モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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狩り人と龍の物語 —The wing undermined blackly—
我らの団と出会いの街


 人が走っていた。

 

 鬱蒼と生い茂る木々を掻い潜りながら、必死に、文字通り命を懸けて駆ける。

 時折、傍の相棒を心配して視線を送るが心配は無用。ちゃんと付いて来ていた。

 

 

「グァァァァッ!!」

 そんな彼を背後から追い掛ける巨大な影が、鳴き声を上げて周りの木々を揺らす。

 揺らした木々を薙ぎ倒し、人間の何倍もあるその身体を一歩また一歩と木々の間を走る人物に近付けて行く。

 

 

 走り続けてどれだけの時間が経ったか。

 

 木々が途切れ、視界が開けた。目の前に広がる高原。

 自分の身長と同程度の高さの段差を、転がる様に降りたその先にあったのは地割れ。

 とてもじゃないが、助走なしに跳び越えるのは難しいだろう。常人であれば。

 

 そして、後ろから彼を追う生き物はそれに対して例外だった。

 

 ここを跳び越えなければ、その巨体に轢かれる。

 

 

 すぐ後ろまでその生き物は迫っていた。

 

 迷っている暇はない。

 

 

 彼は常人とは掛け離れた脚力で大地を蹴り、跳んだ。

 彼の相棒も同時に飛ぶが、相棒の身体とその能力では向こう側に届かずにそのまま落下してしまう。

 

 一方で向う岸になんとか手を掛けた彼の、その頭上を巨大な影が跳び越える。

 後一瞬でも跳ぶのが遅ければ、視界に映ったソレにこの身をバラバラにされていただろう。

 

 そんな事に安心する暇もなく。

 彼を跳び越えた生き物はその場で身を翻し、崖に手を掛けただけの彼にその巨大な頭を向けた。

 

 

 頭だけでも人間より大きなその生き物は、大顎を開けて間髪入れずにその牙を向ける。

 そのままでは崖に捕まっただけの彼はその身を食い千切られるか、または地割れに落下するかのどちらかだろう。

 

 彼も覚悟をした次の瞬間、生き物の頭を突然横から何かが殴る。

 

 

「グォァァ?!」

 突然の痛覚に首を振る生き物。大きな傷ではないが、生きとし生けるものとは痛覚には反応せざるをえないものだ。

 

 その隙を彼は見逃さず。

 一瞬の内に這い上がり、生き物の横を通って援護をしてくれた仲間(・・・・・・・・・・)の元へと駆けた。

 

 地面を掘り進んで背後に現れる相棒を横目で確認してから、彼は全速力で進みその先にある段差へと登る。

 巨大な生き物よりも高い段差を駆ける彼の視線の先では、もう一人の人物が身の丈程の筒を巨大な生き物に向けて発砲していた。

 

 装填された弾を打ち切ったその人物は、その筒を背負いながら自らの相棒と一緒に大きなタルを担ぐ。

 しかし彼の想像以上に生き物は早く接近して来ていて、タルを地面に置いたその瞬間には目と鼻の先に跳びながら接近されていた。

 

 

 その生き物へ、段差を登り走っていた彼は飛び移る。

 

 突然押し寄せた背中への衝撃で、生き物は跳躍の勢いを殺されて地面に叩きつけられた。

 そんな生き物を確認しては、二人の小さな相棒が生き物へ飛びながら突進。

 

 

 それを合図に生き物の背中に必死にしがみついていた彼はその手を離し、巻き込まれない様に跳躍する。

 

 

 態勢を整えたもう一人が再び筒を構え、タルに向けて発砲したのはそれとほぼ同時。

 

 

 

 筒から放たれた弾丸がタルを直撃したのはそれから瞬き一回分の時間の後だった。

 

 次の瞬間、タルに詰め込まれた火薬に火が付き爆炎が生き物を包み込む。

 破裂音が轟き、辺りに舞うタルの破片と炎。

 

 

 

