真剣で格闘士(グラップラー)に恋しなさいッッ! 作:バランスのいい山本
ハーメルンよ、私は帰って来たッッ
はい、冗談抜きでスイマセン。更新再開いたしますッッ
今回のバキキャラはほんの少しの登場ですが、ここで終わるような人ではありませんッッ
まぁ、次がいつになるかも分かりませんケド……
朝の大半を決闘の時間に割きはしたものの、その後に大きな変化がある事もなくいつも通りの授業を終えた川神学園。いつものように帰りのHRを終え、部活動に所属している生徒達は各自の活動場所へと足を運ぶ。文武両道を重んじているここ川神学園は敷地面積が広いだけあり、単なる運動部の部室や用具室だけでなく武道を学ぶための施設も充実している
弓道場もその中の1つであり、今日も弓道部員達は練習に励んでいた。その空間は他の運動部とは一変して静寂なる空気が支配し、たまに弓が矢をを射た後の弦の震える音と、弓から放たれた矢が的を射る音だけが場内に鳴り響く
そんな中、弓道場の脇にある長椅子に腰を掛け休憩している部員が1名……彼女の名は『椎名 京』
京は弓道部に所属しているものの、あまり熱心に顔を出す部員ではない。むしろこうして弓道場にいる事自体が逆に稀なぐらいの幽霊部員である。しかし彼女の家系は椎名流弓術という優れた弓使いという事もあり、京自身幼い頃からその技術を父親から受け継いできた。そんな京の存在が他の部員達の刺激になればと、クラスの担任でもある顧問の小島梅子に入部を求められ、京は条件付きではあるが形式上の入部をしたのである
だが、何故京はこうも弓道部の活動に消極的なのか?
それは彼女が元々人付き合いの悪い性格をしている事も原因の1つだが、実はもう1つ大きな要因が存在する
弓術と弓道………武術と武道の間にある壁の存在だ
心身の鍛錬を目的とした『礼射系』の弓道。その他の剣道や柔道など一般人が習う武道全般は、こうした礼を重んじる儀礼・儀式的な要素が加味されてた上で行われる意味合いが強い
一方、戦場での実利を重視し戦う為に築き上げられ、発展した『武射系』の弓術。こうした古来から続く武術の流派は今でも数多く存在し続けており、現代に広く普及されている武道と共存しながら自分達の流派を守り続けている。京が父親から継承した椎名流弓術も分類上こちらに入る
その自分と他の部員達との大きな隔たりがある為、京は余計に部活に出たがらないのだ
「ふぅ………」
そんな京ではあるが、弓の実力は当然一級品。その証拠につい先程まで彼女が矢を放っていた的には矢が一本、ど真ん中に刺さったままであった。その周りには他の矢が刺さった後さえも見られなかったが、的の周りに散乱している縦に割られた数十本にもなる矢の破片が彼女の驚異的な集中力と命中精度の高さを物語っている
「よう、お疲れ。精が出るな」
他の部員達の矢を撃つ姿をぼんやりと眺めていた京は背後からそう声を掛けられ、思わず身を竦ませてしまう。普段から存在感を消して周囲に溶け込むのを得意とする京がこうも簡単に背後からの接近を許す事はない。京が少し慌てて振り返ると、そこにいたのは鉄 琢磨だった
「鉄先輩………ども」
自分を出し抜く程の人物であった事に納得のいった京は表情を動かさぬまま、言葉少なく琢磨に視線を向ける。風間ファミリーを除く唯一の友達でもある小雪を通して一応琢磨とは面識があり、京がファミリー以外で会話を交わせる数少ない男子でもあった
「よく来たな。弓子が最近部活に顔を出してくれないって嘆いてたぜ?」
「腕が鈍るといけませんので……先輩はどうしてですか?」
「別に弓道を習いに来てるんじゃないんだぜ? ちょいと小島先生に用があってな」
「梅先生なら今日は職員会議に出てまだ来ていませんが……」
「そのようだな。んじゃ、少しここで待たせて貰うとするか」
琢磨は1つ間を空けて京の横に座る。そしておもむろに取り出したジュースの缶を1つ京に手渡す
「………『天帝ハバネロカイザードリンク』」
