モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】 作:皇我リキ
後日談最終話「ハンターとライダーの物語」
固い甲殻を小さなピッケルで掘るように削る。
「もうちょっとの辛抱だからねぇ〜。よーしよし。良い子だよー」
「おいミズキ。気を付けろよ……」
「大丈夫〜。アランが居るしー」
「あのなぁ……」
アランの呆れた声と同時に、ピッケルが目的の物に届いた。
「痛いかもしれないけど、我慢してね……!」
赤と白の混じった、盾蟹と呼ばれる程に固い甲殻にピッケルを叩き付ける。
その甲殻に突き刺さっていた岩の破片が音を立てて転がった。
「クカァァカァッ」
「うわぁ!?」
「言わんこっちゃない。怒ってるぞコイツ」
「ご、ごめんね!」
盾蟹──ダイミョウザザミの身体によじ登っていた私は、その身体が大きく揺れて振り落とされてしまう。
真下にいたアランが片手で私をキャッチしてくれて、優しく地面に立たせてくれた。
彼はそのまま、絆石を握ってダイミョウザザミの正面に歩いていく。
「お前が痛がってるのを放って置けなかっただけなんだ。許してくれないか?」
「クカァァ……」
ダイミョウザザミの目を真っ直ぐに見るアラン。
鋏を持ち上げて、口から泡を吹き出していたダイミョウザザミも、そんなアランの目を真っ直ぐに見ながら鋏を下ろした。
やっぱり、アランは凄いや。
「ごめんねー!」
ゆっくりと川瀬に向かっていくダイミョウザザミに手を振る。
「だから俺がやると言ったんだ」
「うぅ……今度からアランに任せるね。ごめんなさい」
「まぁ、ミズキらしいか」
頭にチョップを受けて、私は涙目で誤った。
モガの森。
孤島と呼ばれる、私が住んでいる村がある島に存在する自然豊かなその場所はここ数年安定した生態系を維持している。
九年前。
アランがミカヅキとこの島に再び現れたイビルジョーを討伐したという話を聞いた時、アランは本当に凄いライダーなんだって思った。
そのイビルジョーはあの怒隻慧の子供だったみたいで。
なんというか、私の人生もあのモンスターに掻き回されっぱなしだったなぁ……なんて。
「とりあえず、これでひとまずは安心だね!」
「ダイミョウザザミが普段居ない場所に現れていたのは怪我が理由だったという事なら他に問題はないが……それだけという保証もない。もう少し探索を続けても良いか?」
「うん。良いけど……アラン、分かってる?」
「ニールの誕生日だろ。流石に忘れない」
そう言って、ゆっくりとダイミョウザザミが歩いて行った方角へと歩いていくアランに私も着いていく。
モガの森は、今日も平和だった。
◇ ◇ ◇
銀色の髪の下にある蒼い瞳が、私達を睨む。
「今日、俺の誕生日なんだけど」
今日九歳になった息子のニールが腕を組んで私達を見下ろしていた。私達は「「ごめんなさい」」と口が被る。
「そのバカ二人はケーキ抜きの刑で良いニャ。ほらニール、おじいちゃんが特性ケーキを作ってくれてるからバカ二人は置いてとっとと行こうニャ」
「ムツキが酷い!!」
「酷いのはミズキだニャ! 息子の誕生日だというのにこんな夜遅くまで森に居て!!」
「何も言い返せない……!!」
結局あの後、ダイミョウザザミの縄張りで崩落した岩を見付けてしまい──アランに頼んでミカヅキを連れて来てもらって岩を退けるなんて作業をしていたせいで帰りが遅くなってしまった。
久し振りにミカヅキに乗って飛んで帰って来たのは良いけど、遅刻は遅刻です。
「いや、まぁ……父さんも母さんも村の為に働いてるからそこまでは言わないけどさ」
「ニールがそう言うなら良いけどニャ」
「だって俺も、早くシノアさんみたいなハンターになりたいし。そろそろ稽古とか付けてくれたらケーキ食べさせてあげて良いかも」
我が子ながら強かに育ってしまったものだ。
「うーん……それは、また今度話そうか?」
「またそうやって誤魔化す」
この子は今日でやっと九歳。人間の成長は早いというけど、まだ九歳だから危ない物は危ない。
「過保護だニャ」
「私は九歳の時そんな事してなかったもん」
「十四で島を出たお嬢ちゃんだった事が懐かしいニャ」
「それはそれ。これはこれ。ムツキもその頃はもっと優しく……そんな事ないかも」
「ボクはいつまでもミズキの厳しいお兄ちゃんだニャ」
アレから十四年。
私がアランと初めて出会ってから、十四年という月日が経つ。私もしっかりと大人の女性に……なってるよね? 子供まで産んだのにムツキにここまで言われてるのはもしかしてダメ?