 それをしかと目に焼き付ける二人の人物。

 

 彼等は狩り人(ハンター)

 この世界の理に触れる者。

 

 

 この世界の理とは何か。

 

 

「…………グォァァ……」

 爆炎を振り解き、人ならば形も残らぬ爆発を耐え抜いた一匹の竜が彼等の視界に再び君臨する。

 

 

 この世界はモンスターの世界だ。

 

 強大で、強靭で、強堅な生き物達。

 この世界の支配者は人間ではなく、彼等モンスター。

 

 

「グォァァアアア!!!」

 そう、この(モンスター)こそがその理の一部。

 

 

 そんな理に立ち向かうべく、彼等は己の得物を再び構えた。

 

 

 

 人は弱い。

 

 しかし、それでも、勝てないと分かっていても———

 

 

「グォァァ———」

「ゴァァァァ!!!」

 二人の狩り人に牙を剥く竜を、突如上空から飛来した龍が踏み砕く。

 

 龍とさほど体格差のなかった竜だが、その力に圧倒され爆発に耐えた命を簡単に散らせた。

 この世界は彼等の世界だ。

 

 弱肉強食。

 

 端的に世界の理を表すなら、その言葉が最も適しているだろう。

 

 

 弱い者は食われ、強い者が喰らう。

 

 

 ———分かっていても。

 

 

 

 勝てないと分かっていても。挑戦者は挑む。

 

 

 自らの何かを掛けて、戦うんだ。

 

 

 

「ゴァァァァ!!!」

「はぁぁ!!」

 

 

 それが、この世界の理だから。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 慣れない乾燥した空気に、私は唾液を飲み込んだ。

 

 

 喉が乾く。単純に乾燥しているだけではなく、周りの温度も関係しているんだと思う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「暑い……」

「暑いニャ……」

 私と、私の相棒のムツキは同時にそう呟く。

 

 

 インナー姿で備え付けのベッドに体操座りする私の隣で、横に倒れながら身体中を自分の舌で舐めるムツキを見ては、暑そうだなぁと思いながらその可愛い仕草を眺めた。

 黒い毛にモフモフと包まれた身体、先の白い尻尾と可愛い三角の耳。獣人種アイルーの亜種メラルーのムツキは、私のオトモアイルーにして頼りになるお兄さんです。

 

 そんなムツキだけど。この暑さには慣れないのか、だらしない格好でずっと自分の身体を舐めている。

 こういう時、モフモフな毛は邪魔なのかもしれないね。

 

 

「暑いと言葉にするから暑くなるんだ。自己暗示は案外バカにならない。これは、覚えておいて損はない。後……服くらいちゃんと着ろ」

 離れた所から冷静に口を挟んでくる一人の男性。

 

 銀色の髪に、赤い瞳。綺麗だけど欠けた石のネックレスを首に掛けた彼はアラン。

 タンジアという街のギルドのハンターさんなんだけど、私の故郷モガの村がある孤島地方の異変の解決をしてくれた人物でもあるの。

 

 

 アランは凄いんだ。

 モンスターの事を分かってあげて、傷付けずに事情を解決したり。時にはモンスターの助けになったりした。

 そんなアランの活躍で孤島地方の異変はちょっと悲しい結果だったけど解決されて。

 

 私はそんなアランと別れるのが嫌で、村を出て行くアランにわがままでこうやって付いて来ているんだ。

 

 

 それでね、リーゲルさんという人の船で島を出たんだけど。

 

 その船は航海の途中で一匹のモンスターに襲われたの。何とかしようと武器を持って立ち向かおうとしたんだけど……。

 私は海に落とされちゃって、私を助けるためにアランとムツキも武器とタルだけを持って海に放り出されて。

 

 

 その後嵐の海に流されて、私達はリーゲルさんと離れ離れになってしまったんだ。

 

 リーゲルさんは大丈夫かな?

