真剣で格闘士(グラップラー)に恋しなさいッッ! 作:バランスのいい山本
頭の中に思い浮かぶ映像をそのまま文章に表わす・・・
まさに『言うは易し 行うは難し』ですねッ
質問や評価、絶賛募集中ですッッ!
「全校生徒の皆さまにお知らせします。只今より第一グラウンドにて決闘が行われます。内容は武器を使用しての戦闘です。対戦者は2-F所属の『川神一子』と、同じく2-F所属の『クリスティアーネ・フリードリヒ』の両名。見学希望者は第一グラウンドに集合して下さい』
転入生の登場に各クラスが落ち着きを取り戻し、2-Sに英雄とあずみが到着してHRが始まり、それも終わりに差し掛かった時だった。プツッという音が教室のスピーカーから聞こえ、それに続いて校内全域に向けたアナウンスが流れる
決闘・・・それはこの川神学園に存在するユニークなシステムである
生徒の自主性、競争意識を尊重する為に学長でもある川神院の川神鉄心が採用した制度であり、互いの合意で両者のワッペン同士を地面で重ねることで、白黒つけて戦う事を学校側が許可しているのだ
決闘内容は前述の戦闘でもいいし、スポーツや論戦等お互いが納得すれば何でもいい。さらに、その決闘による怪我や負傷は全て合法となる
武家の末裔が多いこの川神では、ある意味象徴的でうってつけともいえる校則だろう
「おいおい、転入して早々いきなり物騒な展開じゃねぇか。しかも戦闘とか本来なら職員会議で承認されてから行うものじゃなかったのかよ?」
巨人の言っている事は正しい。決闘における内容で肉体を使った戦闘に限り、事前に詳しい決闘法を明記し教師に届け出す必要がある。その後、職員会議をかけられ許可が下りてから漸く行えるものであり、今回のように短時間で決行される事などまずあり得ない
ただ、この規則には1つだけ特例が存在する
それは・・・・・
「あー、多分学長の特権乱用だな。今2-Fの教室から1人だけ尋常じゃない気を感じるし」
決闘という言葉を聞くと学園内のどこにでも即座に現れる学長本人の許可が下りた場合である
さらに言えば、その決闘自体を無観客で行える権限も持っており、学長はまさにこの学園における絶対権力者的存在なのだ
「おそらくは転入生を歓迎しようと一子殿が提案したもの。常に己を磨き続けるその真っすぐでひたむきな姿に他者をおもてなす心遣いまでお持ちとはッ………流石は一子殿ッ!」
自身の想い人である川神一子にひどく感銘を受けた英雄はプルプルと拳を震わせている
当の彼女はそのテンションの高さから若干、苦手意識を持っているが英雄の思いはまさしく本物だ。仲間内でも彼の片想いが成就することを願わずにはいられない
「さて、こうしてはおれん。愛しの一子殿の決闘ならば我も声援を送らねばッ 行くぞあずみ! すぐに第一グラウンドに赴くのだッッ」
「了解しました英雄様ッ ただちに一子様を応援できる特等席をご用意しておきますッッ」
待っていて下され一子殿、フハハハハハ―――――――――――――――と豪快な笑い声と共に教室から英雄が出て行き、それよりも先にあずみはその場から一瞬にして姿を消していた
「さて………英雄達は行ってしまいましたが、私達はどうしましょうか?」
「此方は遠慮するのじゃ、野蛮なF組共の決闘など見ても目の毒にしかならぬからな」
「俺も不死川と同じく、あと10年早く会えてれば最高だったのに……ロリでもない奴に興味はねぇ」
「んー………タクマが行くなら僕も行く」
「私はせっかくの機会ですので見に行くとして・・・賛成1に反対2。ユキは今のところ中立ですが、後は琢磨の回答次第ですね。どうしますか琢磨?」
冬馬の問いかけに各々がそれぞれの理由で口を開く
自分自身に委ねられた最終判断。琢磨も頭の中で決断を下し答えようとした時
「うぐゥ!?」
突然、準が呻き声を上げ悶え始める
よく見れば準の首には頑丈な鎖が幾重にも巻かれていた