「当たり付きの自販機で買ったらそれが当たったんだが、確か椎名はそういうの好きだよな? まだ空けてないから飲んでくれや」
「せっかく当てたんだし、いい機会だから先輩飲んでみれば?」
「俺は劇物を身体に取り入れる趣味はない」
「辛党仲間が一向に増えない……。こんなに赤いのに、鉄先輩はいらないと言う…」
残念そうな顔を浮かべながら京は缶の蓋を空けると、躊躇なく真っ赤な色をした液体を飲み始めた。京は大の辛党であり彼女は食べる料理を全て激辛に味付けしてしまう。さらに京は一応料理が出来るため弁当も持参してくるが、その弁当の白いご飯にさえ粉末唐辛子を振りかけて真っ赤な赤飯にする程である。因みに、今彼女が飲んでいるドリンク……一般人が飲むと半日以上に渡って舌の感覚が麻痺する程の激辛だ
「あ、そうだ椎名。1つ聞いておきたかった事があるんだが、お前以外の『天下五弓』にカウントされている残り4人について、何か知っていることがあれば教えてくれないか?」
「それは別に構いませんけど、随分情報が早いですね。まだ正式に公表すらされていない筈なのに……」
「俺がいつも世話になっている人で、常に世界中の格闘技者や武道家の情報が頭ん中に入っているジッちゃんがいてな。俺もその人から聞いて初めてその存在を知ったんだ。まぁ、そのジッちゃんでも今のところ分かっていたのは椎名流弓術継承者 椎名京――――お前1人のみ」
「どうも、天下五弓です。えへん」
「しかし、弓道部の幽霊部員がそんな大層な肩書を持っているとはな……意外に世間は狭いとはよく言うが、全然知らなかったぞ」
「私はそういう呼称、別に興味ないので……しょーもない」
「おいおい、せっかく名誉ある称号に冠したというのにその口振り……なら、お前の弓術は一体何の為にある?」
「そりゃあモチロン……カッコイイ彼氏のためさッッ」
京は両手で頬を挟みつつ、照れたような表情を作ってそう言い切った。彼女の言う彼氏というのは直江大和の事を指している。一応付け加えておくが京と大和は恋人同士……という訳ではない。大和は京が子供の頃からずっと一途に思い続けている相手であり、京にとって大和はこの世の何よりも大事な存在であった
「………ッは 何が出てくるかと思いきや……男かよ。惚れた男の前で―――――『ダーリン私、強いでしょ』ってかッ……?」
皮肉った笑みをこぼす琢磨を余所に、京はどこからともなく取り出したハンカチの匂いを自分の顔をうずめるように嗅いでいた
「ハァ~……なんて刺激的な香りッッ」
「フ、愛しの彼氏から貰ったプレゼントか……」
「ううん、これは川神市内にある普通のお店で買った普通のハンカチだよ」
「ただのハンカチ………だと? ど、どうしてそんなものをお前は嗅いでいる?」
琢磨はひどく困惑した
彼女の嗅いでいるハンカチはてっきり大和からの貰い物だと思っていたからである。そんな京は琢磨の疑問に答えるように語り出した
「大和が生まれてからずっと住んでいる
「いや、それならアイツでも流石にハンカチぐらいなら……」
「そんなバカを言っちゃいけない……大和が使っていたものなんて、私には刺激が強すぎてッッ」
「ワケがワかんねェ……片想いにしろ、直江の事好きなんだろ?」
「無論そうだよ……私の大和への想い、話し始めたら季節が三度は巡る」
冗談とも本音とも捉えかねない京の言葉
しかし、その言葉に秘められし覚悟はまさしく本物だ
それは仮に琢磨が直江を殺そうと動いたならば、京も間違いなくそれを阻止する、もしくはその為に殺す覚悟を持って闘うことだろう。だとすれば……それも1つの武の在り方と言えるのかもしれない
たった1人の男を愛するために、護るために使われる武術……
「(戈を止めると書いて『武』―――――つまりそれは争いを止めると解釈する。自分の腕を必要以上に磨こうとせず、戦う……人と関わることも避けているコイツが天下五弓に相応しいのかと思っていたが……なるほどね)」
椎名 京―――――彼女もまた、正真正銘の武人