 早く安否を確認したい。

 

 

 それで、流されちゃった私達なんだけど。

 

 たまたま。本当にたまたま、海上を通り掛かった漁船に魚さん達と一緒に釣り上げられたの。

 タンジアではない小さな村の船着場まで無事に辿り着いたは良かったんだけどね?

 

 

 その時点での私達の持ち物は。

 

 武器と、タル。

 

 一文無し。お父さんに貰ったお金も、持って来たアイテムも、防具も、ボウガンの弾も無し。

 あるのは大タル。私達の命をそこまで運んでくれた大タルだけ。

 

 本当に絶望的状況でした。ハンターとして仕事をするにも難しそうなのどかな村だったし。

 タンジアまでどの位の距離があるか聞けば、一文無しの私達が向かえる距離じゃない。

 

 

 助けてもらえたお礼も出来ず、そこから動く事も出来ず。

 

 困り果てていた私達に手を差し出してくれたのは、漁船に乗っていたとある中年の男性でした。

 

 

 ——俺はとあるキャラバン隊の用事で来ててな。どうだお前さん達、バルバレまで一緒に旅をしてみんか? なぁに遠慮は要らんさ。ここで会ったのも何かの縁。旅は道連れだとも言うだろ? はっは!———

 

 赤い帽子を被った、快活な男性。

 我らの団というキャラバン隊の団長をやっている彼の助けで、私達が彼と行動を共にして早二週間。

 

 

 私達は連絡船に乗って、この広大な砂漠を渡りバルバレという街に向かっている。

 

 砂漠なのに船。

 砂上船は、細かい砂の粒子で出来たこの砂漠をまるで海の船のように渡る乗り物なんだって。

 初めて乗った時は私もビックリ。船が砂の海を航海するのは新鮮な光景でした。

 

 

 

 ただ、それなりに長い時間が経つと風景の変わらない砂漠の航海はとても暇なんです。

 

 次第にワクワクは暑さへと塗り替えられていき、最終的にはこの有様。

 

 

 

「暑い……」

「暑いニャ……」

「お前らな……」

 アランは暑くないのかなぁ……。

 

 

「はっは! 初めての砂漠に大分苦戦してるみたいだなお前さん達は」

 船の甲板から降りて来たその人物は、何やら瓶に入った液体を手に持ちながらそう話し掛けて来る。

 年季を帯びた白い髪に赤い帽子が良く似合うその人こそ、我らの団というキャラバン隊の団長さんその人だ。

 

「あ、団長さん。あはは……」

「年頃の嬢ちゃんがそんな格好で男の前に居るのは感心せんなぁ。ん? これでも飲むか」

 そう言って団長さんは手に持っていた瓶を私に渡してくれます。

 これはなんだろう?

 

 

「えーと」

「クーラードリンク、ニャ。飲むと身体の芯から体温を下げてくれるハンター御用達のアイテムニャ」

 なんて素敵なアイテム。

 

「お、よく知っとるな」

「昔諸事情がありましてニャ」

 フッと小声で団長さんから目を離して呟くムツキ。

 ど、どうしたんだろう……。

 

 

「ほれ、これ飲んで服は着ると良い。まぁ確かにこの辺りで着るにはいささか生地が厚いかもしれんがなぁ」

「私は別に気にしてないですよ」

「気にしろニャ」

 裸を見られてる訳じゃないし?

 

 

「それに、ハンターさんもインナー姿だし!」

 ムツキがなんだか細かいので、私は同席しているもう一人の人物を見ながらそう反論しました。

 

 今この場には私とムツキにアランと団長、それにもう一人の人物が居る。

 その人もこの連絡船に同席した人なんだけど、何やら話を聞けばバルバレの街のギルドにハンターとして登録しに行くんだって。

 

 つまり、まだ正式なハンターという訳ではないんだけど。

 

 うん、でもなんだろう。この人はなんだか凄い気がする。

 まるでモガの村のあのハンターさんを見ているような、あの人と同じ何かを感じるんだよね。

 

 