「英雄様が自ら行くとおっしゃったんだ………当然、お前も行くよなァ鉄?」
片方は鎖分銅で準を縛り上げ、もう片方の手には小太刀を持ち、心に刃先を向けながらあずみが剣呑な表情で琢磨を睨みつける。こうなると準と心は賛同する他ないだろう
「そう怖い顔しなくても心配いらねェよあずみさん。俺も観戦しようと思ってたから」
「へェ、アタイはてっきりお前の事だから行かないもんだと高を括ってたけどな……」
琢磨の言葉にあずみは満足した表情で鎖分銅と小太刀を仕舞った
「まァ、ちょっとした退屈しのぎにはなるでしょう………なんせ」
そう言った後、琢磨は笑顔でハッキリとこう答えた
―――――『武道愛好家』連中によるチャンバラごっこなんだからな
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
琢磨達がグラウンドに出た時には既に大勢の人だかりが出来ており、まさにお祭り状態だった。その一角では英雄が特等席を陣取っており、赤いカーペットを敷き玉座のような椅子に座っている。それは最早生徒達の間ではいつもの光景なので皆一様にスルーしっぱなしである
さて・・・出てきたはいいものの、早速女子たちに囲まれてしまったモテ男冬馬は彼女達と共に観戦へ行ってしまい、準と心もあずみに連行されて英雄の元へと行ってしまった。残った小雪に琢磨は準達の面倒を見るように言いつけ、彼女を送り出す
自分も英雄の所に行けばいいかと思うかもしれないが、もしかしたら川神一子を応援している英雄の横で自分が彼女の事を格闘士目線からの評価として、思わず悪く言ってしまうかもしれない。そう考え琢磨はどこか別の場所から見物しようと探し始めた
「朝食用のお弁当いかがですかー!?」
「決闘トトカルチョッ どっちが勝つか当ててみないか!? さぁ張った張ったッ!」
商魂がたくましい生徒達はたとえ臨時の決闘でも対応が早い。そんな料理部から朝弁用のおむすびを購入し、頬張りながら琢磨は自分の見学する場所を求め歩き続ける。平均的な身長とはいえ場所が悪ければ、背伸びをしても見えそうもないだろう
いっそ花山がいれば逆に自分が入れるものの・・・と、ふと校舎を見上げれば屋上のフェンスから花山が酒瓶に口をつけながら、グラウンドを見下ろしていた。多分中身は川神水だとは思うが、彼が手に持っているとワイルド・ターキーにしか見えない
花山がこの場にいない今、自分はどうするかと考えている琢磨の視界に絶好の観戦ポイントを発見した。そこには1人の教師が立っていて、黒いオサゲが風に揺られている。服装はカンフー映画で見る典型的な拳法着で、その後ろ姿だけで何かを語っているかのような気さえした
「スイマセン、隣いいですか?烈先生」
「ん、鉄か。私は一向にかまわん」
失礼します、と身体を滑り込ませて琢磨は烈の隣に立った。ちょうど決闘に使われる範囲のグラウンドを一望でき、自分の横には武術に深く精通するあの烈海王がいる。琢磨にとってはまさに絶好の観戦場所と言えよう
「これより川神学園伝統、決闘の儀を執り行うッッ 両者、前へ出て名乗りをあげるがよい!」
老人とは思えない覇気を纏った川神学園の学長、川神鉄心の言葉に従いまず最初にポニーテールが特徴的な鉄心の孫娘の1人である『川神一子』が一歩前に出た
「2年F組 川神一子!」
続いて今話題の転入生クリスが一子に習い、同じように前へ出る
「今日より2年F組! クリスティアーネ・フリードリヒ!」
お互いが名乗りを終えるとクラスメイトを応援する声や転入生を歓迎する声など、生徒達からそれぞれ声援が送られる
「ワシが立ち会いのもと、決闘を許可する。決着がつくまでは何が起ころうとも止めぬが、勝敗が決したにも関わらず攻撃を行おうとするならば、ワシが介入させてもらおう。良いな?」
「承知したわッ!」
「承ったッ!」
