どうやら俺はブラッキーになってしまったようだ。 作:ususiojagar
「マナブ……早く旅に行きたいね。お母さんに会えなくなるのは辛いけど、お父さんに久しぶりに会えるかもしれないし、私もう学校行きたくないや」
「ブィー」
とりあえずそれっぽい鳴きマネをしながら、頭を擦り付ける。
ユズちゃんのお父さんはジムの管理職人らしい。
どこのジムか詳しくは言っていなかったが、そういう話しをユズちゃんとお母さんがしているところを盗み聞きしたのだ。
もう3年ほど会っていないんだとか。
「じゃあもう電気消すね。マナブ、明日も辛いだろうけど頑張ろうね」
まったく……。
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「はぁ、貴方たちあれから少しは特訓を積み増したか? まったく成長が見られませんが? むしろそのイーブイ、日に日に弱っていっていますよ?」
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「ついにマロンのたいあたり一回で倒れるだなんて、ああ、そうですか。マロンが成長しているのですね」
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「お母さん、ジョーイさんが言っていたんだけどマナブの傷の治り、明らかに遅いんだって……。大丈夫かな?」
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「たいあたりよ!」
――ドガッ
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――ドガッ、ドガッ
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「マナブ、今日は学校やすもっか」
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――ドガッ、ドガッ
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「マナブ、マナブだって絶対強くなれるからね。お母さんが言ってたんだ、ポケモンにはレベルっていうのがあるから、どんなポケモンだって平等に強くなれるチャンスがあるんだって。だからきっとマナブだってきっといつか勝てるようになるよ!」
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――ドガッ、ドガッ
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「マナブ、今日は……ううん、今日はもう……休もう」
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――ドガッ、ドガッ
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「お母さんが、卒業式まで休んで良いよって言ってくれたよ、マナブ。もう戦いなんて……あんまりしたくないよね。ううん、別に良いよ。マナブのためだもん」
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――ドガッ、ドガッ、ドガッ
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「マナブ、明日で終わりだから、明日学校行けばもう冒険に出られるから……」
*****
夜の森の中。
木が何かにぶつかり鈍い音が連続で聞こえる。
――ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ
何をやっているかって?
攻撃の対処の練習に決まってるだろそんなもん。
こんなままで良いはずがない。
口で何とか縛りつけた丸太が、俺の体に襲いかかる。
俺はそれを何とか躱す。
ここ2週間で俺もかなり避ける技術を身に着けたと思う、たぶん。
少なくとも、何もしていないよりは絶対に能力を上げているはずだ。
もしかしたらレベルが上がっているかもしれない。
実際、この世界でレベルが上がる条件はポケモンを倒すことかどうかなんて、わかんないんだ。
むしろ、経験値という意味ではこういった単純な訓練だって、十分な経験と言えるはずなのだから。
――ドカッ、ドカッ、ドカッ、ドカッ
何度だって、何回だって練習できる。
最後だけは勝ってあげたい。
あのチヅルのマロンに勝ってやりたい。
この感情は俺がポケモンだから生まれたものなのだろうか?
いいや、そんなもんは関係ないはずだ。
ユズちゃんは気が付かれていないと思っているのかもしれないが、ユズちゃんは戦いがどんどん嫌いになってきている。
もう何連敗した?
数えきれない程負けたんだ。
初心者なのに、初めてのポケモンなのに、明らかに弱いポケモンを掴まされて。
ゲームだってこんなクソゲー、俺なら5回も負ければすぐ止めてしまうだろう。
けれどユズちゃんにとってはこれが現実なのだから、戦わなくてはいけない。
そして、絶対に負ける。
同学年の少女達が、やれ自分のイーブイは防御が高い、スピードが速いなど言って盛り上がっている会話が、どれほどユズちゃんにとっては羨ましくて、妬ましくて、聞きたくもない会話であったことだろうか。
避けろと言って、避けれないそれが、どれほど辛くて、俺とユズちゃんの間にあるはずの絆を疑うことになっただろうか?
――ドカッ、ドカッ、ドカッ、ドカッ
絶対に、絶対に、負けられないんだ。
実はそれなりに、俺だって強くなれる算段がついている。
見つけたのだ、とある秘密道具を。
その名も「かみなりのいし」。
普通に地面に転がっているんだから、俺も見つけた時はかなり驚いた。
これは神様が与えてくれたとしか思えなかった。
だから、特訓に特訓を積んでいるのだ。
サンダースなら種族値と言われる値が大きく変わって、イーブイなんて相手にならないくらい強くなれるはずだ。
明日、ユズちゃんにこれを渡して、サンダースになった状態でマロンを倒す。
もう頭の中で何度シュミレートしたことだろうか。
絶対に勝たなくてはいけないのだ。
その時だった。
突然背後の草が揺れ動く音がした。
振り返ると、そこにはこの辺りでは珍しくもない、イーブイ種だ。
『お前またここで特訓してるのか?』
不思議なことに、心を通わせることの出来るポケモン同士だと、自然に会話がなせる。
『ああ。そうだ、悪いんだがちょっと相手してくれないか?』
『ああ良いぜ、そろそろ俺もレベルアップしそうなんだ。お前でレベルアップしてやる』
まったく羨ましい限りだ。
一般的に、ポケモンというのは野生の感的な何かで自分があとどれくらいでレベルアップするのか分かるらしい。
『じゃあいくぜ、たいあたり!!』
俺は一気に足を加速させ、相手の懐目がけて駆ける。
『おっと、あぶねぇ。次はこっちの番だ、たいあたり!』
今度は相手がこっちに突っ込んでくる。
いまだ!!
特訓の成果を見せてやる。
俺は相手のたいあたりを避けない。
そのままたいたりを繰り出し、頭と頭をぶつけあう。
そうこれが俺がたどり着いた結論だ。
もちろん避ける練習はした。
しかし、俺はアニメを思い出したのだ。
アニメのポケモンは技を技で相殺するということを普通にしていたではないか。
あれなら俺でも出来そうだとそちらの練習をしていたのだ。
――ゴチン
相手のイーブイは白目を剥いて倒れた。
やった。
ついに俺は初めてポケモンバトルで勝ったのだ。
「……マナブ? マナブなの?」
俺は一番見られたくない瞬間をユズちゃんに見られてしまったらしい。
どうしようか、どうしようかと考えているとユズちゃんが走ってこちらに近づいてくる。
と、突然俺の体が光だした。
あ、思い出した。イーブイ種は、夜にレベルアップすると……ブラッキーになるんだった。