「ほほぅ、快活な嬢ちゃんだ。アランと言ったな、お前さんのガールフレンドは危機感が足りんと思うぞ」

「———ブホッ、ゲホッゲホッ。が、ガールフレンド?! ち、違います」

 団長さんの言葉に飲んでいた水を吹き出すアラン。新鮮な姿に笑いを堪えようとするけど、堪えきれずに出た含み笑いを見てアランは私を睨み付けた。

 

 あ、これ後で怒られる奴だ。

 

 

「っと、俺の勘違いか。悪い悪い!」

 と、愉快に笑いながらまた甲板に向かう団長さん。

 

 本当に、彼にはお世話になりっぱなしだ。

 バルバレに着いたらクエストでもなんでもして、お礼を返す事をアランに相談しなきゃね。

 

 

 

「所でお前さん達、もう少しでバルバレに到着だ。どうだ、外に出て一緒に眺めないか?」

 階段を登りながら、彼は私達にそう話し掛けてくる。

 

 こう誘われたら、行くしかないよね。

 それに街が見えてくるって事は景色が変わるって事だし。

 

 砂の海に浮かぶ街。一体どんな所なのか、今からドキドキするなぁ。

 

 

 

 

 視界に広がるのは、広大な砂の海。

 

 未だに街は見えないけれど、もう少しで着くんだよね。

 

 

 

「お、全員上がってきたか」

 団長さんの言う通り、私やムツキを含めアランやハンターさんも甲板に上がってきていた。

 アランが上がって来たのはビックリ。景色とか興味なさそうなんどけどな。

 

 

「アラン? どうかしたの?」

 そんなアランを見てみると、何故だか周りの風景じゃなくて空を見上げてるから、どうしたんだろうと思って声を掛ける。

 空に何かあるのかな? 遮る物の何もないこの砂漠では、太陽が眩しいだけな気がするんだけど。

 

「アレは…………ガブラスか?」

 ガブラス?

 

 アランが呟く。その言葉を聞く私の後ろで話をしていたハンターさんと団長さんも、その言葉に導かれるように全員が空を見上げた。

 

 眩しくて見にくいんだけど、何だろう。竜が飛んでいる気がする。

 ただ、リオレウスみたいな飛竜じゃなくて。少し小さな竜が何匹か。

 

 

「お前さんも気が付いたか」

 アランの言葉にそう変事をしたのは団長さん。

 どうやらアランより前に気が付いていた見たいで、腕を組みながらその小さな竜を見上げていた。

 

 

「お前さん達、気にならないか? あの上空にいるガブラスの群れ。さっきから奴ら、妙にザワついている」

 私には眩しくてその竜達がどんな状況か見えないんだけど、少なくとも団長さんにはそう見えてる見たい。

 

 

「い、嫌な予感しかしないニャ」

 ムツキがそう言うのには、理由がある。

 

 これは後で聞いた話なんだけど。

 ガブラスという蛇竜種のモンスターは、不吉の象徴とされているんだって。

 なんだか可哀想な話だけど、そう言われる理由はその生態にあるらしい。

 

 

 ただ、私にはムツキや団長が言っている事が分からなかった。

 

 次の瞬間に、船が大きく揺れるまでは。

 

 

「ニャ?!」

「うぇ?!」

 突然、衝撃の後に足元が傾く。

 垂直に近くなっていく床に、私の身体は船の外に放り出されそうになった。

 

「ミズキ!」

「わっ?!」

 そんな私の手を取って助けてくれたのはアラン。

 その手に捕まって、ムツキは私の足にしがみ付いて何とか傾く船から落ちずに済む。

 

「また船から落ちるのは嫌ニァぁぁ!」

「お、ぉ、おぉ、落ち着いてムツキ!!」

「ぬぉ……っ。マズイな。お前さん達、船から落ちるなよ! 踏ん張れ!!」

 帽子に手を乗せながらそう言うの団長さんは、傾いた船の奥をキッと見詰めていた。

 まるでそこにある物を確かめるように。

 

 

 一体何が起きているのか?