鉄心の注意事項に2人はしっかりと了解し、それを聞いた鉄心は決闘の邪魔にならないようにその場から離れる。すでに一子とクリスは視線をぶつけ合い、バチバチと火花を燃やしていた
そんな2人の様子を眺めつつ格闘士達はお互いの意見を交換し、見解を出していた
「川神一子の武器は薙刀。一方、転入生はレイピアか………さてこの決闘、烈先生はどうお考えですか?」
「まず川神だが、彼女の戦う姿は何度か拝見している。薙刀の扱いに関して言えば、彼女が学園一で間違いない。そこまでの努力も称賛に値するだろう」
だが・・・と烈は最後に付け足した
「彼女のいる場所は既に――――――――――我々が二千年以上前に通過した場所だッッッ」
「相変わらずハッキリと言いきりますね烈先生は」
「厳然たる事実だ。異論は認めんッ」
「そりゃあ、紀元前も前から貴方達は武器を持って戦ってたんだ。土器なんて作ってた俺達が追い付くのは難しい話ですよ。なら、烈先生は転入生が勝つと?」
「僅差ではあるが実力は彼女の方が上なのは確かだ。しかし、その彼女の武器であるレイピア、あそこまで刺突に特化した剣術は初めて見る。槍よりも短く、細く、脆い……あのような武器が実戦で使えるのか?」
「レイピアの発祥は16~17世紀のヨーロッパと言われ、主に護身や決闘の際に使われていた紛れもない武器ですよ。ああ見えて重さはありますし基本は両刃、一点に加わる威力は相当あります。それにレイピアを使う場合、敵の攻撃は受け止めるのではなく回避。その隙を狙って一気に仕掛けるスタイルになるでしょう」
「そうか、ならば川神は懐に入られない以上一方的に攻められる。だが、不用意な攻撃は逆にクリスティアーネに反撃の機会を与えてしまう……」
「武器の差、場の変化によってはどちらに転んでもおかしくない―――――思ってたよりも少しは楽しめそうだな」
一子の強烈な薙刀がクリスを襲うのか、それともクリスのレイピアが一瞬で一子を仕留めるのか・・・兎にも角にも
《いざ尋常に――――はじめいッッッ》
開始の合図が鉄心より告げられ
戦いの火蓋が切って落とされた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鉄心の合図から30秒が経過している
一子は薙刀を低い位置で構えたまま動かなかった。その構えは堂に入り、一切付け入る隙がない
クリスも剣先を一子に向けたまま動かない。だが、すぐに攻撃できるよう一子を見据えている。獲物を逃さない猛禽類のような目をしていた
最初の立ち上がりは相手の出方を窺う
とても静かな時間だった
「(クリスの放つ突きが、どれくらい速いのか最初に確認したかったけど………)」
一子は構えを解かないまま、頭の中で考えを巡らせる。親友である京は言っていた『自分よりも強い』と・・・
一子は京の実力を充分に知っているつもりだし、その彼女がクリスの実力を見誤っているとも思えない。ならばクリスは自分にとってかなりの強敵である事に違いない
さらに言えばクリスとの決闘は今回が初めて。その彼女が繰り出すレイピアの攻撃速度が一体どれほどのものなのか? その速さは自分が攻められた場合、対処できるのかどうか・・・それを確かめるべく、一子はクリスの先手を待ち彼女の初撃に備えてる事にしていた
だが、クリスは一向に攻める気配がない。薙刀とレイピア、そのリーチの差は歴然であり、また一子が薙刀を低く構えている。その構えはクリスの攻撃に対し、斬る・突く・払うのいずれでも即座に反撃出来る体勢だった
その状態の自分に仕掛けるほどクリスは甘くなかった。もしも相手の立場に立っていたら自分も同じ様に迂闊に攻めたりはしないだろう。かといって相手の攻撃を誘う為にあえて隙を作ってやるのも、実力が未知数なクリスに対してはリスクが高すぎる
「(このままじゃあ埒が明かないわね………ここはクリスの攻撃に警戒しつつ、間合いに入らせないように攻めるわッ)」