恋心を隠さず、断固たる形で揺るがぬ意志を見せ付ける京の姿を見て、彼女に対する自身の評価を改める事にした琢磨であった
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「はい、そうです。……西日本に1名、中国に1名、残り2名の所在は彼女も知らないようで……はい。いやいや、これぐらい礼には及ばねェよ。ジッちゃん」
あの後、京から残りの天下五弓について聞いた琢磨は早速その情報を電話相手に伝えていた。強者を見聞することが何よりも大好きで、その渇仰の為なら自らの命さえも惜しまない考えさえ持つその人になり替わり、琢磨は彼が運営する地下闘技場の現格闘王者でありながら、情報収集兼伝達の役目を担っている
「え、なら今度中国に探しに行く? 無茶言わないで下さいよ。そっちは中国武術省に探させるよう烈さんに伝えておきましたから。他の2名に関しても、九鬼の力を使ってでも必ず見つけ出しますから……それよりも、ジッちゃんは来月の俺の挑戦者でも選定して家で大人しくしていて下さい。いいですね?」
しばらく何度も念を押した琢磨は、ようやく携帯を閉じて通話を終わらせた
彼がこうして足代わりになって動いているのは、現在患っている病を一刻にでも治してもらおうという思いがあってのことなのだが、どうにもあの人はジッとしているのが性に合わないようだ
「さて、
そう独り言を呟くと琢磨は明日の試合に備え鍛錬を再開し、再び架空の相手に対して拳を構えた
時刻は夜の7時。現在、琢磨は渋川寮の庭にいた。彼は毎週土日の休日はこちらで過ごす事にしている。着替えの予備は既にこちらの自室に置いてあり、その他諸々の必要な道具も揃っているので金曜日になると学校から直接渋川寮にやって来るのだ
―――――ッッ!
自分自身が作り上げた対戦者から繰り出される連撃。それは常人が見ればあまりの速さに両手足が消えてるようにもさえ見えるが、その実態は正拳、前蹴り、貫手、上段・下段の回し蹴り等々……空手に見られる技が大半を占めていた
琢磨はその嵐のような拳足の打撃を躱し、弾き、受け流す。自分の身体に刷り込ませるかのように受けに徹底する時間がしばらく続いた……が
「―――――邪ッ」
顔を狙った正拳を崩れ落ちるようにギリギリで避けた際の体勢を利用した右ハイキックが顎に一閃。相手の空手家はそのまま地面に吸い込まれていくように倒れ、消滅した
「お~、凄いねタクマ」
「……まぁ、こんなものか」
縁側で大人しく見ていた小雪が琢磨に1人拍手を送った。彼女は琢磨の独闘で作り上げた敵を視認出来ており、こうして寮で鍛錬する姿をよく見学している。一戦一戦時間が掛かるため退屈ではないかと思ったこともあったが、それでも見ていたいと小雪に押し切られてしまい、今日もこうして彼女は見に来ている
「どうしたのタクマ、勝ったのに元気ないぞー?」
しばらく立ったまま考え事をしていた琢磨に小雪が少し腰を落として顔を覗き込む。そんな上目遣いの彼女に琢磨は小さく笑むと、何も言わずに頭を優しく撫でた
琢磨はここ最近、自分の強さに疑問を感じている
己の身体を一切甘やかす事無く鍛え、闘技場へと足を運んでは自分の前に立ち塞がる世界中の強者達と闘いに明け暮れる日々。身体能力、戦闘技術だけを見れば今の琢磨は間違いなく強さの壁を越えているはずだ
しかし、それでも拭い去る事の出来ないこの恐怖心
事の発端は去年――――2008年の9月
世界中を激震させた中国武術史に残る未曾有の一大事件にまで遡る
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修学旅行で琢磨達が中国に訪れたちょうどその年、中国では100年に一度の大擂台賽が行われていた。学長とも交流があった中国武術省は特別枠として川神学園の生徒及び教師数名の出場を許可。鉄琢磨、花山薫、生徒会長、ルー・イー、そして川神百代。以下5名がその大会に参戦
そしてその当時、百代が戦った最後の相手こそ……前大擂台賽覇者―――『郭 海皇』その人であった