 

 突然の衝撃の後に傾いてしまい、今にも横転してしまいそうな船。

 何かに横から押されているのだろうか? いや、でもこの船は例えリオレウスが押したって傾く事なんてなさそうな程大きな船だ。

 

 もしこの船を何か生き物が押しているのだとしたら、それはもうとても巨大な生き物だとしか考えられない。

 例えば、大海龍ナバルデウスとか。でもここは海じゃないし、この見晴らしの良い砂漠でそんな大きなモンスターが居たら気が付かない訳がなかった。

 

 

 そんな考えは大自然からすればちっぽけな考えだったと、私は次の瞬間思い知らされる。

 

 巨大な何かが、上空に映ったんだ。

 団長さんが見詰めるその先、ガブラスと太陽だけが映っていた視界に途方もなく大きな何かが突然映る。

 

 

 それだけで小さな船よりも大きな巨大な角。そしてそれよりも大きな身体はこれまで見た事のあるモンスターと比べたって比較すら出来ないほど巨大だった。

 それはまるで、話だけで聞いた事のあるナバルデウスの大きさと比べるのが一番しっくり来る大きさ。島への体当たりだけで島全体を揺らしたあの大海龍と同じかそれ以上。

 

 そんな生き物が、私の視界———空に映ったんだ。

 

 

「ガブラスは古龍の先駆け、やはりダレン・モーランだったのか! うぉ———」

 視界にその生き物が映ると同時に、傾いていた船は元の姿勢に戻って行く。

 その衝撃で、団長の帽子が頭から外れて船に着いている大砲に引っ掛かった。

 

 とってあげたいけど、手が届かない。

 

 

 そして、身体も動かなかった。なぜか。

 

 さっきまで視界に映っていた巨大な生き物が目の前で砂の中に消えるなんて光景を見せ付けられたからだ。

 規格外の巨体が忽然と視界から姿を消す。この砂の海とも呼べる砂漠の砂をあの大きな生き物は泳いでいるとでも言うのだろうか。

 

 

 その巨体は、なんの事もなしに身体の半分だけを砂の上に浮上させて私達の船の真後ろに着いた。

 

 

「何……あれ…………?」

「豪山龍、ダレン・モーランか……。古龍だ」

 ナバルデウスと同じ……。あの生き物も、古龍……?

 

 そんな会話をしている間に、大砲に引っ掛かっていた団長の帽子は風に煽られて船の外に飛んで行ってしまう。

 

「船は治まったか?! だが……なんてこった、俺の帽子が……。あの中には大切な……」

 揺れる船の上からその光景を見ていた団長さんはダレン・モーランを見詰めながらそんな事を呟く。

 大切な帽子だったのかな……。あの時私が拾っていれば……うぅ……。

 

 

「いや、今はそれどころじゃない……。このまま奴が進めばダレン・モーランの腹でバルバレがペシャンコだ」

 名残惜しそうに言うけど、事の重要性を冷静に捉えてそう発言する団長さん。

 そう、この先には私達の乗る連絡船の行先であるバルバレという街がある。

 

 でもこんな大きな生き物が街へ近付いたら、大惨事は免れない。

 大切な帽子を探す事よりも、団長さんはその事を気にして慌てていた。

 

 

「俺は周囲の船に救難信号を上げよう。お前さん達、この船の設備でダレン・モーランを少し脅かしてやってくれないか?」

「大砲とか、ニャ?」

「その通りだ!」

 そう言うと団長さんは、船に備え付けられた緊急用の救難信号を上げる準備をする。

 自分の大切な帽子の事より、他の人達の安全を気にする。団長さんはそんな人なんだった。

 

 

「のわっ」

「うわっ?!」

 突然、また船が揺れる。なんだろうと船の側面を見てみれば、ダレン・モーランが船のすぐ真横へと近付いていた。

 

 大きい。

 本当に、乗っている船の何倍も大きい。

 

 

 

 モンスター。

 

