこに渋川寮からやってきた冬馬達一行と合流する
「タクマー! おっはよー!」
「おはようございます、琢磨」
「おはようさん、ボス」
「オッと……おはようユキ、そして冬馬と準もな」
胸に飛び込んできた小雪を受け止めて3人と挨拶をかわす
そんな琢磨の顔を見て、準は1人納得したような顔で頷く
「また朝からド派手にやったなオイ。今度の相手は一体誰だ? ボクサーか?レスラーか?それともカマキリってか?」
「その程度だったら………俺もどんなに楽なことか。今朝の相手は武神だよ」
「デスヨネー。あの地震起こす程の相手ならそれが妥当デスヨネー」
「大丈夫タクマ? 痛くない?」
「そんな顔するなユキ。俺ならこの通りピンピンしてるぜ? マシュマロやるから元気だせよ」
琢磨の顔を改めて見て不安な眼差しを向ける小雪をあやすように撫でながら琢磨は苦笑した
「それより英雄を見てないか? ちょっとアイツに話があるんだが」
「今朝はまだ見ていませんね。彼の事ですから、他の生徒に挨拶しながら登校しているのでしょう」
「そうか……まぁどうせ学校で会えるから今じゃなくてもいいか」
冬馬の言葉を聞き、納得した琢磨はそのまま冬馬達と一緒に多馬大橋を渡り始める
学園に続くこの多馬大橋だが、川神市民からは通称『変態の橋』と呼ばれている
個性豊かな川神学園の生徒の多くがこの橋を渡る為、名づけられているが
ここ近年は本当に変人の出没が増えている
まぁ、バイセクシャルとロリコンを引き連れている琢磨達がその中に入るか否かはさておき・・・
「みっけ~」
そう言って琢磨達の行く手を遮ったこの男は学生でも変人でもなかった
迷彩柄の上着とズボン、中に黒いシャツを着たこの若い男は――――――――――格闘士である
「オメェが鉄 琢磨だな?」
「そうだが、アンタは? 俺の記憶が正しければ、アンタとは初対面のハズだが……」
「オレァ神心会館三段 加藤清澄ッてンだ。弟が随分世話になったみてェだな」
「弟?………あぁ! 2-Bの加藤ね。うちのユキにしつこく言い寄ってきた奴か」
「その後、ボスに制裁されてたっけな確か……」
「オウよ、その兄がこうして来たんだ。後は……
「敵討ちか? 悪いけど、俺達登校中なんだよね。だからまた今度って訳には―――――――」
「そうツレない事言うなよ。地下闘技場の最年少チャンピオンさんよゥ」
加藤の言葉に琢磨の眉がピクリと動く
「へェ……伊達に世界最大級の空手団体に入っている訳じゃないようだな」
「こちとら本物の実戦空手だぜ? オメェみたいなボウヤが最強なんざ名乗ってるのを黙って見てる程、優しくはねェんだ……よッ!」
最後の言葉と同時に加藤は持っていた空き缶を琢磨の顔に目がけて蹴飛ばした
が、琢磨は何食わぬ顔で空き缶を片手で受け止める
「タクマッ」 「 テメェ……よくも!」
慌てて前に出ようとする小雪と準を琢磨は腕で制する
「なるほど、敵討ちはあくまで建前……本音はそれか」
「そういう事よ。今更、遅刻なんざ気にしてンなよ? オメェがこれから行くのは学校じゃねェ・・・病院なんだからな!」
挑発する加藤に、琢磨は舌打ちしながら持っていた空き缶を両手で握り始める
「残念だけど、俺はこれ以上遅刻や欠席は出来ない身なんでね。わざわざ仕掛けてきた相手を病院まで運んであげる余裕は――――――――――――微塵もねェ」
そして広げた手から、ゴルフボール位の大きさに丸まった空き缶がこぼれ落ちた
~~~~ッッッ
「(とッ飛び込めねェッ………あれほどあったガキの雰囲気がすっかり消えてやがる)」
琢磨の気勢に空気が震えるのを感じた加藤は咄嗟に拳を構えた
「どけよ―――――――――――通るぜ」
加藤清澄は神心会空手の本部で三段をとる程の実力者である
その言葉を聞いた刹那、一瞬にして自らの細胞が見抜いた
目の前の青年が放つ、尋常ならざるオーラ!
それまで戦った人間とは全く異質な存在感!
それら全てが自分自身を遥かに上回っているッッ
その戦力差はどれほどのものだろう・・・
刃物や銃器等の武器で補えるようなものではなく
仮に兵器を用いたとしても――――――――――埋まるのものか!?