それはともかく。
私の長いようでまだ先もある人生だけど、その半分にはアランが居た事になった訳で。
その結晶も、中々小生意気に育っています。
◇ ◇ ◇
これまでの話を少ししたい。
ニールが産まれて、私はその先どうするんだろうと考えていた。
流石に子育てしながら島を出てハンターのお仕事をするのは難しい。
出産から一年でモガの森での仕事を少しずつ再開。
イビルジョーが居なくなって、生態系はかなり安定して来たからハンターとして狩りをしなければいけない事はほとんどなかったかな。
それこそ、アランがライダーとして上手く事を運んでくれていたのもあります。
ニールが五歳くらいになった時、忙しい中で遊びに来てくれたシノアさんにニールが一目惚れ。誰に似てませたんだろうね。ウェインさんは面白そうな顔をしていたけど。
そんなシノアさんから再び手紙が来たのは、一年後でニールが六歳の時。
古代林に古龍が出現したらしくて、シノアさんと現地近くに住んでいるアザミちゃん二人がいても手に負えないみたいで。
ニールが「着いていく」と言ったのに対して、広い世界を見てもらおうとそれを良しにしたのが原因だったのかな。
誰に似たのか小さな頃からモガの森に内緒で着いてきたりしていたヤンチャなニールは、シノアさん達の戦いを見てハンターという仕事に憧れるようになりました。
私ともアランとも少し違う道。けれどそれは本人が選んだ道だから、私達は応援しようって決めた訳だけど──
「俺も早くハンターになりたい!」
「無理に決まってるだろ」
──それはそれとして、ヤンチャが過ぎるなぁ。きっとアランに似たんだよね。私はそんなにヤンチャじゃなかったもん。
「おいなんだその目は。お前に似たんだぞ!?」
「そんな事ないよ!!」
「樽に隠れて俺に着いてきた事を忘れたわけじゃないからな……」
「それを言われると何も言い返せないから禁止!」
「アレから十年以上立ってるのにボクは妹が全く成長してなくてため息しか出ないニャ……」
「ムツキまで……」
「良いから早くハンターの修行してよー」
そんな感じで、私達の子育ては順調(?)だ。
◇ ◇ ◇
それからムツキの話。
私が洞窟の中に閉じ込められちゃってから、モモナもムツキもそれどころじゃなくなっちゃって。
二人には悪い事をしたなって思ってる。そう言ったら、ムツキに怒られたけどね。
でもそれから色々あって、なんとムツキとモモナは今や子供が三人もいる家族になっていた。これにはミミナも私もニッコリ。
「ミャー! また私のおやつのプリンが無くなってるミャー!!」
「……ボクは知らないニャ」
「絶対ムツキだミャー! ウミャーン!」
「何でもかんでもボクのせいにするニャ!! 大体モモナは昔から──」
「仲良しだな〜」
「みゃ……仲良し」
「母さんとミミナさんには何が見えてるの……?」
そんなこんなで、モガの村は平和な日々な続いています。
◇ ◇ ◇
怒隻慧というモンスターは私の中で眠っていた。
私の命の半分は、あのモンスターに貰ったもので。
そのモンスターを狩ったのは私で。
だから、背負わなきゃいけないと思う。
お父さんの命と、アキラさんの命、ヨゾラさんの命も、怒隻慧が関わってきた命を。
アランがライダーになると決めたのなら、私はハンターとして、この命を背負いたいと思った。
「……似合うかな?」
「うおー! 格好良いよ母さん! めっちゃ強そう! シノアさんみたい!!」
「怖いミャ」
「みゃ、格好良い」
「すっごく素敵ですよー! ミズキちゃん!」
「娘の成長を感じますニャ」
ニールとモモナにミミナ。それにアイシャさんにお父さんが、出来上がった装備を着た私を見て色々な感想をくれる。さて、アラン達の反応は──
「滅茶苦茶嫌だニャ」
「正気かお前」
──印象最悪だった。普通にショックです。
「そんなー! ジルソンさんに教えてもらった凄腕の加工屋さんに特注で作ってもらったんだよ!?」
数年前、偶々モガの村にやってきた知り合いの行商人──ジルソンさん達の紹介で、私はとあるモンスターの素材を使って武器と防具を作って貰いました。