 それはこの世界の理だ。

 

 

 空に、海に、大地に。

 

 様々な場所に生息する生き物達は、私達人間には考えられない程強大な力を持っている。

 

 私達は彼等をモンスターと呼んだ。

 

 

 

「これが……古龍」

 その中でも、古龍と呼ばれるモンスター達はこの世界に住まう生き物達の中でも規格外な生き物達。

 天災と呼ばれるものや、幻と呼ばれるもの、山の様に巨大なもの。そんな生きる伝説とも呼べるモンスターが今私の目の前に君臨していた。

 

 そういえば、リーゲルさんの船に現れたあのモンスターも———

 

 

 

「あ、帽子!」

 ふと、私の視界に砂の海に消えた筈の団長さんの帽子が映った。

 それは古龍ダレン・モーランの背に引っかかっていて、見付かったは良いけどとてもじゃないけど取りに行けない。

 

 

「なんだって? 俺の帽子を取ってきてくれるってのか?!」

 そんな事を思ってたんだけど、インナーだけのハンターさんが団長さんにそんな提案をしたみたい。

 え?! 危ないよ?!

 

 

「あ、アラン止めてあげなきゃ!」

「良いんじゃないか?」

 嘘ぉ?!

 

 

「畜生、にくいねェハンターさん!! よーし、ならばお前さんに託そう! 今ならダレン・モーランの腕から背中に登れる。あ、身体にロープを巻くのを忘れるなよ!」

 団長にそう言われると、ハンターさんはインナーだけの姿でダレン・モーランの背に向かって行く。

 

 その姿はとても果敢に見えて、格好良かった。

 

 凄い人だなって、思ったんだ。

 

 

 

「よーし、俺は救難信号。お前さん達は大砲で攻撃だ!」

「ガッテンニャ!」

 ムツキと一緒に私も敬礼して、大砲の弾が置かれている場所まで走る。

 むむ……け、結構重い。

 

 

「さて俺は救難信号———っと、なんだお前ら?!」

 そんな団長の声が聞こえて、私は振り向いた。

 

 視界に映るのは小さな魚竜種のモンスター、デルクスが船に飛び乗って団長さんを囲う光景。

 

 身体の半分を占める背びれとヒレの様になった前足、退化した後ろ脚にするどいキバが特徴的なデルクスが五匹。

 小さなと言っても私より大きなデルクスに噛まれて仕舞えば大怪我は免れない。

 

 

 危ない———そう思った瞬間。団長さんはその内の一匹を船の外に蹴り飛ばした。

 

 え?! 団長さん凄い?!

 

 

「ムツキ、音爆弾!」

 驚く私の後ろで、アランがムツキにアイテムを要求する。

 直ぐにポーチから出て来たお目当のアイテムを、アランは団長を囲うデルクスの群れに投げ込んだ。

 

 瞬間、甲高い音が鳴り響く。

 

 

「ギィッ?!」

 その音にビックリしたデルクス達は逃げる様に船から、団長さんから離れて行った。

 

「お、助かったぞ!」

 流石アラン!

 

 

 

 そして、団長さんが救難信号を上げると同時にハンターさんが団長さんの帽子を持って船の上に戻って来たの。

 本当に取ってきた?! す、凄い……。

 

 

 

 

 どれだけ強大なモンスターでも、立ち向かう事は出来る。

 

 ハンターと呼ばれる者達は、そういう人達だ。

 

 この広大な自然に向き合う存在だ。

 

 

 このハンターさんも、アランも、そして……私も。

 

 

 

「さぁ! 援護が来るまでなんとかするか!!」

 

 私達は狩り人(ハンター)

 

 

 

「ブォォォァァァアアアアアアア!!!」

 彼等はモンスター。

 

 

 

 

 ようこそ、モンスターハンターの世界へ。

 

 

 これは、狩り人と龍の物語。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 地図に載らない街。

 そう呼ばれだしたのは、いつからだったか。

 

 