この決闘で初めて仕掛けたのは一子だった
「いっけぇぇぇぇッッ!」
「ッ!………勝負ッ」
小さく振り上げた薙刀をクリスの頭にめがけ勢いよく振り下ろす。大振りではないものの、速さの乗った薙刀の斬撃は直撃すればひとたまりもない
クリスは軽やかなステップで冷静に一子の攻撃を避け、すかさずレイピアを一子に向け直す。が、すでに一子は追撃の体勢に入っておりクリスは踏み込む事が出来ない
「――――ッ!」
「残念だけど、間合いには絶対入れさせないからッ」
一子はクリスの空けた距離を再び詰めて今度は突きを繰り出す。それに対し、彼女が横へと回避したのを見た一子はそのまま休ませることなく薙ぎ払いを仕掛ける。この連撃にクリスは慌てることなく大きく跳躍することで逃れ、再び一子との距離をとる
レイピアは突きの攻撃が主な故、その場に立ったままでの攻撃では腕の力のみなので威力が低くなってしまう。大地を蹴り、充分な加速と合わせた鋭い一撃にこそレイピアの本領が発揮されるのだ
「(そう簡単に踏み込ませてはもらえないな………だが、その攻撃がいつまでも続く訳ではあるまいッ)」
クリスは薙刀のリーチを生かした一子の素早い攻撃の数々に徐々に追い詰められつつあった。だが、決して焦ってはいない。これまでの攻勢で一子はクリスに一撃も当てられておらず、さらにクリスの目は攻撃の速さに慣れつつある。確実に見切れるように気を窺いつつ、クリスはレイピアを握る手を強めた
「その腕……貰ったァッッ」
「(ッ!……ココだ!)」
攻撃の手を緩めない一子はレイピアを持つ右腕に狙いを定め、薙刀を斬り下ろす。だが最初の頃に比べると僅かに振りが大きい。ここが反撃のチャンスと睨んだクリスは、迫りくる薙刀が当たるギリギリのところをバックステップでかわした。そこから自分の足に力を送り、一気に解放―――――
「―――――ハァァッ!」
電光石火の如き速さで一子の間合いに踏み込むと腕の力も加えつつ、レイピアによる高速の突きを繰り出した
「わッッ!?」
この状況で反撃に出てきたクリスに一子は驚きはしたものの、彼女は当初からクリスの突きを警戒していた。そのおかげで身体がすぐさま反応し、振り下ろしていた薙刀を持ち上げると柄の部分を突貫してくるレイピアの刀身に当て軌道をずらす。それと同時に上半身を捻り、それに合わせて足を上手く運ぶ事によってクリスが繰り出した渾身の一撃を避ける事に成功した
この時、一子とクリスの顔は互いにかなり近い状態であり、見合わせた2人は決闘の最中でありながらも思わず笑ってしまう
「今のは危なかったわ……やるわねクリスッ!」
「そちらも中々、流石は日本のサムライだなッ」
互いの健闘を讃えると仕切り直すかのように両者同時に後退し、間合いを空ける。そして一子は薙刀を、クリスはレイピアをそれぞれの形に構え直した
一瞬の静寂の後、観客である生徒達からは爆発するような歓声が上がる
そんな中、冷静に相対する2人を見て琢磨はニィ・・・と笑みをこぼす。烈は無表情ではあったが、内心穏やかではなかった
「い~~~~い迅さだ。今のが当たってたらヤバかったな」
「(アレがレイピア本来の実力――――――――見誤っていた………華奢で頼りなさそうなあの外見に……あの華やかな装飾に……秘められる冷酷な意思を見損なっていた……ッッ)」
「互いの実力が充分に分かった今、この後にとる行動で結果は決まる。決着の時はもう間近ですね・・・さて」
――――どうやらここからが本番だな一子
そう呟いた琢磨の声が沸きあがる生徒達の歓声にかき消された
「続けて行くぞッ、次で必ず仕留めるてみせるッッ!」
一子の攻撃に目が慣れたクリスは今度は自分から仕掛ける為、構えを取る
「上等よッ、返り討ちにしてやるわッッ」