「怒隻慧装備……なんか、こう……禍々しいな」
「アランが苦笑いする気持ちは分かるけど……私はこの命を貰っておいて、無駄にしたくないから」
「まぁ、悪い思い出はあっても良い思い出があるモンスターではないからニャ」
そのモンスターの名は怒隻慧──イビルジョー。
私とアランの人生を滅茶苦茶にした竜でもあり、私とアランを繋げた竜でもある。
「そもそも元々大雪主の装備は黒かったよ?」
「そういう事じゃなくてな。そもそもあの装備はフワフワしててミズキに似合ってたけど……それはもうお前、漆黒の鎧だぞ。物語だったら敵役だ」
「私もアランやアザミちゃんみたいに格好良い装備着てみたいって思ったらダメ!?」
アランは蒼い鎧だし、アザミちゃんは紫色。シノアさんはギルドナイトの格好良い黒いスーツ。アキラさんも格好良い綺麗なスーツだった。
周りの人達が格好良い装備着てたから、私もそういう装備に憧れていたりしていたのです。
ちょっと成長して、装備重くても動けるようになったしね。
「まぁ……ダメじゃないが。コレはなんだ?」
そう言って、アランは怒隻慧の素材で出来たライトボウガンを持ち上げた。
「格好良いでしょ!」
「そうじゃなくてな」
「私、アランみたいに戦えたらなって思って……。その、今は双剣……というか片手剣しか使えないじゃん?」
私が今使っている武器は、十四年前にモガの森で出会ったダイミョウザザミの素材を使った双剣。双剣といっても殆ど片手剣みたいな感じだけども。
この武器はとても大切な物だし、使い心地も良い。
けれど、どうしてもハンターとして必要な力が足りてないと感じる時がある。
そんな時、もう少しだけ強い力が欲しい。
別に普段使いしたいわけじゃない。私は、私が好きなハンターとしての道でモンスターの命と向き合っていきたい。
でも、だからこそ、強い力が必要な時があると思った。
そんな時、一番頼りになるのはやっぱりあのモンスターの素材だとも思う。
「アランの戦い方を教えて欲しい。私が一番憧れた……そうなりたいと思ったハンターは、やっぱりアランだから」
ライトボウガンと片手剣を使った、アランの動き。
初めて見た時、私は本当に心の底から彼に憧れた。
強さだけじゃない。モンスターをよく見ている所も、色々な事を知っている事も。
今だにアランは、私にとって憧れの
たとえ違う道を選んだとしても、それは変わらない。
「……分かった。ただ、ボウガンの弾っていうのは色々種類があってな……まずはそれを覚える事から始めなきゃいけない。要するにお勉強という訳──」
「うん! 頑張る!」
「決意は固いようだな」
「ニールも一緒にお勉強しよっか!」
「俺は大剣使いになるんだ。筋トレする」
ニールは私に似てお勉強は嫌いです。
でも、この先に進む為のお勉強だし。
モンスターの事を知るのは楽しい。アランのその知識は、私にとって宝箱みたいな物だった。
「だからコレからも宜しくね、
「……ったく」
歩いてきた道で拾った物を背負って、私達はこれからも歩き続ける。
☆ ☆ ☆
人と竜は相容れない。
それは、いつしか誰もが当たり前だと思うようになった事だった。私も、それが当たり前なんだと思っていた。
モガの森で、あの時アランと出会うまでは。
ジャギィ達の中心で眠るその姿はあまりにも不思議な光景で、眩しくて、好奇心がくすぐられて。
あの時は私は思ったんだ。もしかしたら、私の知らない世界があるのかもしれない。この世界はもっと広くて、この人は私をそんな世界に連れて行ってくれるって。
そしてやっぱり、この世界は私が思っていたよりも広くて。優しくて、綺麗で、怖くて、苦しくて。
これは、そんなちっぽけな私と、彼の物語。世界に数あるお話の一つ。
これは、竜と絆の物語。
これにて後日談終了。
実の所、執筆そのものはかなり昔に終わっていました。投稿しなかったのは、この作品を完全に終わらせたくなかったという気持ちが少しあったからですね。
しかし、そんな事も言っていられません。一つの区切りとして、この作品を一旦締め括りたいと思います。
読了ありがとうございました。