 移動式の集会所を中心に様々なキャラバン隊や商人などが集まるこの街は、どんな地図にも載っていない。

 

 それは、この街があの移動式集会所の移動と共にキャラバン隊もが移動してそこに人が集まり街になるからだ。

 様々な人が集まるこのバルバレには、世界各地の物が集まる。物が動けば情報も動き、何か知りたい事があればバルバレに行けと言われるまでこの街には全てが集まった。

 

 

 全てが集う場所。

 地図に載らない街。

 

 ここ、バルバレはそう呼ばれている。

 

 

「なんとか街に被害は無さそうだな……」

 俺達がこの街に着いたのはついさっきの事だ。

 

 到着するまえに、まさか街が古龍の襲撃を受けてその古龍———ダレン・モーランの迎撃戦に参加させられるとは思ってもみなかった。

 

 

 色々な人物の活躍で、ギリギリ街への被害は無かったらしい。

 

 その中でもあの、インナーだけで武器も持たず防具も無いハンターが果敢にも古龍に挑んでいたのには正直驚いた……。

 

 

「危なかったねぇ……」

「もう少しで大惨事だったニャ」

 隣を歩くメラルーと一人の少女。金髪に蒼色の瞳、黄色の無地のワンピースに麦わら帽子は彼女の故郷であるモガを思わせ———今は砂漠にあるバルバレでは妙に目立つ格好をしていた。

 

 まぁ……インナー姿で街を歩かれるよりはマシか。

 

 

 モガの村から強引に付いてきた彼女を、俺は何故か追い返すことが出来なかった。

 そのせいでミズキを危険な目に合わせたというのに、俺はまだこうして彼女の隣に居る。

 

 誰かと居れるのが嬉しいんだろう。

 だが、巻き込んでいる……その意識だけは離れない。

 

 

 いつかは別れなければならない。

 

 けど、その時までは———

 

 

「でも凄いねぇ、バルバレ! モガの村より大きいし、色々売ってる! 服とか買っちゃおうかなぁ?」

「そんな金どこにあるニャ」

「ぁ……」

 俺達は今、一文無しだ。

 

 

 リーゲルさんのあの船に武器以外、防具もアイテムも所持金も置いていってしまったからな。

 とりあえずの目的は、リーゲルさんに再会する事だろう。あの防具は特注品だからな。

 

 だが、タンジアに戻るにしても俺達は今日食べる金すらない。

 

 

 あるのは、俺達を乗せていた大タルだけだ。

 

 

「このタル売れないかなぁ……」

 ミズキは眼を半開きにして、ムツキが背負う大タルを見詰める。

 そんな物、売ったって財布の足しにもならないだろう。

 

「な、何言ってるニャミズキ! この大タルは僕達の命の恩人ニャ?! 売るなんてあり得ないニャ!」

 ムツキが大タルに恩義を感じている……。

 

「ご、ごめんね……」

 謝るのか。

 

 

「でも、確かにお金もなければ僕達このままオジャンニャ……? タルも命には変えられないニャ?」

「いや……タルを変えても命にはならん」

 精々パン一切れか。

 

「うーん……どうしようね」

 さて、どうした物か。

 

 

 そうやって悩む俺達の前に、ここまで世話になったキャラバン隊の団長が姿を表す。

 何やら上機嫌に笑い、いつも以上に快活な雰囲気を出していた。

 

 

「どうしたお前さん達、せっかくバルバレに無事に着いたのに浮かない顔をして!」

 赤い帽子が良く似合う中年男性の彼は、これでもかという程満足気な表情だ。

 

「あ、帽子! 戻って来たんですね!」

「あぁ! さっき、あのハンターさんに返してもらってな。この通り俺の宝も無事だ」

 ミズキの言葉に、団長は帽子を取ってからその中に仕舞ってあった物を俺達に見せてくれた。

 

 

 それは、金色に輝く薄い何か。

 

 