一子もそれを黙って受け入れる事はせず、吐き捨てるように叫ぶ。たしかにクリスの速さは尋常じゃなかった。しかし、それはあくまで攻撃した際の加速のみ。全体的な速さで言えば俄然自分のほうが有利なことに変わりはなく、このまま一気に勝負を決めても勝算は充分にあるはず・・・
そう思っていた矢先の出来事だった
「川神一子オォォッッ!!!」
突然、グラウンドに轟く自分の名前を呼ぶ声。その声量に一子本人だけでなく対戦者であるクリスまで思わず振り向いてしまった
「え、な、何!? って………テッちゃん?」
「自分達の決闘を邪魔するとは、何者だ!?」
そんな2人を余所に琢磨は言葉を続ける
「速さで競うな お前の持ち味をイカせッッ」
琢磨の言葉に多くの生徒達が首をかしげる。その言葉に込められた意味を知る者など、それ以上の数の生徒達が理解出来ていないだろう。だが、それでいい・・・他者が分からずとも琢磨にはなんの問題もない
―――――――
「………ッ! お、押忍ッ」
琢磨の意図を汲み取った一子は気合の入った声で応え、視線を再びクリスに戻す。クリスもそれを感じ取り、琢磨の言動を不服に思いながらも目の前の戦いに集中することに
「よーしッ 再開するわよクリス!」
「いいだろう、あの者が言った言葉の真意……この身で確かめるッ」
再開直後、一子は持っていた薙刀を高速回転させ始める。回転によるスピードと遠心力を攻撃に上乗せし、同時に攻撃の出処を相手に読ませないようにしている。おそらく次の一撃で決める算段だろう
そう予測したクリスはいかなる攻撃が来ようとも迎撃できるように肩の力を抜き、身体に余裕を持たせて構える
「(次の一撃を全力で避けてその隙を突くッ 先程のように逃したりはしない!) 」
静かに待ち構えるクリスにまるで臆する様子もなく、一子は薙刀を回転させながら最短距離で彼女の間合いへ踏み込んだ
「川神流――――――――」
頭上へと振り上げる薙刀。その行く末は頭に・・・と思いきや、その刃筋を斜めに流し、脚へめがけて振り下ろされる
「【山崩し】ッッッ」
クリスの剣術であるフェイシングの試合において有効打撃となるのは胴だけだ。しかし、薙刀の試合ではすねへの攻撃もルール上有効である。薙刀とレイピアの特性をよく考えた一子なりの『持ち味』を生かした文句なしの一撃であった
ただ、この事実とは別に彼女には大きな誤算がいくつかあった
まず1つ――――一口にフェイシングといっても多種多様なルールがあり、その中には胴だけでなく全身が有効打撃部位になる種目があるという事
次に2つ――――クリスが幼い頃から習っていたフェイシングというのは、まさにその全身有効打撃のルールで行うものであった事
最後に3つ――――一子がその存在を知らなかった事
「見切ったッ!」
「ッ!?」
以上の3つの事柄から一子の渾身の一撃がよられるのは当然であり、当たると確信していた一撃をかわされクリスに決定的な隙を与えてしまうのは必然であった
「【零距離刺突】ッッ」
クリスは十分な余力をもってレイピアに力を込め、こちらも必殺の突きを一子に繰り出した。一子の両足はベッタリと地面に着いており、自力での回避は不可能だった
・・・・・そう、『自力』だけでは
「うおりゃあァァァッッ!」
一子は振り下ろしたままになっていた薙刀の刃先を地面にそのまま突き刺し、腕の力だけを使って棒高跳びのように斜め前へ身体を浮かび上げた。両足も宙に浮き、腹筋を用いて身体全体を真横にするよう引き寄せる
その直後、クリスのレイピアが空気を切り裂くように一子の真下を通過した
「何ィッ!?」
一子はそのまま身体をバネのように伸ばすと同時に薙刀から手を放す。そして両手が自由になったままクリスの背後へと着地に成功した一子は、すかさずクリスの腰を両腕でがっちりとホールドした
掴まれた瞬間、クリスの背筋がゾクッと凍りつく
―――――――引っ掛かったッッッ
罠ッッ ブラフ 計画的……
「川神流―――――」
この技は・・・ッッ バックドロップ!!!