中国全土の烈も含めた海王達を統べる『海皇』の称号を持つ、中国武界の頂点に君臨する齢146の超武術家VS世界最強の武神と呼ばれた20歳にも満たない日本の女子高生
『女、子供、年寄りなど体力の恵まれぬ者……力無き者達にこそ武術が必要なんじゃ。弱者に使えぬ武術など、いったい何の意味があるというのかね』
そんな言葉を残している郭海皇を襲ったのは、およそ彼を持ってしても武術と呼べるものではない『何か』だった
中国における気の概念を超越したビーム砲、気弾、両腕を纏う紅蓮の炎と絶対零度の冷気。弱者には到底使う事など出来ないであろう『川神流』の数々
それでもなお、武術の理合を極限に生かして百代と渡り合った郭海皇。最後には敗れそうになるも、武の真髄『擬態死』を用いて勝負を『引き分け』に持ち込んで決着。後に百代は事実上【川神海皇】の称号を得る事になった(本人は丁重にお断りしているが……)
その激闘を眼前で目撃していた琢磨に両者の物とは別の衝撃が身体を走る。自分が目指す『地上最強』の道において最大の障害となるだろう武神――――川神百代
彼女のいる場所がすでに自分とは全く別次元の所にいる事を認めざる負えなかった
いくら他の武道家に勝利しようが、自分で創り上げた彼女を相手にしようが、このままでは決して辿り着けないという確信があまりにも大きすぎる
今は闘う事が互いに禁じられてはいるものの、そんな彼女がもし敵に回ったら勝つ事がかなうのか?
(俺は………俺は………)
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「タ-クーマーッ!」
「ッ!……ユキ、どうした?」
「ハゲがご飯の時間だって……タクマ、ホントに大丈夫?」
「おぅ、心配かけて悪ィ……メシ、だったな。行こうぜ」
柄にもなく少しの間、物思いにふけていたようだ
普段から小雪の前では平静を装っている琢磨にしては珍しい
今日、京の覚悟を目の当たりにして自分なりに思うところがあったようだ
「ねぇ……タクマ」
「ん?」
少し先を歩いていた小雪が立ち止まり、こちらに振り向く
「何も恐がる事ないんだよ? タクマは強いんだから。だからホラ、笑って笑ってッ」
自分の心を見透かしたかのような一言
あぁ……そうだ……そうだったな
――――勝算があるからやる、ないならやらない……俺の闘いは本来そういうものではなかったな
「……ハッ! あったり前だろ!? 俺はお前達のリーダーなんだからなッッ!」
そして、俺は勝つんじゃない……負けないんだ
その為に俺は強くなるんだ
護る為に……止める為に
それでもいいよな……『武人』なんだからさ
作者コメント
椎名 京
彼女でオリバネタをやってみたいという小さな夢が叶いましたッッ
え、ファミリー以外のキャラとのからみで喋りすぎ?
そこは小説である以上、少し妥協して下さいッッ
個人的には大和X京のカップリングですが、書く気は今のところナシッ
展開上、いつの間にか付き合っていたりするかも
郭 海皇
回想(?)シーンにて登場した海皇様ッッ
バキファンの皆さんにまじこいにおける百代の強さを分かって頂きたく、戦ってもらいましたッッ
100年経ったら、真剣で再戦してそう……
大擂台賽が終わってしまったのはアレですが、それに替わる武術大会的なイベントを書けたらいいなと思います。次回の登場予定は未定ですが、もう1回ぐらいは流石に出したいッッ
作者から最後に一言
『貴様、週1更新という約束を違えたなッッ!?』
というオーガの声が聞こえてきそうな感じですが、ホント返す言葉もないですハイ
更新を期待して下さっていた人達を裏切るような真似をして、本当申し訳ありませんでした
次回から対策として、何か遅れそうになるような事情があれば『活動報告』と呼ばれるところに書き込もうと思います。もっとも、しっかり週1で更新すれば問題ない話ですが……
それでは、後書きに長々と長文失礼しましたッッ