「ほぇ、お宝?」

「金ニャ? 金の作り物? 金色に塗った木にも見えるニャ」

 なんだか分からない金色のそれは、太陽の光を眩くも反射する。

 

「これは?」

「俺にも分からん」

 俺が聞くと、団長はキッパリとそう答えた。

 

 どういう事だ。

 

 

「俺はな、昔手に入れたこいつの正体を確かめる為にこの我らの団で旅をしてるんだ。それでな、今は仲間を集めている」

「仲間?」

「一緒に楽しくやっていける仲間さ。さっきまで相棒と嬢ちゃんしか居なかったが、今さっき一人増えた所だ!」

 ミズキの質問にそう答える団長。

 

 なるほど、それで機嫌が良さそうだった訳だ。

 

 

「それって、もしかしてさっきのハンターさんニャ?」

「おぅ、またまた大正解だ! さっき帽子を渡してくれたあいつを誘ってみたらな、心良く仲間になってくれた。そして直ぐに入団試験に飛んで行ったさ」

 そう言ってから、団長はなぜかポケットから金銭を取り出す。

 目測ではあるが三千ゼニー程だろうか。食にするなら十食分の金銭だ。

 

 何の為に取り出したのだろうか?

 

 

「本当はお前さん達を誘おうと思ってたんだがな、タンジアに戻らないかんのだったか? ここまでしか連れて来れなくて悪い。少ないがこれで何とかならんか?」

 そう言って、ミズキの頭を撫でながらその手に金銭を乗せる団長。

 

 成る程、俺達をあの村から連れて来たのはそんな理由があったのか。

 

 

「えぇ?! だ、団長さん。……良いんですか?」

「言っただろう。旅は道連れだ! 短い間だったがお前さん達との旅も楽しい物だった。これはその礼として受け取ってくれ」

「団長さん……」

「これまで色んな奴と旅をして来た。今度こそこいつの秘密を解き明かせると良いと思って居るんだがな、さてどうなるか」

 そう言うと、団長は静かに俺達に背を向けた。

 

「一緒に旅をしたお前さん達はもう仲間みたいなもんだ。当分はバルバレに居るから、また何かあったら声を掛けてくれよ! はっはっは!!」

 そう言いながら、彼は右手だけを上げて人混みの中に消えて行く。

 

 この恩は彼がバルバレに居る間に返さなければな……。

 

 

「やったよムツキ、ご飯食べられる!」

「野宿回避ニャ?! 久し振りの海老フライ?!」

 お前らな……。

 

 

「他にやる事があるだろ」

「「???」」

 おいおい。

 

 

 ひとまず、俺達はこのバルバレで活動する事になるだろう。

 

 タンジアに戻る資金を集める、そんな理由もあるが俺にはもう一つ理由が出来た。

 

 

 ここ、バルバレには全てが集まると言われている。

 

 未知の素材、未知の食材、未知のモンスターの情報。そう、俺の探しているアイツの情報だってもしかしたら———

 

 

 

「……ハンター登録だ」

「あ、そっか!」

 だから、ひとまずはこの街でやっていこう。

 

 

 この、騒がしい相棒二人と一緒に。

 

 

 

 一緒に居られなくなる時が来るまでは。




あけましておめでとうございますm(_ _)m
第二章 狩り人と龍の物語 —The wing undermined blackly—

始まりです(`・ω・´)
開幕モンスターハンター4のストーリーに少し改変してしまいましたが、今後はこのような事は無しで裏で動いて貰うつもりです。
今回だけはどうしてもダレン・モーラン戦に居合わせたくて団長の台詞などを改変してしまいました……。個人的には、ちょっと辛いです。

お分かりの通り、第二章はモンスターハンター4のストーリーに少し沿って進んで行く事になります。
アランやミズキがかの龍にどう関わっていくのか、宜しければ最後までお付き合いして頂けると嬉しいです。

でわ、長くなりましたが今回かここまでにしますm(_ _)m


また次の更新でお会い出来ると嬉しいです。でわでわ(`・ω・´)
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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