あれを自分がやられるというのか・・・
日本のサムライにッッ
凄いスピード・・・青空
そうか、今自分は真上を向いているのか
校舎の3階・・・ッ 2階・・・ッ
一回転 逆さになっているのかァ・・・
1階、学園の生徒・・・って着地が近い!!!
茶色い 受け身・・・無理だ・・・
ぶつかる・・・・
「【百舌落とし】ッッ」
ッ!!!!!!!!!!!!
………………………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そこまでッ 勝者、川神一子!」
薙刀の大技をかわされてからの彼女の回避、そして起死回生のバックドロップ一閃による決着。誰もが予想もしていなかった結果に観戦していた生徒達から物凄い勢いで驚きと歓声が上がる
「持ち味、イカしやがったなァ~~~」
琢磨はこみ上げる笑いを抑えながら満足そうに呟いた
「成程……長さとしなりを利用した薙刀を含めた棒術特有のなせる技。これがお前の言っていた持ち味か鉄?」
「それもあります。あとは彼女が素手でも充分戦えるという事。武器を使用しての決闘ですが、何も武器だけで戦わなければいけないなんてルール、ありませんからね」
「まさか相手が自ら得物を手放し、投げ技を仕掛けるとは思うまい……固定概念に囚われなかった川神に今回は軍配が上がったという事か」
そんなやりとりを烈としていると、決闘を終えた勝利者である一子が2人の元へ駆け寄ってきた
「テッちゃん、烈先生、ありがとうございますッ! 2人のおかげで私、勝つ事が出来ました!」
「その呼び方やめろって前から言ってるだろ一子。と、それよりも……ナイスファイト」
「あれは川神の実力で手に入れた勝利だ。我々がした事など、それほど重要視する必要はない」
「そんな事ないですよッ! テッちゃ……じゃなくて鉄クンのアドバイスがなかったら、私あんな事思いつかなかっただろうし、もし先生が決闘前にリストバンドの重りを外すよう言ってくれなかったら、最初の突きでやられてたと思います! この決闘で私、また一歩お姉様に近づけたような気がするわッ!」
―――――本当にありがとうございましたッッ!
嬉しそうに笑いながらそう言うと、一子は2人に深く頭を下げた
そして後ろから呼ぶ仲間達の声を聞き、失礼しますッともう一度お辞儀をすると一子は皆の所へと戻って行った
「へェ……なるほどね」
「ん? どうした私の顔など見て」
「最初、一子に対してあんな事言ってたのに、わざわざ重りを外すように言った烈先生は結局、一子の事を応援してたんですね」
「………私は言ったはずだ、彼女の努力は称賛に値すると。ならばその努力の成果、実戦で実らなければ何の意味も持たん………そう考えたまでだ」
「……俺、前々から先生に言おうと思ってたんですけどね」
「ん………」
「アンタさ、ほんっ……と優しいのな」
顔が瞬く間にカァ…と赤なり、それを隠すように烈は顔を背けてしまう
「決闘は終わった、さっさと教室に行くんだッ」
顔を見る事なく言う烈に思わず苦笑しながらも琢磨は指示に従って教室に戻る事にした
作者コメント
川神一子
意外に彼女にもグラップラーの素質あると書いてて思った
クリスに勝てたことから分かるように若干強化しました
それと時々、休日に河川敷で琢磨と素手でのみ手合わせをしてます
だが、ヒロイン候補ではありません。だってゲンさんいるしねッ!
英雄とは・・・やっぱ無理あるかァ