それはもはや・・・・想像もつかぬ絶望的戦力差ッッッ
だが、加藤とて神心会の誇りがある
戦わずに逃げるという選択肢など最初から存在していなかった
足に込める力を強め、加藤も覚悟を決める
「(上等だ………イクぜェ。せいせいどうどうと――――――――――だしぬくッ」
しかし、殺気を放つ琢磨とその殺気に呑まれつつある加藤の2人の間に割って入った人物によって
その空気が壊された
「待ちたまえ」
突如、自分の腕を掴んだ男性に加藤は視線を向ける
そこにいたのは、褐色の肌をした中国人だった
身長は目の前にいる琢磨とほぼ同じ・・・170後半あたり
髪は縛り、一本のオサゲを後ろへと伸ばしている
しかし、そんな顔の特徴などどうでもよくなるような事が加藤にはあった
それは彼の腕を握る力、筋力である
「弱い者苛めとは、関心しないな」
「あ、烈 先生!!」
「(ッ!?……引き戻せない……ッ なんてケタ外れな握力してんだコイツッ)」
拳法着の袖から僅かに見える腕の筋肉
それだけでこの中国人の肉体が普通じゃない造りをしている事を加藤は認識した
「加藤といったな確か。私に感謝するんだな」
「あぁ? 何をだよ?」
「私が後一秒、声を掛けるのが遅れていれば―――――――――顔面骨折、脳挫傷、内臓破裂、歯冠破折、失明………いずれにせよ、死に至る重傷もしくは一生に渡る重大な傷害が君を襲っていただろう」
そう言うと、烈と呼ばれた男は掴んでいた加藤の腕を放した
すでに琢磨は興が冷めたのか、ついさっきまで放っていた殺気を消して2人を見ている
加藤も拳を下ろし、戦闘態勢を解く
「それでも闘うというのなら、正式な場で立会人を用意してから行うがよい」
「アンタ………一体何者だ?」
「私の名は烈 海王。この鉄を含め、彼ら生徒達が通う川神学園で教師をしている」
「はァ!? アンタみたいな教師がいる訳ねェだろ!?」
「真剣だよマジ。しかも、中国では拳雄と称される程の中国拳法の達人だぜ?」
琢磨の言葉に驚きを隠せない加藤
川神には川神院を始め、多くの強者がいるとは耳にしていた
だが・・・学生やその教師までもがこれ程のレベルに達してるとは思いもしていなかった
「私の立場としてはこれ以上騒ぎを大きくするのは避けたい。 お前の気持ちが分からない訳ではないが……ここはお引き取りを」
冷静な口調で加藤を説得する烈
周りを見れば自分達を中心に川神学園の生徒を含め、多くのギャラリーが囲んでしまっている
これ以上、路上での騒動は神心会の看板に泥を塗ることになるだろう
「クソッ………」
「加藤さん。俺、明日の土曜日に神心会の川神支部に顔を出す予定なんですよ。そこで仕切り直し………じゃあダメですか? ルールとかはそちらにおまかせするんで」
思わぬ琢磨の申し出に加藤は鳥肌が立つもその誘いに乗る事にした
支部といえど神心会は自分のホームだ。そこなら立会人も用意出来るし
ルールをこちらに任せた以上、上手くいけば大金星も狙えるだろう
「へッ、いいぜ。明日の9時には支部にいろ! そこでオメェとの決着をつける………遅れるなよッ」
そう言い終わると、加藤はギャラリーをかき分けその場から去って行った
「いや~助かりましたよ烈先生、危うく苛められるところでした」
「アレはお前に対して言った言葉なのだがな………それよりいいのか鉄、お前はこれ以上遅刻出来ない身ではなかったのか?」
烈の言葉を聞き、彼の腕時計を見ると先程まで飄々としていた琢磨の顔が一変した
「ヤバッ もうこんな時間かよ! 急ぐぞお前ら! このままだと真剣で遅刻するぞッッ」
猛ダッシュで川神学園へ走っていった琢磨達の背中を見ながら、思わず烈は苦笑する
実は彼の腕時計は10分早く進めていたのだ
「さて、私も行くとするか」
周りにいる他の生徒に声を掛けながら、烈も川神学園に向かうことにした
作者コメント
クッキー
第4形態は反則だろ真剣で・・・・ヒロイン候補確定じゃねーかッッ
誰もクッキーがヒロインの作品を書いていないので自分がやろうと思います
流石にロボットとは・・・とお思いの貴方ッ 心配無用です
そこはしっかり考えてますのでご安心を
加藤清澄
なんでコイツ!?と思ったであろうキャラ第1号
原作ではBAKI以降の活躍が見られなかったので登場させました
拳銃と日本刀で磨いたケンカ空手・・・ではなく、純粋な神心会空手に改変
実力もコイツなら原作の夜叉猿に勝てるレベルになってます
まぁ、その今作の夜叉猿の強さが原作通りになるとは限りませんけど(笑)
烈 海王
『私が川神学園の教師だと!? 一向にかまわんッッ』
ようやく出せたッ お待たせしましたッッ
烈海王改め、烈先生です!
特別講師として中国語を担当しています。担当クラスは3-S
実力は当然壁越え。釈迦堂さんとガチでやり合えますッ
教師なので、登場回数は自然と増えるでしょう
あ、ピクルに喰われて無いので右足は健在です